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淑女協定(フリースタイル) (side メノ)

視点はメノさんでお送りします。

 

 申し訳ありません。

 無礼をしたことによります罰はいずれ、必ずお受けします。


 魔法によるものではありますが、健やかにお眠りになられているユウト様は本当に可愛らしくていらっしゃいます。

 この方の往く先に幸あらんことを切に願います。


 もう一度だけ、とぎゅっとしてから、隣の待機部屋に手早く移動します。


「メノ、おそーい」

「あまり時間がない」

「申し訳ありません。ユウト様が可愛らしくて」


 仕方ない仕方ないと三人で言い訳しながら、用意して貰っていた寝巻きに手早く着替えて、輪になって座りました。


「では、今一度、確認だけ済ませましょう」

「うん。私はモディーナ家からだよ」

「ハルペロイ」

「わたくしが、アーディン家ですね」


 視線を交わして、頷き合う。

 わたくし達は、それぞれがそれぞれの後ろ盾の思惑を持ってここに派遣されてきた。

 だが、それはすでに破棄されている。

 それの確認だ。


 しかし、当然ながら、それを表沙汰には出来ない。

 だから、わたくし達は、意識を擦り合わせて互いの足の引っ張り合いを演出しなくてはならない。

 三家で三竦みの状況を作り上げるのだ。


 抜け駆けは上手く行かないが、抜け駆けも許してはいない。


 相手は子供だが、警戒心が強く容易に踏み込めない。

 無邪気さは警戒心の欠如ではなく、恐怖の裏返しなのだ。


 これが、わたくし達が作り上げなくてはならない幻想だ。


 幸い、といっても良いのかは、心苦しいところだが、見知らぬ土地で怖さを隠しているのは良い材料となる。


 魑魅魍魎の跋扈するこの場ではまだまだ未熟。

 故に、それがユウト様の安全に一役買うのだから。


「では、リュリュ?」

「あった」

「やっぱり……」

「どなたでしたか?」

「ロロ」

「面倒くさそうなとこだね」


 円環と輪廻の神ですか。

 珍しいところではありますが、境遇を思えばそこまでおかしいとも言えません。


「──と、クシァンテ、アフォス、レメト、ホロゥ」

「ま、待って下さい! 五柱ですか!?」

「びっくりした。それと……」

「まさか他のとこも全部とか言わないよね?」

「言わない。でも、至高の神も、あった、かもしれない」

「かもって何よ」

「理由をお願いします」

「ロロとクシァンテの秘痕の間にだけ、不自然な間があった」

「そこに至高の神があったと?」

「そうであってもおかしくはない」

「………………」


 そもそも、至高の神の聖痕は明らかになっていない。

 誰も確認した事がないから。

 あるのかと、存在すら疑問視する向きもある。

 しかし、歴史上、至高の神の祝福を授かっていたとされる者もいた事は確かなのだ。

 聖痕が確認されていないだけで。


 秘痕は、聖痕の顕れ方として珍しい部類の総称だ。

 あるとしても、普通は目につく場所に出る。

 しかし、その中の一部に背中や頭頂部など、目にしづらい場所に発現する事がある。それが秘痕。

 その中でも極めつけが、ユウト様のような聖水の塗布による発露だ。

 名を残す聖人、聖女の多くがこれにあたる。


 聖痕は、神からの祝福だ。

 人目につく場所に発現した聖痕は、目にした者へも“祝福の御こぼれ”があり、ささやかな幸運を授かる事が出来る。

 それが秘痕になると、祝福は加護となり、悪意を退けるとされる。

 そして、聖水による発露は、神の恩寵だ。

 神に深く深く愛されている証左。しかし、余りに深すぎる神の愛は人の目には映らない。聖水という膜を通さねば見ることが出来ないのだ。

 普通はそこまですれば分かる。のだが、名も無き至高の神の聖痕は誰にも確認されていない。

 それは、至高の神は聖痕をお授けにならないからだ。とか、聖痕は身体の内に刻まれてどうあっても見ることは叶わない。とか、神学者達でも意見は様々に割れているが、まさか、聖水を以ってしても見ることが出来ない聖痕。という説が有り得るのか。


