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家出

サブタイトルバレw

 

 短いようで思ったよりも長かった一泊二日は最終的にはちゃんとお仕事が出来て良かった感じだけど、実はペリシーとかに見守られてたとか、他にも見えない護衛の人がいてくれてたとか、お仕事だけで見るならちゃんと出来てたと思うけど、それ以外がみんなに支えられてばっかりなのが分かった。


 僕も、剣とか使えるようにならないとダメだなぁ。


 棒術は、それはそれで楽しいし、当たれば痛いけど、それ以上にはならないから、人を傷つけたりしなくてそこが安心。


 だけど、今回、ペリシーに任せきりにしちゃったけど、僕がそれでいいわけないし、そういった覚悟もちゃんとしないといけないのが分かった。

 ペリシーは人を殺したりは僕には早いって言ってたけど、いつになったら大丈夫になるんだろう。


 人を殺したいわけじゃない。

 傷つけたりもしたくない。

 でも、例えばそれで、ボクが殺されそうなときまで動けないのは当然ダメだと思うけど、じゃあ誰なら動けるんだろう。

 メイドのみんながそうなった時にも動けないでいいの?

 奴隷のみんなも?

 ボラを始め騎士のみんなだって、相手が強かったら何があるか分からないのに、ダメだからやらない? 弱いからやらない?


 それでいいわけないよね。


 それは僕が勇者だからでも、男だからでもなくて、ただ僕がそれを見逃せるかどうか。

 子供だからも、未経験だからも関係なくて、僕自身が、その時に、僕の為か、誰かの為か、何かの為に、出来るか。


 今は出来ない。

 分かってる。


 バーレンティア国王陛下が、勇者の僕に猶予をくれたのはこの為なんだと分かった。

 使い物になるかどうかは、覚悟出来るか否かだ。

 人を殺した経験が必要なんじゃない、よね。


 勇気ある者が、人を傷つける事に怯えているわけない。

 たとえ、怯えていても、為せる人だ。

 それを、その覚悟を持てるか見極めるための一年。

 短い?

 何も知らず、分からない僕が、知って分かるまでに一年あればいいだろうって事だ。


 心の中は、人を殺せるかと考えると、お腹がひっくり返るような気持ちになる。


 異世界だから、元の価値観と違うから。


 本当に?


 百年も経たない昔に子供が戦争に参加してた様な国なのに?


 三百年も遡れば、帯刀するのが普通なくらいなのに?


 今も、僕の知らない所では戦争や紛争があるのに?


 違わない。

 違うのは、現実感を感じられるかだよね。

 だったら、僕にも出来るはずだよね。


 怖い。

 とても、とても怖い。


 でも、僕だけじゃない。

 みんな同じだから。


 もしかしたら、

 魔王だって同じかもしれない。

 友達や仲間や家族を守るのに仕方なくしてるだけかもしれない。

 譲れないなら、ぶつかるしかないのかもしれない。


 みんな仲良く出来たらいいのに。

 食べるものが一つしかなくて、お腹の空いた人が何人もいたら、喧嘩になる。

 多分、そういう事なんだよね。


「だから、ごめんね、メノ」

「あ……」

「ほら、だから私嫌だったのに……」

「ユウト様、ごめんなさい」

「うぅん、僕が頼りないからだもんね。それに最近は冒険者だーってみんなともあまり話せてなかったし」

「も、申し訳ありません。そのようなつもりでは……」

「私は寂しかったですよー!」

「テリア!?」

「私も……メノ、ウソは良くない」

「〜〜〜! 申し訳ありませんでした。ユウト様のご負担になりたくなくて、勝手を……」

「いーよ。僕もちゃんとしとけば良かったから」


 僕は、いつからこんなに欲深くなったんだろう。


 みんなの事を信じてるのに、足りないって心が叫んでるのが分かる。

 もっと、もっと。


 メノ達が苦しんでたのは知っていたのに、僕は手を差し出してあげられなかった。

 大丈夫ですと言われるままに引っ込めた。


 僕のせいで……うぅん、僕の為にと我慢してくれてて、忙しくしてる彼女たちに僕は甘えっぱなしだ。


 ちゃんとしたくて頑張ってたつもりなのに、自分のことばっかりで何も見えてなかった。


 その間にメノは頑張って、みんなに助けて貰って解決しちゃった。

 メノが苦しみから開放されたのが嬉しいのは本当。


 それなのに僕の心の中には、ドロドロとした嫌な気持ちが湧いてくる。

 僕が助けてあげたかったのに! って。


 口を開いたら八つ当たりみたいな事を言ってしまいそうで怖い。


「とりあえず、今日は疲れたから話はまた今度しよう」

「……っ、はい」

「みんな……ありがとうね」

「ユウト様……」

「テリア……今は」

「…………」


 みんなが下がって、一人になった僕は寝室に行って、ベッドに倒れ込んだ。


 嫌だと思っても、頭の中でグルグルと考えたくもない事が回る。


 向こうでは、□□町では、誰もが僕を見えないものとして扱ったからひとりぼっちだった。

 お祖□様が怖くて誰もが僕の味方になってはくれなかった。


 ここでは違ったはずなのに、みんなが僕に優しくて、応援もしてくれてて、それでも子供でしかない僕には汚いものや怖いものを見せないようにしてくれてる。

 優しさの、思いやりの膜があって、僕だけがその中にいるみたいな、それもある種のひとりぼっちなんじゃないか。


 優しくしてもらえて嬉しいのに。

 僕だけが、置き物みたいに、人形みたいに、大事にされてるみたいで、苦しい。


 僕を───


 僕を見て欲しいよ!


