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1、何気ない、普通の一日だった。

 お久し振りでございます。

カナタさんとバウンティをよろしくお願いいたします。


※第一弾の出逢い編は諸事情により、ムーンライトノベルズさんへ移行しました……。

 子育て編はR18版もあります。

 



 ――――チュッ。


「カナタ、おはよう」


 バウンティがキスして起こしてくれる。

 私はいつも通り微笑んでバウンティの頬を撫でる。すると、嬉しそうに目を細めてくれる。それだけでいつもの幸せな一日の始まりだ。


「子供達、起こしてくるな」


 子供達を起こしに行くのはバウンティの仕事だ。私は朝ご飯を作りにキッチンへ下りる。

 なんやかんやとバタバタしていたら、いつの間にかローレンツに来てもうすぐ六年だ。




 四年十ヵ月前の六月二日、無事にアステルを出産した。元気な女の子で、バウンティと同じ赤茶色の髪の毛とエメラルドグリーンの瞳だった。

 私は無事かと言うと微妙な所だけど、まあまあ無事。超絶痛いわ、怖いわで、叫んだし泣いた。ちなみにバウンティは横でオロオロしていた。

 カリメアさんに邪魔と言われて凹みながらも、陣痛に苦しむ私の手を握ってくれていた。なかなか良い旦那さんだと思う。

 アステルが無事に産まれてくれた。それだけで幸せいっぱいだった。

 そして予想はしていたが、もれなくデレッデレの父親と祖父母、曾祖父母と化した。

 そして、翌年の十二月七日には男の子を出産した。色々と話し合って名前はイオに決めた。別に『あいうえお』順とかじゃない。たまたま。そう、たまたまなのだ!




「ママおはよー!」

「イオ、ママにおはようは?」

「ん……おは……よ」


 二人のおでこにキスをする。イオはまだ眠いようで、目をごしごし擦っている。


「今日は……おにぎりか。卵焼きは?」


 もちろんある。

 ダイニングに朝ご飯を並べる。子供達には型抜きの野菜も。バウンティと私には普通のサラダ。


「イオ! ニンジンたべなよー!」

「や。ニンジン、やなの」

「パパみたいに、おおきくて、つよくなれないよー?」


 アステルがツインテールに結んだ赤茶色のストレートヘアーをゆらゆら揺らしながらイオを弄っている。イオはというと、同じく赤茶色だが少し暗めだ。ゆるふわウェーブの髪をブンブンと振り、黒い瞳から涙を飛ばしていた。


「きたなっ。なんかとんできたぁ!」

「ニンジンはマヨネーズ付けると美味いぞ?」


 ――――いや、バウンティは取り敢えずマヨネーズ付けとけば全部『美味い』って言うしね。信用ならないな。


「ママー、食べて……」


 イオがフォークに刺したニンジンを差し出して来たので、あーんして食べてあげる。


「あーっ! ママはイオにあますぎー!」


 残念ながら型抜きの野菜はフェイクなのだ。ニンジンは微塵切りにして卵焼きに混ぜ込んでいる。そして、おにぎりにも入っている。ちびっこ達は母親の姑息さにまだ気付いてないようだ。

 ごちそうさまをして食器を片付ける。

 私が洗い、バウンティが拭く、イオが中継ぎ、アステルが椅子に乗って棚に片付ける。

 一人で洗って片付けた方が早いのだが、やりたがるので担当を決めた。


「マシュ、もうくる?」

「ん? もう八時過ぎか、もう少しで来る」

「ん!」


 マシューくんはジュドさんとリズさんの子供だ。

 アステルが産まれてジュドさんが悶えに悶え、リズさんにプロポーズした。

 内容は酷かったが、リズさんはもうそれでいいやと諦めたらしい。イオの少し後にマシューくんが産まれた。

 仕事が忙しいリズさんに頼まれ、赤ちゃんの時からマシューくんを預かっているのだ。

 この世界ではまだ乳母のシステムがあるらしく、最初はびっくりしたが、お乳をあげるのにも慣れた。なんなら自分の子供くらい可愛いとも思う。


「ママー、んーち」


 トイレトレーニング中のイオが股を押さえて訴えてきた。うんちなのになぜか前を押さえている。おしっこも漏れるのか? 慌ててイオを抱えてトイレに走る。どうにか間に合った。ちゃんとトイレが出来たので誉めると嬉しそうに笑ってくれた。


