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初めての納品

 

 瞼の裏でチラチラと光が差して、あまりの眩しさに逃げるように寝返りを打つ。


 昨日の夜は大変だったから、まだ眠いんだ。


 と、思いながらまた寝ようとしてパチリと目をあけた。


「あ、おはようございます、ユウト様」

「うん……おはよう、テリア」

「はい、じゃあこれで顔を拭いてサッパリしてね」

「うん、ありがとう」


 起きなきゃと思いつつテリアから渡された濡れたタオルで顔を拭うと、今度は乾いたタオルを渡されてそれでもう一度顔を拭く。


「うわ、これ見るとユウトが本当に貴族なんだって思うね」

「毎朝こんなもんすよ、若旦那は」

「いつもはもう少しシッカリされてるだろう。貴様の目は節穴なのか、ベンド・バローズ。あぁ、主様、寝不足だから少しクマがあるじゃないか」

「いや、怖いすよ、ぺ、ペリシー……」

「私の愛称を呼ぶのがそんなに嫌なら前と同じようにペリスイテス様と呼べばよかろうに」

「お前を様付けで呼んだ事ないすよね!?」

「貴様は誰をお前呼ばわりしてるつもりだ?」

『人間は本当に煩いわね! そもそも様付けなんて妖精の中の妖精たる妾にこそ相応しいわ! 愛し仔にはフーニー様と呼んでもらおうかしら?』


 スッキリしてきた頭で騒がしくしてる方を見れば、微笑ましそうなレアさん、いつも通りのペリシー、ニヤニヤしてるベンド、手を振るフーニー、と見上げればにこにこしたテリア。


 なんで?


