淑女協定(バランス) (side リュリュ)
珍しく同日更新の2回目です
前話の恩恵リザルトを未読の場合はバックして下さい。
ユウト様の寝室の扉をそうっと閉めて執務室の方に移動すれば、待ちかねたと二人が私に詰め寄ってきた。
「どうでしたか? 何か教えて下さいましたか?」
「多分、全部、教えてくれた」
「え、ほんとに? 全部って全部?」
コクリと頷けば、喜色を浮かべる二人がいるが。
「つまり、私がユウト様の恋人以上だと証明された。二人ともごめん」
「待ちなさい。ユウト様にそんな意図があるわけないでしょう」
「そうだよ。自意識過剰なんじゃない?」
「ふ……例えそうでも、私がユウト様の全部を初めて聞いたのは確かな事実」
まぁ、今夜が私の順番だったからだけど。
逆に、運命的と言えるのでは。
「……ちなみに、だけど、リュリュにだけとか、言われたりしてないよね」
「…………」
「「ふぅん……?」」
「……ユウト様は、二人にも、言うって」
当たり前だとばかりに頷く二人。おかしい。
仕方ない。
「私はユウト様と一緒に読んだけど、二人は勝手に読んで」
パサリと紙の束を渡せば、更に二人に詰め寄られた。
「今、大変聞き捨てならない言葉を聞いた気がします」
「仕方ない。今日は私の当番。ユウト様を抱っこしながら一緒に読むのも勤め」
「いや、抱っこする必要ないでしょ」
「ユウト様はもうお疲れだった。いつでも寝て頂けるようにする必要があった。安全確保」
「あー……ご飯の時ももう眠そうだったもんねぇ」
じゃあ仕方ない。
とか言ってるけど、機会を見つけたらやるつもりだ。浅ましい。
しばらく二人が紙を読むのを待つ。
「あれ?」
「何か、ありましたか?」
「んん……ちょっと待って? メノ、そっちのももう一回見せて」
「はい」
何かあっただろうか。
武術系の恩恵がなかったのはまだ訓練するようになってから日が浅いからだと思ったけど、何か私が分からなかった事を見つけたのか。
こういう事を見つけるのはテリアが得意だから、少し嫉妬する。
メノも一通り読み終わり、テリアだけが、紙とにらめっこしていた。
「武術関連の恩恵がなかったのは、わたくしも見ましたけど、それではないのですよね?」
「違うよ……でも、なにこれ……凄い変だよ」
「何が変」
クシァンテ〇
空間把握〇、座標転移陣、収納棚〇、装備召喚✕、無病息災〇
アフォス〇
海藻繁茂✕
ネジュン
生活魔法適性〇、観衆の内緒話
フェゼット
ハチミツ探知、野草図鑑〇、キノコ全集〇
ハーレイ
不屈〇
オード
身体強化〇
デムテア〇
既知情報閲覧
レメト〇
観察眼〇、考古学✕、古代種語マスタリー✕
ホロゥ〇
暗視〇、隠れんぼ、活性化(夜間)✕
ロロ〇
因果調律✕
名もなき至高の神?
簡易魔術適性〇
「ユウト様が、どなたから頂いたものか書いてくれたからこうでしょ?」
まとめて書き出して貰ってみても、特に何も違和感はない。
武術系がない、変なのが多いくらいしか分からない。
夜間の活性化があるのに、お疲れで寝てしまわれたのが可愛かった。くらいしか。
「名前の横の〇印は、聖痕のある神様、恩恵の横のは分かる範囲での有用性ね。✕はあまり使えなさそうなもの、何も無いのはちょっとよく分からないもの」
「活性化は、使える恩恵だと思われますが」
「ユウト様はまだ子供だもん。夜に寝ないのは良くないんだから、少なくとも今は役に立たないよ」
確かに。
メノはもう少し抑えた方がいいと思う。
「装備召喚は、使えると聞いた」
「専用のを用意してからじゃないと意味ないよ」
「では、早急に用意出来るように調整しないとなりませんね」
「お金、用意出来たらね」
「それで、何がおかしい」
「聖痕の有る無しで、有用性が逆転してる。有用性、だとちょっと違うかな……前向きか、後ろ向きか? かな」
よく、分からない。
「全部ってわけじゃないよ。収納系はどこでも使えるしね。でも、大体が魔王討伐の為になるものじゃないよ。聖痕有りの方は、むしろモンスターから逃げたりやり過ごしたりしやすくなる恩恵だと思う。聖痕無しの方は普通に使い勝手が良いのが多いのに。ねぇ、これって偶然なのかな? 私が気にしすぎてるだけかな?」
テリアが書き出した紙を見る。
「言われてみれば、そんな気がしてきますけど、そもそも、ですが、武術系の恩恵は、ハーレイ、オードの二柱に集中しているから、そう感じるのでは無いですか? 聖痕持ちの恩恵は数も多いですし」
