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13、報告をしよう!

 



 お手伝いさんが欲しいとバウンティに話した。

 シエナちゃんがシュトラウト家に行く事になった後、また孤児院から雇うかと聞かれたが、私がいらないと言ったのにだ。

 バウンティが私の事を『天の邪鬼』と言うけど、本当に天の邪鬼だと思う。

 バウンティが賛成してくれてホッとした。家事や育児から逃げてる気がして嫌だったけど、それでイライラしてずっとケンカしていたくはない。

 バウンティが抱き締めて、背中を撫でて落ち着けてくれた。温かくて身を委ねて微睡む。




「――――タ、カナタ?」

「っ、ん」


 呼ばれる声に気付いてハッと目を開けると、リズさんがマシューくんを抱いて私を覗き込んでいた。


「あれ? 私、寝てた?」

「ん」


 バウンティに抱かれたまま眠ってしまったようだ。


「ママねー、よるにね、いっぱいがんばったの。ネブソクだってー!」

「「…………」」


 イオの爆弾投下により、私とリズさんの間に気まずい空気が流れた。マジでバウンティのこういうのを言っちゃう所が嫌いだ。


「じ、じゃあ、明日は私、休みだから! また明後日よろしくね?」

「あ、はい」

「「バイバーイ」」


 ぎこちなく手を振って見送った。

 今は何も考えない事にして、夕食を済ませ子供達をお風呂に入れる。寝かし付けはバウンティに任せた。

 明日の朝ご飯の準備をして子供部屋へ行くと、子供達は既に眠っていた。少し乱れた布団をかけ直し、おでこにキスをしてソッとドアを閉める。

 バウンティを探して主寝室に行くと、テーブルで本を読んでいた。


「バウンティ……」

「んー?」

「今度、子供達に夜の……事とか、言ったらガッツリしたペナルティ出すからね」

「ちょ、言ってねぇし!」

「いや、完全にイオが言ってたじゃん?」

「違う! ママは夜に朝ご飯とかの準備したり、片付け物したりして、いっぱい頑張ってるから寝不足なんだ。だから静かに遊ぼうなって言ってたんだよ!」


 ――――なんだ。


「濡れ衣だっ!」

「あー、ごめんごめん」

「凄く傷付いた! 優しく撫でてキスしろ!」


 ――――あれ? 


