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夢のような一日


クラス委員長の織江汀さんに告白し、仮だが、付き合えることになった僕は浮かれ気分で家に帰る。

僕は夜になっても興奮していて、なかなか寝付けないほど、一人で舞い上がっていた。明日から織江さんと何をしようか、一緒にお昼を食べたりできるかな?もしかしたら、一緒に下校までしてくれるかもしれない。ベッドに横になった後も、そんな想像をして、なかなか寝付けなかった。



翌日

寝不足気味のため、少し遅めの時間に起きて学校に向かう。学校にはギリギリ間に合うだろう。初日から浮かれて遅刻なんてしたら幻滅されて減点になってしまう。あくまでも仮、しっかり一週間乗り切らないと。


そうして気を引き締めて教室に入った僕を予想外の展開が待っていた。



「あ、七瀬君!おはよう!」

「え、織江さん⁉」


すでに来ていた織江さんが、嬉しそうにこちらに向かってきて、そのまま僕の手を握る。驚いたのは僕だけじゃなく、今まで話をしていたクラスメイトたちもだった。今まで織江さんから僕に話しかけてきたことはほとんどないし、手を繋ぐなんて、どうやってもあり得ないことだ。クラス中が僕たちの様子を見て、一瞬で騒がしくなる。


え、委員長どうしたんだ?

あんな委員長見たことない

七瀬君とそんなに仲良かったっけ?


そんなザワつくクラスメイトたちに織江さんが一言。


「そうだ!私たち、今日から付き合うことになったから、みんな七瀬君に手を出さないでよ。」




えぇえええええええ⁉

みんなの驚きようはとても言葉には表せないほどだった。

いつから、どっちから⁉︎と質問攻めにしてくる女子、夢も希望もないと崩れ落ちる男子。そして、こんなにも織江さんが恋人のようにしてくれ、こんなにもオープンにしてしまうことに驚き、何も言えない僕。

織江さんの発言で始まった騒ぎは、チャイムが鳴っても収まらず、先生が来るまで続いていた。


朝から予想もしていなかった展開について行くのがやっとの僕だったが、休み時間になるたびに織江さんが僕の席まで話をしに来てくれ、お互いのことを話しているうちに、だんだんと実感が湧いてきた。

お試し期間なのに織江さんは、ちゃんと恋人のように接しようとしてくれている。それが、とても嬉しく、幸福感に包まれる。昨日、決心して告白したのは間違ってなかった。頑張った自分を褒めてあげたい気分だ。


幸せな時ほど時間が早く感じる。いつもなら長く感じる授業も今日はあっという間に過ぎていき、気づけばもう昼休みになっていた。

よっぽど浮かれた顔をしていたのだろう「よかったじゃん葵。」と声をかけられ隣を見ると、ニヤニヤした涼さんがこちらを見ていた。


「ずっと前から委員長のこと見てたもんね。」

「え⁉︎ 気付いてたの?」

「いやいや、わかりやすかったから。誰でも気づくよ。」

「う、お恥ずかしい。」


ずっと気付かれていたことに、顔が赤くなってくる。僕はなんだか見透かされているようで恥ずかしかったが、涼さんはまったくからかうようなことはせずに、


「葵、今幸せ?」


と真剣な目で聞いてきた。



「えっと、うん!幸せです!」

「そっか、頑張ったね、葵。」


そう言って僕の肩に手を置く涼さん。

彼女の表情からは心底嬉しそうな感情が伝わってくる。中学の頃から、涼さんは何かと面倒を見てくれ、優しくしてくれた。

今回も僕のことなのに、そんなに親身になって喜んでくれる涼さんに、なんだか心があったかくなってくる。


「ありがとう、涼さん。」

僕が笑うと彼女も優しく微笑んでくれた。「じゃ、私昼行ってくる。またね。」そう言って教室を出て行く涼さんを手を振って見送る。






「七瀬君、お昼どうする?学食かな?」


いつの間にか織江さんが隣に立っていた。


「あ、委員長⁉︎ ごめん、待っててくれたんだ。」

「もう、付き合ってるのに、委員長はないんじゃない?」

「ぁ、ごめん⁉︎ つい…」

「それで、お昼は学食だよね?早く行こ、席がなくなっちゃうよ。」

「うん!」


織江さんと二人、学食で昼食をとっているのだが、正直味がわからなくなりそうだ。織江さんの人気はクラスにとどまらず、学校中から注目されている。そんな人気者と冴えない男子生徒が一緒にご飯を食べていたら、それは皆さま気にするというもので、四方八方から視線が集まってくることになってしまった。


