認めたくない気持ち
学校で勉強を続け、織江さんと一緒に下校した僕は、家でも勉強をしながら今日の減点箇所のメッセージを待っていた。
昨日の減点箇所にはかなり気を遣って過ごしたけど、まったく減点されていないという自信はない。小テストの件は確実に減点されているだろう。夜も更けてきた頃に運命のメッセージは送られてきた。覚悟はもう決まっていたからすぐにメッセージを開く、
「今日は一点だけ減点。この調子で頑張ってね。」
「一点は小テストね。」
一点?
それだけ? これまでとは違う意味ですぐには信じられなかった。何度か開きなおして見るも文面は変わらない。
やったんだ。段々と実感がわいてくる。ついに頑張りが認められてきたんだ。
はしゃぎたくなる気持ちを抑えてメッセージの返信を送る。そして、すぐに勉強を再開する。ここで浮かれて休んだらせっかくの努力が水の泡になってしまう。せっかく掴んだ理想の形、それを手放すわけにはいかない。僕は今日のような僕を毎日続ければいいんだ。
そうすれば、織江さんに認めてもらえる。
…認めてもらえてどうなるんだろう?
変な考えを振り切るように僕は勉強に集中した。
それからの僕は完璧に織江さんの理想に答えることができていた。これまでの減点箇所に注意して、織江さんの望んでいそうなことをすぐに実行する。一人の時は勉強を欠かさず、授業でもしっかりとアピールを続けた。
心なしか、普段話をしているときの織江さんも以前より機嫌がいいというか、嬉しそうにしてくれることが多くなったと思う。その後何日かは減点がなくなったほどだ。
僕はうまくやれていた。
だけど、それも長くは続かなかった。
「ん?七瀬、そこは計算が少し違うな。」
「え⁉ そんなはずは…ほんとだ、すみません。」
お試し期間の六日目を迎えたあたりから、授業に集中できなくなってきた。
先生の言っている言葉もなんとなく理解できないことが増えて、今やっている箇所を探すのだけでも大変な思いをした。授業だけでなく、一人でしている勉強もなかなか頭に入ってこなくなり効率が悪くなっている。
「ちょっと、七瀬君聞いてる?」
「あ、ごめん。もう一回だけお願い。」
人との会話でも内容が頭に入ってこず、理解できないことが増えた。しっかりと聞いてはいるのに、その言葉の意味を考えないと理解できなくなっていた。
そんな状態では勉強だけでなく、普段の生活でもミスが起きる。忘れ物までする始末だ。
なんでこんなミスをしてしまったのか、自分でもわからない。
散々な状態で帰ると予想通り、
「今日は久々に十点減点します。しっかりしないともう残り少ないよ。」
という減点メッセージがくる。残りのお試し期間は四日間。持ち点の残りは九点。絶望的な状況だった。
でも、まったく減点がなかった日があるんだ。それを残り四日間続ければいい。
諦めるのはまだ早い。ここ数日うまくいっていたことで自分でも気が付かないうちに気が緩んでいたようだ。
その夜、僕は気合を入れなおし、栄養ドリンク飲んで勉強を続けた。
そこから僕は驚異的な集中力で毎日を過ごした。完璧とはいかなかったが、毎日を一、二点の減点で切り抜け、お試し期間は残り一日を残すところまできていた。
僕はまだ気が付いていなかった。
気が付いていないことが、功をそうしていたのかもしれない。
いや、見て見ぬ振りをしていただけだ。自分の本当の気持ちを…