 テリアとベンドの二人はどこから生えてきたんだろう。

 意味は分からないけど、とりあえず膝枕して貰ってるのも悪いから起き上がりつつ固くなった身体をグッと伸ばして、欠伸をかみ殺す。


『愛し仔! 愛し仔が寝てると妾はおしゃべり出来る人間がいなくてつまらないわ!』

「あー、うん、ごめんね、フーニー」

『いいわ、許してあげるわ! 何せ妾は妖精の中の妖精だからね! 愛し仔には特別に妾の事をフーニー様と呼ばせてあげるわ!』

「フーニー様?」

『……や、やっぱりいいわ、なんか嫌ね、様付け』

「ん、そうだね、友達じゃないみたいだもんね」

『そうね! と、友達だもの! 様付けとか良くないわね!』


 こくこく頷いて破顔するフーニーが、友達〜友達〜と鼻歌を歌いながら飛ぶのを見ていたら、やたらと視線を感じた。


「聞いてはいたけど、本当に妖精がいるみたい……」

「若旦那だからいいすけど、これ、知らない奴からしたら気狂いにしか見えないすね」

「主様だからな」

「ユウトは度胸あるよね」

「あー……みんなには見えないから」

『敬意が足りないのよ! 敬意が!』


 そか、フーニーが見えない人からしたら僕は宙に向かって喋りかけてる子になるのか。


「あ、ユウト様。以前ボラ様の新作ドレスを光で描いたみたいには出来ないですか?」

「ん、出来ると思うよ。そうだね、やってみようか」


 フーニーに、みんなにフーニーの姿を絵にして見せてもいいかを聞いたら、仕方ないわね! と言うから、描かせて貰った。


 まぁ、みんなに見せるまでには、やれ表情が堅いだの、もっと妾は高貴なはずだだの、ポーズが美しくないだのと沢山の注文はあったけどね。

 肖像画を描く画家さんは大変だよね。


 いっそ、漫画のイラストみたくデフォルメでも出来ればまた違ったんだろうけど、僕には見たものをそのままトレースする力はあってもそれを弄る力はないみたいだ。


 とはいえあんまり小さいままだと、光で描く以上、とても見れたものじゃなくなるから、手のひらサイズから、少し大きめの西洋人形くらいまで拡大して描いた。


 それで、フーニーの動きを真似て動かしながら、フーニーの言葉を僕が伝えるというアテレコなんだか腹話術なんだかよく分からない会話をした。


 みんなもフーニーも凄い凄いと言いながらあれやこれやと動かしつつしばらく話して、それでその楽しい時間は唐突に終わった。


「ユウト様、大丈夫ですかー?」

「いやまぁ、当然よね」

「っすね、むしろなんであんな事が出来たのかが若旦那の凄さと言いますかね」

「調子に乗るからだぞ」

「お前もな!?」

『愛し仔、ごめんなさい……無理をさせるつもりは無かったのよ?』

「ぁー、ぅん……ダルいだけだから、だいじょぶ……」


 急な魔力消費で、貧血みたいになってた。


 そんなわけで、せっかく今日はすぐに帰れるはずだったけど、しばらくまったりすることになった。


 その間に、なんでテリアとベンドが居るのかというそもそもの疑問は解消されたけど。


 カノンに僕が捌いたウサギを調理してもらう、かぁ、なんだろう。


 大人になって初のお給料で親に何か買ってプレゼント、みたいな感じなのかな。

 嬉しいけど恥ずかしくて、でもなんか誇らしい、みたいな、少しくすぐったくてムズムズするね。


 で、ペリシーが僕といるのは誤算だったみたいだけど、その分の余分なウサギをベンドが集めてきてくれた。

 本当は僕とレアさんでやるべきなんだろうけど、レアさんも疲れが残ってるし僕はこんなだしで一人寂しく駆け回ってくれた。


 まぁ、捌くのは僕になるんだけど。

 そういう話だしね。


 それと、昨日襲ってきた人はアイリスさんの方の人が引き取って調べてくれるみたい。


 屋敷にアイリスさんのとこの人とか居なかったはずだと思ったら、いい機会だと教えて貰ったところによると、忍者的な裏方さんが何人かいつも居てくれてるらしい。


 なんでもアイリスさんの家は、前にも聞いたけど、一族揃って美男美女揃いだから、誘拐みたいな事がよく起きてしまうそうで、そこら辺に凄い力を入れてるんだって。


 誘拐がよく起きるってちょっと意味が分かんないね。

 でも、アイリスさんは凄い美人さんだから、拐ってでも欲しいって人がいると言われると少し納得しちゃう。


『妾たち妖精も愛玩動物みたいに捕まえられたりしたのよ。人間は本当に欲望に忠実よね! 美しさは罪ね!』

「フーニーたちは、それで人間を嫌ったりしないの?」

『悪いのは捕まえたりした人間でしょう? 関係ない人間を嫌うのは変だわ!』

「そっか、そうだよね」

『そうよ! 罪は犯した者の物で、他の者で肩代わりしようなんてズルいのよ!』


 ところで、普通の人には見えない妖精ってどうやって捕まえるんだろうね?

 愛玩動物といったって、それも普通の人には見えないんだし、そうすると普通の人には空っぽの籠と同じだと思うんだけど。


 聞いてみたいけど、聞いていいのかな。

 別に僕はフーニーを捕まえて傍に置いておきたいとかは思ってないけど、聞くのはデリカシーに欠ける気しかしないよね。


『それにしても愛し仔はウサギを捌くのが上手いのね!』

「あ、うん。練習したからね」

『これだけ綺麗にしてくれたらウサギも本望ね!』

「それはどうかなぁ、むしろ殺した僕を恨んでるんじゃないかな」

『生き物が食べて食べられてするのは自然のことなのよ! ラヒリートリタリアはウサギの聖地だもの! 誰かの糧になる事に誇りすら持ってるのよ!』

「ラヒリートリタリアってここの森の事?」

「そうよ! ここのウサギたちは、誰の糧になるわけでもなく死ぬ事が幸せで同時に情けないと思ってるのよ! だから、そうね、愛し仔に捕まったウサギはウサギの中でも幸運なのよ!」


 いやまってちょっとそういうのはできればききたくなかったというか、そうきくといまぼくのてのなかでしめられるのをまってるうさぎがやりきったかんだしてみえるというか、いわれてみればしめるちょくぜんにうさぎのちからがふっとぬけてるのってあとはたのむてきなかくごかんりょうのあいずなんじゃ……


