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魔王とはナニか? (side ボラ)

 


 今日は日も登らない朝早くから捕物の監督として後方に控えていたが、面倒くせぇ……。


 俺がもぎ取ってきた礼状はあるんだから押し通ればいいものをちんたらと押し問答しやがって。


 よし、ここはぶん殴って突破だな!


「だめですよ、武尊エメベール」

「オレをその名で呼ぶんじゃねえよクソジジイ」

「では、エメベール嬢と」


 クソ。

 手っ取り早いからと実家を頼ったらコレだ。


 あれこれあれこれと条件突きつけやがって。

 巡り巡ってユウトの為だと我慢してやったが、陛下のところに直接殴り込みに行った方が良かったかもしんねえな。


 ちらと横を見れば、一見すればヨボヨボしたジジイが外面だけはにこやかに立ってやがる。


 親父もよく分かってる。

 俺がこのクソジジイに頭が上がらねえ事を。


「とはいえ、このままでは埒が開きませんな」

「だろ? だから俺が行った方が早いだろよ」

「だから貴女はいつまで経っても無駄が多いのですよ」


 そう言ってチラリと門番に目を向けたクソジジイ。


 それだけだ。

 やったのはただ視線を焚べるだけだ。

 それなのに、門番は途端に震えだし、哀れな小鹿の様に押し切られた。


 相変わらず何をしてるのか分からねぇ。


「何しやがった……」

「はて、なんの事やら。いや話が進んで良かった良かった」

「この狂神(クソジジイ)め」


 いっそこのクソジジイが魔王と言われた方が納得しそうだ。


 だが、このクソジジイの弁では当代の魔王と相性がすこぶる悪いらしく勝てないらしい。

 ざまぁ!

 ではあるんだが、そんな奴に先の話とはいえユウトをぶつけなければいけないという事が問題ではある。


 メノの指差す方へと駆け足で向かう騎士達はすぐにでも証拠を抑えるだろう。

 だから、そこはもう問題じゃねえ。


「ジジイ」

「何かね、お嬢様」

「お前が勝てないとか抜かす魔王を勇者は倒せると思うか?」

「はてさて、儂が勝てぬと申しますのも相性の問題ですから、一概にどうの、とは申せませんな。ですが、かの導師マグダレン老は断言されたのでは?」

「らしいな。耄碌ジジイの言葉にどんだけ価値があるかは知らねえけどな」

「ほっほっ! これはたまげた! あの悪ガキが勇者を心配とは、御館様に良い土産話が出来ましたな」

「俺の子飼い連中だって、俺が集めたんだぞ。それと同じだ」

「子供が泣くのが許せないと?」

「んな大層なもんじゃねえさ。ピーピーうるせえだけだろ。それで?」

「……まず、武を持って制するのは厳しいでしょうなぁ。アレはそういったタチのものでは無いでしょうな。古来より天災を鎮めるは供物だと相場が決まっておりますれば」

「んな迷信クソ喰らえだろ。魔王にユウトを貢げばいいってか? 無関係のアイツを攫っといて? ガキにさせる事じゃねえだろうが」

「ものの例えですからな」

「ハッ! 比喩にしたって笑えねえ話だなおい」

「お嬢様は、魔王を討ち滅ぼす勇者に感銘を受けて武を嗜んでいらっしゃったでしょうに」

「違うね。俺は勇者なんぞに救われるなんてゴメンだ。やるなら俺がヤルさ。それで勇者なんて必要ねえって言ってやりてえだけだ。どいつもこいつも情けねえ」

「それは重畳な事です。ですが、こんな話を、知っておりますかな───」


 何が知っておりますかな、だ。

 何回聞いたと思ってやがる。


 曰く、当代魔王が顕れたのは今から40年ほど前である。


 曰く、当代魔王は当初見た目はスケルトンであった。


 曰く、物理攻撃は効かず、魔力他諸々は跳ね返す。


 聞き飽きた話だ。

 人の身で相対は成らず。

 だから、命を大事にしろだのなんだのと。


 そんな奴にユウトは立ち向かわなきゃならねえ。

 反吐が出るな。


 大の大人が雁首揃えて、無関係な奴に責任を負わせる。

 それのどこに正義がある?

