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理性崩壊 (side ペリオン)

 

 一応というか、念の為というか、確認というか、まぁなんと言えば良いのか、間違いがあったらダメでしょう?


 そう、万が一、記載されている日時がわたしの勘違いなんて事になったらいけないからね。


 先に劇場で、頂き物だけどこれは使えるのかと聞いたところ、胡散臭そうに見ていた受付担当が見たことのない素晴らしい笑顔で問題ありません! と太鼓判を押してくれた。


 それだけでこのチケットが良いものだと確信させるくらいには素晴らしい笑顔だった。


 ただ、その後に非常に、大変、心苦しそうにドレスコードについて婉曲かつ当たり障りなく諭されて、わたし達は今から出直してくる予定ですと伝えたところ、明らかにほっとした様子でわたしの貼り付けた笑みが剥がれるかと思った。


 まぁ、ね?

 ユウト君は、楽な格好をしているとはいえ仕立ては良いものだから個室なことを鑑みれば目をつぶれるにしても、わたしはダメ。

 受付がそのままで構いませんどうぞと言っても固辞するくらいにはダメ。


 そのくらい分かってますから!

 全く失礼ですね!


 いや、いやいや、こんな格好で劇場に足を運ぶのが失礼ですね、わたしが悪いんです。


「そうと決まればコットンフェアリーに行きますよ!」

「あ、うん。お店の場所は分かるの?」

「問題ありません! この前仕立てに来て頂いたアラクネ程じゃないですけど、コトフェは比較的安くてその割に素敵なドレスなどを作る優良店ですからね」

「へぇ……名前からして綿が使われてるの?」

「あぁ、そういう訳ではないですよ」


 なんでそんな事をと思ったら、ユウト君はこういった話を知ってるわけなかったですね。


 コットンフェアリー、要は綿妖精という名前ですが、妖精は花の繊維や綿毛を使って手遊びをする、という話がありまして、お店のスタンスとして、かっちりとしたフォーマルな服装ではなく、少し崩したデザインなんかを好んでるんですよ。

 流行りに流されない独自路線を貫いています。


 面白いのは、流行りそうになるとあえて安く大量に捌くところですね。


「それって変なの?」

「普通は、流行りになれば稼げますからね。出し渋って値段を釣り上げたりするものなんですよ。それが貴族にはステータスにもなりますからね」

「えっと、希少価値って事?」

「そうです。それにみんなが同じようなドレスになるのは貴族としてはダメですからね。他の人にはない色、デザインは貴族の女性に限らず憧れですよ」


 とはいえ、流石にユウト君にそこら辺の女心はまだ分からないでしょうか。


 流行りのものが欲しい、けどみんなと同じは嫌で、自分だけのものが欲しい、でも流行りから外れているのも嫌、なんですよねー。

 中々の我儘ですね。


 これが仲良しだったりすると揃えないといけなくなったり、仲が悪いと張り合ったり、とまぁ面倒臭いことになる訳ですが、一庶民であるわたしからすればわたし自身に似合うかどうかの方が重要と言いますか、懐具合を考えると、選択肢がないと言いますか、言ってて悲しくなりますが、ドレスコードに厳しい場に足を運ぶとなると最低限のラインがずずいと高くなるので乗り越えるのに必死になるんですよね。


 その点、コトフェはとてもお手ごろです。

 お手ごろでもわたしにとっては高いですけど、頑張れば手が届くくらいにはお安いです。


 いつか一着仕立てたいお店ですね。

 それをご用意して下さったアイリス様には頭が下がりますね。


 思わず足も軽くなろうと言うものです。


 劇場から歩いて程なく、落ち着いたクリーム色の壁に踊る男女とそれを囲う妖精の絵が描かれたお店に到着しました。


「ここですよ」

「へぇ……なんか楽しそうなお店だね」

「そうでしょう?」


 カランと軽いベルの音をさせながら店内に入れば、そこは夢のような空間です。


 色とりどりのドレスや礼装が煌びやかに陳列されていて思わず視線が動いてしまいますね。


 この中の一着を頂けるなんて凄いです。


「ほぁ〜〜〜!」


 思わずふらふらと吸い寄せられそうになったところで、ユウト君に手を引かれて我に返りました。


「ペリオン。勝手に触ったらダメだよ」

「そ、そうですね、えぇ。危うく頬ずりするところでした」

「まぁ、それだけ目を奪われてくれたらこちらとしても本望ではあるけどね。いらっしゃい、坊ちゃんにお嬢さん」


 かけられた声に振り向けばそこには、そこには!?


