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冒険者ギルドは職場と言えなくもない

再開です。


そしてようやく異世界お達しのギルドです。

 

 明くる日、僕は一つの建物の前でヨシと気合を入れていた。

 これから冒険者の登録をするんだ。

 それが終わると、僕は冒険者として色々な経験を積めるようになるんだけど、さすがに大人が多い中に入るのはちょっと不安。


 もちろん、僕みたいに子供が居たりすることもあるのは分かってるけど、ほんとにみんな着いてきてくれないんだもん。


 というのも、ここ冒険者ギルドは職場。

 保護者同伴とか、帰れ! って事になるみたい。

 これにはエランシア王国を始め、どこでも大体そんな感じなのだとか。


 平民や貴族、種族を問わずに広く人材を求めている。

 ここで、貴族なんだからもっと敬えー! みたいな事をすると、下手をすると貴族籍を剥奪されたりもするらしい。


 もちろん、それを突っぱねられるだけの下地もあるそうで、職員の人達は揃ってとても優秀なんだとか。


 チラッと後ろを見れば、近くのカフェでメノとペリシーが行ってらっしゃいと手を振ってる。


 いつまでもここに居ても仕方ないし、深呼吸一つしてドアを開けて中に入った。





「はい、じゃあ、まずはコレは首にかけてね」

「はい、ありがとうございます」


 冒険者ギルドに来て、最初は冒険者の登録だって聞いた通りに受付に行くと渡されたのが、このなんかドッグタグみたいなやつ。


 鉄っぽい金属片に61って数字が書かれてる。

 ドッグタグは二つで一つだけど、これは一つだけ。


 革紐に付けられたタグをちょっとだけ見てから頭に通して首に下げてから、受付さんを見れば、さっき僕が渡した用紙を見てた。


「あ、大丈夫みたいね。えーと、簡単な座学と実技を受けてもらうのは知ってるかな?」

「はい、聞いてます」

「どっちからでもいいんだけど、希望はあるかな?」

「座学からでお願いしたいです」

「はーい。じゃあ私でも大丈夫かな? 男の人の方が良ければそうするけど」

「大丈夫です。よろしくお願いします」


 ということで受付さんに手招きされるままにカウンターを回り込んで奥の方へと行くんだけど、受付は空にしても良いのかな。

 と思ったら、すぐに他の人が席に着いてた。


 いくつか並んでる個室みたいなところに案内されるままに着いていって、椅子に座る。


「じゃあ、改めて、私はギルド職員のミーニャン・マルーネッコです。ユウト・フタワ君、冒険者ギルドへようこそ!」

「よろしくお願いします」


 ミーニャン・マルーネッコ、さん。

 なんか凄い猫っぽい名前。

 外ハネさせた茶色のショートヘアに琥珀みたいなキラリとした瞳のお姉さん。


 そのミーニャンさんが、部屋の隅に積まれていた紙を一枚取って僕に渡してくれたのでそれを見ると、何やら色々と注意事項みたいな事が……。

 そして、さっきまでと違ってキリリと背筋を伸ばしたミーニャンさんに僕もシャンとする。


「まず、一番最初に、とても大事な事です。フタワ子爵様」

「えと……? はい」


 子爵とか、関係無いんじゃなかったけ?

 と思った僕に、少し苦笑じみた感じでニコリと笑った。


「大丈夫そうですが、確認となります。ここでは、貴族や王族であっても、同じ一人の冒険者として扱います。私達、冒険者ギルドは、国家や宗教などいかなるものにも対等に近い関係を築いております。まずその点を御理解下さい」

「はい、大丈夫です。むしろ子爵様とか言われてビックリしました」

「ユウトさんは、新興の貴族様ですよね?」

「はい、そうなります。けど、僕自身は全然実感がないので、その、子爵様とか言われるとくすぐったいです」

「ふふ、それはようございました。何度言っても貴族は偉いと言う方がいらっしゃいますから、御理解頂けている様で安心しました」


 その後は、座学と言うか、色々な確認や注意事項なんかを聞いた。


 何かあった場合は自己責任となる場合がとても多い事。

 実力主義ではあるものの、腕っ節が強ければ何でも許される訳ではない事(それが望みなら傭兵ギルドもあるからそこに行けみたいな事も。もちろん、傭兵ギルドでも犯罪が許されるわけではないけど、より腕っ節が頼みになるそう)