「……フーニー、ちょっと黙ってて?」

『どうしたの? あ、そうね、手元が狂ったらウサギも可哀想ね!』

「うん、だから、静かにね、ほんとにお願いね」

『…………』


 大丈夫、ウサギはそんな事思ってない。

 絶対、僕の事、許さない。

 いや、許すとか許さないとかない。


 今までと同じ、やるべき事をやるだけだよ。




「ユウト様、お疲れ様でしたー」

「うん」


 ほどなく、追加の分も終わった。

 最後の方はやたらと疲れたけど。


「いやはや、若旦那は一度覚えたら忘れないどころか、なんで更に上手になってるんすかね」

「主様だからな」

「ペリシー、それで全部済ませようとするの止めないっすか」

「とりあえず、仕事はこれで終わりだね」

「そうですねー。レア様もこちらの都合に付き合わせてしまってすみませんでした」

「いや、私も貴重な経験をさせて貰ったよ」

「じゃあ僕達は帰るけど、フーニーはどうするの?」

『そうね! 折角だから愛し仔と一緒に居てあげたいけど、妾たち妖精は人間の多いところは嫌いなのよ!』


 そうなんだ。


 襲撃があったことを教えてくれたりしたお礼がしたいんだけど、妖精って何したら喜んでくれるのかな。


 悩んでても仕方ないので聞いてみたら、知らない内に何かお礼は貰ったのだそう。

 あげた覚えはないんだけど、これ以上貰ったらいけないと言われたら諦めるしかない。

 何をお礼に貰ったのかも最後まで教えてくれなかった。


 行きは二人だったけど帰りは五人と倍以上に増えたのがなんか少しおかしかった。


 西門で僕とレアさんは他のみんなと分かれてギルドに行く。

 外で襲撃があったから少し心配はされたけど、街の中だし大丈夫だよって言っておいた。


 納品依頼はギルド正面からじゃなく裏手で納品するものの確認をして貰うのが先だそうだから、初めての僕はレアさんについていく。


「確認を」

「おう。モノを出しな」

「ユウト、出してくれる?」

「うん。全部でいいの?」

「あ、一匹だけ私が食べるから査定は無しで」

「はいよ。おう、なかなか綺麗じゃねえか。納品はウサギ10以上、丸捌き済みな。問題なし、追加あり。何か質問はあるか」

「ないよ。ありがとう」

「ありがとうございます」


 パッパと片付くのを横目につい周りをキョロキョロ見てたけど凄いね。


 色んなものが溢れてて、空間も広いし、倉庫か市場みたいに見える。

 ギルドの裏にこんな広い場所があるとは思わなかった。


 後、この場所に入るまでは分からなかったけど、なんというか匂いが凄い。


 獣臭いのは当然として、そこに薬草類の独特の匂いもあるし、鼻が曲がりそうなんだけど、その割にはそこまでキツい感じもしない。


 そんなに遠くない場所で何か解体もしてるのに血の匂いもそんなにしないし、なんなんだろう。


「ユウト、いこう」

「あ、うん」


 ここに居ても邪魔になるもんね。

 レアさんに促されてその場を後にしてギルドとの連絡通路みたいな場所に入ると、そこにいつもとは違う別のカウンターがあった。


「こんなとこにもあるんですね」

「そうね。汚れてる人とかもいるから、表にそういう人が行かなくて済むようにしてあるの」


 言われてみれば、僕がいつも使っていたカウンターに汚れた格好の人が来たことは無かったね。

 全然気にしてなかった。


「こっちの受付に男ばかりなのも、仕事で荒れてたりする冒険者が多いからよ」

「へぇ……」


 それはそれで男の人も大変だよね。

 全員男の人って訳じゃないみたいではあるけど。


 あの眼帯した獣人ぽい女の人とか。

 筋肉もムキムキで凄い。

 裏の受付には腕っ節も必要だとそれだけで分かる。


「ちなみに、今回は大丈夫だけど、冒険で汚れたりしてた場合は、すぐ横に冒険者用の浴場があるから使う事。穴銭一枚で使えるからね。オススメはしないけど」

「いい事だと思うんだけど、オススメじゃないんだ?」

「汚い人が集まるからどうしてもね」

「あぁ……匂いもこもりそうだね」

「そう。だから、血まみれとかになってないなら他の公衆浴場に行くか、まぁユウトは家にお風呂とかありそうだね」

「あー、うん。でも銭湯みたいだし、一回くらい使ってみたいなぁ」

