102、船旅一日目、観察。
お昼ご飯中、バウンティがグロッキーから復活しなかったので、ベッドに寝かせる。
「毒と、転移と、船でトリプルダメージだね……」
「……何でカナタは平気なんだ?」
「船? 転移?」
「りょーほ……」
――――そんなの知らないけどね。
バウンティの頭を撫でておでこにキスをする。弱ったバウンティは、ちょっと可愛い。
バウンティは目を瞑って嬉しそうにしているので、ちょっとは落ち着いたのかもしれない。
「……ん、もっと」
「はいはい。ちょっと寝ておく?」
「ん」
「じゃあ、私は子供達の所に戻るね?」
「……」
バウンティが無言で私の袖を握り見詰めてきた。目を潤ませ口は半分開いて舌がチラリと覗いている。
「こらっ!」
「っ……ケチ」
全く、どんな状況でもバウンティはバウンティらしい。頭をポンポンと軽く叩いて、子供達がいるメインサロンに向かった。
「ママー、うえのとこ、いってもいい?」
「おー、いいよ。一緒に行こう」
「わーい!」
ライフジャケットを探したが無い。メイドさんに聞くが「今は必要ありませんが?」と言われた。
「心配性ねぇ」
「え、心配性って……しなくていいんですか?」
「え? 船外で着用義務ってありませんでしたっけ?」
「ないわよ。嵐でも来そうなら着るけれど」
「おぉ……了解です」
「何よ? 貴女の所は義務化されてたの?」
「はい。絶対じゃないですけど、転落時の生存率が格段に違いますし」
「……まぁ、子供の事を考えると、確かに着せたいとも思うけどね。アナタ、ついて行きなさいな」
「ほいよ。グランパと手ぇ繋ぐかぁ?」
「「つなぐー」」
ゴーゼルさんがライフジャケット代わりらしい。まぁ、私だけで連れて行くよりは安心だ。
船外に出て階段を上り、フライングブリッジに来た。結構風が強い。子供達は手摺りに掴まって海を見詰めている。
「何か見えるの?」
「くじら……」
「え!? いたの?」
「ううん、くじらいないかなって……いないねぇ? そっちいた?」
「いなーい。とりさん、いっぱいいるのにね」
まぁ、鳥はいるだろうけどね。くじらは流石にね。
小一時間ほど観察を続けていたが、風が寒い。
「ねー、そろそろ中に戻ろうよー。船長さんとかに操舵中に見えたら教えてって言えばぁ?」
「そしたら、もうみえないかもでしょ!」
「や、わかんないじゃんよぉ。寒いよぉ。聞いてみようよぉー」
「やっ!」
「あ! 船長さんに見えやすい場所とか聞いてみたら? 何かスポット的なの知ってるかもじゃん!」
「もーっ! しかたないなぁ!」
アステルとしばし言い合いを続けて、どうにか下のデッキに戻る事に成功した。寒すぎたので温かい紅茶をメイドさんにお願いした。
アステルとイオは操舵室に走って行った。
ゴーゼルさんは普通に冷たい紅茶をのみながら爆笑していた。
「カナタとアステルは時々どっちが大人か解らんようなやり取りをするのぉ。さっきもアステルがカナタの我が儘に付き合ってやるような言い方じゃった」
「なっ! くじら探すのに船外に一時間もいるとか子供のやることでしょ!?」
何で、そこで私が我が儘みたいになるんだ。どこまでもただの水平線なのに。オンシーズンのホエールウォッチングでも見れなかったとかたまに聞くのに、シーズンでもスポットでも無いのに見れるわけないじゃんよ。
あと、どん近だったら波とかで転覆しないかとか結構怖い。私はイルカで満足だ。イルカは可愛い。うん。イルカは見たいな。
「ちょっと、船長さんの所に行ってきます」
「はいはい」
操舵室に向かったら。なぜかアステルとイオが操舵席に座っていた。
「ほえっ。何してんの?」
「そーじゅー」
「ここをカチャッてすると、はやくなるんだって!」
「これをね、ぐるぐるすると、みぎにまがるんだって!」
「おぉん。そうでふか……」
「すみません、お子様のお客様がいる時にはいつも操舵席に座らせてあげてるんですよ。事後ですが、大丈夫でしたか?」
「あ、はい! 全然問題は無いんですが、お仕事の邪魔してすみません。邪魔だったら遠慮なく言って下さいね?」
「ふふっ。畏まりました」
船長さんも副船長さんも優しい人で良かった。楽しそうにアステルやイオと話してくれている。
暫く操舵席で遊んだ後は、操舵室の窓からまたくじら探しをしていたが、眠そうに船を漕ぎ出したので寝室に連れて行きお昼寝させた。
子供達がお昼寝している間にバウンティの様子を見に行く。
「バウンティ、調子はどお?」
「ん、ちょっと落ち着いた。俺もサロンに行く」
バウンティを横から支えて、メインサロンに連れて行った。
カリメアさんとクラリッサさんはブロックで何やら作っているようだった。
ゴーゼルさんとアダムさんはカードで賭けをしていた。机の上に白金貨が見えたが、スルーした方が賢明だろう。
ちょっとフラフラするバウンティにお茶を飲ませたりしつつ、平和に過ごした。
くじらは中々見つからない。