 採集や討伐、護衛など、様々な仕事がある中で、依頼の内容に不明な部分や、曖昧な部分があった場合はキチンと確認をする事。


 無理をしない事。

 無茶をしない事。

 過信をしない事。

 つまりは冒険するなという事。


「そして、とても重要な事ですが、死んでないならそれで勝ち、です。冒険者というのは、他の職業に比べてとても命の軽い職業になります。一つきりしかない命を大事になさって下さい」

「……はい」

「これで座学は終わりです。基本的なところだけですけどね。もっと知りたい場合は、先輩方や私達に聞いたり見て覚えて下さいね」

「分かりました」


 そうして、ミーニャンさんが一息ついて、お茶を淹れてくれた。


「それにしてもユウトさん、まだ若いのに本当に冒険者になっていいの? 他にも何か出来ることを探してもいいのよ?」


 そう、少し心配そうに聞いてくれるミーニャンさんに思う。


 僕もそれが出来たら良いと思います、と。


 でも、僕は勇者で、でも子供で、勇者として役に立てるかを示さないといけない。


 だから、まずはみんなに認められる様に頑張らないといけない。

 そうじゃなければ、何か抱えてるメイドのみんなも、僕の奴隷になった三人も、他にもいっぱいたくさんの人に、迷惑がかかっちゃう。


 それに、こんな暖かい場所を作ってくれた。

 それを僕が、守れる、守る事が出来る。

 その事がとても、とても嬉しい。

 色々と制限があって、みんなが出来ない事、それを僕が出来るなら、それなら、怖くても、踏み出せる。


「これが、僕に出来ること、なので」

「はぁ……そんな顔されたらこれ以上は無粋ね。分かったわ、頑張ってね。でも、困った事があったらちゃんと相談してね? 出来ることは多くはないけど、出来る限りは何とかするから」

「ありがとうございます。ミーニャンさん」

「いいのよ、仕事なんだから。さてと、じゃあ、実技に行きましょうか」

「はい、お願いします」


 そして、訓練場に移動して、隅っこの方で棒を手にミーニャンさんと向かい合う。


「一応、体術と棒術って事だけど、棒術を見せてね。私はあんまり攻撃はしないけど、隙だらけだったら容赦なくやるから気合を入れて来るように」

「……あの……」

「何?」

「ミーニャンさん、スカートで大丈夫ですか?」

「あら紳士。ふふ、私がスカートなのを後悔するくらい頑張ってみせて」


 受付さんなのに、凄い堂々としてるし、僕はまだ半人前もいいとこなんだから、頑張らないと。


 いけないんだけど、野次馬がうるさい。


「坊主ー! ミーニャンさんのスカートを捲っちまえー!」

「ミーニャンさんに負けても女に負けたとか思わなくていいぞー!」

「ユウ坊、遠慮なんてすんなよー!」


 大丈夫、棒はいつも使ってる。

 重さとかが普段のとちょっと違うけど、ボラがどの武器でもちゃんとそれなりに使える様にって慣れさせてくれたから。


 直接的な魔法はアウトで、身体強化とか感覚の強化はセーフ。


「行きます!」

「いつでも」


 まずは牽制、と右ももに突きを一つ。


「え……っ!」


 目を見開いたミーニャンさんがそれでもカンと弾いて捌いた棒を、逆らわずにくるりと回して今度は肩口に振るう。


「ぐっ……おもっ」


 それを棒で受け止めたミーニャンさんが衝撃を逃がすようにステップを踏むのを追いかけて右に寄った重心を狙ってもう一度、右足っ!


「いやいや、早過ぎっ!?」

「……あれ?」


 いつもなら、もっとこう……こんな簡単にさせてくれないんだけど、あ、そか、僕の動きが見たいって言うから、邪魔しないでくれてるのかな。


 それだと、詰めが早過ぎるのはダメですよって事、かな?