 浅黒い肌にヒョロリとした痩躯、ボサボサの金髪に赤と青のメッシュが入った目に痛い頭、ピアスをジャラリと付けた見るからに裏の人間と言わんばかりの悪人面、子供が泣いて逃げるイカれた男、それこそまさに


「コルオマイヤ様!!」

「おや、お見知り置きとは光栄だね。お嬢さんのお名前をお聞かせ願っても?」

「ぺ、ペリオン・エントと申します! それと、こちらは」

「えっと、ユウト・フタワです」

「エント嬢とフタワ様だね。失礼だがフタワ様は貴族で宜しかったかな?」

「あ、はい、一応、出来ればユウトと……」


 ふぁ……コルオマイヤ様にお声がけされるだなんて、ここは天国でしょうか……?


 コルオマイヤ様のお店なのだから居てもいいんですけど、まさかご本人が前に出てくるだなんて思いもしてなかったです!


 ご本人のコワモテと紳士的な対応のギャップが天地ほどに違いますが!


「ほ、ほら、ペリオン!」

「あ! あの……こちら、紹介状なのですが……」

「あぁ、やっぱりか。キミ達だと思ったよ。うん、うん……聞いていた通りかな、用意してあるからこちらに来たまえ」

「やっぱり……?」

「うん? 服を用意するならその人に合わせないとダメだろう? すると身長は元より、肩幅、腰周りを始め、様々な数値が要るじゃないか。それとほぼ同じ二人組が来たらそりゃあピンと来るよ。ボクはこれでも服飾が仕事なんだから」

「…………は」


 はい?


 え?


 コルオマイヤ様が仕立てをした?

 わたしのドレスを?


 吊られてるドレスを軽く手直しするんじゃなくて?


 それってつまりオーダーメイド?


 え?


 夢?


「ユウト君、わたし、夢を見てるみたいです」

「え!? どゆこと!?」

「だってだってコルオマイヤ様のオーダーメイドですよ!? わたしが手にしていいドレスじゃないんですよ!」

「えぇ……? でも、ペリオンのなんだったら、着ていいんじゃない? ……ですよね?」

「はは、そうだね、エント嬢が着ないと言うなら棄ててしまおうか」

「すて……だめだめだめです! 着ます! 絶対着ます! 着たらもう脱ぎません!!」


 棄てるなんて勿体ない!!!!!!!


「そりゃあ良かった。あー、キミ、ちょっとこちらのエント嬢に着付けをお願い出来る?」

「はい、分かりました。エント様、こちらへどうぞ」

「ど、どうも、えと、わたし、エント様だとか呼ばれるような人じゃないのでどうかペリオンと……」

「分かりました、ペリオン様」

「あ、あれ?」


 話噛み合ってなくない?


 わたしの言い方がダメでしたか!?


「じゃあ、ユウト坊ちゃんはボクがやろうかな」


 ───なんですって?


「お願いします。ペリオン、じゃ、後でね」

「あ、はい」


 ひらひらと手を振ったユウト君がコルオマイヤ様と話しながら別室へと消えていくのを幻のように見ていました。


 だって、コルオマイヤ様が着付けするって、何?


 そりゃ、コルオマイヤ様は男性ですし、ユウト君も男の子だし、何も問題ないんですけど、わたしはなんで女なんでしょうか。


 まぁ、わたしが女じゃなかったら、コトフェのドレスに憧れてなかったかもしれませんが。


 アイリス様のご実家のファルトゥナ家にもなると、こんなコネも出来ちゃうんだなぁ。


 まぁ、わたしがアイリス様のようになれるかと言うとなれないので、そこはそれ、庶民で良かったのか悪かったのか。


「───様、ペリオン様!」

「は、はい! なんですか!?」

「ドレスに合わないので下着もこちらの物にしますから、脱いでください」

「え、下着? 脱ぐ? ってわぁ!? いつの間に!?」


 気づけば下着姿になってましたが、トルソーに飾られたドレスは確かに背中ががばーっと開いていて……え? わたしがこれを着るんですか?


