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緊急メイド会議 (side リュリュ)

 

「ユウト様が女とお泊まりデートを断行したことについて話す」


 緊迫した空気が流れていた。


「いや、冒険者のお仕事でしょ?」

「でも、お泊まり、二人きりで」

「ですから、遠目から監視をして貰えるように頼んだじゃないですか」


 緊迫した空気が流れていた!


「ユウト様が、顔を赤らめた女の手を引いて二人きりで泊まりがけの仕事に行った」

「つなぎ方は?」

「……普通……」

「そもそもユウト様はデートじゃないと仰ったんですよね?」

「建前かも」

「もしも、ユウト様が、ぽっと出の女とデートするくらいの気質をお持ちなら、抜け駆けしてデートしようとしたテリアを蹴って出かけたりはなさらないのでは」

「ねぇ? 今そのくだり必要だったかな? 要らなくない?」

「確かに……テリアには色気が足りない。毎日の添い寝でも手を出されていない」

「私、今ケンカ売られてるのかな? 後、私だけ手を出されてないみたいな表現はどうかなー」

「なら、大丈夫ではないですか?」

「爆発寸前だった可能性は?」

「堪えきれず、後腐れのない女と? ユウト様がそんなことされるわけないでしょう」


 呆れたという顔をするメノと、何故か怒っているテリアにやれやれとため息をつく。


 周囲には誰もいない。

 顔を赤らめて堕ちた私。

 静かな夜。


「私なら全力で誘う」


 確信した。


「引くわー」

「でも、リュリュの全力ですからね……」

「確かに」

「ふ……私がいつまでも誘い方一つも覚えられない馬鹿だと?」


 胡乱気な顔で私を見る二人に勝ち誇ってみる。


 信じてない様子。


 私が子供が欲しいとおなかを押さえつつ、流し目を仮想ユウト様に向けて、おしりもふりふり。


「……どう?」

「……え……?」

「……終わり、ですか?」

「私、お腹痛くなったのかと思ったけど」

「わたくしは便秘に苦しむ姿かと思いました」

「なにゆえ……?」


 女には通用しなかった。


 まぁ、実行するのはユウト様に対してだから、この不感症たちが反応しなくても別に問題は無いけど。


「まぁ、リュリュの奇行は置いておいてですね。実際のところ、わたくし達はもう少し、ユウト様との時間を作らないといけないと思いませんか?」

「冒険者になってから、明らかに減ったよねー」

「それは私たちの為でもある」

「とはいえ、このままという訳にも行きません」


 メノが厳しい顔になる。

 それは私達も分かってはいる。


 時間はもうほとんどないと言える。

 ユウト様のお披露目が来たら、全てが白日に晒される。


 そこでの立ち振る舞いを直接見られてしまえば、私達の裏切りは明確になる。


 もう、報告という又聞きによる誤魔化しは通らなくなる。

 すでにその可能性は低くないと思われているはず。

 三つ巴であるという建前も気づかれていると見た方がいい。


「幸いな事に、ユウト様のご尽力によって、コルモ殿下とは繋がりが持てましたし、何よりも商会長のプジョリ様が、直々に訪問されたというところが大きいですね」

「殿下の方がいいんじゃないの?」

「違います。権力的な強さはこの際、さほど重要ではありません。人の目があるか、です」

「権力の方が、強そうだけど……何かあったら、コルモ殿下の方が、強権振るえるよね?」

「それは、ユウト様に対して、です」

「つまり、私達は対象外?」

「でも、私たちに何かあれば、ユウト様が──」

「それは、権力者には些事です。重要な事は、ユウト様自体ですから」


 悔しそうに口を噛み締めるテリア。


 そう、いざとなれば、私達の事はなんとでも言いくるめられる。

 勿論、アイリス様やボラ様、ダスラン様が動いてくれないとは思わないが、限度もある。


「それにユウト様に迷惑は掛けられない」

「それは、そうだけど、でも、ユウト様の知らないところで済ませられないよ……」

「ですから、表向きの事情を作りましょう」

「……ユウト様を騙すって事?」