 それが、それだけでいいのにっ!


 メノもテリアもリリも、勇者じゃない僕でも仲良くなれたと言ってるけど、勇者じゃない僕と出会えたの?

 僕が勇者だから、会えたんだよ?


 なにものでもない僕を、ただの僕を僕として見てくれたのは、僕そのものの僕の手を握ってくれたのは誰。


 そんなことないのに、違うと叫んでも、頭の中の僕が嗤う。


 ───ホントウニ?


 はっ

 はっ


 と、荒い呼吸が聞こえる。


 誰の?

 僕の?


 苦しい。


 頑張ってるつもりなのに、全然足りなくて、周りも見えてなくて、みんなに優しく守られて、籠の中に大切にされてる。


 僕は勇者なのに。

 僕が勇者なのに。

 違う。

 そうじゃない。


 ───ホントウニ?


 違う!


 ───ホントウニ?


 違う!!!


 嫌だ。

 嫌だ!

 一人は、独りは、嫌だよ……。


 誰か、誰か、僕を見てよ……。


 誰か……。


 あ……


 レアさんなら、レアさんなら僕が勇者なんて知らない。


 西門とギルドの間に家があるって……言ってたっけ。


 馬鹿な事をするなと、頭の中の冷静な僕が言ってくる。


 ───お前はまだ子供なんだから


 出来るものならやってみろと、頭の中の小さな僕が嗤う。


 ───どうせ出来やしないだろう?


 ギリと歯を食いしばる音が聞こえる。


 ゴシゴシと顔を拭って、出窓を開ける。

 目の先に塀があって、左手側に正面側の通りが見える。


 キョロキョロとしてみても、隠れた護衛なんて居ないように見える。

 でも、絶対にいるはずだよね。


 僕の部屋の窓が、見えないところに居るはずないよね。

 もう夕方になるし、少し暗くなってきてる。


 でも、僕には【観察眼】【空間把握】がある。

 もう夜になるから【活性化 夜間】も効き始めて【暗視】もある。


 だから、じっくり周りを見る。

 気配なんて僕には分かんない。

 でも、人、一人分のモノがあれば、どんなに隠しても違和感は全部は消せない、よね?


【隠れんぼ】みたいなのがあれば別かもしれないけど。


 僕は見たものを頭の中で確認出来る【既知情報閲覧】もある。


 恩恵を最大限使って、事細かに見ていくと、違和感が、あった。


 小さな、植木? 葉の多い小さな木の中に、なにかがある、いるのが分かった。


 ちょっと首を傾げてから視線を外す。


 意識は全力でその木に向けていると、動きはしないけど、ホッとした気配がほんの微かに感じられた。

 バレてないと思って気が緩んだのかな。


 他にはいないのかな。

 もしくは僕じゃ分からないか。


 分からないのはもういいや。


 僕はきっととても馬鹿な事をしようとしてる。


 それが分かっても、少しだけ、本当に少しだけ、他の誰でもない僕でいる時間が欲しい。


 心配掛けちゃうなって分かってるけど。


 置き手紙だけサラサラと書いてから、深呼吸する。


 少しだけ、家出させて下さい。

 ちゃんとすぐ戻るから。

 すぐに勇者に、主人に戻るから。


【身体強化】を振り回されても何とかなる限界まで。

 慎重に身体を動かして、窓際に立つ。

 隠れた護衛の人、ごめんなさい。

 ちょっと目眩しします。


 パチンと目の前辺りで光を弾けさせて、目が焼かれて慌てるのを申し訳ない気持ちで見ながら、拡張されまくった身体能力にあかせて、矢のように飛び出す。


 反対の通りの塀に片足を付いて一足飛びに更に隣の通りへ。


 気付かれたら怒られるくらいで済むのかな?


 ちょっとすごい不安だけど、今さら止まれないから、ポンポンと二つくらい更に通りを抜けてから一度高くジャンプして、人のいなさそうなところを確認する。


【観察眼】と【既知情報閲覧】様々だよね。


 程なく、人のいない路地を見つけて、強化を弱くしつつ階段を駆け下りるようにひょいひょいと静かに柔らかくを注意して、下に降りる。


 一応、周りを見ても、騒がしい喧騒は聞こえても人は居なくてホッとする。

 誰かに見つかってもいけないから、さっさと人の多いところに出て紛れちゃおう。


 さっきから、心臓はバクバク言ってる。

 悪いことしてる自覚あるし。


 レアさん、早速、僕は悪いことをしてしまいました。

 レアさんの想像してるのとは違う気もするけど。


 でも、足を踏み出しちゃったから。


 よし、と、気合いを入れて、それでちょっとおっかなびっくりしながらだけど通りに出て、レアさんのところに行こうと考えて、はたと足が止まった。


 西門とギルドの間、ってだけしか知らない。


 なんで僕はそれだけで分かると思ったんだろう……。

 どうしよう。

 か、帰る?


 いやいや……。


 えっと、お金は持ってる。

 から、見つからなかったら、どこか安全そうな宿にでも泊まる、とか、あるし。


 大丈夫。

 見習いの時に、色んな場所に行ったから、今いる場所は大体分かるし、ここら辺にいくつか宿があるのも分かるから。


 今戻っても、僕の気持ちが上手く整理出来てないから。

 せめて一日だけ。

 ゆっくり考えさせて欲しい。


 僕の事を知らない場所で。

 僕の事を知らない人と。









サブタイトルバレとかよりも□が気になるお年頃っ!


何アレ!?



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