133、水族館に行こう。
日本に来て、ゲロゲロの三人が寝込んでいる間に、子供達とちょろっとお出掛けしようと思ってたんですけどねぇ。
『カナタ、置いて行く事は許さないわよ』
『そうじゃ、そうじゃ! なんと親不孝者なんじゃ!』
「いや、知らなかったんですよぉ。動物園あんのに、水族館無いとかさーっ」
『ローレンツでも、王都でも無いのに気付きなさいよ!』
「いや、無茶ぶりでんがな。有るものは解るけど、無いものって気付き辛いんですよぉ」
二人のプリプリが治まらない。バウンティは少し耐性が出来てきたのか、少し元気になっている。
「二人共、キツいんでしょ?」
『『絶対行く』』
「あはははは! カリメアちゃんには車イス貸してあげるよ。ゴーゼルさんは頑張って歩きなよ」
「――――だそうです」
二人共それでオーケーだそうだ。置いて行かれるのだけが許せないらしい。
とーさんの運転で、家から一時間ほど走った所にある水族館に来た。今日は平日なので人は少いかなと思ったけど、結構賑わっていた。
因みに、とーさんはまたしても有給。まだ十日ほど残っているらしい。仕事は放置して大丈夫なのかと聞いたら「割りと誰でも出来る仕事だよー。部下が優秀だしねー」とかのほほんと言っていた。部下さんに手を合わせておいた。「いや、死んで無いよ!?」とか突っ込みが入ったけど無視。
『うみじゃないの?』
『うみみえないね?』
「海の生き物がいるけど、海じゃ無いんだよ? まぁ、海は多少近いけど。動物園も山には……山だったね」
ローレンツの小さな動物園は山の中腹にあった。
「行ってのお楽しみ!」
「説明めんどくなったね?」
だって水族館は水族館だもの。
『『ふぉぉぉぉぉ』』
アステルもイオも、ゴーゼルさんまでも口を開けたままくぎ付けになってるのは、入口直ぐの横巾二十メートルの大水槽。ジンベエザメが悠々と游いでいるのが圧巻だ。
『凄いわね…………ガラス、割れないのかしら?』
「ざっくり言うとアクリルって言うプラスチックに近いやつ? です」
「ガラスより柔らかく、強く、クリアなんですよ。何枚も重ねて重ねて、圧縮して、色のズレや遠近感、歪みが出無いように作られているんですよ」
とーさんが補足説明してくれた。
『素晴らしい技術を持った国なのね。ほんと、圧巻だわ』
『ママママママ』
「はいはいはいはいはーい?」
『あそこ、はいっていいの?』
水槽の下に小さな入口があり、子供達が代わる代わる出入りしている。
看板を読むと、中にはアクリルで作られたドームがあり、まるで水槽の中に入ったような感覚になれるとのことだった。
『アステル、いこー!』
『とつげきー!』
「走るな! 追い抜くな! 順番守る!」
『『はしらない、おいぬかない、じゅんばんたいせつ!』』
「良し、行ってこーい」
「犬?」
興奮した子供なんて、犬と大差無い。
『ヨーコ! おいでよ!』
「呼ばれてるよ?」
「いや、チビ達さ、何で私を同レベル扱いするかな?」
車の中でも葉子にお菓子をあげたり、遊んだり、何かお世話していた。葉子の。
そして、葉子も有給とっていた。まぁ、今日だけらしいけど。
『あ、鯛がいる。美味そう』
「あー、美味そうだね。鯛はやっぱ塩焼きだね」
『塩焼きなぁ。アクアパッツアの方が好きだ』
「なんで! 塩焼きが一番身が美味しいし!」
「アンタ等の会話、色気が無い」
塩焼きについてこんこんと語りたかったのに、かぁさんにぶった切られた。
「そろそろ次の順路に行かないかい?」
『『いくー』』
カリメアさんの車イスはゴーゼルさんが押しているが、多少寄っ掛かって楽をしているようにも見える。かぁさんは電動のでスイスイ好きに動き回っている。とーさんは時々小走りでかぁさんを捕まえに行ってるのが面白かった。
『……カナタはソウコに似たんだな』
「ははは。そうだね。奏子さん、本能のままに生きてるから」
「ん? それは、私もっていう、言外のディスり?」
「ふふふ。どうだろうね?」
とーさんが黒い。ブラック龍多が現れた!
『ママ、これなに?』
「えーと、リーフィーシードラゴン、だって。タツノオトシゴ的な?」
『はっぱなのに、さかな?』
「うーん。葉っぱの真似して、敵に食べられないように進化した魚?」
『『ほうほう』』
解ったのかな? ほうほうって言っただけっぽいな。
『カエルだー。へんないろ』
「毒ガエルだってよ」
『きゃー、ひとごろしぃー』
「うん。昔はそういう事に使われてたんだろうねぇ」
『……今もよ?』
――――マジか。フィランツ王国、怖いなぁ。
「お、青いのは何匹いるでしょーか、だってよ」
水槽の横にカエル探しクイズがあった。パネルに蓋が付いていて、捲ると答えが見れるらしい。
『『三びき!』』
「正解!」
二人がお尻を振って変な喜びのダンスをしている。妙にクスクス笑われている気がする。
『色々と展示方法が考えられてるのねぇ』
「子供は飽きやすいからねぇ。カナタも一瞬で消えてたしね」
『今もじゃないかしら?』
「あはは! 確かに!」
「あのー、人の通訳で人をディスらないでもらえます?」
「否定できんの?」
ぐうの音も出ないって、こういう瞬間なのかぁ。この年になって学んだよ。
順路通り歩いて行くと、今度はクラゲのコーナーになった。
『ひかってる』
『いろがかわるクラゲ?』
「あ、それは色付きのライトをあててるだけだよ」
『『なんで?』』
知らない。とは言えない状況だ。たぶん、半透明だからそのまま見てても飽きるし? とかの、身も蓋もない理由な気がするけど。
「クラゲはぷかぷか游いでるよね?」
『『うん』』
「見ていると、ゆったりした気分になるんだけど、暗い中でカラフルに光ってると、とても幻想的でいつまでも見ていたくならないかい?」
『『なる!』』
「そういう空間にしたら、皆がクラゲをじっくり見てくれるかなって、水族館の人が考えてくれてるんだよ」
『『ほほぉぉ』』
『スイゾクカンのひと、すごい!』
「うん、凄いねぇ」
とーさんの説明力が欲しい。
さっき、太刀魚がいて、子供達が『キラキラきれい』って言ってた横で、素揚げか天ぷらかでバウンティと揉めていたら怒られたのだ。
刺身も捨てがたい。
「あ、あと三十分でイルカのショーだよ! 早めに座らないと前の方埋まっちゃうよー?」
葉子に言われて慌てて皆で移動する。とーさん、かぁさん、カリメアさん、葉子は上の方の日陰に座っているそうだ。
私とバウンティ、子供達、ゴーゼルさんはわりと前の方に座った。前の方って時々濡れるから嫌なんだけどね。子供達は着替えを持って来たけど。
子供達はショーが始まるのをワクワクドキドキと待っていた。
水族館はちょいちょい生け簀にしか見えない時がある。
次話も明日0時に公開です。




