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106、船旅三日目、忘れていた。

 



 モソモソと朝ご飯を食べた後は、フライングブリッジでまたもやくじら捜しをする事になった。船長さん曰く、この辺りでは時々見掛けるそうだ。


「アステル、じっとして。日焼け止めムラになってる」

「むー! はやくー。イルカにーげーるー」

「はいはい……行っていいよ。次はイオ!」


 イオにも日焼け止めを塗りたくり、ボトルをバウンティに渡す。


「……カ…………自分でする」


 塗ってとか言おうとしたのだろうか。何か言いたそうな顔をしているが、ちょっと睨んだだけでスゴスゴと諦めている。


「全く、飽きないわねぇ」

「まぁ、今回は完全にバウンティの口が滑っておったしな」


 軽くヤジを飛ばされつつ、新しく買った本を読みながらお茶を飲んでいた。

 本を持った瞬間から何かを思い出しそうで思い出さない。




 一時間ほどのんびりと読書をしていた。


「あぁっ!」

「ふぉぉぅ、どうしたんじゃ!?」

「すっかり忘れてたー!」

「何をよ?」


 言おうとしてふと気付く。カリメアさんに怒られるヤツだった。何をどう言おうかと悩んでいたら、カリメアさんから滅茶苦茶にらまれた。


「言いなさい!」

「へい。カリメアさんを題材にした本を借りようと思ってたんです」

「…………どこで知ったの」

「ミラさんとマイヤさんから……」

「はぁ、王都は差し止められなかったものね……読まなくていいわよ!」

「えー」

「読むなって言ってるのよ」

「へぇい」


 そもそも言わずにホーネストさん経由で借りれば良かったんだ! 相変わらずアホだな私。


「ホーネスト使って借りたら……解ってるわね?」

「…………」

「返事!」

「やだ! 読みたい! 何で駄目なんですか!」


 言い合い中、ゴーゼルさんが物凄く気まずそうな顔をしていたが、気にせず続けていた。


「カナタ! いい加減にしてくれ。引いてくれんか?」

「っ……ごめんなさい。もう言いません……」


 怒られてしまった。


「全く、ゴーゼルもバウンティとソックリよね。自分が疚しい事を掘り下げられたからってカナタに八つ当たりしないのよ!」

「むっ……そうじゃな…………すまんかった」

「でも、私しつこかったよ?」

「そうね!」


 カリメアさんが笑いながら教えてくれた。

 本には、ゴーゼルさんとの出会いや、デート風景、プロポーズまでも事細かに書かれているらしい。そう言えば、ネタの提供がゴーゼルさんとカリメアさんの所に勤めていたメイドさんだったとかバウンティが言ってたっけ。


「私達二人の大切な思い出だったのよ。ゴーゼルの為にって家で努力してた事とか、ゴーゼルだけに見せる姿とか、二人だけの約束とかね。私とゴーゼルの中だけで秘めておきたかった事まで書いてあったのよ」


 カリメアさんが、クスクスと笑いながら続けた。


「流石にもう怒っては無いのだけれどね、それでもこれ以上広まっては欲しく無いのよ」

「っ……見ない。私、見ないよ! 絶体見ない! ごめんなさい」

「あらあら、また泣いちゃって」

「だって…………大切な思い出、解るもん。二人だけの大切な思い出、いっぱいあるもん……知られたく無いもん」

「ふふっ。でしょ? 男って馬鹿なのよ、自慢しちゃうんですって。ほんと、馬鹿」

「……すまんのぉ」


 珍しくゴーゼルさんがカリメアさんの頬にキスをしていた。カリメアさんが嬉しそうに受けている。凄く眩しくて、物凄く羨ましい。


「…………いーなー」


 ボロリと本音が駄々モレしてしまった。


「え……キスが? 貴方達は所構わずしてるでしょ?」

「バウンティはいつだって延長線上にあるものしか見てないので。話の流れで愛してるって伝えるためのキスなんてほとんどもらってない……」

「…………それは……ちょっと萎えるわね」

「はい」


 そう、萎えまくりなのだ。

 バウンティがやる気を出すのは、いつだってベッドでの情事に持ち込める時だけ。出会った頃からのんびりと愛を育ませてはくれない。

 机に突っ伏して溜め息を吐く。何と言うんだろうか、この気持ちは。陰鬱な気分と言えばいいのだろうか。


「ずっとのんびりしてるハズなのに、凄く疲れました。何もしたくない……ホーネストさぁん」

「なーにー?」

「シエナちゃんに『疲れたから何もしたくないの。お好み焼きパーティーかたこ焼きパーティーしててー』ってお願いします」

「いってきまーす」


 ふと思い立って部屋に走る。荷物を漁って目的の物を見付ける。メインサロンに戻ってちょっとしてホーネストさんが戻って来た。


「遅かったね?」

「ただいま。シエナちゃんから『畏まりました』ジュドさんから『あ、丁度良かった! クリフくんが増えたよ! 良いよね? あと、材料費はシエナちゃんが預かってるお財布から使うよ? 他にも作ってていい? 男手あるし、冷蔵庫充実させとこうか? 王都行きの為に空っぽにしてたんでしょ?』だって。皆がワーワー言ってて時間かかったんだよー」

「そっかー。テッサちゃんとジュドさんに『ありがとうございます。適当によろしくお願いします』ってお願い」


 ホーネストさんを再度見送る。今度の帰りは早かった。ジュドさんからの返事を聞いた後、本題に入る。


「ホーネストさん……」

「……はいはい。見せて?」


 ずっと、どうお願いしようか考えていたので、バレバレだったようだ。四種類の被り物を見せると、溜め息を吐きながら了承してもらえた。


「先ずはね、これ! トマト!」


 ――――パシャッ。パシャパシャッ。


「きゃわわ! すっごくきゃわわわわわ! だよ!」

「はいはい。次は?」


 被り物を替えては写真を撮りまくる。サービスでお腹ゴロンをしてくれた。


「いーねーぇ、きみぃ、かわうぃーよー!」

「ヤラセ感が酷いけどね?」


 そんなのは関係無い。可愛いは正義なのだ。

 ホーネストさんの写真を撮りまくって癒された。おかげで、お昼ご飯は楽しく食べられた。




 ちょっと野次馬根性が前に出すぎたカナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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