「何か、バウンティの都合の良いようになってない?」

「なってない! 傷付いたっ!」


 なんだか煩いからバウンティを抱き締めてねっとりとキスをした。


「んっ……もっと」

「……」


 嬉しそうに続きを要求されて何かムカついたので、キスを止めて耳たぶハムハムに変えた。


「っあ……止めろ……」

「相変わらず弱いねぇ」

「煩い!」


 魔王顔のバウンティが立ち上がり、私を抱えてベッドに移動した。まだまだ思春期は終わってないらしい。




 ――――チュッ。


「カナタ、おはよう。起きれるか?」

「んーっ。おはよぉー」

「アステルとイオを起こして来るな?」

「はーい」


 バウンティが子供達を起こしたり準備をしている間に着替えと歯磨きを済ませ、朝ご飯の支度をする。


「はい、今日はふわっふわのフレンチトーストだよ」

「わーっ! わたしコレすきー」


 昨日の夜から液に浸けていたのでパンがトロふわになっている。バターたっぷりで焼いて、イチゴジャムをちょこっと付けても美味しい。

 ご飯の後は洗い物をして役場に出掛ける準備をする。


「ねー、どこいくのー?」


 アステルが不思議そうだったのでお手伝いさんを雇いたいからゴーゼルさんとカリメアさんに話しに行くと教えた。


「ぼく、おしごとする!」

「あーうん。用事を済ませたら、四階に行ってボード見てみようね」

「「うん」」


 鼻先のニンジンのおかげか、二人ともご機嫌で役場まで歩いてくれた。賞金稼ぎ協会に行きたがったが、先に六階に行かないとダメだと言うと少しイジケてしまった。


「こんにちはー。ちょいとご相談に来ました」


 バウンティ達がいつも通りノック無しで開け放ったドアで一度挨拶してから室内に入る。

 子供達はゴーゼルさんに突撃、バウンティは応接スペースにどーんと座った。


「おー。カリメアー! 皆が来たぞ!」

「はーい、少しお待ちになってー」


 カリメアさんの部屋の方から返事が聞こえた。何か作業でもしているのだろう。

 暫くすると書類を手にしたカリメアさんが現れた。


「はい、アナタ。チエックとサインして頂戴」

「はぁ。書類仕事ばっかりじゃのぉ」


 書類の厚さが五センチ近くある。何か大変そうだ。だが、手伝えないのでソッと無視する。


「で? 何か用なの?」

「あのー……今さらなんですけど、お手伝いさんを雇いたいなって思いまして、報告に来ました」

「あら、貴女に報告なんて機能備わってたのね?」

「むあー! ひどいっ! ありますよっ!」

「ほーん」


 全く信用されてない。まぁいい。


「惜しいけど、シエナ返す?」

「いえ、シエナちゃんは希望してシュトラウト家に行ったので」

「あら、違うわよ? あの子はレベルアップして貴女の役に立ちたいって来たのよ?」

「なぜに私の役に?」

「……え?」

「へ?」


 どうやら私がシエナちゃんの命を救ったらしい。確かに捜索や交渉の場にはいたけど、いただけだし。


「バウンティへの間違いじゃないんですか?」

「…………まぁ、いいわ。どうするの?」

「いや、また孤児院からお手伝いさんをお願いしようかなと」

「そぉねぇ……ウチのメイドにしておかない? また秘匿義務やらを子供に課したくないでしょ?」


 テッサちゃんやシエナちゃんにも色々と迷惑かけた。カリメアさんはその二の舞というか、三の舞いにしたくないとの思いからだろう。

 だが、本職のメイドさんを雇うのは気が引ける。掃除とちょこっとしたお手伝いしか頼まない日が多い気がする。


「希望者がいればだけどね? あと、給料はウチと同じ金額にして頂戴ね」


 シュトラウト家は月給で金貨十五枚だそうだ。住み込みで一日中拘束状態だからとの事だ。


「解りました。希望者さんが出たら連絡下さい。お話ししてから決めます」

「解ったわ。カナタの用事はそれだけかしら?」

「? はい。そうですけど?」

「さっき、王城から何通か手紙と書類が届いたのよ」

「へぇ」


 書類はいつも届いている市の税金や賞金稼ぎへの依頼の振り分けなどだったらしい。いつも届いていたとは知らなかったが知っている風で話の続きを聞いた。話の腰は折らない!

 手紙が二通あったので不思議に思い、宛先と送り主を見たらウォーレン様とエズメリーダさんだったらしい。


「エズメリーダからはカナタ宛だから、たまに届いてる手紙で良いんでしょうけど……ウォーレン様がね、私とゴーゼル、カナタとバウンティの連名で届いてるのよ」


 エズメリーダさんとは時々だが、手紙のやり取りをしている。本を貸したり、近状を話したりだ。

 

「おー、新しく着任した監視兼護衛の騎士団の人が気にくわないって言ってから暫く手紙が来てなかったんですよねー! どうなったのかなぁ」


 半年振りに届いた手紙をワクワクと開けた。


「はぁ、今読むのか……」


 バウンティに呆れ半分に溜め息を吐かれた。読みたいものは読みたいんだから仕方ないじゃないか。


『カナタ、お久し振りね。子供達は元気かしら? 貴女の胸が大きくなったとかの情報は要らないのよ!』


 ――――ちょっとくらい自慢しても良いじゃんか。


『それで本題なのだけれど、少し相談したい事があるのよ。私の立場でこんなお願いしていいものか悩んでたんだけど、言うだけ……というか、書くだけ書いてみる事にしたわ。カナタは二度と来ないって言ってたけど、王都に来てくれないかしら? そして二人だけで話したいの。……その、書いてみただけだから! 気が向いたらとかで良いから! 少しだけ考えてくれると嬉しいわ。エズメリーダ』


「……何かあったのかなぁ?」

「また何か企んでるんじゃないのか?」


 バウンティは私とエズメリーダさんの手紙のやり取りを嫌がる。なので、内容は全てきちんと話すし見せる。そもそも、私からの手紙はバウンティに書いてもらっている。この数年でかなり仲良くなった。それでもやっぱり皆は疑ってくる。


