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勘違い、暴論、でも結果良ければ全て良しな魔法講座応用編 (side イシュカ)

大変お待たせしましたm(_ _)m

 

「えっと、それじゃ、授業を始めますっ!」


 半ズボンに白のシャツとベストという下は少年、上は司書のような姿で前に立つ勇者殿に、みなが拍手をした。


 誰でしょうか、この格好をさせたのは。


 今日、勇者殿の“魔法の勉強”を聞くのは、私の他、お嬢様、ボラ様、ベンド、ペリシー、メノ、リュリュ、コーリー、エニュハの九名。


 魔法に適性があるか、亜人の系譜か、ですね。

 本来であれば、勇者殿は学ぶ側ですからこのような事にはならないのですが、少々私の眼に映る精霊達の動きがおかしかったので色々と聞いた結果、今日の話となりました。


 今日のお話は事象改変、魔法創造力に関する事になります。


「火のつき方について話します。えーと、焚き火でもロウソクでも何でもいいけど、火があるとして、魔法無しで消す場合にどうするかな? えっとメノ」

「はい。灰をかけたり、無ければ砂でしょうか? 井戸などがあれば水を掛けたりもします」

「他には?」

「蝋燭なら吹き消したりします」

「他には?」

「すみません。分かりません」

「他にはわかる人いる?」

「魔法は使わずとなると、分かりませんね……」

「布を被せて叩くとか?」

「それもあるね。ところで、ベンド、ペリシーは冒険者もしてたんだよね?」

「あぁ」

「まぁ、冒険者というか、傭兵の方が近いかもしれないが」

「その時に、えっと、カンテラみたいなのって使ったことない?」

「あるぞ」

「あります」

「じゃあ、もう一つ分かるはずなんだけど、カンテラってどんな形してた?」


 カンテラくらいは分かりますが、何かその様な凄い形をしていた気はしません。

 ベンド、ペリシーも顔を見合わせて首をひねっています。


「えっと、全部密閉してないよね? 隙間がちょっとなかった?」

「あぁ……あったな」

「ありましたね、えぇ」

「だから獣油使うと臭いんだよな」

「馬鹿ですか貴方」

「いや、あんときは仕方なかったんだって」

「まぁ、貴方の失敗談はどうでも良いですけど、つまり密閉していない……この場合は逆ですか、密閉してると消える?」

「はい、そうです」


 勇者殿が、蝋燭を立てて火をつけ、そこにガラスの瓶を被せます。

 すると、火が段々と小さくなり、ついには消えました。


「えっと、火が燃えているのは、油とかの燃料と、空気中の酸素っていうのが必要で、どっちもないと燃えない、の」


 確かに、ガラスの瓶を被せた事によって、蝋燭の火の周りで踊っていた火のマナは散っていきましたが。


「ユウトさん、それは火のマナが無くなったからではありませんの?」

「マナは……分かんないけど、じゃあなんでなくなるのかな?」

「え?」

「ロウソクがあって、火があるのに、ガラスの瓶を被せただけで火のマナがなくなるのはなんで?」

「……確か、火のマナは固いものを通り抜けられないとかだったと思いますが」

「固いものでも熱は伝わるのに?」

「そう、ですね、何故でしょう……」

「それが、酸素がなくなって、燃えられなくなったから、って言うのが、化学……なんだって」


 勇者殿の世界にはマナが無かったそうなので、そういった解釈が求められた、のでしょうか。

 知覚されていないだけで、普遍的に存在していた可能性は有り得るのではないかと思いますが、勇者殿の弁には体系だったものが感じられますので、何かしらの真理はあるのでしょうか。