 まともな逃げ場なんてねえ。

 だから今少し、楽しくやったって良いじゃねえか。


「ですから、魔王と言うのは異次元の存在でしてな。対するには同じく異次元の存在でなければならないのですよ」


 と、そのジジイの発言に首を傾げる。

 それではまるで、勇者であるユウトと魔王が同一の位階の存在かであるような言に聞こえる。


「なんだそりゃ。それじゃ一歩間違ったらユウトが魔王だったとでも言うのか?」

「お嬢様はもう少し神学を学ばねばなりませんなぁ」



 そうですとも。

 魔王と勇者は根を同じくする異端者ですぞ。

 あるいは神のなり損ないやもしれませんな。



「神の在り方、人の在り方、それぞれが違う視点で物事を捉えますが、こと神の視点では、物事は小さく映りがちなもの」


「人が戦争や飢饉、はたまた噴火や洪水などの天災に見舞われたとして、それは神にしてみれば些事に過ぎないのですな。ですから、積み木をつついて崩す様に少し弄るのですよ、力の強き者を混ぜて」


「盤上遊戯を乱す駒が魔王であり勇者でありましてな。されとて取り合いを成立するには片方に傾きすぎても面白くないもの。なれば、同程度の駒で無ければ不公平でしょうな」


 なんだ、それは。

 それでは勇者召喚は、単なる張りぼてじゃないか。

 魔王に对なす者が必要ならば、勝手に送りつければいい。

 それをわざわざ召喚というひと手間を掛けるのはなんだ。


「教会は認めませんがな。過去には、勇者が国を支配し我が物顔で振る舞い、魔王がそれを討ったという話もございますぞ。500年ほど昔の事だったと思いますがな。それが今のベスタ獣神王朝と言われておりますな。なんとそれまで獣人は魔物扱いだったそうですぞ。今でこそエルフやドワーフと同じく亜人の一角とされておりますが」


 何故、召喚の儀を、執り行うのか。

 そんなもの、自らの手によって成し遂げたという達成感があるからだ。

 人の行く末を憂う人々の願いの結実として、顕れる。

 それは、甘美な希望になるだろうさ。


「……何故、今になって俺にそんなことを言う」

「実際に勇者を見ねば分からぬ事もあろうと言うものですな。物事は見る角度によって変わるのです。そうそう。ファルトゥナ家には眉目秀麗な者が多いとされる祝福が授けられておりますが、それ故に要らぬ苦労も背負うものでしてな。口さがない者からは人を狂わせる傾国の呪いだと吹聴する輩もおるそうですな」

「祝福も呪いも同じだってか? それなら魔王と勇者もと?」

「魔族と称される者からすれば、魔王こそが勇者、勇者こそが魔王でしょうな」


 わっと上がる声に知らず外していた視線を戻せば、騎士達が弱りきっていた違法奴隷達を連れ出したところだった。


 これで監督役も終わりになる。

 こちらに駆けてくる伝令役に手振りで報告を後回しにする様伝えてやれば敬礼をしてから現場に戻った。


 そこにメノも俺を見つけてやってきた。


「ボラ様、この度はお手数をおかけして申し訳ありませんでした。同胞を助ける手をお貸しくださってありがとうございます」

「いいさ。らしくはねえがこれで家にも王家にも恩を売れる。クソ野郎が居なくなれば俺も気分がいいってもんだろ」

「その様に仰られずとも……」


 そこでチラリとジジイに目を向けるメノに苦笑を一つ零して口を開く。


「このジジイは、俺の目付け役だな。覚えなくてもいいがトロスデリというクソジジイだ。こんなナリでも俺より強いからな。近寄らねえ方がいいぞ」

「ボラ様よりも!? 大変申し訳ございません。無学故、御高名を耳にしたことも無く恥じ入るばかりです」

「なんという紹介じゃ、全く。お嬢さん、儂はそんな大層なもんじゃないでの、気にされる事は何もないですぞ」

「申し遅れました。一介のメイドではございますが、わたくしはメノと申します。フタワ子爵家に身を置かせて頂いております。今回はボラ様共々御足労をおかけして頂き感謝します」