「全く、本当に図々しい女ね」

「えー。仲良くなったからこそお願いとかしくれてるんじゃないですかぁ」

「そもそも、何を仲良くなってるのよ! 子供の事まで話して……危機感が無さすぎるわ!」


 カリメアさんも反対派だ。ゴーゼルさんは時々援護してくれるが、今は子供達と一緒に書類と格闘している。

 イオが書類の山から一枚取ってゴーゼルさんの前に置く。ゴーゼルさんが書類を読みサインする。アステルがサインした書類を取ってゴーゼルさんの指示で分けて置く。何か楽しそうだ。


「むーん。で、ウォーレン様からの手紙は何だったんですか?」

「まだ読んでないわよ。一緒に見ようと思ってたのよ」

「お、ならワシもそっちに行くかの」


 書類から逃げられるチャンスを見付けたようでキラキラの笑顔で応接スペースに来た。

 アステルはバウンティの膝の上、イオはゴーゼルさんの膝の上に座り、それぞれカリメアさんの出してくれたジュースを飲んでいる。


『いきなりの手紙ですまない。皆、元気にしているだろうか? 可愛い息子と娘の話を数枚に渡って書き連ねたいが今回は我慢する』


 ――――親バカだ。


『四人に相談したい事があるのだが、出来れば直接会って話したい。私がそちらに出向けば良いのだろうが、今は少しバタ付いていて王都を離れられそうにない。カナタは二度と王都に来たくないと言っていたらしいな。それなのにこんな事を頼むのは忍びないのだが……。王都に来てはくれないだろうか? なるべく早いととても有り難い。命令ではないので断っても大丈夫だ。ただ、あれから五年、少しでも関係が修復出来たらと願っている。ウォーレン』


「んん? エズメリーダさんと被ってる。王都で何かあったのかなぁ」

「……知らねぇよ」


 ――――あら、イジケた?


「で、私はどうでも良いわよ」

「むー。ワシはたまには出掛けたいかのぉ」


 ビシッと手を挙げて宣言する。


「行きたい!」

「「いきたーい!」」


 子供達も手を挙げて賛同してくれた。意味は解ってないだろうけど。ちらりとバウンティを見ると大魔王降臨していた。正面に座っていたイオがビビって半泣きになってしまい、全員がちょっとあたふたした。


「っ……行かねぇ」

「んじゃ、バウンティと子供達はお留守番で!」

「えっ! やだー! アステルもいく! パパとイオだけおるすばんすればいいじゃん!」

「ひぎゃぁぁぁ、おいてくダメー! ぅあぁぁぁぁん」


 ――――しまった。


 この前からイオの中で置いて行かれるのが恐怖になっているらしい。暫く赤ちゃん返りが続いていたのだが、落ち着いたと思っていたのに。


「ごめんごめん、イオも一緒に行こうね? パパだけ置いて行こう?」

「ふえぇぇん。うん……ぼくママとがいい」


 黒い瞳からボタボタと涙を流し、ちゅるふわの栗色の髪の毛を揺らしながら走って来たので抱き上げる。ハンカチで涙と鼻水、よだれも拭いて頬にキスをする。嬉しそうに笑ってくれた。少しご機嫌が直ったかな。


「ハァ。バウンティもどうせ行くのよね? 子供達もいるし、船で行きましょう」

「ふね? ふねって、いつもうみにプカプカしてるの? のるの?」

「えぇ。大きいお船で王都まで行くのよ?」


 アステルがキラキラしてカリメアさんと話していた。どうやらまた豪華客船に乗るらしい。カリメアさんがプールや子供用の遊戯施設の話をしていた。

 ちらりとバウンティを見ると『無』になっていた。これはヤバイやつだ。最近、本気でイジケると無表情になる。


「確か今度の定期船は小さいから、次の定期船で行きましょう。バウンティ、私達のチケットもついでに買って来て頂戴ね」

「ん」


 ついでというか、買いに行かせる気満々だけど突っ込んだらいけないのだろう。

 どうやら役場の帰りにチケットを買いに行くらしい。




 最近のエズメリーダさんはまろやかなのになぁ。と完全に許してしまっているカナタさん。

あれだけの事があったのに! とイライラを隠せないバウンティ。


次話こそは明日0時に公開です。

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