「ご主人様!」

「はい、エニュハ」

「空気の、酸素って、見えない、のに、あるの、ですか?」


 亜人種は、使えるかは別にして基本的にマナを感じる器官が存在します。

 なので、マナではないものが見えないままにあるというのが信じられないのでしょう。

 もちろん、私も。


「あるよ」

「見えない、ですよ?」

「うん、見えないけどね。ちょっとやってみようか」


 そういうと、先程の蝋燭に火をつける実験をもう一度用意して、瓶に蓋をするところを、エニュハの手のひらと万が一に備えて水で濡らした布を重ねて代わりとして行った。


「隙間がない様にしっかり抑えててね」

「はい……」


 そうして真剣な表情で瓶を見つめていたエニュハの瞳が大きく見開かれました。


「わ……」

「手がビンに吸い付く感じがすると思うんだけど、どうかな?」

「します!」

「一応だけど、それが酸素が無くなったって事になるんだけど、これでいいかな? なんかちゃんとしたやり方が他にあるのかもしれないけど」

「酸素、かどうかは、分かりません、けど、なんか、凄い、です!」

「そっか、良かった」


 ニコニコしたエニュハが、瓶に吸いつかれて少し赤くなった手のひらをみんなに見せていました。


 ふむ、つまり空気も水のようなものなのでしょうか。

 無くなるというなら有る状態には重さも無いとおかしいと思いますが、空気に重さは感じませんね。

 そこらへんはどういった解釈なのか、少々気になりますが、脱線しそうなので今は止めておきましょう。


「話を最初に戻すよ? それで、着火する魔法を使う時に、燃料は魔力で決まるのかなって思うけど、例えば酸素があれば、もっと良く燃えるかなって思ったんだ。ガスとかでもいいんだけど」


 要は、空気の燃える為の酸素というのを集めてみたらもっとよく燃えるのではないかと思った、とそういうことらしいです。


「火って、見た感じは赤い感じだと思うけど、酸素とかガスとかそういう燃料になるものを多くするともっと燃えるんだ。それで、熱くなると、色も赤から白に、もっと熱くなると青くなるんだ。青い火とかはちょっとズルすれば出来るけどね」


 そういって、指先に灯した火は最初は赤く、火の勢いが強くなると、青くなりました。


「ここでの熱さの基準が分からないけど、僕のところで、人の体温くらいの熱さが36度くらい、水が沸騰するのが100度くらい、で、普通の赤い火が1000度くらいで、青い火は10000度とかだったかな」

「……じゃあ、今、ユウト様が出してる青も10000度?」

「これはズルしてるから、えっと1500度くらい?」


 勇者殿でも、ズルとかするんですね。


 そして、それでも、五割増しくらいの火力にはなるのですね。

 いとも簡単に、と言えるでしょうか。


「僕の世界には、魔法とかなかったからこーゆー実験とかで、魔法みたいなことをしてたんだよね。水も、魔法じゃなくて空気からも作れるし、一応」


 そこから聞いた話はもう訳が分からない事でしたが、勇者殿も詳しい事は説明出来る訳でもなく、燃えるための酸素と水素なるもので水が作れるのだと。

 よく分からない感じでしたが、一つ言えることがあります。


『それで事実として、魔法がより良く使える』


 という事です。


 勇者殿の魔力強度が原因かとも思いましたが、火の強さは明らかに変わりました。

 つまり、詳細な理屈は分からずとも、理屈としては正しいという事なのでしょう。


 火を生み出す過程で、酸素なるものを意識すると、火をより強くする事が出来る。


 重要なのは、とりあえずそこです。


 つまり、水の魔法もそれでより簡単に扱うことが出来る。

 という事です。


 集中力の求められる魔法行使において、何はともあれ負担軽減に繋がるのは有難い事なのですから。


「ユウトさん、その酸素や水素はとりあえず分かりました。ユウトさんの世界は優れた文明を築いてらっしゃると言うことも聞き及んでおりますから。その知識があってなし得た事なのでしょう」

「うん」

「あたくしたちにはその知識がありませんが、ユウトさんから見て、マナとは同じ様なものだと思いますか?」


 目に見えない酸素や水素がマナのより詳細な呼び名なのかと、そういう事でしょうか?