「……ともあれ、五つは、と言いますか、五つも、確認されたのは間違いないのですね?」

「間違いない」

「じゃあ、聖女様の使いの方を信じても大丈夫だよね」

「そうですね。ユウト様の事が第一なのは、違えようもないとは思いますが」

「騙りじゃなくて良かった」


 わたくし達は、今朝、それぞれが神官を名乗る者から託宣を告げられた。


 わたくしは【夜空にアフェルの献身を】

 テリアは【宵闇にサフェルの親愛を】

 リュリュは【木陰にナフェルの敬愛を】


 もちろん、告げられた当初はなんのことやらでしたが、ユウト様の御姿を目にして、あぁ、この方の事だ。と自然と信じられたのです。

 きっと、託宣などなくても、わたくしの献身は捧げられた事でしょう。

 ただ、この二人と分かり合うまでに時間はかかったでしょうし、ユウト様の傍に侍る事に躊躇いを感じてしまったかもしれませんので、その後押しとしては申し分ないところと考えます。


 ですので、過ぎ去りし女神たるアフェルを告げられたわたくしはユウト様の過去を盗み見たのです。

 わたくしにはそれが出来るのですから。


 それでも、出来るからといってやってはならない所業である事は間違いない事でしょう。

 誰も自分の過去をつぶさに知られたいとは思わないはずです。


「では、現状で知り得たユウト様の過去をお話しておきます」

「お願い」

「嫌な役回りさせてごめんね」

「役得もありますのでお気になさらず」


 過去視には、相手の信用や信頼、そういった気を許す感情がとても重要なので、快眠の為の魔法をユウト様にお許し願ったのです。

 そうして、魔法を受け入れて頂く下地を作り、その感情を保持したまま眠りに就いて貰うことで、過去視の深度を得たのだ。

 そして、肌を触れ合わせていなければならない。

 触れる場所が多ければ多いほどよい。


 なので、わたくしがユウト様をぎゅーっと抱き締めたのは、過去視の為には致し方ない処置だったのです。

 ほっぺがすべすべしていました。


「くねくねしてないでユウト様の事っ!」

「早くする」


 仕方ありません。

 コホンと咳払い一つ。


「まず、大前提として、ユウト様の世界はとても裕福ですので、それを頭に入れておいて下さい」


 わたくし達の世界とは違い、スラム街などはほぼないと言えるでしょう。

 もちろん、ユウト様の国だけかもしれませんし、ユウト様の街だけかもしれませんが、ユウト様の目にした世界は、わたくしから見れば、それはとても裕福なものでした。


 様々な建築物が並び、夜でもそこら中に光が溢れ、板の中に人が住まい、鉄の馬車がひしめき合い、モノがなくなる事などないかの様な世界。

 自然はとても少ないのか、わたくしの目には寒々しく映りましたが、遠目に見えた山々にはちゃんと木々が見えたので、街には少ないという事でしょう。


 そのような場所でユウト様は過ごされていました。


「わたくしも目眩がするほどに情報の多いところでしたので、後で調整したものをお見せします」

「うん、お願いね」

「そのままで構わない」

「わたくしと違ってリュリュは慣れていませんでしょう? 意識がちぎれ飛ぶかもしれませんから、出来ませんよ」

「残念」


 そんな裕福な世界ではありましたが、ユウト様の周りはユウト様に優しくありませんでした。


 暴走した鉄の馬車から庇い、父親と思しき男性は息を引き取りました。

 母親と思しき女性は、気を病んでユウト様に当たり散らし、夜の仕事をしながら、放蕩に過ごされていました。

 ある日に、何か呪詛を吐きながらユウト様を手にかけようとしたところを踏み込んだ憲兵? に押さえつけられて引き剥がされました。

 そして、親戚でしょうか? 他の家で過ごされるようになりましたが、親族であるにも関わらず、大人達は子供であったユウト様をそれはそれは迷惑そうにしていました。

 その家の子供も大人の振る舞いを見て、ユウト様に辛く当たりました。

 学び舎でも、家の近隣でも、遠巻きにされていました。

 誰にも頼れず、誰にも甘えられず、共にある者もなく、今よりもなお幼かったユウト様の心痛は如何程のものでしたでしょうか?


