138、コーヒーは甘いのしか飲めません。
日本観光三日目、ゴーゼルさんとカリメアさんの体調は風邪の治りかけ最終日って感じらしい。動けるけど、ちょいダルって事だろうか。納豆のパックをグリグリ混ぜながら話す。
「今日はブランドショップタウンに行く予定ですけど、カリメアさんは車イスにしときます?」
『今日は歩けるわ、何だか体が重いってくらいよ。思ったより長引かなくて良かったわ』
『到着した瞬間は指一本動かしたく無かったんで、どうなるか不安だったのぉ』
ゴーゼルさんがしみじみと二日前を思い出していた。バウンティは元気溌剌、のはずだが何故かげっそりしている。
「どーしたの?」
『…………わざとなのか? 俺、何かした?』
「へ? なに?」
『…………臭い』
「ぶははは! 奏多気付いてやりなよ! 納豆よ、納豆」
納豆混ぜ混ぜ中の私とアステルの間にバウンティがいる。向かい側ではかぁさんも納豆を食べていた。
「あ! どーりでカリメアさんが遠くに座るわけだ」
座る時に『そこに座るのね』とボソリと聞こえてはいたが気にしてなかった。あれは私がどこに座るかの確認だったのか。
イオは食べないが、臭いには慣れたらしく気にしていない。私の横で普通にご飯を食べている。昨日の夜も出たにんじんシリシリをコソッと私のお皿に入れているのも通常運転。
「じゃ、出発しまーす。高速で二時間だからトイレの時は言ってね」
『ん』
『『はーい』』
道中楽しそうに流れる景色を見詰めては『あれなに?』『何て書いてあるんじゃ?』などの攻撃を適当にかわして、サービスエリアに到着した。
「あ、コーヒーショップある! フラッペ飲みたい!」
お客さんが多かったので店先で注文する物を決めてかぁさんと二人で並ぶ。
とーさん、ホットのカフェモカ
かぁさん、アイスパッションティー
ゴーゼルさん、抹茶クリームフラッペ
カリメアさん、ホットのカプチーノ
バウンティ、アイスのアメリカンコーヒー
アステル、ストロベリーフラッペ
イオ、季節限定いよかんのフラッペ
私、カフェモカフラッペ、クリーム、チョコソース増し。
「ただいまー。車の中で渡すね」
『ちゃんとイチゴのかってきた?』
「うん、ちゃんとアステルのも、イオのもあるよー」
二人が鼻息フンフンで車に急ぎたがるが、危ないので走るなと怒りつつ手を繋ぐ。
『んまー! うんまー! あまずっぱいこい、のあじー!』
『んまー! ぼくのは、このトキメキをきみと、のあじ……』
パフェ専門店風のネーミングを付けるのにハマっているらしい。
『ワシのは、甘いだけなんて子供、苦いからこそ大人の恋愛、って味じゃ!』
――――ブルータスお前もか。
いや、ゴーゼルだけど。今はブルータスな気分。しかも、なにちょっと上手い事言ってるんだか。
「ゴーゼルさん上手い!」
『ソーコ、褒めたら駄目よ。調子に乗ったら一日中言うわよ』
『ん。あと、そんなに苦くないし』
皆でグリグリ回し飲みしてたのだが抹茶クリームフラッペは結構甘い。確かにお茶の苦味はちょっとあるけど。ちょっと。
「イオのいよかん美味しーい。良いの選んだね」
『うん! うまうまー』
『カプチーノの泡のキメ細かさが凄いわね、コーヒーの味も素晴らしいわ。あら、バウンティのは豆が違うのね』
バウンティのは『今日の豆はコロンビアブレンド』と書いてあった。カプチーノってミルクとか混ざってるのに豆の違いが判るのか。
『何よその顔』
「あ、いえ……黒い、苦い、酸っぱい、コーヒーの味がするー。しか判らないもので。素直に凄いなぁと驚いてました」
『……貴女、そう言えば、おこちゃま舌だったわね』
えーえー、そうですよ。ブラックは飲めないし、無糖のカプチーノでもギリギリですよ。お砂糖万歳。
「ふふふ。何年経っても奏多は奏多だね」
なぜかとーさんがしみじみしていた。
「着いたー!」
『『とーちゃーく』』
雑誌やネットでは見たけど、物凄く広い。二百近い店舗が軒を連ねている。
広さはテーマパークと変わり無い。これは迷子にならないように気を付けないと。
『凄いわね……全てお店なのね?』
「軍資金はたっぷり、男手もたっぷり、カリメアちゃん、思う存分買いまくろー!」
『えぇ、えぇ! どこから見ようかしらね? 全店舗制覇したいわ』
ちょっと恐ろしい事が聞こえた気がする。
「お嬢様方、落ち着いて。先ずはフードコートで早めのお昼を食べてから、作戦会議をしましょうね?」
とーさんが有能だ。
フードコートで何を食べるか決める。
「とんこつラーメンと炒飯と餃子」