 お嬢様からの質問に勇者殿は、難しそうな顔で考え込んでいらっしゃいましたが、やがて分からないと言われました。


「えっと、酸素とか水素って、原子っていう小さな粒々みたいなものなんだよね。真空って状態じゃなければ、どこも何かしらの原子があるはずなんだ。目に見えないだけで。そこにマナがあるってなると、なんか変な気はする。精霊とかもいるんでしょ?」

「そうですね、います」

「だから、それとは別に何かある方が納得出来る、気がするよ」


 そういって、勇者殿は、石鹸水のようなものを用意して、それに管を浸し、反対から息を吹きかけると、大きな泡がぷかりと宙に浮かびました。


「この泡って、丸くなってるでしょ? 細かい事は知らないけど、丸い状態ってとても自然なんだって。一番楽な形? って言えばいいのかな。例えば、四角い泡とかないよね?」

「何も手を加えないということでですよね?」

「うん」


 みなで色々話した結果、やはり丸以外は無さそうでした。


「原子も丸いんだって。でもね?」


 更に同じくらいの玉をいくつも並べていた勇者殿が、その隙間を指さして仰った。


「でも、丸いと絶対に隙間が出来ちゃうよね。そしたら、その隙間に何かあっても不思議じゃないかなーとか思うんだ」

「つまりそれがマナだって言うんですかい?」

「だから分かんないなーって。そうかもしれないしそうじゃないかもしれないよねって事」

「まぁ、目に見えないですしね。マナは見える方もいますが」


 一時、沈黙が広がりましたが、目に見えないものをいくら話してもこれ以上は進まないだろうか。


 そこにリュリュが手を挙げた。


「ユウト様、魔法の射的の練習で、玉で当ててたのは玉の方が魔法の形成が楽だから?」

「うん。矢とかに変化させるのってめんどくさいんだよ?」

「でも、矢にした方が強い」

「なんで強いのかな?」

「えっと……すみません、分かりません。でも矢が普通?」


 そう首を傾げたリュリュがみなに疑問を投げた。


 元冒険者であったベンド、ペリシーなどから、貫通力が出るからだとか、殺傷の意思がこもるからではないかとか、いくつか意見が出されましたが、どうなんでしょうか?

 マナで行使する以上、意志力の強さが無関係とも思えませんが、玉よりも矢の方が殺傷能力が高そうなのも確かです。


 しかし、何故、と言われると確かに、矢である必要性と言うか、必然性はどこにあるのでしょう。


 殺傷能力高そうなら矢よりも槍の方があるでしょうが、槍になるとまた一段上の魔法に分類されてしまいます。


 貫通力だと、どうでしょう、やはり槍?

 同じくらいの大きさにするなら、ナイフなどでも良さそうですが、見たことはないですね。


 極論、想像力でなんとでもなるのでなんでも良いはずですが。

 んん……想像力?

 想像、し易いから?


「矢の方が飛ばす形として想像し易いからでしょうか」


 そうポツリと零した私に視線が集まります。


「イシュカ、それは、矢は飛ばして当てるものだという固定観念によるものだと言う事ですか?」

「先程、ユウト殿は、矢にするのが面倒臭いと言われておりましたが、ユウト殿は矢を見た覚えがあまり無いのではないでしょうか?」

「うん、正解だよ」

「つまり、ユウト殿にとっては、矢は慣れないものですが、私たちは比較的よく目にするので、矢を形成するのが苦にならない、というのはどうでしょうか?」


 勇者殿は言及しておりませんが、何か化学なるもので、玉でも飛ばすモノがあったりするのでないでしょうか。


 こちらで近いものは錬金術がありますが、それで、何か。


「そういや、ユウト、お前いつだったかそっちにはジュウとかいうお手軽な武器があるとか言ってなかったか?」

「うん。僕が見たのはオモチャで本物じゃないけど」


 話を聞くにびいびいだんなる玉を打ち出す射撃武器なんだとか。

 つまり勇者殿の世界ではそれを使った戦が一般的で、遊びという形で子供の頃から親しんでいるという事でしょう。


 本格的にするとお金も必要そうだとの事ですが、簡単な玩具であれば子供でも手に出来る様ですからなかなかの普及率ですね。


 しかし、よく分かりませんね。


 射撃武器が発達したのは分かりましたが、白兵戦を疎かにして良いものでは無いでしょうに、何故、剣術や体術などの訓練は行われないのでしょうか。


 一部が何かしらの理由付けがあって鍛錬されているとの事ですが、遊びで殺傷能力の高い武器を使うことがあるのに、同じ様にはならないのでしょうか。


 勇者殿から話を聞く度に謎が深まります。


 勇者殿が齢10の子供である事が信じられません。

 学者の真似事をされていた訳ではなく、自身で独学に近い形での学習であったと聞いていますが、それが普通なのでしょうか。


 少なくともエランシアに限らず、知識を重んじるマキベールの子供であっても知識量で到底叶わないでしょう。


 それほどに学ばねばならなかった。


 それはどれほどに過酷で孤独で崇高な事でしょうか。

 世俗に倦んだ世捨て人に通じる狂おしいまでの貪欲さ。


 人との繋がりに飢える多感な年頃で懸命に足掻き続けた勇者殿が、いえ、ユウト殿が愛しく思えます。


 …………?


