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大人な子供 (side レア)

視点はレアさんです。


 

 私は、人付き合いが下手だ。

 それでも良かった。

 本を読んでいられればそれで私は幸せだった。

 知識に飢えていたのか、未知に飢えていたのか、知らない事を知る事が楽しくて、普通の女の子の様に誰かとお喋りをしたり、買い物をしたり、恋をしたり、そういったものに感情が揺さぶられなかった。


 家にある本をあらかた読み、それでも何か知識を得たくて私が進んだ先が果てなき知識の深遠たる魔術師になったのは、必然だったのかもしれない。

 だがそこには、人付き合いが必要だった。


 煩わしく、面倒なソレを避けて避けて、そして私は孤立した。

 後から考えれば当然の事だった。


 それから何度も失敗を繰り返し、人付き合いをある程度学んだ時、私は気づいた。


 もう手遅れだった事に。


 私の振り返れば傲慢な振る舞いは、多少なりとも治まりはしても拭えぬ不信感となり、信用が積み重なることは無かった。

 媚びを売る様に、研究の成果を出して出して、いつか認められればと思っていた私は、その成果を奪われた事に気づいて訴えて、誰も味方をしてくれなかった時に心が折れた。


 頭の良さしか取り柄のなかった私は、魔術師でもあったから当座をしのぐ為に冒険者の真似事を始めた、しかし、そこで必要とされる能力は私の知識欲に任せた魔法とそれはもう水が合わなかった。