「後で、ちゃんと説明はします」

「だからいいってことにはならないよ! メノ! あなた、謝るからそれでいいなんて思ってないでしょうね!?」

「他に手があれば言ってください。ないなら感情に任せた発言はやめなさい」

「……要は、三家が失脚してくれればいい」


 焦点はそこ。


 全部でなくてもいい。

 発言力が低くなれば、強引に事を進める事が出来なくなる。


 元々、叩けばホコリが出る側なのだから、何か弱みを握ることが出来れば、それで介入を防げる。


「というか、テリアの方は気にしなくていいはず」

「……そうだね、優先順位は低くて大丈夫だと思う。種をばらまくのが趣味みたいな人だから」

「問題は、わたくしとリュリュですね……」


 テリアの後ろにいるモディーナ家は、失敗はあるものとしていくつもの種をまく。

 きっと他にも手は伸ばしているはず。

 勿論、近しいテリアで芽が出ればそれでいい、と考えてはいると思うけど、テリアが失敗しても大丈夫と考えているはず。


 だから、モディーナ家は今は後回しでも問題ない。


 問題になるのは、私のハルペロイ家と、メノのアーディン家。


 私は失敗作だと思われているから、失敗になっても、究極的には問題は少ないはず。

 使えないゴミ扱いされるくらい。


 だから、一番問題となるのはメノのアーディン家になる。


 ハルペロイ家も失脚させられればそれに越したことはないけれど、アーディン家だけは失脚させなければならない。

 そこが最低条件になる。


「アーディン家は、武闘派ですから、強引に押してくる可能性が高いです」


 問題は、どうやって失脚まで追い込むか。


「わたくしが、把握しているのは」



 ──違法奴隷売買



「それは知ってる」

「私も、知ってるよ」


 深刻そうに何を言うかと思えば、そんなこと。


「ちょ、ちょっと待ってください。なんで二人とも平然としてるんですか!?」


 慌てるメノだけど、むしろ何故私達が知らないと思っていたのか。


「いや、知らないわけないじゃん。あれだけ手広くやってて」

「そういうこと」

「……奴隷の生産もしてるんでしょ?」

「……そうです……」


 胸糞悪い。

 メノもその一人だろう。


 欠陥ありでも使えるからアーディン家に飼われている。


 問題は


「問題はそれでものうのうと生きてるって事だよね」

「何故捕まらない」

「方々に貸しという名の押さえつけがあるんです。横の繋がりが強いので、尻尾が捕まえられません」

「……メノは何を握られてる」

「わたくしたち自身を」

「?」

「わたくしたち樹精は自身と同一のタネがあります。生まれた時、死した時にタネが出来ます。その生まれた時のタネはわたくしたちにとって、心臓と同じなのです。その樹精のタネを一族全て押さえられています。一族と言っても大した数ではありませんが」

「つまり、家族全員人質、タネ質って事?」

「はい。ちなみにこれが母の甦子(そし)です。亡くなった母のタネですね」


 メノの手のひらに乗せられたタネは、小指の先ほどの大きさの何の変哲もないように見えるタネ。


「これが?」

「はい」

「……普通の種、みたく見えるけど、間違いないのかな?」

「有り得ません。樹精の一員として、これが少なくとも樹精のタネである事は保証します」


 そして


「これは母そのものでもあります」


 メノの発言でまた分からなくなる。

 タネがメノのお母さん?

 お母さんは死んだと聞いていたのに。

 そのタネがお母さんだと言うなら、お母さんの死は一体なんなのか。


「人の生殖行為による子孫への存続とは別の種の存続があるんです。生殖行為による子、いわゆる混じり子ですね。それは樹精の力が継承されていますが、タネを残せません。更に孫へと人との交わりが進むと、タネを生まなくなります。つまり樹精ではなくなります。純血の樹精は、生まれた時、死ぬ時、生涯で二つのタネを残しますが、混血になると一つになります。そして、発芽、つまり新たな樹精を産むためには、タネが二つ必要になります」


 分かりますか?


