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115、秘密。

 



 旅行に持って行っていた荷物を片付けたりして、主寝室に戻るとバウンティは既に戻って来ていた。


「さ、話そうか!?」

「……先に風呂に入ってこい」


 それもそうかとお風呂に入った。




 お風呂から上がり、体を拭きつつ着替えに手を伸ばそうとしたら、着替えが消えていた。

 ちゃんと下着と寝間着を置いていた。確かに、間違いなく、置いていた。

 無くなった物もあるが、新に増えた物もある。


「――――着ろと!?」


 昨日、色々と暴走した時に付けていたモノだ。洗濯場に干す勇気は無いので、朝にお風呂場で手洗いし、脱衣所に干していた。ソレをわざわざ取り込んで、たたんで、着替え置きのカゴに入れてある。

 犯人はバウンティで間違い無いだろう。


「っ、たくもう」


 仕方無いので全スルーして脱衣所のストック置き場の棚を開け、予備の下着と寝間着にしているタンクトップと短パンを出す。どこかのアホな子がクローゼットから持って来るのを忘れる事があるのだ。まぁ、どこの子かは明言しないが。

 そして、普通のフカフカなタオル地のガウンを羽織る。


 ――――ガチャッ。


 主寝室に戻るとデジャヴかと思った。

 部屋の電気は消され、明かりはベッドのサイドボードのランプのみ。バウンティはパンツ一丁でベッドに寝そべっている。

 多少違うのはニヤニヤとしたゲスい笑みを溢している所だろうか。


「カナタ、おいで?」

「話し合い、するんじゃ無かったの?」

「机で義務的に話したくない」

「……ふぅん」


 バウンティがそっと手を伸ばして近付くようにと誘ってくる。

 ベッドの横まで移動すると、バウンティがガウンをクイッと引っ張りながら「隠しても無駄だぞ?」とか言っている。特に何も隠してはいない。

 

 ――――パサリ。


 そんな軽い音を出しながらガウンがずり落ちた。


「……」

「……」

「…………俺、着替え置いてたよな?」


 暫くの沈黙の後、バウンティが不安そうな顔になった。こっそりやったエロ計画が妄想か夢だったんじゃとか不安になったようだ。全く、馬鹿な子だ。

 

「予備くらい置いてるんだよ? お馬鹿さんめ」

「何で俺の計画潰すんだよ!」

「うん、どんな計画?」

「っ…………」


 バウンティがハクハクと口を動かすだけで全く声になっていない。何なんだ今日は。今日もだが。いい加減にして欲しい。


「夜教えるって約束したのに教えてくれないし、寝間着は替えられるし、エロい事しようとしか考えて無いし……もうさ、我慢の限界」


 踵を返して部屋の出口へ向かおうとした。

 腕を掴まれ、拐うように抱きかかえられ、ベッドに寝かされ、マウンティング完了。

 頭の両側にバウンティの手が突かれ、四つん這いで見下ろされている。顔は夜の帝王。

 ちょっと魔王も混じっているかも。


「……カナタ」


 目蓋、鼻、口に軽いキスを落とされ、喉元をベロリと舐められた。私の気持ちとは裏腹にゾワゾワと甘い痺れを感じて全身が粟立つ。


「ん、はぁ……カナタ……」


 バウンティの顔を両手で押し上げて必死に止めさせようとするが、何の効果も得られない。ベロベロと舐められる範囲が広がっていくだけだった。


「カナタ……愛してる」

「……話さないの? 話してくれないの? 誤魔化すみたいに『愛してる』を使わないで。結構……辛い」

「あ…………いしてるんだ……ずっと言っていたい……から」

「……ずっと言わなくていい。本当に言いたい時だけでいい。心、込めて欲しい」

「いつも込めてる!」

「そう。ねぇ、退いて?」

「嫌だ…………頼む、したいんだ。どうしてもしたい。肌を重ねたい。お前と混ざり合いたい。幸せイッパイのトロトロにしたい」


 目を潤ませ懇願してくるバウンティの頬を撫でて落ち着かせる。深呼吸をさせて乱れた息を調えるように言った。

 ガチで最低なお願いをされた気がするが、ウルウルバウンティは駄目だ。反則だ。ついつい絆されてしまいそうになる。


「バウンティは……狡い」

「カナタ?」

「何も説明もしてくれないし、約束守ってくれないし、日本には行っちゃ駄目って言うし……自分だけ満たされようとしてる!」

「っ、ごめん…………俺、その…………ごめん。もう、諦める……か、らっ」


 急にポロポロと涙を溢して抱き付いて来た。訳が解らない。泣くほどに何を諦めたのだろうか。何も知らないし解らない。なのにまるで私が悪者みたいに、私が諦めさせたみたいになった。

 いや、確かに諦めさせたし、泣かせているけども。

 バウンティが私のおでこにキスを落とし、背中を向けて寝始めてしまった。


「えっ、何で寝てるの」

「もう、いいんだ。オヤスミナサイ」

「…………良くないんだけど」


 私のポツリと呟いた苦情は誰にも受け取ってもらえず、部屋は闇と静けさのみを感じるとても嫌な空間になってしまった。




 ベッドで膝を抱えて座り窓の外を眺める。

 もうすぐ朝日が昇るのだろう。空が白み、室温が下がり、空気がしっとりとして、シルクの布をピンと張ったような美しく清廉でいて包まれたいと感じるような雰囲気だった。


「カナタ? もう起きてたのか?」

「…………う、ん」

「カナタ?」

「何?」

「お、俺の目を見て?」


 バウンティに視線を向けると、眉尻が下がり怒られたワンコのような顔をしている。可愛い生き物だ。よしよしと頭を撫でてあげると目尻を少しだけ紅く染めて目を瞑って照れている。


