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127、ご馳走の準備。

 



 公園のベンチでバウンティにお姫様抱っこされていたが、ふと我に返る。


「下りる」

「駄目」

「下ろしてよ」

「…………まだ治まってない」


 ――――あ、うん。


 妙に息の荒いバウンティに抱き締められたままボーッとすること二十分。そろりと締め付けが緩んだ。落ち着くのに時間掛かりすぎじゃね? とか聞きたいけど、たぶん泣くから止めておこう。


「バウンティ、少し歩いて屋台で何か食べない?」

「ん」


 指を絡めて恋人繋ぎで公園をゆっくり歩く。

 ハミルトンさんはお昼はビーチだろうから他のお店を覗く。ベーグル屋さんを発見した。そう言えばジョシュくんが甘い系で美味しいのが多いとか言ってたっけな。

 屋台に書いてあるメニューを見ていると店員さんが「いらっしゃいま」と中途半端な挨拶をしたので何かなと顔を上げると真っ青な顔でガッチリ固まった女の店員さんがいた。


「? お姉さん大丈夫ですか?」

「カナタ、この店嫌だ。違うとこ行こ?」

「えっ? バウンティさっきノリノリだったよね?」


 クリームチーズとパインを挟んだベーグルがあるんだぞって言ってウキウキしてたし。


「……カナタ、気付いて無い?」

「何が?」

「コイツ……」


 店員さん? 見たことあるような無いような……あるような? ふんふん言いながら頭を傾げているとバウンティが溜め息吐きながら「ビーチ、三人組、全裸」とヒントをくれた。


「おぉぉぉ! あー、えー…………なんだっけ……あ! カポエラちゃん!?」

「リリエラですっ!」

「あ、そんなんだったね! お久しぶりー。あ、はちみつとクリームチーズを挟んだ胡桃ベーグルサンド下さい」

「ちっ、頼むのかよ。おれ、クリームチーズとパインのベーグルサンドとパストラミビーフのベーグルサンドとチキンステーキのベーグルサンドな」

「…………」

「もしもーし?」

「え、あ……え? 買うの?」

「え? うん」


 返事をしたけどリリエラちゃんは棒立ちだった。販売拒否なのかな? と諦めようと思った瞬間だった。


 ――――ドンッ。


「すみません! この子、先週雇ったばっかりで接客に慣れてないんですよぉ……ご注文、もう一度お伺いしてもよろしいですか?」

「あ、はい――――」


 恰幅の良いお姉さんが現れてリリエラちゃんを押し退けてサカサカとベーグルサンドを作ってくれた。


「はい、おまたせ! 新人が不手際でごめんなさいね、バウンティ様はパイン好きなんですよね? もう一個おまけね!」

「ん!」


 現金な上にチョロいな。まぁ、ありがとうだけども。

 お代金を払ってベンチに向かっていると後ろのベーグル屋さんから怒鳴り声が聞こえてきた。


「アナタ、ヤル気がないなら帰ってちょうだい! 前のお店もそうやって働かなくて辞めさせられたらしいじゃない!」

「ち、ちがっ」

「ここでは真面目に働きますとか殊勝に言ったのはどの口よ!」

「違うんです! 昔、あの女に……酷いことされて」

「バウンティ様の奥さんがするわけ無いじゃないの!」


 うむ。丸聞こえだ。


「確かに無体を働いたね」

「ぶふっ、無体っ! ふははは。ぶちギレて色々したもんな」

「んー。取り敢えず近くで食べづらいから、飲み物買って池の所に戻ろうか?」

「ん!」


 リリエラちゃんはスルーで良いだろう。飲み物の屋台に行って私はアイスティー、バウンティはアイスコーヒーを頼んだ。

 ベンチでベーグルサンドを食べる。パインのを一口もらった。


「あ、パインとクリームチーズって合うんだね! 美味しい!」

「カナタ、クリーム付いてる」


 口の端に付いたクリームチーズをベロンと舐められた。


「んっ、もう。そういえば、今日はいっぱい食べるんだね?」


 いつもならお昼は二個くらいでも良いって感じだけど。おまけの一個もペロリと食べてる。


「ん、このところあんま食欲無かったけど、何か急に腹減ってきた」

「……寂しかったの?」

「ん。カナタの側は落ち着く…………」


 コテンと肩に頭を乗せてそんな事を言われるとちょっとフワフワしてしまいそうになる。そっとバウンティの頭を撫でつつのんびりと、お昼兼おやつを食べた。




「さーて、ご馳走の用意するぞー」

「おー!」

「ん」

 

 公園から戻ったらご馳走作りだ。セルフ誕生祝い感が痛いが、仕方ない。ケイナちゃんとバウンティの手も借りる。

 先ずはテッパンの唐揚げとガーリックシュリンプの準備だ。子供達がいるのでエビの殻は全て剥き、ガーリックソースに漬けておく。唐揚げ用のお肉を切ってて思い付く。


「鶏ときのこの炊き込みご飯!」

「えっ?」

「ニンジンも入れといて。イオ、あっちでお残ししてる」

「ほほぅ。ニンジンたっぷり入れとこう!」


 と言うことでニンジンを超細かく刻む。彩りもいいしね。


「唐揚げの下味は付け終わりました」

「じゃあ、お米……四合洗っててくれる?」

「はい!」


 ニンジンを刻み終わったのでお酒の棚を物色する。良さげなお酒は…………りんごを漬け込んだお酒が欲しい。


「バウンティバウンティバウンティ!」

「…………子供達が連呼するのってカナタの癖が移ってるよな?」

「まじ? あ、で! りんごを漬け込んだお酒が欲しいんだけどこっちにある?」

「果実酒とかワインとは違うのか?」

「うーん、ワインでは無いんだけど……」


 急にアレで炊きたくなった。「ちょっと取ってくるね」とキッチンを出てシエナちゃんから見えない所で実家を目指して飛んだ。




「アデッ!」


 ローレンツのリビングのソファ目指して戻って来た。着地は今日も失敗。


「取ってきたー」


 飲みかけのりんごの漬け込み酒を見せる。


「ん? 昨日そんなの飲んでたか?」

「んーん。家から取って来た」


 バウンティにだけ聞こえるように言ったら、なぜかムッとされた。そして、ほっぺたをガジガジ噛まれた。謎過ぎる。

 バウンティはスルーして炊飯器にお米を入れ、水は少し少な目に。鶏肉とニンジン、キノコをたっぷり入れて醤油一、薄口醤油三の割合で入れてりんごのお酒をキャップに三杯入れて蓋を閉めて普通に炊くだけ。簡単、ヒヤッホイ!

 

「たったあれだけしか使わないのか!?」

「うん、あれが良い仕事をするんすよーダンナァ」

「ハァ……何キャラだ」


 呆れ顔のバウンティとクスクス笑うケイナちゃんと楽しくおご馳走を作った。




 この五年ほど遭遇しなかったリリエラちゃん。


次話も明日0時に公開です。

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