「ぼく、いいこ?」


 頷いて再度頭を撫でる。イオの顔色が少し曇ってしまった。


「ママ、ぼく、きらいなの? おはなししてよ! アステル、ママのこえ、スゴクやさしいって……グスッ。ぼくママのこえ、ききたいぃぃ! はなして!」


 ポロポロと涙を流ししがみ付いて来るイオを抱き締める。話したい、いっぱい誉めてあげたい。でも、絶対に話せない、今はまだ駄目だ。

 二年十ヵ月までは普通に話していた――――。




****** 回想




「アステル起きてー、朝だよー」

「ママ、だっこ! だっこ!」

「はーい。しますよっと。イオはバウンティが抱っこしてねー」

「バウンティ、だっこ!」


 アステルが私の言葉を真似て話してしまう。


「バウンティ……パパって覚えるまでは、パパって読んだ方が良いよね?」

「そのうち覚えるだろう、今のままでいいさ」

「いーさー!」

「いいのかなぁ」

『いーのかにゃー』

「い・い・の・か・な、ね」

『いいのかな?』

「そうそう。上手!」

『そうそう、じょじゅ』


 可愛くて笑っていたらバウンティが不思議そうな顔をしていた。


「どうしたの?」

「アステルはカナタが言ってる本当の言葉が聞こえてるのか?」

「え?」

「いま、『イイノカナ』って日本語で話してた……って、そうか、カナタには判らないのか……」

「待って、本当に日本語喋ってたの?」

「ん、特に最近なそんな気がする。赤ちゃん言葉が多いのかと思ってたけど、カナタは誉めてた。って事は、だろ?」


 赤ちゃんの頃から二言語を聞いていたので母国語認定が未だに無いのかもしれない。

 ホーネストさんを呼んで聞いてみるが、そればっかりは解らないそうだ。




 夜、子供達を寝かし付けて、主寝室の机で向かい合って話す。

 

「どうしよう。フィランツ語……」

「大変かもしれないが、日本語も話せればリュウタやソウコとも話せるだろ? 喜ぶんじゃないか?」

「そう、だけど……両方とも母国語として認識してしまってたら、ずっとフィランツ語と日本語を聞き続けなきゃいけないんだよね?」

「……ヨージとカンにどんな風か聞いてみるのはどうだ?」

「うん……聞いてみる」


 ホーネストさんにお願いしてヨウジくんに飛んでもらう。


「ただいまーヨウジくんから『あー、実は今はカナタの言葉はフィランツ語に聞こえてるんです。たぶん、あれからほとんど話さなかったですし、私がフィランツ語を母国語として認識したからなのだろうと思います。その……本音を言いますと、あの頃は物凄く大変でした。会話に付いて行くのに必死になってました。交渉の時はほとんど理解出来ず、フィランツ語の流れでカナタの言っている事を予測してました』だってー」


 ――――まじでかぁ。


 カンさんにもお願いした。


「ただいまー、カンさんからだよ『え? マジで? ヨウジすげぇ羨ましい! あいつは……決めたんだろうな。で、日本語の件な、俺は父親が外国人だったから何となくは状況がわかるが。俺の父親、日本語ペラペラなんだわ。時々まぜこぜで話してた時もあったけどな……教育目的じゃないなら、俺はフィランツ語を母国語として認識させてあげた方が良いと思うぜ。常時二か国語は間違い無くしんどい。あー、あと、友達と遊んだ時とかな、いつもの調子で話すとポカーンてされてたな。地味に傷付くんだよな、あーゆーの。まぁ、応援してる』だってよ?」

「ありがとう、ホーネストさん」


 ホーネストさんをナデナデする。


「どうしよう……」

「って言ってもどうしようも無いだろう? お前はフィランツ語話せないし、勉強するには無理がありすぎる」

「一つだけ方法はあるんだよ?」

「…………駄目だ」

「何で駄目なの?」

「母親が話し掛けてくれないなんて辛すぎるだろうが!」

「いっぱい笑うもん、スキンシップもするもん」

「それでも自分にだけ話し掛けてもらえないなんて…………」

「誰とも話さない。二人がフィランツ語をしっかり話せるようになるまで、私は病気で話せなくなった事にする」


 ――――ダァァン!