「幸せそう、だね?」

「ん、愛してる!」

「……そう」


 まただ。バウンティは()()をいっぱい言ってくる。億劫もなく、照れもなく、ドストレートに伝えてくれる。嬉しいのは嬉しい。だけど、今は……。


「思ってないなら言わないでいいよ?」

「? 何で? ずっとお前を想ってる。ずっと愛しい気持ちだ。昨日から、何で疑うんだよ」

「……秘密、教えてくれない」

「それはもういいんだ……ちゃんと諦めるから」

「私が悪いの? 私は何を諦めさせたの? 皆、何かを喜んでたよね?」


 アステルもイオもゴーゼルさんも。嬉しそうだった。


「私が諦めさせたって言うの?」

「……だって、カナタが嫌がった」

「…………」


 何となく、気付いてしまった。寝てないんだから、頭は働かないんじゃないのか。まぁ、バウンティや皆の感じ、アダムさんの()()言葉を聞いていれば気付くか。


「ホーネストさん」

「……おはよう、カナタ」

「おはよう。お知らせに来てくれてありがとね」

「ごめん、俺……」

「ううん。こうなるなんて予想出来ないよ。お知らせして欲しいって思ってたのは私なんだし」

「でもね、俺……」


 ゆっくりホーネストさんを抱き上げる。耳がイカ耳になっていてショボーンとしている。鼻にキスをして抱き締める。


「ありがと。気にせずまた教えてね?」

「……うん」


 もう一度撫でてホーネストさんには精霊界に帰ってもらった。


「じゃ、しよっか?」

「…………へ?」


 バウンティがアホみたいな顔をしている。


「三人目が欲しかったんでしょ? さっさと種付けしなよ」

「なっ、何だよその言い方! 馬じゃねぇ! 求めあってするもんだろ!?」

「どこが? バウンティがヤらせてって懇願しただけじゃん」

「……カナタが俺の計画潰すからどうにかしようって……」

「うん。どんな計画?」


 肩を揺らして目をさ迷わせて、怒られるって解ってる反応だ。


「ラブラブして、トロトロにして、赤ちゃんが欲しいってお願いしようとしてた……」

「私が蕩けてちゃんと判断出来そうにも無い状態にしてから?」

「そっ、そうだけど、カナタに求められたかったんだよ。幸せそうに笑いかけて欲しかった。愛してるって言って欲しかった。最近、全然言ってくれない!」

「……」


 黙ってバウンティの頭を撫でる。目尻に涙を溜めて嬉しそうに目を瞑られた。


「ホーネストが『そろそろちゃんと避妊具使いなよ』って言いに来たんだ……もうすぐ排卵期なんだって思ったら、アステル達が赤ちゃんの頃思い出した。愛しそうに赤ん坊抱いて、お乳あげて、柔らかく神々しく微笑んでるカナタがまた見たい。あの頃に戻りたい…………愛してるって言ったら嬉しそうに微笑んでくれたあの頃に……戻りたい。お前の心が欲しい、カナタに愛されたい。この前、許してくれたけど……まだちょっと怒ってるだろ?」

「…………うん」

「時間、かけなきゃって解ってたんだ。カナタはゆっくり育みたいっていつも言ってるから。……でも、妊娠したらあの頃に戻れるかもって思ったら嬉しくて愛しくて…………ごめん」


 相変わらず愛に飢えた旦那さんだ。でも成長しているらしい。昔は取り敢えず私さえ手に入れれば満足な感じだった。お気に入りの玩具を欲しがる子供のようだった。

 最近は心も欲しがってくれているらしい。『愛してる』は、多少意図的に言って無かったような気もするが。どうやら言われて無い事に気付いていたようだ。記憶大魔人なんだから気付くか。


「フゥー。ん、そっかそっか。バウンティ、腕枕して!」

「えっ……ん……」


 バウンティがおずおずと寝転がり腕を差し出してくれた。いつもの定位置に転がり込み、そっと厚い胸板に手を当てる。


「バウンティ」

「はい」


 何だ『はい』って。顔をえらく青ざめさせている。なぜこの状況で今までで一番不安そうな顔をしているんだろうか。


「私ね、ここが大好きなんだよ? 失わせないで」

「っ……はい」

「馬鹿だねぇ。ほんと馬鹿。そういうのは無謀な計画立てずに素直に言って!」

「はい」

「ちゃんと二人共が望んで迎えてあげようよ。アステルやイオの時みたいに『パパもママも君に逢いたかったんだよ』って言えるようにしてよ」

「っ! はいっ」


 バウンティはとても真剣な顔で話を聞いてくれた。暫く見詰めていると、徐々に目元と耳を紅く染めてキュッと目を瞑った。


「カナタっ」

「なーに?」

「今すぐじゃ無くてもいいんだ……いつか、三人目も望んでもいい? アステルとイオにな、言っちゃったんだ。そしたらな、二人とも弟でも妹でもいい、逢いたいって…………イッパイ可愛がるって。俺、叶えてあげたいっ……カ、ナタ……」


 バウンティがエグエグと泣き出してしまった。精神不安定に拍車がかかっている。目元をそっと拭うとそれはもう嬉しそうな顔をされてしまった。


「いつかね。先ずは問題を解決しようね。ココを安全な場所に戻そうね」

「ん!」

「ふあぁぁ。眠くなっちゃった……八時前に…………おこ……」


 眠すぎて話途中でストンと意識が飛んでしまった。

 



 ヘボヘボバウンティ。

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