112、チンしていいもの、駄目なもの。
ゴーゼルさんと子供達のお菓子争奪戦を暫く観察していたら落ち着いたので、家電類の説明に入る。
「先ず、羽根の無い扇風機! 温風も出ます!」
「……は?」
「……えっ?」
動かしてみて、箱に書いてある原理を説明しても全員ポカーンだった。……私も含め。
「次は、掃除機です」
コンセントに刺して、スイッチを入れる。ウィーンと懐かしい音がする。
「ちょっと! 煩いわよ! 何してるの!?」
「ゴミを吸ってます」
「は?」
カーペットの上をゴロゴロと動かしてシエナちゃんとケイナちゃんに使い方を説明して、ゴミが溜まった時の捨て方を教えた。
ボタンをワンタッチでパコッと捨てる事が出来るのだ。
「昨日、ブラッシングしたのでゴミは――――」
――――パサパサ。
「…………申し訳ございません!」
「へ?」
「完璧にしたとは流石に言いませんが、それでもこのような不手際――――」
「ストップ!」
シエナちゃんが自責の念に押し潰されそうな顔をしていたので慌ててフォローする。人力では取る事の出来ないミクロなゴミを取る為の機械であって、掃除の能力や努力の問題では無いのだ。
「……それは、家にもあるのかしら?」
「はい! もちろん!」
箱を見せたらカリメアさんがガシッと掴んで自分の横にキープしていた。誰も盗らないだろうに。
「えー、次は電子体温計!」
「あら、コレ羨ましかったのよー。私達の分も買ってくれてたのね」
「はい。こっちは開発用に余分に二個ほど買ってます」
――――コンコンコン。
誰か来たらしい。シエナちゃんとケイナちゃんが玄関に向かってくれた。
「連日ごめんね」
「おじゃましまー」
「あら、遅かったわね」
「マシューが――――」
ジュドさん、リズさん、マシューくんだった。
昨日、マシューくんが自宅で遊ぶ用のブロックをあげたのだが、朝方にベッドから抜け出して勝手に遊んで、朝ご飯中に寝てしまったらしい。
暫く遊んだら落ち着くだろうから二、三日の辛抱だとは思うものの、なんだか申し訳ない。
「うんうん。わかるー。ブロック、たのしい!」
「うんうん。ねるじかんもおしい!」
子供達の謎の感想をスルーしつつ、マシューくんも来たのでプラスチックのブロックを広げてあげる。
「よし、次は――――」
ドンとレンジを渡す。
「何かしら? 機械よね?」
「電子レンジです」
「デンシレンジ?」
以前軽くマイクロウェーブで分子を揺らして、何か色々あって温まると説明したのを再度話す。
「――――の、レンジです!」
「使い方を見せなさい」
みんなでゾロゾロとキッチンに行く。
設置していなかったので、バウンティに運んでもらい場所を決めて置いた。コンセントは発明家のおじいちゃんに大量に作ってもらっていたので、とても助かった。おじいちゃんの家の方を向いて拝んだ。
「それ、カンが怒ってたろ? 死んでないって……」
「感謝の気持ちなの!」
突っ込んでくるバウンティにブチブチ言いながら冷凍庫を開ける。丁度良く冷凍のご飯があったのでラップを剥がし、お皿に入れて、お皿にラップをかける。そのままでも良いとは思うけど、こっちのラップがレンジに耐えれるのかは解らないし、お皿に移した方が美味しく仕上がるらしい。
「ここのタブが強さで、数字が大きくなると強さも大きくなります。こっちのタブが時間です。一分、二分、って感じで、ここに目安の時間等が描いてあります」
「なるほど、おにぎり一個が五百……ダブリュー?」
「五百ワットで、二十秒です」
「これが秒ね。こっちは……分、かしら?」
「はい! で、冷凍のご飯は五百ワットで三分程です」
冷凍ご飯をレンジの中に入れて、扉を閉めタブを回す。
一分半ほどの所で一旦扉を開けてご飯を解して、再度扉を閉める。
「えっ……開けたら停まるの? え? 閉めたら動くの?」
「へ? はい。そうですね?」
――――チン!