 右足狙いの棒をピタっと止めて一旦引く。


 それから、もう一度───


「ちょっと待った!」


 と思ったところで、ミーニャンさんが手を突きつけて待ったをかけた。


「え……あ、はい。あの、何か間違ってましたか?」

「間違ってはない、けど、ちょっと待ってねー! みなさーん! 解散っ! 見学終了でーす! 職員権限により一旦訓練場から出て下さーい!」

「マジかよ……いや、でも……」

「……そういう事、なのか……?」


 周りの冒険者の人達もなんか、これは、そう、畏れ?

 少し呆然としてた。


 そして、ミーニャンさんに急かされてブーたれつつも解散していく。


 チラチラとこちらを見ながら訓練場から出ていくみんなは、さっきまでのおちゃらけた感じが少しもなくて、真剣そのものな表情をしていた。


「………………」

「………………あの」

「あ、ごめんなさい。大丈夫とは思いますけど、ちょっと向こうの椅子に座って話しましょう」


 そういって訓練場の隅に置かれている椅子に並んで座った。


「本当にすみませんでした!」

「えっと、何が何だか、僕にはちょっと分からないのですけど……」

「これは、とある方からの要望でしたが、実技においては最初は見学を許し、その後はこちらの判断で止めても構わない、という話がありまして、そのようにしたのですが、意味が分かりました」


 とある方って誰?

 とは思ったものの、話が進まないのでそのままミーニャンさんがした話を聞けば、どこかで僕の実力を測り間違える人がどうせ出てくるから先に見せつけてくれ、みたいな話がそのとある方から来てたらしくてここで公開した。という事らしい。

 普段はもう一つあるらしい小さめの訓練場でやるんだとか。


「ユウトさん先程の【身体強化】はどのくらいでしたか? 威力的に」

「えっと……半分、かな? 全開にしちゃうと自分でも振り回されちゃうので」

「半分であれですか……神気を何かの恩恵で抑えてると聞いてますが、間違いありませんか?」

「あ、はい。僕にはよく分かんないですけど、ほとんど漏れなくなったって聞いてます」


 そう聞いたミーニャンさんは顎に手を当てて少し考えるような感じをさせてから、それの調整は出来ますか? と聞いてきた。


「調整というと、少しだけ出す感じとかですか?」

「そう。それが出来れば一番良いのだけど」

「一応、出来ますけど、あんまり上手じゃないので、集中してないとダメなんです」

「とりあえず、なるべくちょっとだけでお願い」


【観衆の内緒話】を少しだけ解除、する。

 イメージ的には、障子にプスって穴を開ける、みたいな。

 やった事は無いけど。

 ちょっと、隙間を作る感じでやってるけど、でも多分これで半分ないくらい。


「凄いねぇ。私は鈍い方だけどこれは分かるよ」

「これ以上は無理です」

「あ、いーよ。うん、そっか、これなら大丈夫かな」

「何がですか?」

「えっとね、ユウトさんの神気や魔力強度とかが本当はとても強いっていうのは聞いてるの。だけど、普段は隠してるのでしょう?」

「はい」

「何もない庶民はいいの、分からないものだからね。でも神官なんかは確実に分かる。冒険者も気配に敏感だから分かる。だから、ユウトさんの事を分かってる人はいいの」


 僕の事を分かってるって、つまり勇者の事で良いのかな。


「でも、何も知らない人は一切の情報がなければ、ユウトさんの実力が分からないから、実力主義の冒険者だと力がないみたいに思われて馬鹿にされちゃうかもしれない。けど、さっきのでユウトさんがデキル子だって分かったと思うから余計なちょっかいは減るはずだよ。もしかしたら増えるかもだけど」

「増えるのはヤダなぁ」

「まぁ、実力がないと馬鹿にされちゃうけど、ありすぎても叩かれちゃうからね。味方を多く作りなさいな」

「僕、一人なんだけど」

「大丈夫じゃないかな。多分人気者になるよ。見習いが終わったらね」

「見習いが終わるまでは大丈夫なんですか?」

「うん。見習いへの勧誘行為は禁止だから」


 というのも、どこにでも悪い人というものはいるみたいで、何も分からない内に詐欺みたいな感じで騙してくる様な人もいるそうで、見習いへの勧誘は即厳罰というとても厳しい措置が取られているそう。