 と問われて、ヒヤリとする。


 基本的に樹精は種として増えていかないという事だ。


 もちろん、混血させれば、タネを増やすことは可能だろう。

 でも、二人の子を産んでも、樹精として系譜を綴るには、それで一人分。

 混じった血は純血には戻せない。


 血族で交わるにしても血が濃くなれば、人と同じようにマトモな子が産まれなくなる事を考えれば、いたずらにタネを残せば良いというものでもなくなる。


「種としては不完全としか言いようがありませんね」


 というメノの自嘲は置いておく。


「どう繋がる?」

「だよね。その話とアーディン家を追い込むのと何が関係あるかだよね、問題は」

「いえ、そうですけど……わたくしの身の上話の扱いが軽すぎませんか?」

「だって、興味無いもん」

「ユウト様の事の方が重要」


 テリアと視線を交わして、違うのかな? 違わない。と意思確認をして肩をすくめる。

 それを聞いて肩を落としたメノが盛大に脱力しつつ話を続けた。


「分かってましたけど、もう少し同僚を労わっても宜しいのでは無いですか?」

「ユウト様に心配かけない様にどこかに行ってくれていいと思う私」

「対抗馬は少ない方がいい」

「はぁ……もういいですよ。それで、このタネですが」

「その話をまだ続けるんだね」

「ここからが重要ですから」

「ならさっさと話す」

「タネは当然ながら自律しません。しかし新たな樹精を産むには二つ必要です。どうにかして別のタネに巡り合わないといけないのです」


 だから、タネを持った樹精は他のタネがどこにあるか、方向が分かるようになるとの事。


「今までは屋敷からほとんど出られませんでしたし、タネの持ち出しも危険があったので特定が叶いませんでしたが、事ここに至ってはそれも関係なくなりますから、調べていました」

「特定したと」

「はい」

「それでどうするの?」

「エランシアは国家方針として他種族との融和政策に舵をきっていますから、騎士団に動いて貰います。樹精の存続を脅かしているとなれば、親しき種族であるエルフも敵に回す事になりますから」

「つまり、イシュカ様も動くと」

「いえ、イシュカ様本人は動きません。今は国家の政に直接関わらないそうですから」

「本人はって言うことは、別のエルフは介入してくれるの?」

「そうなるはずです」


 他種族との融和を目指しているとしても、法に触れているかはなかなか断定が出来ない。

 確証がなければ下手に貴族はつつけない。

 だからどうしても腰が重くなる。


 疑いがあれば強制的に検められるとなれば貴族は着いてこない。


 だから、確固とした証拠がある状態にならなければ押し入ることなどできない。


 それが、ここで覆った。


 国の方針に真っ向から刃向かったのが露呈すれば、国家の威信にかけて制裁が下るだろう。


 苦言忠言の類であれば別にして。


「それでいつ動いてもらうの?」

「明日にでも」

「その口ぶりだともう動いてるの?」

「えぇ、すでにボラ様に伝えてありますから」

「事後承諾は良くない」

「ユウト様がいらっしゃらない方が良いですから。わたくしたちの事でお手を煩わせたくありません」

「ユウト様の泊まりがけの仕事なんていつ来るか分からなかったもんね」

「出来ることなら、わたくし達と関係ないところでわたくし達が解放されていた、という方が望ましいですからね」

「ガッツリ関係あるのに」

「私はあんまり賛成はしないけど、ユウト様が危なくない様にするっていうのは分かったよ」

「それで、ですね」

「まだあるの?」

「万が一、ユウト様のご帰宅が早いと騒がしくしている最中にお帰りになるかもしれません」

「足止め?」

「はい。どうせなので、ユウト様が取って来た獲物を食卓に並べてみたいと、追加でお願いしてもらいたいのです」

「それが、表向きの建前って事ね」

「そうなります」

「じゃあ、それは私がやるって事でいいよね?」

「仕方ない。私は今日だったから」

「お願いします。わたくしは明日、事実確認の為に出向く事になってますから」

「分かった」

「もうそこまで決まってたら茶番みたいなもんじゃない」

「人が動くには大義名分が必要なんですよ」



さて、事態が動き始めました!


お披露目までもうあまり時間がありませんがイベントは色々目白押しになってます。


時間が多少前後してしまいますが、なんの事?とかならない様には頑張ります。

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