「あ、出来た」
レンジから取り出して、キッチンの作業台に置く。
「あちちち」
「…………何で熱いのよ」
「チンしたから?」
「何でラップが溶けてないのよ」
「チンではビニールは……あんまり溶けないです。汁物が直接当たってると危ないですけど、カバーしてるくらいなら大丈夫です」
「……オーブンでは溶けるわよね?」
「そーですね」
「…………説明しなさいよ!」
――――そんな無茶振りな。
取り敢えず、ネットに書いてあった記事をそのまま読み上げる。どうにか納得してくれた。
温めたご飯にふりかけを掛けてバウンティに渡すと、黙って食べていた。
「ちょっと、一口寄越しなさい」
カリメアさんが一口食べて「普通に美味しいじゃない」となぜかキレていた。
ゴーゼルさんが他にもチンしてみたいと言うので冷蔵庫を物色するが、王都行き前に色々と処分したので特に何も無かった。
「あ、冷凍の食パンでいいかー」
急に食べたくなるフレンチトースト用に使おうと入れていた食パンを一枚出す。入れて一ヶ月は経っていないので大丈夫だろう。霜を払い、ラップはかけずに一分。
「はい、食パン」
「……焼けとらんぞ?」
――――そこか!
レンジは加熱するだけで、焼けはしないとハッキリと説明するのを忘れていた。
熱で煮えてしまうものはあるが、焦げ目が付くことはほぼ無い。……ほぼ。
説明するうちに段々と理解が深まって来たようだ。
「オーブンのようにラップなど、ビニール質の物を入れたらいけないとか、は無いのね!」
「あっ……、金属、アルミホイルは駄目です! あと、金箔とか銀箔とか、絵付けがされているお皿も駄目です。バッチバチなります」
「バッチバチ?」
口頭で説明しても理解が難しそうなので、無料動画で駄目な物をした時の動画を探し出して見せた。卵の爆発など中々に衝撃だった。
その後、濡らした布巾をレンジして皆に触らせる。
「あら、お湯沸かさなくていいのね」
「はい。レンジは水分が蒸発しやすいって特性もあるのでラップなどをして乾燥を防いだりするんですが…………動物をと言うか、生き物をチンしたら駄目です! 絶対! やったら本気で許しませんからね!」
「…………どうなるのよ?」
「卵を思い出して下さい…………」
「…………絶対にしないわ!」
全員がブンブンと首を縦に振っていた。脅しはコレで大丈夫だろう。
さて、次はメインの炊飯器さん。愛すべき炊飯器さん!
「レンジの横にいる、この人! 炊飯器さん! 私の愛する、炊飯器さん!」
「……で、どんな機械なのよ、スイハンキサンは」
――――あ、『さん』まで組み込まれちゃった。
朝ご飯分しか炊いておらず、食べ終わって釜は洗っていた。
お米を五合計り、ささっと洗う。
「急に何をしてるのよ」
「まぁまぁ、待ってて下さい」
釜を皆の前に置く。五の目盛りを指差して説明する。
「え、水分量が決められてるの?」
「はい。程好い感じで。好みで増減させて、硬めとか柔らかめとかも出来ます」
水分量などは日本のお米に合わせて作ってあるだろうから少し不安だったが、朝ご飯は大丈夫だった。一応、日本のお米も食べて欲しくて買って来ていたので今回は日本のお米だ。
水を入れ、炊飯器に設置して蓋を閉める。
炊飯のボタンを押すと機械音が鳴った。
「前から思ってたけど、貴女の世界は音を出すのが好きよね。スマホもピコピコ鳴るし」
「あ、スマホは消せますけど。レンジや炊飯器はスタートですよ、終わりましたよ、の合図なので――――」
「消さなくていいわ。結構好きなのよ」
私は無音派だけど、使い初めは操作出来てるか解らないから音が有った方が解りやすいかと、操作音有りにして渡していた。まぁ、それで良かったらしい。
「えーと、四十分で炊き上がるそうなのでリビングに戻りましょう」
「え? 誰が様子を見るのよ!」
「えっ、勝手に出来上がりますけど……」
「…………レンジのように時間になったら停まるのね? それからご飯を食べるの? お昼には少し早くないかしら?」
「炊くのは止まりますけど、そのまま保温されるんで大丈夫ですよ」
「保温? 炊き続けるの?」
「いえ…………ずっと蒸し続ける感じ? が一番近いかなぁ」
「それだとグズグスになるでしょ?」
「四、五時間くらいは、余裕でならないように作られてます。炊き立てが一番美味しいですけどね」
「なるほど。そう言うのなら食べ比べてみましょうか」
「はーい」
なぜかカリメアさんがご機嫌ナナメな顔をしていた。
取り敢えず、レンジはもらって行くらしい。バウンティがラルフさんに頼んで、今までに渡した分をシュトラウト家に運んでもらっていた。
生き物をチン……駄目絶対!