「あぁ、よいよい。堅苦しいのは好かんでの」

「だそうだ。まぁ気にすんな。それでお前はどうすんだ?」

「どう、とは?」

「このまま戻るのか? それとも向こうについててやるか?」

「戻ります。ユウト様にご心配をおかけしたくありませんので」

「ユウトはそんなこと気にしねえと思うがな。俺も後始末だけ見届けたら帰るから飯は用意しとけよ」

「はい、分かりました」


 息をついて頭をガシガシ掻く。

 クソ、頭が悪いのは自覚してるが、処理しきれねぇ。


 なんだ、つまり、魔王と勇者は同じような奴で、人に仇なすのが魔王で、人に与するのが勇者って事か?


 で、ユウトのように馬鹿げた魔力強度なりをしてて、出鱈目な能力もある?


「そんなんでなんでまだ人間は生き残ってんだろうな」

「そりゃあ、魔王が滅ぼすつもりがないからでしょうなぁ」


 確かに、極東で猛威を奮った魔王は、その後明確な侵略はしていない。

 脅威に対して攻め込んだ国家が滅ぼされたりはしたが。


 エランシアはまだ間に三つも四つも国を挟んでいる。


 だから、国民には危機感はないし、下手をすると自分達には関係ないとさえ思っているのだろう。

 日々の生活に悩みはしても、まぁそんなもんだ。


 そういう意味ではバーレンティア陛下は、対岸の火事だと思わず、先を見越していたという事だから、愚王じゃなくて良かったと言えるだろう。


 だが、なんだこの違和感は。


 何故、魔王に対して勇者召喚になる。

 少なくとも俺の知る限りエランシアが派兵をしたという事実はないし、切迫した救援を呼びかけられてもいない。

 隣国でもない遠い国での事に何故、そこまでの手を打てる。


 現に、脳筋馬鹿王子は勇者など要らぬと吠えている。

 眼鏡王子もその点は疑問視していたし、能天気王女はそもそも分かってない気がする。


 それなのに、このクソジジイは魔王には勇者といい、陛下は召喚に踏み切った。


 まだエランシアに明確な脅威が無いにも関わらず、だ。

 又伝いに聞き齧った話で確証は無いはずだろう。


 決定的な情報が、あるはずだ。

 誰に聞けば分かる。


 クソジジイはダメだ。

 無理矢理聞き出そうにも勝てねえ以上、無理筋だ。

 喋りたいと思わなきゃ言わねえ。

 陛下に聞くか?

 それともマグダレンのジジイか?


 いや、どっちも聞いてもはぐらかすに決まってる。


『魔王に対抗するには勇者が必要』


 とかいう根拠はなんだと聞いても多分歴史的にそうなんだろう。

 とすれば、そうだから、で済まされちまう。


 だが、それは変だろ。

 それならもっと危機感のある他の国が試すはずだ。

 試さない理由がない。


 おかしい事だらけじゃねえか。


 ユウトが召喚された理由も、時期もだ。

 クソジジイが魔王に詳しいのも分かんねえ。

 まだ遠い場所の事なのに一年とか区切ったのも分かんねえ。


「……一応聞くが、頼んだら教えてくれんのか?」

「おや、お嬢様もついに歴史に興味が?」

「碌な死に方しねえぞクソジジイ」

「先人への敬意が足りませんなぁ」


 死んだ奴の事なんて知らねえよ。

 失敗談も成功談も笑い話でしかねえ。


 とはいえ、今の俺は分からねえ事が分かった程度だ。

 そのツケを俺が払う事になるなら踏み倒しゃいいが、ユウトに行くとなるとそうも言ってられねえ。


 こっちの不始末に巻き込むには限度があるだろうよ。


さて、ついに魔王についての言及が来ましたが、まだまだ謎多き感じですみません!


おじいちゃん……!

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