「最初は適性を見る為に色々して貰うけど、どれにも監督してくれる人はいるから、その人以外の言う事は聞いたらだめだよ?」

「分かりました」

「本当に気をつけてね? どこにでも悪い人はいるし、決め事の隙をつく人はいるから」

「はい」

「ちなみに、勧誘を禁止してても出来そうなことがあるんだけど、何か思いつくかな?」


 勧誘はダメだけど、勧誘するって事だよね。

 でも、お仕事中は、他に人がいるからダメだし。

 という事は、それ以外、のはずだよね。


「ご飯食べてる時とか?」

「うん、そうだね。誰にでも言えると思うけど、不満が全くない人って言うのは居ないからね。そこで、ご飯を一緒して上手いこと言って引き込んだりね。ユウトさんにはまだ早いけど、男心や女心を利用したりもあるし、困ってる振りして親切心につけ込んだり、そうやって騙してくる人もいるの。特にユウトさんは貴族だから、お金持ってるだろうって考える人も多いだろうし、気をつけないとだめだからね」


 そうビシッと言われて、程なく実技も終わった。

 全然実技してない気がするんだけど、ミーニャンさん曰く、あれだけで分かるとの事。


 ちなみに、合格不合格とかはないみたい。

 冒険者は誰でも成れるから。


「それと、見習いの間はその証は首にかけといてね。まかり間違ってどこかで誰かに勧誘なんかされても、周りの人が気にかけてくれるから」

「はい、分かりました」

「それでどうする? このままお仕事も始める?」

「いえ、まずは待ってる人がいるのでちゃんと報告してこようと思います」

「あーそっか、そうだね、うん。じゃあいつでも待ってるからお仕事したくなったら依頼受付までよろしくね」


 いつまでもここにいると訓練したい人も出来ないし、二人でギルドの中に戻ってから分かれ、外で待ってるだろうメノとペリシーのところに行こうとしたら頭をグワシと掴まれた。


「よう、坊主! そんな焦って帰んなくてもいいだろう?」

「わ! って、マジモさん?」

「おう。昨日の内に来るもんだと思ってたら来ねぇから心配したぜぇ?」

「僕はマジモさんと違って疲れたりするの!」

「ガハハ! 言うじゃねぇか!」


 マジモさんは豪快な人だから分かんないんだよ。もう。

 ぐいっと手を押しのけてぐちゃぐちゃになった髪を適当に直しながらおなかに軽くパンチ。


「いきなり何してるんですか。ユウト君、大丈夫かい? 首が折れてたりしないよね?」

「大丈夫です、コーニーさん」

「首が折れてたら死んでるだろう! コニもたまにはイイ冗談飛ばすじゃねぇか!」

「いや、冗談で済めばいいですよね、本当に」

「お前は自分の怪力にもう少し自覚を持って欲しい。ユウトが大丈夫そうで良かったよ」

「あはは……ナジカさんも、ありがとう」

「ユウ君はもう帰るの? 何かお仕事していけばいいのに」

「向こうで人待たせてるので、すみません、ウェスティアさん」

「待たせてるって、ペリシー?」

「はい、後もう一人いますけど」

「なんだ、スローター待たせてんのか。じゃあ、仕方ねぇな、俺らも挨拶しとくか」

「いや、要らないでしょ」

「硬ぇ事言うなよ。ちっと話してぇ事もあるしな」


 周りのみんなは今日は止めとこうというのをガハハワハハと振り切って、ノシノシ歩くマジモさんに連れられて向かったカフェでは、メノとペリシーが目を細めて待っていた。


割烹しといてストックあるのにお待たせするもんじゃないですよねー

とゆー事でとりあえず1話どん!


毎日予約にすると半月持たないので……

せめてもの抵抗とゆー事で

2日に1話なペースで無くなるまで行きます。


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