 バウンティが机を叩いて立ち上がり、私の横に移動してきた。


「俺ともか! 何年も話さない気か!?」

「っ……徹底しなきゃだから…………うん、そうする。今から、そうする。あの子達の為にそうしたい! 嫌われても、恨まれてもいいもん」

「……来い」


 グイグイとベッドまで引き摺り連れて行かれる。


「一言も話さないんだよな? 出来るのか?」

「出来るもん。絶対に話さない」

「絶対にか――――」


 ――――ドサッ。


「夫婦の生活も黙ったままする気なのか? ……本当に話さなかったら認める。好きにすればいい」

「ふっ……んんっ」


 徐々に服を脱がされ、いたる所にキスが降り注がれる。永遠のように焦らされた。


「ほら、辛いんだろ? 言えよ、どこがいい? どうして欲しい? 言ったらその通りしてやるぞ?」


 ブンブンと必死に首を振った。二時間経ち、途中でイオが泣き出したのであやしに子供部屋に行く。これで逃げられたと思ったが、イオが寝たらまた再開された。

 そして今度は授乳、また夜泣き。バウンティから与えられる悦楽と苦悶。夜通しその繰り返しだった。気付けば朝になっていた。


「っ……ハァハァハァ。ほん、とに……もう話さないのか? 俺の名前をもう呼んでくれないのか?」


 バウンティがエメラルドグリーンの瞳を潤ませて聞いてくる。私だって辛い。けど、二人の為にそうしたい。

 ボロボロと泣きながら口を押さえて必死に頷いた。手を離せばきっと叫んでしまう。バウンティと。愛してると。もう言えない大切な二つの言葉。


「……カナタ、おいで?」


 バウンティが両手を広げて迎えてくれた。すっぽりと腕の中に納まる。


「カナタ愛してる。苛めてごめんな。お前が言ってくれないなら俺がずっと囁き続けよう。アステルとイオにも俺がお前の分まで言葉は伝える。だから、もう大丈夫だって判断したら……一番に俺の名前を呼んで? 愛してるって、頑張ったねって言ってくれよ?」


 何度も頷く。

 絶対にそうしよう。その時が来たら必ずバウンティを呼ぼう。愛してると伝えよう。




****** 回想終了




 泣きじゃくるイオを抱き締める。

 最近、流暢にとはいかないが、良く話すようになってきた。三歳、微妙なラインだ。アステルがいるおかげなのか、言葉を覚えるのは早いようには感じる。

 そして気になるのは、アステルは私の声を覚えててくれたのだろうか? 只の弟への対抗心かもしれない。それでも優しい声だと思ってもらえているのは嬉しい。同時に物凄く辛い。正しい判断だったのか未だに解らない。たぶんずっと解らないんだろう。


 ――――もう、いいのかもしれない。


 イオを抱き上げバウンティとアステルがいるであろうリビングに向かう。

 リビングに入ると泣き顔の私達にビックリしたようで、バウンティが駆け寄ってくる。


「どうした!? トイレ失敗したか?」


 ――――あ、うん。それは上手に出来ました。


 イオを下に下ろすが足に抱き着いて離れなくなった。

 急にバウンティが笑い出した。


「ふはっ。酔っ払ったカナタにソックリだな。その格好のままで階段上れとか言ったんだぞ?」

「キャハハ。ママそんなことしたのー?」


 一回だけだし。ずいぶん昔の事をネタにしてくる。


 ――――ドシュッ。


 バウンティのおへそを人差し指で刺す。


「んあっ。コラッ! お前、それは止めろって言ってるだろ! 二人とも真似すんだよ」


 ――――ざまぁ。下痢になってしまえ。


「……ッキャハハ」

「ん。イオ、機嫌は治ったのか? どうしたんだ?」

「っ…………ううん。へいき。ぼく、おとこのこ。つよいからへいき!」


 明らかに強がるイオが可愛くて堪らない。こんなに小さくても男の子なのだろう。

 それからは、いつものようにリズさんからマシューくんを預かり、夕方送り出す。


「あ、カナタ、明日は休みだからラセット亭にいるわ。久しぶりにランチでもしない?」


 ――――したい!


 親指と人差し指で丸を作り、オーケーと返事をする。


「じゃあ、一時でいいわね? また明日ね!」

「イオ、アステル、バイバイ」

「「バイバーイ」」




 二人を寝かし付けてリビングで本を読むが集中出来ない。隣に座るバウンティに寄り掛かり見詰める。


「ん? どうした?」


 バウンティの首に腕を回すと、そっと抱き上げられて膝の上に座らせてくれた。

 心臓が、鼓動が、脈打ち、速まり、爆発寸前まで気持ちが高ぶる。


 ――――伝えたい。


「なんだ、今日は甘えん坊の日か?」

「ケホッ…………」


 サイドボードの飲み物を一旦飲む。深呼吸して意を決する。


「バ……んんっ。……バウンティ愛してるよ?」

「っ…………疑問系は……駄目、だって…………言っただろ?」


 バウンティが破顔してボタボタと涙を流し始めた。

 駄目ならもう一度。


「バウンティ愛してる。良く頑張ったね。いっぱい……我慢させてごめんね?」

「っうん。凄く……凄く待った。凄く我慢した。カナタ、もう解禁?」

「うん。イオも大丈夫だと思う……」

「もっと話して。カナタ、俺をもっと呼んでよ」

「バウンティ」

「ん」

「いひひ。バウンティ!」


 バウンティに抱き着いて、二年十ヵ月振りに呼ぶ。何度でも。バウンティの気が済むまで名前を呼んであげた。

 



 相変わらず暴走するカナタさんとバウンティ。


次話も明日0時に公開です。

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