『早いな。俺もとんこつラーメン食べたい』
「大盛りもあるよ?」
『ん! 炒飯も大盛りあるか?』
私とバウンティは、ラーメン屋さん。子供達はうどん屋さんにするらしい。
「スープがあるのと、スープが無い温かいのと、冷たいのがあるよ」
『アステル、つめたいのがいー。あと、てんぷらもー』
『ぼく、あったかいの、たまごグリグリまぜるのがいー』
天ぷらを何個か選んで注文する。うどん屋さんはすぐ出来上がるので受け取って席に着く。先に食べてて良いと伝えてバウンティを残してゴーゼルさん達の所へ向かう。
「決まりました?」
『おー、ワシもカリメアもオムライス屋で決まったぞ』
『こんなに色々メニューがあるなんてビックリしたわ』
私、チキンライス一択だった。ソースとかはたまに掛けてたけど、ゴーゼルさん達に出してないかも。
メニューの説明をする。ライスはチキンライス、バターライス、ガーリックライスがある。
玉子は、ライスを包むタイプ、とろとろオープンタイプ、ふんわりオムレツタイプがある。が、形状的に間違うが、私のはとろとろタイプなのでそこも伝えておく。
ソースはトマトソース、ホワイトソース、デミグラスソース、海老クリームソース、ほうれん草クリームソースと種類豊富だった。
付け合わせもコロッケ、唐揚げ、海老フライ、ステーキ、焼き野菜などがあり組み合わせ無限大だ。
『むー、ちょっと悩むのぉ。カナタが作ってくれなさそうな組み合わせにするかのぉ』
判断基準可笑しく無いかなと思ったが、カリメアさんもゴーゼルさんの意見に大賛成だった。
『決めたわ、チキンライス、オムレツタイプ、ほうれん草クリームソース、焼き野菜と、かにクリームコロッケにするわ』
『ワシ、ガーリックライス、オープンタイプ、デミグラスソース、ステーキじゃ。あと、あれ食べてみたいんじゃが、何じゃ?』
隣のお店で誰かが注文したらしい超厚切り牛タンステーキがジュワジュワ言っていた。
説明したら欲しがったので先に注文した。ついでに塩ホルモン焼きが美味しそうだったのでそれも注文して、呼び出しベルをもらう。オムライス屋さんにも注文してそれぞれ呼び出しベルをもらう。
「一旦席に戻ります。そのうちこのベルが鳴ります。鳴ったらさっきのお店に行って、このベルを渡すと注文した物がもらえるので、自分で席まで運びます」
『なるほどね。リズのお店に提案したのはこういったシステムがあるからなのね。ふふっ、面白いわぁ!』
自分で席まで運ぶのは有りらしい。かなり上位の貴族だけど、そういった忌避感は昔から無いのが不思議だ。賞金稼ぎって職業のせいだろう。
自分達のはまだ注文して無かったので、呼び出しベルをそれぞれに渡してラーメン屋さんに行った。
――――ピーピピピピー。
『オムライスじゃな!』
――――ビビッビビッ。
『むおっ、ステーキも鳴ったぞ』
「あ、バウンティ一緒に行ってあげて」
『ん』
二人を送り出したら私の方もベルが鳴った。先に注文して席に着いてたとーさんが一緒に運んでくれた。
「いただきます」
久々に食べるお店のラーメンはとても美味しかった。ゴーゼルさんもカリメアさんも本格オムライスに目を剥いていた。塩ホルモン焼きはバウンティが喜んで食べている。焼き肉の時ハマってたもんな。
『おぉ、牛タン、美味いな。溶けるように柔らかく、肉が甘いのぉ』
『あら、本当ね。煮込みが普通かと思ってましたが、ステーキの方が美味しいじゃない。なぜ料理人は煮込みしか作らないのかしら?』
「そう言えば、こちらの世界でも欧米系はタンは棄てる部位だって聞いたよ」
「おいひぃのにね?」
『ソーコは何を食べてるの?』
「しょうが焼き定食よ」
カリメアさんが怪訝な顔をしている。何でだろうと思ったら、私が作るのと豚肉の種類も色合いも違うとの事だった。
「あー、私は豚バラや豚こま切れ派です。かぁさんのは豚ロースなんですよ」
十センチくらいのちょっと厚めのスライスが六枚乗っていた。
『違うと言えば、炒飯も、餃子も何か違う』
「店のと比べんな!」
『違っ……餃子、カナタの方が好きだ。…………炒飯はなんか具が少ない。味は美味しい』
『あら、確かに。もっちり感が足りないわ』
それは、餃子の皮を薄く出来ない方の問題です……とは言えなかった。お店の、パリパリで美味しいんだよ。皆、モチモチに慣れてるだけなのだ。
何となく微妙に嬉しいような、申し訳無いような気分でご飯を食べ終えた。
買い物、始まらなかった。
次話も明日0時に公開です。