 え、むりむりむりむり!?


 こんなのわたしに似合いませんよ!?


「え、あの、わたしがアレを着るんですか? 着られるんじゃなくて?」

「そうですよ。ほら、もう時間があまりないのですから、さっさとこちらに履き替えてください」

「ひぇっ!」


 か、仮にも騎士なんですがわたし!?


 まるで先輩方を相手にしているみたいに手玉に取られてひん剥かれてさっきまで着てた服なんてこのパンツよりも安いんじゃないかと思うようなお上品な絹であぁなんですかこの肌触りツルツルサラサラですそしてドレスが背中がら空きなので緑のドレスに合わせた様な濃緑の簡易コルセットでぐえっと締められてあでもなにこれそんなキツくないのに背筋伸びる私がモタモタしてるうちに気づけばドレスに足を通しててあぁなんですかスカートの上に透けるような薄布が重ねられててとってもキュートですなのにとってもエレガントな感じであれよあれよと鏡越しに深窓の令嬢のような格好をしたわたしが───


「やっぱりわたしじゃこのドレスに着られている感じが拭えません!」

「何仰ってるんですか、お化粧すればちゃんと綺麗になりますから大丈夫ですよ」

「……それって結局わたしじゃダメなんじゃないですかね!?」

「お化粧の要らないご令嬢なんてほんのひと握りですよ。それにペリオン様は鍛えてらっしゃるからでしょうね、立ち姿もビシッとしておりますから、変に縮こまらなければお美しく見えますよ」

「ほ、本当ですか?」

「本当ですとも。私どもを信じてくださいな。ほら、そこの椅子に腰掛けてください。お化粧しますから」

「は、はい」


 いや、化粧くらいは自分で出来る……んですけど、ここはプロにおまかせの方が良いのでしょう。


 当然ですが明らかにわたしの持ってるものより良いものですし、種類も豊富です。


 坊ちゃんを待たせないように手早くやりますね、と言われてお願いすれば魔法のように化粧が終わり


「これがわたし……いえ、わたくし……?」

「そうですとも。身の引き締まる思いになりますでしょう? もう立派なお姫様ですよ、お嬢様」

「本当に、えぇ」

「後は坊ちゃんにエスコートして頂いてくださいね」


 ひと仕事終わらせたと満足そうにする彼女にお礼を言えば、ユウト君を招き入れてくれて、慣れない格好に少し恥ずかしくて顔を俯かせていたら、驚いた様なユウト君の声がかかった。


「……ペリオン?」

「は、はい……」

「うわぁ、凄いね! 前のドレスの時も綺麗だったけど、今日はもっと綺麗だね!」

「そうですか……?」

「うん! 落ち着いた色合いのドレスだからかな。いつもよりも大人っぽくて、でもペリオンらしさもそのまま、みたいな」

「わたしらしさ、ですか?」

「えーっと……うん。ひまわりみたいにみんなを笑顔にしてくれる感じ、かな」


 うぁ


 なにこれなにこれ。


 私今何言われてるの?


 褒め……褒められてる?


 まってまって、いや、相手は10歳の男の子だから!


 そうここは大人として、そつなく感謝しつつユウト君もカッコイイよとかなんとか!


「ああありがとー! ユウト君も、かっこ……ぉぉぉ!」

「……ペリオン? だいじょぶ!?」

「は、はあぁぁぁー!!?!」

「な、なに!?」


 憂国の騎士マルベリーノ、幼少期の姿ー!!


 愛しき妹君ルシャリアナ、みんなの姫様が亡くなられて哀しみに暮れるマルベリーノとその仲間たち、しかし哀しみを堪え哀しみの連鎖を止めると決意する時の挿絵にあったーー!!


 いやあれは、背景が蒼穹で、喪服じみた黒い服装だったけど!


