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貴族っぽい偉そうな振る舞い

前話の3行まとめ


ペリシーがゴロツキに天誅した。

仲良く埋葬した私は優しかった偉い。

後、ベンドの性欲がちょっと心配。

 

 息が苦しい───


 荒くなった呼吸に、煩いくらいバクバクした心臓に、頭の中がぐちゃぐちゃで、どうにかなりそう。


 胸が苦しい───


 僕は何だ。僕は誰だ。僕は何の為に、誰の為に、何をしてる。何をしたい。どうありたい。どうなりたい。


「ユウト!」


 ぐいと強く手を引かれて、止まる僕のほっぺたをレアさんがパン! と挟んで、レアさんの光る瞳が僕を睨みつける。


「あ……」

「一回、落ち着こう」


 でも、と口ごもる僕をギューっと強く抱きしめて、背中を軽く叩いてくれる。


「あの人が頑張ってくれる。夜の暗い中結構離れられた。だから、ちょっと隠れて休もう」

「でも!」

「怖いのは分かるけど、後で合流する事も考えないと、ね? 遠くに行き過ぎても困るから」


 合流、そうだ。

 僕は何を……ペリシーがまるで死んだみたいに思って。


 そうだ。

 ボラが、あの意味分かんないくらい強いボラが、問題ないと判断したペリシーが、そんな死ぬとか。

 きっと、時間稼ぎしたら、僕たちみたいにどこかに隠れたりして、後でまた主様って来てくれる。


 だから、大丈夫。

 大丈夫だよ。


「ん……と、ユウト、そこの木のウロに隠れよう。丁度見にくい向きになってるし」

「……うん」


 レアさんに促されておしくらまんじゅうみたいに身を寄せて、知らぬ間に乾ききってた喉を水を飲んで何とかして、それで吹き出た汗を軽く拭ったりして、それで、それで、しんと静まった森に、それでも音が溢れてる事に気付く。


 風の音、葉ずれの音、僕の心臓の音、呼吸の音、レアさんの呼吸の音。


 今も繋いだ僕の左手は汗でベタベタだけど、離すのが怖くてそのままだ。


 そうして、少しすると、心がスっと落ち着いてくる。


 独りじゃないからかもしれないけど。


「ふふ」

「な、何? レアさん」

「いや、あのね? あの人、ずっとユウトの事見守ってたんだよね、多分。それなのに私全然気付かなくて。そんな人が守りにくいから目につかないところに行っててくれって言うんだもの。自信があるのね。だから大丈夫よ」

「うん……うん、そうだね」


 でも、大きく、強く、かっこよかった父は、久々の休日のお出かけに浮かれて、人にぶつかり(人をぶつけて)車道に転がった僕を(車道に転がしたのに)助けようとしてアッサリと息を引き取った(失敗しちゃった)


 僕のせいで(私もダメね)


 そこから僕の世界は、父が死んだ事が間違いだと言うように転がり落ちる様に奈落の底に堕ちた。


 (フタワ)の家は古い家で、子供だからといって、いや、子供だからこそ、甘えを許す(だから私が)家ではなかった(助けてあげたの)

 躾のなっていない子供は害悪とでも言わんばかりで、赤ん坊ならまだしも、物心つく頃には子供らしさが罪だとでも言わんばかりだった。


 だから、当時今よりももっと子供だった僕はすでに子供扱いはされず、回家にとって僕は優秀だった父を殺した罪人だった。


 贖罪は、父よりも優秀になる事でしか認められなかった。

 だから、父よりも優秀にならなければならなかった。

 僕という存在は、それで赦されていた。


 母は、躾もまともに出来ない女だと、散々に詰られ狂った。

 心を病んだ母は、父を殺した僕が狂わせた。

 全ては僕という(全ては君という)忌み子の呪いじみた(愛し仔が可愛くって)存在のせいだと。(しちゃったのよ?)


 思い出したくもない記憶が、溢れ出る。


 ここで、ペリシーにもしもがあったら───



それは忌み子である(だから愛し仔は何も)僕が悪いのでは?(悪くなんてないわ)



 勇者などと呼ばれて舞い上がってはいなかったか。

 浮かれて、危険を考えず、するなと言われた冒険をしたのではないか。


 そして関係ないレアさんを巻き込んだ。


 恐る恐るレアさんを盗み見れば、瞳を閉じて呼吸を整える事に集中している様に見える。


 確定ではないけど、それなりに高い確率で僕の事情のとばっちりを受けている彼女に、本当は無いはずの悪意に晒させているんじゃないか。


 それを隠してレアさんに接するのは、とてもとてもズルい事なんじゃないか。

 それなら言えばいい?

 そうやって知らせてどうするの。

 謝罪して、それで?