「じゃあ、魔法適性は? 魔術適性なんて魔法系の一番下なんだよ? 私、魔道適性貰って来てても驚かなかったよ。ユウト様は私が知る限りだけど、魔力強度は一番凄い。それなのに、魔術適性なんて変じゃない?」
「それはそうです、ね」
バシバシとテーブルを叩きながら物凄い剣幕で変だというテリアに言われて、私もメノも、確かにと思う。
「分かったからテリア静かにして。ユウト様が起きる」
「あ……ごめん」
「分かればいい。確かに、考古学とか、私の知る限り、そんな本は読まれてなかった。屋敷にもない」
「ハチミツも、意味がわかりませんね。こちらはフェゼットですが」
「それは理由があると聞いた。聖獣サヌカにハチミツを献上する事になった、みたい」
「海藻のとかも、他にもっとあるよね」
「ゼリー?」
「ゼリーでしょうね」
「ユウト様は、仮にもだけど、魔王を何とかする為に喚ばれたんだよ? そんなことさせたくないけど」
「ユウト様も、そうあろうとされてますね」
「その意志を蔑ろにする寵愛……だとすると、確かにやはり変」
「海神ですから、水系の強力な特性である方が自然な気がしますね」
「でしょ?」
魔法適性も最低限、武術系も何一つ無し。
経験が足りないから、と言うならユウト様に全く関係ない恩恵がいくつもあるのが不自然。
「一応、身体強化があれば、武術系は身につきますよね」
「時間はかかる」
「そうだよね。だから、なんか……聖痕あるのに、意地悪されてるみたいな感じがするの」
顔を突合せて考えてみても、神の意図するところは分からない。
「とりあえず、たくさん貰えた。それでいい」
「リュリュはそれでいいの?」
「ユウト様は気にされてなかった」
「そか」
「それどころか、魔術適性でも魔法が使える事に喜んでた」
「ユウト様は、折に触れて魔法を使ってみたいと仰ってましたからね」
「そうだけど……なんか、納得いかない」
むっすりとむくれてはいたけど、どうにもならない。
それはテリアも分かってる。
言っても仕方ない。
それよりも問題な事がある。
「今のは私たちにはどうにもならない。けど、より由々しき事態が発生した」
「何かあったっけ?」
二人が恩恵を確認するようにチラリと目を向けたがまだ分からないとは、情けない。
私は、一つの恩恵を指さした。
「これのせいで私たちの癒しが減る」
「……まさか、そんなことはないでしょう?」
「ユウト様だっていくらなんでも、ねえ?」
「そのまさか……今日、私はユウト様の髪の毛を乾かせなかった」
「もう、速乾の魔法を使われたのですか……」
「もしかしてだけど、それ以外も……?」
「ユウト様からは、もう一人でお風呂に入れるよ、と」
崩れ落ちる二人が、おぉ神よと祈り始めた。
が、神によって引き起こされた事態だという事を忘れてはならない。
「ネジュン、許すまじ」
「もう邪神てことで良くない?」
「善意だからと言って好意的に捉える必要はありませんよね」
「そもそも私が居るのに、生活魔法とか有り得ないよね」
「わたくし“たち”をなんだと思っているのでしょうか」
「私“たち”が否定された気分」
「……ねえ? ちょっとした言い間違いじゃない」
「明らかな願望」
「前科もありますし、酌量の余地はありませんよね」
「少なくとも今夜怪しいのはリュリュだよ」
「…………何も、ない」
「今の間はなんでしょうか? わたくしたちは仲間だと思うのですが、隠し事は良くありませんよね」
「私たちの絆にヒビが入るといけないから、ちゃんと共有しよう?」
「待って。言うから」
「やっぱり何かあるんじゃないですか」
「不慮の事故だった。ユウト様は悪くない」
「そりゃあそうでしょう」
察しが良すぎるのも困ったもの。
悟られなければ、私だけの思い出に出来たのに。
「抱っこしながら、ユウト様の恩恵を仲良く共有してた時に事故は起こった」
「何故、煽りに来たのか分かりませんが、良いでしょう。先をどうぞ」
「少し、ユウト様との密着度が弛んでしまったから、抱え直した」
「事故に見せかけた故意な気がするよね」
「誤解。その時、ユウト様の脇を図らずもくすぐってしまった。私にはくすぐったりする意図はこれっぽっちもなかったし、考えたりもした事無かったけど、悶えるユウト様が可愛らしくて笑ってしまったら、ユウト様が反撃して来られた。それでつい、くすぐり合いっこになった」
