121、殲滅完了 side: B
暗闇の中をゆったりと歩く。精神を落ち着けて、殺気を漏らさず、淡々とこなそう。
カリメアが情報屋を使って入手したのは、ローレンツにある二組織が俺や家族を対象にしたクソみたいな依頼を出していた事。そして、そのアジト。
情報屋を使って、今日俺がどこかの組織のどこかのアジトを潰しに行くと噂を流させた。
先ずは外町の何の変哲も無いバー。
「クソッ! マジでバウンティが来たぜ!」
「増援を呼べ!」
二十人程が何だかワーワー言ってるが、聞かなくて大丈夫だろう。店員の女はただの従業員だったので逃がす。
サクッとボコッて建物全壊にして、生き残りは二人。
次に来たのは孤児院から五分程の所にある大きな倉庫。普通の食品用の倉庫だが、中に入ったら四十人ほど武装したガラの悪いやつらがいた。……俺が言うなってな。たぶんこの中の誰よりも人相が悪い……ハズ。カナタが笑いかけてくれるから、自分の人相の悪さを忘れそうになる。
――――はぁ、帰ってカナタに癒されたい。
「ぅるあぁぁ!」
先陣切ったのは若い男。まだ十代だろう。鉄パイプを振りかぶって殴り掛かって来たが、体も仕上がっていないガキにやられるハズ無いだろ……もしかして、舐めてんのか?
片手で受け止めて、肋に掌底を打ち込む。メキッ、パキッと音がしたので何本か折れたんだろう。鉄パイプは有り難く貰おう。
足元でのたうち回りながら転がるガキを蹴って飛ばす。邪魔。
「ひっ……つ、続け! この人数でいっぺんに行けば勝てるぞ!」
「…………ハッ。この程度の人数に勝てなかったらプラチナ返上だろ」
鉄パイプで数人殴り倒した所で足元に剣が転がって来た。屈んで取ろうとしてふと考える。返り血を浴びて戻ったらカナタに引かれるよな? 王都での襲撃の時、血や怪我人を怖がってはなかったけど、いい気はしないだろうし……。剣は無しだな。
「何ボーッとしてんだよ!」
男が太めの剣を降り下ろして来たので鉄パイプで受け流す。回転させるように払うと剣が飛んで行き戦闘不能で寝転んでいるヤツに刺さった。
「ギャァァァァ」
「うっせぇな……ん!」
良い事思い付いた。剣を拾い、投げ槍のように投げる。
――――ザシュッ。
「……へ? え…………」
――――ドサッ。
「なっ、えっ? おい…………駄目だ…………死んでる」
ん、コレ楽だな。返り血も来ないし、遠いヤツを殺れるし。
どんどんとそこいらの剣を拾っては投げて行く。
「やべぇよ! 逃げろ!」
「おい、物陰に隠、ギャッ……」
残り十人強って所でかなり距離を取られた。面倒だ。
「ふん、雑魚の相手は飽きただろ? 俺と勝負しろ!」
細身の剣を身構えて手練れ感を出した四十代の男が一対一で勝負をしたいらしい。取り敢えず手に持っていた鉄パイプを投げる。
――――ドシュッ。
「っ、ゴフッ……そ、ソレ……は、ひきょ……だ…………ぞ」
――――ドサッ。
卑怯と言われても。多人数対俺一人は卑怯じゃないのか? って聞こうにも事切れているが。
しかし、倉庫内で追いかけるの面倒だな。あぁ、本当にメンドイ。
辺りを見回すとガスボンベを発見した。確かこの近くには有人の建物無かったな。
――――いいよな?
ガスボンベを倉庫の真ん中に移動させてバルブを緩める。そこら辺に転がっているヤツの懐からタバコとジッポーを拝借。
倉庫から出て、出入り口を開かないように固定したり、ドアノブ壊したり。
「さて……」
――――シュボッ。
倉庫から距離を取りつつタバコで一服。ある程度離れたので、ジッポーを倉庫の窓目掛けて投げる。
――――ガシャン。ズガァァァン。
「ヒギャァァァァ」
「ぅぁぁぁ熱い……あづいぃぃぃ」
まぁ、何人かは残る……かな? 次は中町か。あぁ面倒だ。
中町のそこそこ大きめの屋敷に来た。玄関にはいかにも貴族って感じのジジイが十数人に護衛されて立っている。
「バウンティ、俺達は相互不干渉で手を打っていたはずだが?」
「お前とはな。だが組織の中にはソレを良く思わないヤツもいるんじゃないか? 若しくは、年老いた頼り無いボスはもう要らねぇんじゃねえか? 取り敢えず、死んどけ――――」
「待て! …………犯人は差し出す!」
サクッと始めようとしたら妥協案を出された。
「蜥蜴の尻尾切りに興味は無い」
「……依頼を出したのはワシの息子だ。連れてこい!」
「んー! んんんー!」
口をガムテープでぐるぐる巻きにされたソイツは確かにジジイの息子だった。が、別に興味も無い。
「だから、蜥蜴の尻尾切りには興味は無いと言ったろ。『壊滅』一択だ。ジジイは無傷で残してやるよ。ゴールドだしな? 死なれたら後が面倒だ」
サックっと無力化して、建物も壊して燃やしてスッキリだ。ジジイは地面に膝を付いて呆然と燃えている屋敷を見ている。
もちろん子供と使用人は逃がした。そこまで非道じゃねぇし?