「ねえ、ユウト」

「……なに?」


 だから、何かを責める様な、咎める様な、そんな気配が全くしないレアさんの声に僕は震える。


「あのね。隠し事、秘密、過去、言葉は何でもいいけど、人に言えない事は誰にでもあるよ。ユウトみたいないい子が冒険者してるんだもん。何も事情がないわけないよね。でも、それは悪いことじゃない。あんな凄い人に守られちゃうユウトにはきっと凄い事情があると思う。だからそんなに苦しまないで? 凄い事情があっても、私は気にしない……は嘘になるけど、聞かない。それでもきっと何度繰り返しても私はここに居たと思うから。これは私の意思でその行動の責任は私の物だよ」


 くすくすと可笑しそうに笑うレアさんにちょっと怒りたくなる。


 それで身の危険に晒されてるのに。

 今はまだ大丈夫だけど、この先も安全かなんて保証はないのに。


「ユウトは自分の事にはとことん無頓着なんだね」

「違う、僕は───」

「違わない。事情を全部話さないのは誠実な事じゃないと思ってるなら、そんな人ならギルドで私の手は取らないよ。あれから一度だってゲルニフ、あぁあの男だけど、ゲルニフの事を聞こうともしないキミが、私には聞くのが当然の権利であるべきだなんて、よくも思えたものだね」

「……っ」


 言葉に詰まる。

 拗ねたように口を尖らせたレアさんが、僕をチクチクと許してくれる。


 形も経過も結果も、全てちぐはぐでデタラメだけど、それは、僕自身だ。


「全くね、どうしてそんなに自分に厳しくて他人に甘いんだろうね、ユウトは。まだ子供のくせに大人を馬鹿にして。分別つくのに割り切れなくてがんじがらめになって。困ったら素直に助けてって言いなよ。ユウトの周りの人は助けてって言ったら助けてくれないの?」

「……助けてくれる……と思う」

「じゃあお互い様だ。子供のくせに生意気なんだから。大人と対等だと思ってるのかな。これでも私は大人でユウトは子供。それなのに、仕事はテキパキこなすし、空いた時間も無駄にしないし、我儘の一つも言わないし、空気読めるし、ウサギ捌くの上手いし、料理まで出来るし、大人になったらさぞや女泣かせのいい男になりそうだし、なんなら今私はユウト居なかったら泣いてそうだし、変な魔法しか使えないし、ゲルニフは死ねばいいし、研究にはお金かかるし、後輩は結婚するし、みんな私の事馬鹿にするし───」

「ちょっ!? レアさんストップストーップ!」

「ハッ!?」


 は、話が、変な方向に……


 チラッとレアさん見たら耳まで真っ赤にして全力で顔を逸らしてた。


「………………」

「………………」

「コホン。まぁ、まぁ、ね? えーと、要は、もっと我儘していいよ、ユウトは。ちょっとは悪い遊びも覚えなさい」

「えっと、うん。頑張る……? 悪い遊びって?」

「ゲルニフのお茶に、失敗作の激苦ポーション混ぜて「今日のお茶は渋みが強めだけど頭スッキリしますよ」とか言って飲ませたり? スッキリするのはポーションの効果だけど」

「仕返しじゃん!」

「仕返しだよ! いいじゃない! いつもいつもねちっこくイジメてくるんだし!」

「いい、のかなぁ……?」

「いいの! 大体アイツら自分は貴族だなんだとか言うけど、貴族として成功出来ないからあんなとこいるんだし。性根が腐ってるんだよ! 私、貴族とか大っ嫌い!」

「ご、ごめん」

「なんでユウトが謝るの?」

「あー……と、僕も一応、成り立てだけど貴族だから……」

「え……? ユウト貴族なの?」

「身分だけね?」

「そう……」

「うん……」

「貴族になっても貴族になったら駄目だからね!」

「うん?」

「偉そうにしないでね? って事。まぁ、ユウトは全然偉そうじゃないし、大丈夫だよ」

「その評価は嬉しくないなぁ」

「じゃあ、偉そうにしてみて」

「こ、この平民がっ……?」

「そんななよなよ罵倒する貴族なんて居ないから。もっとおなかから罵倒して!」

「この平民がっ!」

「もっと力いっぱい!」

「この! 平民がっ!!」

「そうそう! 忘れない内にもう一回!」

「この! 平民『何をしてるの?』わぁぁっっ!?」

「きゃぁっ! な、なに!?」


 ジト目をした妖精に、レアさんと二人で悲鳴をあげた。


 うわぁぁぁっ!

 恥ずかしいっ!

 恥ずかしいっっ!


 な、何をしてたんだ僕はっ!

 顔から火が出るくらい恥ずかしいっ!