 植物を自在に操る魔法なんて、そこらの動物を捕まえるくらいにしか役に立たず、そこらの動物であれば並の冒険者には脅威にはならない。


 星を詠む魔法は、夜間行くらいの役には立つが、夜間にわざわざ強行する愚を冒険者はしない。


 私の魔法は、冒険者としての能力に何も寄与しなかった。


 そして、私の才能は攻撃的な魔法にとことん向いていなかった。


 それが知れ渡ってしまえば、私は冒険者からも嫌厭された。


 頭でっかちで役に立たないお荷物だと。


 頭が良くても、私には何も出来なかった。


 それでも、私が冒険者でいたのは、冒険者が広く門戸を開いていたから、何とか細々と食い繋げていたから。

 それと、もしも、これで他の職に行って、そこでも使い物にならなかったとしたら、私は生きていけないと感じていたから。


 生きるのが、怖かったのだ。

 死ぬのが、怖かったのだ。


 八方塞がりとはまさにこの事だろう。


 身動きが取れず、それでも生きる為には何かをしなくてはならない。


 そうして、ユウトと呼ばれる子供に縋った私はどれほど惨めなのだろうか。


 と、思っていた。




「ユウト様、いつからそんなアデーロの様なナンパ野郎になった?」

「違うからね!?」

「一人前になったかと思ったら女連れてピクニックか? いいご身分だな」

「しーごーとー! マジモさんだってウェステリアさんとか女の人いるじゃないですか!」

「恐ろしいことを言うな! 魔女に喰われるなんて俺ぁゴメンだぜ! 後、俺はもっと肉付きのイイ女が好きだ」

「チッ」

「おいこらメイド。なんで今舌打ちした」

「ユウト様に変なこと教えないで」

「マジモさん、女の人をスタイルの良さで判断してるから結婚出来ないんじゃないですか?」

「俺は出来ないんじゃねえの! しねえの!」

「じゃあ、ユウト様はどんな女が好み?」

「え!? いや、今はそーゆー話じゃないよね?」

「教えて」

「お仕事行かないと……レアさん待たせても悪いし」

「教えて」

「それはまた今度ね? ね?」

「教えて」

「……リリにだけ言うのは、なんかダメな気がするから今はダメ」

「じゃあ今夜?」

「今夜はレアさんと野営するから明日ね」

「お泊まり!?」

「ベンドさんとペリシーさんともしたでしょ。大丈夫だよ、そんな心配しなくても。ウサギの森だし」

「そこのハゲに護衛を頼むべき」

「それが人にモノを頼む態度かお前……」

「じゃあいい。オッソ様に頼む」

「オッソはだめでしょ。というか、僕はもう冒険者なの!」

「ユウト様が襲われないか心配」

「その時はレアさんが守ってくれるから大丈夫だよ」

「は、はい。守ります!」

「…………」

「逆はねえのか」

「あるわけない」

「もう! 大丈夫だから! 安全管理も勉強したから! 危ない事はしないよ!」

「……ユウト様は頑固」

「ま、おんぶにだっこじゃ成長しねえだろよ」

「レア。ユウト様に怪我させたら恨む」

「心配し過ぎだからね。ウサギの森だからね?」

「ウサギにビビってたら仕事になんねえからな」

「ほら、マジモさんだってそう言ってるし」

「……やはり危険。夜には帰る方がいい」

「往復の時間が勿体ないでしょ?」

「むぅ……」


 縮こまっていると、ようやく話に方がついた。


 所詮はウサギの森、とはいえ、万が一がないとは言えない。

 億が一にしてもゼロにはならないのだから。


 そうは言っても、ウサギの森は、精霊の守護があるらしく、害獣は寄り付かないので、よほどのことがない限り問題は起きないのだけど。


 魔獣は例外にはなるけど、魔獣が出るのはもっと森の深い所になるわけで、それも問題はない。

 はず。


 ウサギの森は、初心者御用達の野営スポットだ。


 街道の野営スポットの方が危ないまである。

 その場合は危ないのは人になるけど。


 それはともかくとして、今回は危険はない。


 ついには根負けしたリリと呼ばれるメイドが折れて、話は問題なくまとまった。


 羨ましい。

 誰かにこれ程心配されるということは、それだけの絆があるということで、私には無いものだ。


 程なくメイドのリリが名残惜しげに去っていき、マジモさんはまぁ頑張れと声をかけてからギルドに向かった。


「すみません、変な事に巻き込んじゃって……」

「い、いいのよ、ユウトはまだ小さいんだし、心配する気持ちも分からなくはないもの」

「小さい……」

「あ」


 しょぼんとしたユウトに慌てる。

 冒険者なんかしてる子なんだから、背伸びしたいものだし、男の子だもんね。


「違うの。そりゃ、ユウトは残念ながらまだ子供だけど、10歳くらいになれば背もグッと伸びると思うし、その歳でもう一つ星冒険者なんだもの、これからいくらでも伸びると思うわよ!」

「あ、あはは、そ、そうですね……10歳くらいになれば、ハイ」


 あれ!?

 なんかどんよりしてる!?


 実はもう9歳、とか?

 あと一年で、そんな伸びるわけない、みたいな?


「え、えっと……」

「あ、ごめんなさい。大丈夫なので、依頼、行きましょうか?」

「あ、うん、そうね?」


 子供に気を遣われてどうするの!

 ここは仮にも大人として、ちゃんとリードしてあげないといけないのに。


「えーと、野営の準備だけしたら西門のところに集合で大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあ、一旦解散ね」


 そうして二人で席を立って一旦別れる。

 ユウトの用意はメイドがしてくれるだろうから、基本的には大丈夫として、テントは持たせるだろうか?

 一人用はそこまで大きくはないけど、子供に持たせるには少し重たいし、かといってメイドがいる家の子にテント無しはないだろうし。

 とりあえず、一人用でいいかな、二人揃って寝るってことも無いと思うし。


 家に着いてからあれこれと悩みつつ、いつもの用意にテント括り付けて、後、ウサギ10匹を持ち帰るために簡易台車も持って行かないとダメかな。

 もっといっぱいになるかもだし。

 後で持って帰れないと勿体ないもの。


 魔法用の短杖も手に持って西門に向かえば、なんとユウトが先に待ってた。

 私の家、ギルドと西門の間にあるから、絶対私の方が早いと思ったのに。


「ユウト!」

「あ、レアさん」

「早いね? 後、荷物増えてないみたいだけど、野営はどうするの?」

「僕、収納系の恩恵ありますから。レアさんの荷物も良ければ預かりますよ?」

「……そ、そっか……えーと、じゃあ、お願いしちゃおう、かな?」

「はい」


 なんてこと……まさか、収納系の恩恵持ちだなんて。

 容量にもよるけど、私の荷物も預かれるって言うんだから、それなりにはあるってことで羨ましい。


 ちょっと行儀は悪いけど、西門の横で今使わないものをユウトに預かって貰う。

 ポーチ類と短杖だけになっちゃった。


 子供に荷物を預かって貰う大人の図の見栄えは無視する。


 だから、門の衛兵の人はうわぁ……みたいな顔しないで!


 き、気を取り直して、直して、ユウトと一緒に門から出る。


 依頼で出る旨を簡単に口頭で伝えて外に出れば、街道には幾ばくかの人が待機している。


 エランシア王都は人の流れも多いから混雑はしてるけど、前に聞いた事があるが、門の衛兵には記憶術に関わる恩恵がないといけないとかでそこそこエリートなのだとか。

 門の衛兵なのに。

 国防の矢面ではあるけど。


 そんなわけで、人の往来が多い割には出入りはかなり緩く、その割には不審者の見逃しは少ない、という。

 治安がいいのはいい事。


 少し歩いてから街道を外れ、遠目に見えるウサギの森に足を向ける。

 明日は丸一日ウサギ狩りに費やせるから時間にはゆとりがある。

 今日もやるけどね。


 ユウトとポツポツ話しながら気楽な冒険だ。


 お互いに何が出来るかも知らないし、探り探りの当たり障りのない会話。


 だけど、私にはそれがとても心地よかった。


 ユウトは、子供の割にとても理知的だ。

 ともすれば臆病な程に理性的。

 だから、邪気のない顔をしてても、頭の中では色々と考えているのだと思う。


 だって、ゲルニフの事を何も聞いて来ない。


 ギルドで、あんな絡まれ方をしたんだ。

 厄介事の匂いしかない。


 それでも、いや、それなのに、私はまだ事情を説明してもいない。

 ユウトの理性的な慎重さとは真逆の、感情的な後暗い保身。


 その事に、足が少し重くなれば、ユウトが私の手を握って引っ張ってくれた。


 ギルドでも声に出してくれたように、気にしていないと私に伝わる様に。


 ユウトが、この子が神の遣いだと言われたら信じてしまいそうだ。


 私のひび割れて壊れかけた心がじわりと熱を持つのが分かる。

 夜になったら、夜になったら、ユウトともう少し、踏み込んだ話をしよう。



例によって地雷持ち。


まともな女はいないのかー!

(誰のせいだと……)

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