誰もが親切に感謝するわけじゃない (side キナ)
ノトン君のパーティメンバーにして魔法使いのキナちゃんです。
「キナ、ノトン帰って来たよ」
「そう、分かった」
私は、タタタに声をかけられて本から目を離してすぐに行くと伝えた。
それから、擦り切れて文字も霞んできている魔法の教本を丁寧に閉じて軋む椅子から腰を上げた。
経営の悪い孤児院に迷惑をかけたくなくて少し早くに冒険者になった私達は、苦しいけどそれでも毎日せっせと働いている。
まぁ、私達はまだなんちゃって冒険者に近いけど、切り詰めて切り詰めて何とかみんなの武器は中古で揃えられて、ようやく街の外にも出られるようになった。
最初は本当に苦しかったけど、街の外に出られるようになった私達は順調に稼ぎを増やせていて、今日、ようやく義母さんに何とかやって行けてますと良い報告をしに行けた。
お土産を持っていくのは厳しくもあったけど、義母さんに心配を掛けたくなくて少し無理をした。
後悔なんてしないけど。
ジャザとタオロは我慢が効かなくて無茶をしたみたいでもう見かけなくなった。私達はもっと慎重にして行かないといけない。
私達の命なんて軽いんだから。
おなかが空いて辛いくらい耐えないと。
「おかえり、ノトン」
「……おう。ほら、見てくれよ」
「……うん」
何故かテーブルには丸パンがあったけど、どこで買ってきたのかな。
そんなお金はなかったと思うんだけど?
ともかく【神気の残り香】を使ってノトンを見る。
「やっぱり……あのユウトって子だよ」
「あー! クソ! マジかよ……!」
「ど、どうかな……あ、あの子、べべ別になんかわ悪い子にみえ、みえなかった、けど……」
「カナロが言うんならそうなんじゃない?」
「【虫の知らせ】を馬鹿にするわけじゃねえけど、そこまで信用していいもんじゃないじゃんか」
「そうだけど、的外れだった事もないじゃない」
「後付けも多いじゃんかよ」
「ごごごめん!」
「いや、カナロが悪いわけじゃねえって」
そう。
このカナロは上手く喋れないから、気味悪がられたり、嫌な事を押し付けられたりしてしまいがちだ。
だから、少し前にそれでカナロのせいにされて酷いことになりそうだった所に、ノトンが割り込んでくれて、納得はして貰えた。
それで、そこは大丈夫になったけど、ノトンの方は駄目になったと思っていたのに、カナロが珍しく強硬に直ぐに戻れというからノトンが戻ってみれば、仕事はそのユウトがやっててくれて雑用依頼は完了扱いになった。
無事にみんな仕事を終わらせられて良かったと、それだけならちょっといい話で済んだ。
ところが、私の鼻がノトンに何か違和感を覚えて匂いを嗅いだら、何か幸運の香りがした。
幸運の香りってなに?
って感じだけど、私にはそう感じるんだからそうだとしか言えない。
つまり、何が言いたいかと言うと、そのユウトが聖痕の力でノトンに何かしたのではないかと思った。
聖痕の保有者というのは、一種の偶像だ。
だから、善意で施しをする人も多い。
私達には我慢ならない事だけど。
私達は孤児だけど、生まれが少し悪かっただけで、他の人たちと同じ人だから、憐れまれたりしたくない。
ノトンは、ユウトは貴族だけどそんな奴じゃない、なんて言ってたけど、知れたものじゃない。
そして今日確かめに行ったらやっぱりまたついてた。
「それで、その丸パンも貴族様の施しの一つって事でいいの?」
タタタが指差しながらいうのは私も気になってた丸パン。
どう見てもただの丸パンだけど、つまりはそういう事なんだろうか。
ノトンが言うには食べきれなかった分を貰ったとの事だが、悪意が無い分タチが悪いとも言える。
そうやって悦に入る奴は実際多いのだから。
それで確かに繋げる命もあるのは事実だから余計に救いがない。
それでも私達は、対等にありたい。
どちらかに依存する様な関係は望んでない。
私達は可哀想だと思われたくないんだ。
「でも、サティ姉は、なんか普通にしてたんだよなぁ」
「サティ姉さんに見てもらったの?」
「だって、サティ姉は、頭いいだろ?」
「そうだけど……」
「何か聞いたの? サティ姉さんに」
「いや、なんかあれば来てくれるだろ。サティ姉なら」
「サティ姉ちゃん、げ元気、だった?」
「おう、元気だったぞ! 後なんか化粧してて綺麗になってた」
「サティ姉さんについに男現わる!?」
「ねえから」
「ないだろうね」
「アンタら酷くない?」
「さ、サティ姉ちゃん、お、男前、だ、だから……」
いや、男前と言えば男前だけど。
そんなこと言ったら流石のサティ姉さんも泣くよ?