 思わず両手で顔を隠して蹲った。


『この妖精の中の妖精たる妾と怖い人間が、愛し仔の為に頑張ってきたというのに、呑気なものね!』


 呆れた、と言わんばかりの妖精にぐうの音も出ない。


『ねえ? 愛し仔? 妾は愛し仔が震えて泣いてないかと気が気でなかったというのに、逃げ隠れなければならない愛し仔が、大声で騒いでるなんて、思いもしなかったわ!』

「ほ、ほんとに、ごめんなさい!」

「妖精が、いるのね? えっと、私がユウトを唆してしまいました。申し訳ありません」

『全く! せっかく怖い人間が無事だって教えに来たのに、妖精の中の妖精たる妾はがっかりだわ! 反省するまで教えてあげないわよ!』

「ごめんなさい!」

「大変軽率でした! 申し訳ありませんでした!」

『まぁ、いいわ! 妖精の中の妖精たる妾は寛大だから!』

「ありがとう」

「感謝します」

『ところで、愛し仔?』

「……何かな?」

『愛し仔が名前が長いと文句を言うから妾の名を短くしてフーニーと呼ぶ事を許すわ!』

「…………分かったよ、フーニー」

『いいわ! ふふ、いいわね!』


 とても満足そうなフーニーだけど、僕はちゃんと思い返してみたんだよね。


 一度目

 マーナラーヤニウェテッフィーオティーナ

 二度目

 ラーヤマーナニウェテッティーオフィーナ

 僕が言い間違えた名前

 ラーマヤーナニエテチーオフィーナ


 どこをどう短くするとフーニーになるんだかサッパリだけど、自分でも間違えるくらいだからいいのかな。

 良くはない気がするけど。


 妖精にとって名前とかあんまり大事じゃないのかな。


「……あの、ペリシーさんは、ご無事でしたか?」

「あ、うん。無事みたい」

『そうよ! 無事よ! まぁ妖精の中の妖精たる妾が無事なのだから、無事に決まってるわよね! 分かって当然ね! でも、愛し仔は偉いわ! 妾が褒めてあげるわ!』

「えっと、ありがとう。それで、えっと、ペリシーもこっちに来てるの?」

『西の方で待ち合わせよ! さぁ行きましょう!』

「西で待ち合わせ?」

「西!?」

『そうよ、あっちね!』


 そう言ってビシっと指さしたのは、割と東というか、うん、まぁ、西ではないね。


 そりゃあそうだ。


 僕たちは、王都の西門から出てウサギの森に入ったんだから、西といえば更に奥地ということになる。


 少し奥地に向かって逃げてきた僕たちの更に奥でペリシーが待ってるのはおかしいもんね。


「あ、あっちみたいです」

「え、今、西って……」

『あら、平民は人間のくせに知らないのかしら? 向こうの人間が集まってるところの出入り口を西門と言うのよ? 妖精の中の妖精たる妾は知ってるけどね!」

「あぁ、西門か……」

「な、なるほど」

『さあ、行くわよ! 妾に着いてらっしゃい!』


 そうして、意気揚々と先導を始めたフーニーに着いていけば、しばらくして、無事にペリシーと合流出来た。


 ペリシーによれば、襲いに来てたのは、ゴロツキみたいだとの事。


 詳しい事情はまだ聞いていないが、後で話を聞くそうで、一人を残して他の人はコテンパンにして()()()そう。


 取り急ぎ、問題が無いことを僕たちに教える為に、合流する事を優先したという事みたい。


 ペリシーとしても僕たちの安否は気になってはいたそうで、危険なことをしてたのはペリシーの方なのに、僕に怪我がないかととても気にしてた。


 うん、大丈夫。


 分かってる。


 なんで、ペリシーの髪の毛が水浴びでもしたかのようにしっとりしてたかなんて。


 ゴロツキと、穏やかな話し合いが出来たなんて僕も思わない。

 ペリシーに怪我はなさそうだけど、穏便に話がつくわけないもんね。


 それでも、たとえ襲ってきたのが向こうだとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 甘いのは分かってるけど。


 ただ、濁していたけど、そこに僕たちを呼ぶのは躊躇われたから、少し場所を移したと言っていた。


 きっと血の匂いのするだろう場所には呼べなかったんだよね。


 だから、今はただ僕の知る人達が怪我もなくて良かったと、それだけが分かればいい。


 朝までは後少し、緊張してたからすぐには寝られないと思ってたけど、横になればすぐに意識が遠くなった。



ルビの辺りでゾワッとしたものを感じたり感じなかったり。


そんな落ち着かない気持ちはえらいきぞくになったつもりで平民を罵倒して紛らわしましょう。


このっ!

平民がっっ!!

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