「ふふ、変なの。まぁどうしても使うなら外のにした方がいいよ」

「そうする」


 一人で行くのはなんか流石に怖いからノトンとかと行けたらいいなぁ。

 マジモさんとかだと暑苦しそうだし。

 あぁでも、アデーロとかオッソとかベンドとかでもいいのか。

 いやでもそれだと親離れ出来ない子供みたいな。

 僕も冒険者になって一人で外出してるし。


 襲撃もされたからそれが落ち着いたらの方がいいのかな。


 アイリスさんの方で話聞いてるみたいだから大丈夫そうになったらにしよう。


 依頼料を受け取ってレアさんと挨拶をして外に出たところでバッタリとアデーロに会った。


「あれ?」

「おや?」

「こんなとこでどうしたの?」

「使い走りみたいなものでね。ついでにそろそろ帰ってくる頃かと思って覗きに来たんだよ。丁度良かったね」

「お迎えなんて贅沢ね」

「もう……アデーロのせいで僕が子供みたいになったじゃない」

「「いや、子供だから」」

「……まぁ、そうだけど!」

「じゃあ、私は行くからまた機会があればよろしくね」

「うん、またねレアさん」


 手を振ってレアさんが去っていくのを見送ってから隣で待ってるアデーロに向き直る。


「で、アデーロの用事は終わってるの?」

「これからですね。行きと帰りで寄っていこうと思ってましたからね」

「みんなほんとに過保護だよね。まぁ昨日はそれで助かったけど」

「ん……? 昨日? 何かあったので?」


 アデーロの用事に着いていきながら昨夜のことを話す。

 どうせ先に帰るとか言ったらアデーロも着いてきちゃうと思うし、それなら僕が着いて行った方が面倒がなくていいし。


「……ふむ。ユウト殿を襲ったのはどこの手の者かは分からないんですね?」

「人数多いからってペリシーが一人で残ったから。それにアイリスさんのとこの人達が事情聞いてくれるって聞いたから」

「アイリス様の。まぁそれなら報告が来るのを待った方が早いですかね」


 そう、うんうん頷いているアデーロにちょっとだけ嫉妬しちゃうな。


 だって、僕はアイリスさんの内緒の護衛なんて知らないのに、アデーロは知ってるんだ。


 きっと、屋敷で知らないのは僕と、後は奴隷の三人くらいなんじゃないかなと思った。


 メイドのみんなは知ってると思う。

 なんかズルい。


「どうかしたかい? 難しい顔してますね、ユウト殿」

「アイリスさんの護衛のとか僕知らなかったのにアデーロは普通に知ってるから……」

「あぁ。仲間はずれみたいに感じちゃったのかな。んー、でも、メイドは知らないし、奴隷も当然知らないね。後、ペリオンちゃんも知らないはずだよ」

「そうなの!? ペリオンも?」

「まぁ、ね? まだ自分で手一杯だろうから。だから屋敷で知ってるのは、僕を含めた他の三人とボラ様のとこの二人だけだよ」


 クスクス笑われてちょっと顔が熱くなる。

 なんか悔しい。


「理由は色々あるけどね、腹芸が出来ないとダメだから、かな? 一番の理由は」

「腹芸?」

「そう。隠れた護衛がいると分かるとどうしても気が緩むし、それに気付く奴も居るってことだよ。だから、必要ない人には教えないんだ。バレちゃうからね」

「知ってた方がいい事もあるよね?」

「そうだね。どっちがいいかは状況にもよるかな。ユウト殿もまだ慣れないからね。負担掛けたくなかったんだよ」


 そう言われると、やっぱり僕のワガママみたいに感じちゃう。


「ほら、何となく今はどこにいるんだろう? って顔してるよ」

「え!? ほんと? そんなつもり無かったんだけど……」

「そういうものさ。だから、隠す護衛にもそれなりに理由があるんだ。アイリス様を責めないであげてくれると助かるよ」

「うん。それは、分かった」


 まだまだ知らない事も多いし、一個ずつちゃんと出来るようにならないとね。


 そんな事を話しながら、市場みたいなところでアデーロが何かの草、香草かな、を買ってそれで二人で屋敷に帰った。



シリーズ化でキャラクター設定を別枠で作りました。


自分でもビックリするくらいキャラクターが居ましたw

最近増えましたしね。


軽いネタバレも含みますが、興味のある方は覗いて見てください。

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