「と言うかさ、ノトンはユウトの聖痕触ったんじゃないの?」
「……あれ? と言うか、オレ、ユウトの聖痕見た覚えがねえ」
「はぁ? 見たこと無かったら触れないし、お裾分けもされないでしょう?」
「いや、ホントだってば!」
「そそ、そういえば、ゆ、ユウトから、神気、ぜ全然感じない」
「そういえば私もユウトから神気感じた事ないかも。私の場合、恩恵使わないとあんまり分からないけど」
「オレらは分かんねえしなぁ」
「そうだね……」
何か変だ。
そう。
残り香はこんなに意識しないでも分かるのに、香り持ってるはずの本人が全然香りがしないなんて事があるんだろうか?
ユウトは、少し遠目に頭下げる挨拶くらいの面識しかないし、ギルドで見かけても何か話す訳でもないから、直接的な関係はないけど、それでも、何も気づかないなんて事は有り得ない。
「キナ、どうかな?」
「ちょっと待って……」
「なんだよ、何かダメなのか?」
「キナの神気の嗅覚はかなりいいのに、ユウトの神気が全く分からないのが不自然なんだよ」
「で、でも、多分、わ、悪い子じゃない、よ、よ」
「本人がそうでも、そんなチグハグな子と付き合ってて巻き込まれたら堪らないよ?」
「そりゃそうだけどよ……」
「……うん。やっぱり、ユウトからは、感じないし、私の覚えてる限りではノトン以外にはこんな残り香はなかったと思う」
「あのよく近くまで迎えに来てたメイドとかにも?」
「直接の面識は無いから分かんないけど、多分」
匂いに覚えがない。
ノトン以外に。
「……私は出来れば距離を置きたい。少なくとももう少し人柄が分かるまでは」
「んなの、付き合い無くしたら分かんねえじゃんかよ」
「そうだけど、危険は出来るだけ排除しないと……」
「ジャザとタオロと連絡取れなくなったの、忘れてるわけじゃないよね?」
「忘れるかよっ!! いつもつるんでたダチだぞ!」
「なら、分かって」
「……あん時は、カナロの【虫の知らせ】あったろ」
「恩恵に絶対はないよ」
「で、でも、ボクのこと、な、なくても、ユウトが、た、助けてくれた、の、のは、事実」
「うっ……そ、そうだけど……」
そうだった。
カナロが直ぐに戻れって言わなかったら、ノトンがそれにすぐ応じなかったら、どうなっていたのだろう。
ユウトは、待っていてくれたのか。
それとも、待ちきれなくて帰っていたか。
大した繋がりもないほぼ他人の為に、仕事を肩代わりするような子だ。
待っててくれたかもしれない。
「はぁ……キナ」
「何よ……」
「ボクらの負けだよ」
「タタタは諦め早くない?」
「義母さんの優しさで救われたボクらが、優しさに唾はいたら義母さんに顔向け出来ない気がする」
「そうだけど……」
「もうちっとだけ、時間くれよ。アイツ良い奴だし、オレらの他に仲良さそうなガキいねえしさ……」
「あーもう……私が意地が悪いみたいじゃない……もう!」
「いや、オレ馬鹿だからな。キナとかタタタが、そうやってくれてっから止まれるんだぜ」
そんなこと言って、ニカッて笑うから、私は何も言えなくなっちゃう。
ズルい。
「じゃあ、話は保留で。で、丸パンはどうしようか」
パン! と手を叩いて視線を集めたタタタが、改めて丸パンを意識させてくれた。
「私は明日の朝ごはんにしたい」
「固くなる前に食いたい」
「の、ノトンは、昼飯、た、たらふく食ったって、さ、さっき言ってた」
「あ、カナロ、てめ、なんて事を!」
「じゃあ、明日の朝ごはんにボクも一票」
「固くなっちまった丸パンとか石パンじゃねえかよ……」
「スープに溶かせばいいでしょ」
「でもよー」
「明日になってスープだけで仕事に行ったら、力出ないだろうなぁ」
「分かったよ!」
「分かればよろしい」
タタタが、そう言って大袈裟に頷くのにみんなで笑ってから、戸棚に閉まっておく。
丸パンは悪くないもんね。
腐らせたらそれこそ悪い。
食べ物は大事なんだから。
「つまみ食いしたら駄目だからね」
「しねえよ!」
男所帯だと視点作れないという事情によりパーティメンバーになったいわく付きのキナちゃんです。
孤児院出身ですが、素質があったので魔法使いになりました。
ノトンパーティメンバー
ノトン 戦士枠 パーティリーダー
タタタ 基本は槍。だけど弓もこなすし、斥候もこなすし器用な人。但し味覚は死んでる
カナロ 前には出ないモンク。回復役吃り癖あり
キナ 魔法使い 1番年下だけどパーティで1番権力持ち
唐突なキャラ紹介w
雑なもんですけど。
ここに来て急速にキャラ増えてるのでそろそろ忘れる人が出てきそうな……