アダムとの待ち合わせ場所に行くとまだ来てなかった。いつまで掛かってんだか。一時間待っても来ない。あんまり遅いので様子を見に行く事にした。
「あ、バウンティちゃーん」
「遅ぇよ。何してんだ」
「いやな。俺、流石に子供ヤる趣味無いし……どうしたもんかなぁとな」
どうやらこっちの組織のボスは下劣極まりないようだ。
ストリートチルドレンか、娼館にいたガキだろう。十人ほど縛って入り口や窓に立たせている。所謂『人間の盾』だ。
「ハァ。行ってくる」
「頑張れよー」
アダムの適当な応援が妙に苛つくが、まぁいい。
「と、止まれ!」
建物の中から声がする。気配は……少ないな。
「止まれと言っただろ! ガキが死ぬぞ!」
「もう止まってる。何が望みだ」
「……ぶ、武器を捨てて、な、中に入って来い!」
言う通りに武器を捨てながら入り口に向かう。列べられた子供に「アイツの所まで走って逃げろ」と伝えてアダムの方に走らせた。
建物の中に入ると武装した男が三人、子供が五人、人質らしき女がいた。人質らしき女は後ろ手で縛られ、頭には麻袋が被せてある。かなり華奢だ。子供か?
ボスらしき男は人質の女の首にロープを付けてグイグイと引っ張っている。
「この女の、誰か解るよなぁ?」
「? いや全然」
「オイオイ、自分の嫁も解らないのか!? とんだ残念野郎だぜ!」
「……カナタ、なのか?」
「ヒッヒッ、部下に拉致らせて来ていたのさ!」
「…………ソレ、違う女だぞ?」
「はぁ!? オイオイいくらなんで――――」
「乳、そんなに大きくない。背も。ソイツの方が三センチ高い」
肩の形も、腰の括れ方も、肌の色も、色気も全然違う。俺の可愛いカナタじゃない。
「混乱させるつもりだな……騙されねぇぞ! 見ろ!」
男がバサッと麻袋を取ったので視線を向けると、焦げ茶色の髪で、ボサボサ頭で泣きじゃくった顔の知らない子供だった。口は話せないようにガムテープで塞がれている。
「……どこのどいつだよ。顔まで似てねぇじゃねぇか」
「…………クソッ! 誰だコレ連れて来たの!」
意味わからんが、カナタを連れて来るのが無理だと思った部下が適当なの連れて来たんだろうな。
ボスらしき男にジリッと近付くと、男達が走って裏口から逃げようとしたのでそこら辺にあったイスを投げる。
「グエッ」
「クソクソックソッ、何なんだよ! ボスには連絡とれねぇし、あちこちで爆発や煙上がってっし!」
「ん? あぁ、お前んとこのボスは……と言うか組織は壊滅だが? 救援も来ねぇぞ?」
残念なお知らせだったようだ。ヘタリ込んでヘラッと笑い出した。武器も手放しているし戦意喪失だな。
縛られた子供を担いで出ようかと思ったが、キッチンに向かいガス線を開いた。
――――ガシャン。ズガァァァン。
「よし」
「『よし』じゃねぇよ! 何を当たり前のように爆発させてんだよ!」
「え、腹いせ?」
アダムがドッと疲れたような顔をしている。
「あと……あ、ビックリしたカナタちゃんじゃ無いのか。クラリッサがしくったのかと思ったぜ」
「似てねぇよ」
「体格一緒じゃんか」
「どこがだ! こんなに乳ねぇし! カナタのはもっとペソッとしてるけど揉みやすい大きさだ! あと、肩の丸みが違うし、腰とケツのエロさが足りねぇし、肌の色も質感も違う! 髪と目の色が違う!」
「…………取り敢えず、お前が変態なのは良く解った」
――――なんだよ。全然違うのに。
保護した子供達を孤児院に連れて行き聴取した。全員ストリートチルドレンや旧市街、娼館から連れて来られたガキのようだ。親もいないようなのでそのまま孤児院で保護する事になった。
「すまんな、後の処理は任せていいか?」
「ったく。いきなり過ぎるぜ? 一つ貸しな!」
「ん。じゃ、俺帰る」
色んな処理はニールに丸投げした。
やっと帰れると思うと気分がうなぎ登りだ。凄く頑張った。カナタ、喜ぶかな? 褒めてくれるよな? ご褒美いっぱい貰わないと!
お仕事は真面目に。だけど、鼻先のニンジンも欲しいバウンティ。
次話も明日0時に公開です。