僕は終始緊張しっぱなしだったが、織江さんの方は慣れたもののようで、視線を気にすることなくお昼を食べている。普段から注目されているとこうなるのだろうか、正直カッコよかった。


動じることなく堂々としている織江さんを見ていると、見られていることに気づいた彼女と目が合う。織江さんはハッと何かに気付いたようにして、おかずを箸でつまむと、


「はい、七瀬君! あ〜ん。」

「ゴホッ⁉︎ お、織江さん⁉︎」

「あれ?違った? じっとこっちを見てたから、これかなぁって思ったんだけど。」


彼女の大胆な行動に驚いたのは僕だけじゃなく、


おい!なんだあの二人付き合ってんの⁉︎

お前知らなかったのか?今朝の大ニュースだろ。

アイツ羨ましいなぁ

織江さん、すごい積極的だね!


なんて周りの人たちもかなり盛り上がっているようだ。さらに注目を浴びるかたちになり、僕はいよいよ味を感じなくなっていた。



結局、お昼を衆人環視の中で食べ、味の分からなかった僕だが、それを差し引いても今日は幸せ過ぎた。

午後になっても織江さんは変わらず積極的に来てくれて、僕もだんだん織江さんと一緒に注目されることに慣れてきた。それでも、ぎこちなさはなかなか抜けなかったけど…


放課後になる頃には、クラスメイトたちからの質問攻撃も落ち着いてきて僕はようやく一息つく。今日は朝から怒涛の展開すぎて、普段はあまり注目されない立場の僕は、昨日の告白の時と同じくらい疲れた。たぶん一生分の注目を集めたんじゃないかと思うくらいだ。


「七瀬君、なんだか疲れてるみたいだけど大丈夫?」


自分の席で一息ついていると、織江さんが心配してきてくれる。それだけで、嬉しくて疲れが飛んでいくようだ。


「織江さん、大丈夫だよ。普段はこんなに目立つことないからさ。」

「そっかぁ、慣れると案外平気になるよ。元気出して!」

「うん、ありがとう!元気出たよ!」

「それならよかった。じゃ一緒に帰ろっか?」

「う、うん!」


帰りは自分から誘ってみるつもりだったけど、また織江さんにリードしてもらってしまった。こんなことでは、と思いはするが、嬉しさが勝ってしまう。今、自分はあの織江さんと二人で下校している。とても信じられないような状況だが、これが昨日頑張って告白した結果だと考えると満更でもない気分だ。


「七瀬君、今日はどうだった?お試し初日。」

「すごく、なんていうか幸せでした。ありがとう織江さん。」

「ふふ、なんか可笑しいね。」

「そうかな、織江さんと沢山お話しが出来て僕は本当に嬉しかったよ。最高の一日でした。」

「そっか…あ、私そろそろ駅の方行くから、ここまでだね。そういえば、うっかりしてたけど連絡先教えてよ。」

「あ、そっか⁉︎ そういえば知らないね。」


昨日は告白のドキドキで、今日は怒涛の展開ですっかり忘れていた。別れる前に慌ててsnsのアカウントを交換する。織江さんの連絡先が僕のスマホに入るなんて、実感するまで何度も確認してしまいそうだ。


「それじゃ、明日も頑張ってね七瀬君。」

「うん!ありがとう!また明日ね!」


織江さんが見えなくなるまで見送って、僕も家に帰る。

家で過ごしながら今日の出来事を思い返す。朝から織江さんと一緒に過ごし、まるで夢のような時間だった。幸福感に包まれフワフワとした気持ちのなかで、ゆったりと時間が過ぎていく。


そんな時だ。

スマホが振動する。手にとって見ると、なんと織江さんからのメッセージが届いていた。夢見がちな気分のまま浮かれてメッセージを開く、







「今日だけで五十点の減点。本気で付き合いたいなら明日から頑張ってね。」




僕は一気に現実に引き戻された。

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