「明らかに狙ったとしか思えませんね」
「どう考えてもギルティ」
「そうしていたら、全くの偶然、お互いに思いもよらなかった事だけど、脇をくすぐろうとしたユウト様の手が伸びた時に、私が身を捩ったせいで、ユウト様が私のおっぱいを鷲掴みする様な形になってしまった。事故だから問題ないと言ったけど、ユウト様がお顔を真っ赤にされて謝罪された。と言う事があった。不慮の事故でなければ、そのままなだれ込んでいた事は明らか。つまり、偶発的に起こってしまった運命のイタズラで、誰も悪くない」
どう考えても、完璧な事故。
ユウト様が色に目覚めたみたいな誤解があるといけない。
だから、黙っていたわけで、何も疚しいところはない。
「客観的に見れば事故ですよね」
「そうだね、客観的に見た場合に限るけど」
「何が言いたい」
「リュリュに誘うつもりが全く無かったかが問題だよね」
「ですね。よもや……触られた時に、偶然にも、まるで押し倒されたかの様な姿勢になってしまった、なんて事がないと良いのですが」
「記憶が定かではない。けど、そうなってたとしても、意図はしていない。偽りなく」
混乱していれば覚えていない事の一つや二つあってもいい。
「そうですね、ユウト様“は”意図してらっしゃらないでしょうね」
「私が意図していたとするのはどうかと」
「最初は、違ったかもね? 最初だけは」
「具体的には、身を捩った辺りがとても怪しいですよね」
「リュリュの主観的に偶然だったかを教えて欲しいな」
言うや否や、テリアが私の左手を包み込むように抱きしめた。
これは、不味い流れ。
「先程から、入念に作った流れはないと抗弁されていたのですから、当然、そんなことはありませんよね」
次いで、メノに右手を取られた。
「何も確認しなくても、結果、何も起きてない」
「私がユウト様とお風呂した時はどーだったかなぁ」
「何も無いなら、見ても宜しいですよね?」
「こ、困る」
「「ふぅん?」」
あぁぁ……
「どう思う? メノ」
「自分から揉ませに行くとか、痴女ですよね」
「魔が差しただけ。テリアも覚えはあるはず」
「あれとこれは違うし」
「往生際が悪いですね」
「おかしい。そもそもメノはいつもユウト様におっぱいを押し付けてる」
「ちょっと急になんですか、わたくしはそんなことしていません」
「あ、リュリュもそう思った? あれ、私もわざとじゃないかなぁって常々思ってたんだよね」
「何を仰るかと思えば、お二人と違ってどうしても当たってしまう事があると言うだけです。それに今はリュリュの事でしょう」
「そもそも、私とテリアは見られたけど、メノのは見た覚えがない」
「確かにー。疚しい事がなければ、メノも見せられるんだよね?」
さっきまでわたしを掴んでいた手が離れそうになったから、ちゃんと繋いでおかないと。
「待ってください。わたくしの事は今は良いでしょう?」
「信頼関係の確認中。メノも当然喜んで協力してくれるはず」
「そうだよね。こういうのは一方的じゃなくて、相互にやるから意味があるよね」
観念したメノが私たちに見せたものは、中々に酷い。
「へぇ……私たちにあんな事言っておきながら、自分は娼婦みたいにユウト様におっぱい見せつけてたって事かぁ」
「常習的なのがタチが悪い」
「待ってください。ユウト様も気にされていましたから、ちょっと強調していただけですよ。むしろユウト様のご希望に沿って行動してたと言えると思います」
「ユウト様が悪いみたいな言い方は良くない」
「だよねー。貞淑さが足りないよね」
「ちょっと待ってください。ユウト様に密室で如何わしいことしていたテリアも、あからさまな誘惑をしたリュリュもわたくしを非難出来る立場ではないでしょう!」
そう言われると辛いけど、でも看過していい事でもない。
そう思ったところにテリアが胸を張って言い放った。
「同罪だって認めたって事は、私が罰を受けたんだから二人も受けるって事でいいんだよね?」
バカメノ!
「そ、それはそうですが、今は人手も足りないですし、わたくしはメイド長ですから、休む訳には……」
「そういえば、メノはいつの間にメイド長になった?」
「奴隷の子達が来てから、なんか自然にメノがそうなってたよね」
「うっ……」
だらんだらんと汗を流すメノに私たちは極上の笑顔を見せた。
ユウトに知られたらダメなやつw
大丈夫、ぐーぜんです!