 自然と、周りが学び遊んでいる中、独りで過ごされたユウト様は、本の世界にのめり込まれました。

 わたくしには読めませんが、何冊も何冊も、大量にあった本をかたっぱしから読まれていました。


 親戚の家では、家事もされるようになりました。

 任されているわけではありません。

 まるで奴隷のような扱いでした。


 おそらくご飯を上手に作る事が出来なかったのでしょう。

 教えもせずに作らせて、捨て、後片付けを命じてユウト様を残して外で食事をしていました。


 一体何が、ユウト様の支えとなっていたのでしょうか?


 わたくしの信頼がまだまだ足りない為に、声も聞こえません。

 ユウト様の心もよく聞こえません。

 何があっても死んでなるものか、生きたい。

 そのような気持ちに微かに触れる事しか出来ません。


 貧しくはあっても飢えることはなく、勉学を学ばせて貰ってはいましたが、それに何の意味があるでしょう。


 あれほどに人も物も溢れているのに、ユウト様の周りには何もありません。

 誰からも必要とされず、誰からも感謝されず、孤独に軋む心は遠くない未来に砕けてしまったのではないでしょうか。


 そんなユウト様がわたくし達の世界に召喚されたのです。


 神々の真意はわかりません。

 しかし、ユウト様は、ここで必要とされるだろう事に歓びを感じていらっしゃる様でした。

 勇者

 という、重い期待に応えられないかもしれないと恐怖しながらも、懸命に立とうとされています。

 尊い精神ですが、儚く脆い薄氷の上に立たれています。


「ですから、しっかりとお支えして参りましょう」

「うん、うん」

「絶対に守る」


 二人とも涙を流してますね、わたくしもですが。

 濡れた瞳で視線を交わし、再び強く、意志を確認します。


 ユウト様を慈しみ──

「──愛して差し上げます」


「待ちなさいよ、この年増」

「図々しい」

「は? 何がですか?」

「メノが一番年上でしょ」

「ユウト様にはもう少し若いお姉さんが必要」

「貴女たちと違ってわたくしには母性がありますので」

「おっぱいか!」

「じきに垂れる」

「……なんですって?」

「おばさんになった時がユウト様の適齢期だよ? 30にもなってお若いユウト様のお相手になろうだなんて、妄想にしてもひどいと思うなぁ」

「同意、私がユウト様の手解きくらいはしてあげたいけど」

「不器用は黙ってて」

「口下手が、慣れない殿方を導こうなど、冗談は寝てから仰ってください」

「その点、私はお友達みたいに接する事が出来るしね、適任だと思うんだよね」

「貧乳は黙ってて」

「女性らしさを身に付けてから出直してください」


 バチバチと火花を散らして睨み合います。

 が、わたくしの胸元に引き寄せたユウト様のお顔は酷く安心なされた様子でしたし、30にもなればそれは多少ではありますが、肌も衰えるところでしょうが、熟れた色気も出るのです。

 大人として、ユウト様を導いてあげませんと。

 まずは、この二人を蹴落として、ユウト様の信頼をより深めませんとなりませんね。

 これは抜け駆けではありません。

 女の戦いに卑怯も何もないのです。


 もちろん、ユウト様の為にも後ろ暗い事をするつもりはありませんが。



ちなみに

最後の会話でテリアさんは貧乳になりました。


そんな設定なかったのになぁ……

仕方ない事でした……


テリアさんとのお昼寝で息が苦しかったのは単純にぎゅっとされてたからです。

埋もれていたからではありませんでした。

そう、なりました(哀)



後、急に神様の名前とかもりもり出てきましたが、なんか色々あるんだなー

くらいに思っておいて下さい。


至高の神とかゆーなんか偉そうなの

他にもいっぱい

〇フェルとかゆーのは、きっとベルダンディーとかそこらへん。

くらいが分かれば大丈夫

お勉強の機会はいずれやってきますのでその時に。

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