 今なんと?


 これが、これが女には備わっているとされる母性でしょうか!?


 何人もの人に仕えたりして来ましたが、この様な気持ちになったことは無かったはずですが。


 ちょっとよく考えましょう。


 確かにユウト殿は、えぇ、線も細くて、ハーフとはいえエルフの美観的にアリかナシかでいえば、アリですよね。


 むさ苦しいドワーフの様な男臭さとは無縁です。

 そこは子供であるからかもしれませんが。

 いえ、成長してもドワーフの様にはならないでしょうし、ならせません。


 とはいえ、とはいえですが、私の年齢を考えると、母と言うよりは祖母……祖母?

 待ちなさい。

 エルフとしてはまだそこまでではないですから、さすがに祖母はちょっと。

 それに後十年もすれば、お嬢様の様に人は大人になる訳ですし。


 十年とか、すぐじゃないですか。


 そうしたら、見た目で言うなら母というよりはもう姉とか、そう、姉とか。

 幸いにして瞳の色合いは種族的な問題で似ませんが、黒髪は同じと言えますし、もう血縁と言っても良いのではないでしょうか。


 お嬢様もさすがに後十年あればどこかに嫁ぐでしょうし……嫁ぎますよね?

 もうぽっくり逝く前のご老体の後妻にでもなんでも嫁いでくれさえすれば私のお役目も終わりになりますから、早くどこかに嫁に行ってくれないものでしょうか。


「? イシュカ? あたくしが何か?」

「いえ、なんでもありません」


 つまり、つまりですよ?


 魔王などという邪魔者さえいなくなれば、皺の目立つ様になるだろう元お嬢様よりも、私の方がユウト殿に相応しいのでは。


 というか、嫁いでいないとはいえ、もういい歳の女にお嬢様とかそろそろキツくないでしょうか。

 未だに似合っているのが他のお嬢様方を見ると不思議ですね。


 最大の障害となりそうなメイド達も、結婚までは考えていないでしょうし、それは私も同じですから、問題ありません。


 奴隷はさすがに無いでしょうから、あの子達も大丈夫。


 ペリシーも、アレは何ですかね? 崇拝? 気持ちは分からなくもないですが、問題外。


 すると、聖女とかいう変態ですか。

 まさかあそこまで拗らせてるとは思いませんでしたが。

 でも、確か、結婚は求めてないとかなんとか聞いた気がします。

 メス犬だか、メス豚だか、になりたいんでしたか。


 となると、ですよ?


 私、そこまで悪くないのでは。


 結婚などは難しいでしょうが、私の美貌はまだまだ衰えませんし、なんならユウト殿が土に還っても私は大して変わらないでしょうし。


 まずは、魔王にはさっさと消えて貰って、それからお嬢様には適当なところに嫁いで貰って、自由になったら他の誘いを全部蹴ってユウト殿の愛人枠にでも入れて貰って、子種頂ければ……いやいや、その前に正妻が必要ですか。


 どこかから、ユウト殿に相応しい嫁候補を見繕っておきましょうか。



ということで、物理なお話を異世界に持っていったらどう理解するのか?

とか考えましたが、ユウト君がやたら詳しいのも変だし、かと言ってあんまり的外れでもアレですし……とか考えてたら煮詰まってました。


原子が丸いとか、そもそも原子は電子とか中性子とかだしとか、そこらへんはそういうのが得意な方に任せます。

ユウト君の認識では(多分図鑑とかなんか)丸かったんです。

四角くはないからセーフ!(酷い)

ハニカム構造の話とかも入れたかったけど無理でしたっ!


マナや精霊の所在もあやふやですが、物理では分からない感じなのですり合わないだけです。


後半の暴走はイシュカさんも乙女だったとゆーことで。

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