101、船旅一日目、出航!
朝起きて、バウンティにキスをする。子供達を起こしに行くと船に乗るのが楽しみらしく素早く準備をしていた。
「おはようございます」
「おはよう」
カリメアさんはいつも通り優雅だ。ゴーゼルさんとアダムさんはとても眠そうだ。クラリッサさんは……いない。
「クラリッサさんは?」
どうやら、先に港に行って船や船員さんの確認をしてくれているらしい。ありがたや。
「今更ですけど、皆乗れるんですか?」
「本当に今更ね! 乗れるわよ。十名分の寝室があるそうよ」
「おっほぉう。知らなかった!」
それならば一安心。ルンルンと朝ご飯を食べて、玄関に荷物を用意する。
「ぼくのリュックは?」
「ほい、ここにあるよー」
「わたしも、もつ!」
アステルとイオにリュックを渡すと嬉しそうに背負って、玄関でスキップしていた。出発にはまだ早いのだが、二人とも既に準備万端らしい。
「港に早めに行って、砂浜で遊ぶ?」
「「うん!」」
大きい荷物はラルフさんに頼んで船に運んでもらった。
海浜公園に着くと、少し歩いた所に港があった。
「おぉ、本当に港とかあったんだぁ」
「ママー、すなしていい?」
「んあー……砂は我慢してくれると助かりまする……」
「えー、はぁい」
我慢してくれるらしい。砂だらけで船に乗られても、来た時の豪華客船じゃないので、お風呂入り放題ではないのだ。
三日の航海なのでお風呂は一回のみとの事だった。積載出来る量が決まっているので人数が増えると、自ずとお風呂から減らされていくらしい。
「アステル、イオ、海覗いてみろ。魚がいるぞ」
港に続く道の堤防のような場所の上から海を覗き込むと、カラフルな小さな魚がフヨフヨと泳いでいた。
「あか、みっけ!」
「あそこ、みどりいる!」
二人とも楽しそうで良かった。魚か…………。
――――ジュルッ。
「お刺身……」
「「マーマっ!」」
子供達二人に怒られてしまった。ゴーゼルさんとカリメアさんには爆笑された。
のんびり歩きながら港に行き、クルーザーを探す。クラリッサさんが何か妙にデカいクルーザーの上で手を振っている。
もしかしなくてもアレなのか。全長三十メートルは超えていそうな三階建て? の船だった。本当に中型なんだろうか。
「ママママママ!」
「はいはいはいはい?」
「あれにのるの? わたしたちだけのおふね?」
「うん。あれに乗るみたいだねぇ……」
「……あれは……揺れるよな」
「あ、うーん。薬は計画的に飲もうね?」
「ん!」
日三回タイプなので上手に飲めばそんなにゲロゲロしないはず。
皆で船に乗り込み船長さんに挨拶する。副船長さん、船員さん二人、シェフさん、メイドさん二人に出迎えられた。
「船内を案内いたします」
メイドさんに先導してもらいながら船内を歩く。
フライングブリッジたる所には寝そべれるソファが置いてあり、夜は星空観察などがお勧めなのだそうな。ブリッジの下のデッキにはメインサロン、ダイニングがあり、バーも併設されていた。このデッキには客室……キャビンと言うらしい。キャビンが三部屋、操舵室があった。操舵席の後ろにはソファが設置してあり、船長さんのお仕事を邪魔してもいいらしい。
「みてていいの?」
「はい、サボらないように見てていいですよ?」
「にゅふふふ。ぼく、ときどきみはっててあげる」
「アステルもー!」
「はははは。よろしくお願いいたしますね」
中々にノリの良い船長さんのようだ。
案内を再開してもらう。船底のデッキには機械室、ギャレー……いわゆるキッチンとキャビン二部屋と船員さん達の部屋があるそうだ。
「お部屋はどうしましょうね?」
ゴーゼルさんとカリメアさん、バウンティと私、アステルとイオがそれぞれ二階デッキにあるツインルーム。アダムさんとクラリッサさんはそれぞれで船底の部屋になった。
部屋に荷物を運んだ後は皆でメインサロンに集合した。
「あと十五分で出航時間になります」
「「はぁーい」」
子供達は早速ブロックを広げて遊んでいた。私達大人はのんびりお茶。バウンティは酔い止めを飲んでいた。必死だな。
「ゴーゼルさん達は酔わないんですか?」
「ワシは平気じゃよ」
「……私は、小さい頃は酔ってたんだけどね。いつの間にか平気になってたわ」
アダムさんもクラリッサさんも平気だそうだ。私も割と平気だった。地上に立つと少し揺れている感覚には陥るけど。
子供達も平気そうだけど、バウンティ曰く大型の客船とクルーザーじゃ揺れ方が違うそうだ。どっちみち酔うのだから関係ないだろうとか思ったが、どうやらクルーザーの方が苦手らしい。
「んー、がんばれ」
「「がんばれー」」
私と子供達からやる気の無い応援を受けて、バウンティが少しイジケていた。
バウンティを弄ったりしている間に出航時間になった。アステル達が慌てて操舵室に向かい、船長さんのお仕事監視をしていた。
「おおぉぉ、結構揺れるんですねぇ」
「出航時だけよ。暫くしたら落ち着くわよ」
「ほへぇ」
「……ングッ」
「え!? もう出る? 大丈夫?」
「……ん、飲み込んだ。大丈夫だ」
――――飲み込むなよ。何か汚いなぁ。
多少グロッキーになりつつあるバウンティを放置しつつ、のんびりと船旅開始だ。
お昼になり、シェフさんとメイドさん達がお昼ご飯の準備をしてくれた。シュリンプカクテルが用意されていたのでモリモリと食べた。バウンティの分も食べた。
「ぷはぁぁ。エビ美味し! シーフード尽くし最高!」
「……ん」
テーブルに突っ伏したままのバウンティが消え入りそうな返事をした。薬が間に合わなかったか、効かなかったかだろう。
「バウンティ、本当に船がダメなんっすね」
「ほうじゃのぉ。ここまで酷いとは思わんじゃった」
私は気にせずご飯を食べていたが、皆はとても心配そうにバウンティを見ている。こんなにも弱り切ったバウンティを見るのは初めてらしい。
初めての船旅でゲーロゲロしてたから、何となく見慣れた感じ。
「パパだいじょうぶ? ごはんたべて、げんきなって?」
「……ん、イオ……やめて……」
イオがグロッキーなバウンティの口にニンジンスティックを差し込んで、謎のイジメをしていた。
「イーオー、ニンジンは自分で食べなさい。あと、バウンティ、ギリギリだから口に入れるのは止めてあげて?」
「むぅ……げんき、なってほしいのにぃ」
「うんうん。気持ちだけもらっておく、ってよ」
「……ん」
「うん! げんきなれー!」
イオがバシバシと背中を叩いていた。追い打ちが中々に酷い。
「ウグッ……」
「イオって時々カナタみたいに雑ですわね」
「えぇ。アステルも結構カナタに似てるのよね……」
「あれ? ディスられてます?」
ワーワーと文句を言いながらお昼ご飯を終わらせた。
クルーザーと言うか、これも豪華客船じゃないかな? とか思った庶民派カナタさん。
次話も明日0時に公開です。