 それを一つに合体させたような目の覚めるような鮮やかな青と随所に合わされた黒の貴公子がここに───


「わたしはもう死んでもいいです……」

「なんで!?」

「あっはっはっ! まぁ、そこまで喜んでいただけたなら良かったかな。ではユウト様、こちらの素敵なお嬢さんのエスコートは任せたよ」

「あはい! ありがとうございました」


 あ、うん、良かった。

 ここらへんはちゃんとユウト君です。


 話し方まで紳士的になってたらどうしようかと思いました。


「それで、なんか馬車も用意してもらってるみたいだから」

「あ、そう、なんですね……」

「うん。ヒールのある靴だと歩きにくいもんね」

「あはは、そうですね、わたしも履きなれてないですから、有難いですね」


 とは言っても慣れないわたしのヒールは大して高くないですが。


 まぁ、あまり高くしても元からユウト君の方がまだ背が低いですから身長差が大変なことになりますし、低くていいんですけどね。


 なんて思っていたらユウト君がやたらとモジモジしているというか、緊張でもしているみたいな感じですね。


「ユウト君?」

「あー、えっとうん。何でもないよ?」

「そう、ですか?」


 どう考えても何でもなくないと思いますが。

 というかユウト君顔が真っ赤です。


「……わ、笑ったらダメだよ?」

「何がですか?」

「こ、こほん!『では、参りましょうか、麗しの姫』」

「………………」

「あ、あれ!? なんか間違った!?」

「間違っておりませんよ。ほら、ペリオン様! スミュルエン姫ならどうお応えになるんです?」

「スミュルエン姫なら『えぇ、わたくしの騎士、どうか連れ出して、外の世界へ連れて行って』」

「だそうですよ、騎士様」

「えぇ!? (ご、ごめんなさい、この先はなんて?)」

「(ならば、その手に、その身に、その魂に、触れる栄誉を賜っても宜しいでしょうか? ですよ)」

「(何その恥ずかしいセリフ!?)」

「(演劇ですから。恥ずかしがったら負けですよ!)」

「『な、ならば、その手に、その身に、その魂に、触れる栄誉をた、たまわっても? 宜しいでしょうか?』」

「わたくしの手も身も魂さえも全て貴方のもの。手折るも愛でるもお気に召すまま」

「(さぁ、手を引いて差しあげて下さい)」


 すっと差し出された手に手を重ねれば、意外な程に力強く手を引かれ……はしませんでしたが、優しく手を引かれて。


 よろめいた瞬間に腰を抱かれ……る前によろめきもしませんでしたが。


 見上げた先には吸い込まれるほどに深い夜の瞳がうつ……るも何もユウト君は見上げなくても見えますね。


「……あれ?」

「あ、起きた?」

「あれ??? ユウト君?」


 ガラガラと音と振動がすることに首を傾げれば、いつの間にかわたしは馬車に乗っていて、ユウト君と隣合っていて。


「マルベリーノ様は……」

「そんなに好きなんだ? 憂国の騎士、だっけ?」

「え? や……あの……」


 あぁあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!


 わたしは、一体何をっっ!?


 思わず両手で顔を覆って身を折りました。


 ひぃぃっ! 顔が熱いっ!


 誰がスミュルエン姫ですって!?

 わたしが!?


「んんんんんっっ! ユウト君! さっきの事は忘れて下さい!」

「さっきの事?」

「さっ! だっ! …………そ、そうですね、なんでもないです」

「ペリオン姫……ふふ」

「にゃ!? わーすーれーてーくーだーさーいー!」

「ごめんって。ほら、せっかくお化粧してるのに崩れちゃうよ?」

「だっ、誰のせいだと……!」

「ペリオン?」

「そうですね!?」

「いいじゃん、可愛かったよ?」

「かっ! かわっ! もう! 大人を揶揄うんじゃないですよ!」


 全くもう!

 ユウト君は時々そうやって意地悪しますよね?


 あー、顔が熱い……。

 ハタハタと手で仰ぎながら、気を紛らわす為に外を見れば、元々近かった劇場にもう到着するところでした。


 とんだ災難でしたけど、これからですもんね。

 今までのことは忘れてちゃんと楽しまないと。



ごめんなさいー!

次回お楽しみに!

とか言って、気づいたら文字数が増えに増えて全く収まりませんでした!!


もう少し先まで進めたかったんですが、ちょっともうここら辺で切らないと次の切れるポイントまでどこかなー?みたいな!


まぁ、1万くらいまでは許容範囲だと思ってますが、キリもよかったので。


ペリオンもきっと落ち着く……はず!

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