非常識
お待たせしましたー。
ホロゥ神の原っぱに来て、プレハブ小屋みたいな、有り体に言って安っぽいお家に入った僕は、鬼のように怒ったサフェルに外に放り出された。
怒ってたのは僕にじゃないけど。
「なんで服着てないんですか!」
「……お風呂、入ったから?」
「絨毯もびしょびしょじゃないですか! なんでタオルで拭かなかったんですか!」
「……綺麗になったし、大丈夫かなって」
「大丈夫なわけないでしょう!」
「サフェル、バカなの? 風邪とか、引くわけないし」
「男性の前で裸体晒すとか痴女ですか、貴女は!」
「ふ……ゆうくんに見られて恥ずかしい体じゃ、ない」
「どこがですか!」
「大事なとこは髪の毛で隠してるし、チラリズムも完備した最高の状態」
「馬鹿ですか、馬鹿なんですね!?」
「サフェル、うるさい。姑みたい」
「服を着ないならユウトにはこのまま帰ってもらいます」
「え、やだ」
「じゃあ服を着なさい」
「……仕方ない」
まぁ、その、ね?
なんかお部屋の中暗かったし、よく見えてなかったから大丈夫なんだけど、うん。
服は着て欲しいなぁ。
というか、なんで裸のままでいいと思ったんだろう。
サフェルみたいな大人な女の人って感じじゃなくて子供みたいな格好だったから羞恥心とかない、とか?
神様だから本当の年齢は分かんないけど。
「誰が絆創膏貼ればいいって言いましたか!」
「? あぁ! 大丈夫、ちゃんと、わたしの肌色にしてあるから、何も目立たない」
「服を、着ろと、あたしは、言いました!」
「だって、サフェル、髪の毛じゃダメだって……」
「髪の毛は服じゃありません!」
「そんなこと、誰が決めたの?」
「誰でもいいですから! 分かりました。タンスの中からあたしが勝手に選びますからそれ着てください」
「下着は、紐のしかない。後はスケスケの夜用」
「この際紐でも……ってなんですかこれ! 紐じゃなくて糸って言うんですよこれは!」
「隠れればいい」
「隠れないですから」
「サフェル、ワガママばっかり言わないで」
紐……さらしみたいに巻くのかな。
中に入る訳にもいかないしなぁ。
「……お待たせ、しました」
それからしばらくして僕を呼びに来たサフェルはげっそりしてた。
お疲れ様だよー。
背伸びしてヨシヨシって頭を撫でたらぎゅーって抱きしめられた。
それから入ったお部屋の中はやっぱり薄暗くてよく見えなかったけど、明るかったら多分ダメだから、これでいいんだと思う。
大きな丸いビーズクッションに二人が座って、僕はサフェルに抱えられた。
「サフェル……そーゆーのは、ズルい」
「ズルくないですから。ほら、さっさと恩恵下さい」
「わたしの恩恵はゆうくんを抱っこしないとあげられない」
「接触すればいいんですから、握手でもすればいいんですよ」
「抱っこしないとあげられない」
「だ、大丈夫だから! うん。でも、ホロゥ様を僕が抱っこする方がいい気がします、けど」
「抱っこされないとダメだからそれでいい」
「さっきと言ってること違いますけど!?」
「違わないから。ゆうくん、んー!」
抱っこして、って感じで手を伸ばしたホロゥ様を失礼しますって抱えてクッションに座ると、クッションが凄いふかふか。
思わずお尻でぐにぐにしてみたけど、なんかこれ病みつきになりそう。
「ゆうくんそんなにして……わたし恥ずかしい」
「あ、ごめんなさい」
「ん……ちゃんと抱っこして」
「はい」
大丈夫かなと思いつつ、ホロゥ様がもっとちゃんとって言うからおなかに手を回してしっかりホールドする。
そうすると、波打つ感じのホロゥ様の黒髪が目の前に来るんだけど、なんだろう。黒髪なのに、凄いキラキラしてる。
「もういいでしょう。さっさと恩恵下さい」
「まだもうちょっと、足りない」
苛々してるサフェルだけど、ホロゥ様神様だし、僕は大丈夫だから。
と思ったけど、サフェルも女神様なんだっけ。
あれ? ホロゥ様も神様だけど、女神様じゃないのかな。
なんでだろう。
ホロゥ様もそうだけど、フェゼット様も、ネジュンおばあちゃんも女神様って思わなくて、自然と神様だって思ってた。
何が違うんだろう。
「ゆうくん……わたしというものがありながら他の女の事を懸想するとはいい度胸」
「ごめんなさい。神様と女神様って何が違うんだろうって、考えちゃって」
「あぁ……それは、サフェル達の格が足りないだけ」
「格……?」
「わたしたち神と言われる存在は、見た目はともかく性別はない。でも、サフェル達はまだ未熟だから、性別がある。そんな感じ」
「えっと、じゃあ、ホロゥ様は、女の子ってわけじゃないんですか?」
「女の子……ふふ、女の子だよ。裸見れば分かるかな」
「だ、大丈夫です」
「脱いだらユウトには帰ってもらいますからね」
「残念。まぁ、そんなわけだから、人の世界と神の世界との間を移動しやすいから、案内役とかを勝手にやってるの」
「勝手にじゃありません。ちゃんと────様からお願いされてます」
ぷうっとむくれてホロゥ様を睨むサフェルだけど、誰からお願いされたのかな。名前が、何も聞き取れなかった。
名もなき至高の神様、でいいのかな。
「ところで、ゆうくん」
「はい、なんですか?」
「恩恵あげたいんだけど、ちゃんと抱っこして欲しい」
「えっと……もっとぎゅっとしないとダメですか?」
「そうじゃなくて、向かい合って抱っこするのが男と女の礼儀だから」
そういうと、モゾモゾ動いてコアラみたいに抱きついてきた。
「何してるんですか! 痴女ですか!」
「子供が抱き合ってるのをそんな目で見るサフェルがおかしい」
「見た目だけのくせに……!」
「まぁ、何が変なのか、わたしはよく分からないから、どこらへんがイケナイのか、具体的に教えてくれたら検討する」
「……ナンデモアリマセン」
「そう? ゆうくんごめんね。ちょっとおしりが落ちそうだから支えて」
「えと、はい」
ずり落ちそうなホロゥ様を支えようと、おしりは触れないから折れそうなくらい細い腰を抱き寄せてこれでいいですかって聞いたら満足そうにしてた。
「おしり鷲掴みしてもいいのに」
「ホロゥ様、女の子ですから、そーゆーのは良くないです」
「ふふ、紳士だね。じゃあ、恩恵あげるね」
「お願いします」
【暗視】【隠れんぼ】【活性化 夜間】
ホロゥ様が頭をぐりぐりする度に恩恵が僕の中に入ってくる。
「これくらい、かな」
「ありがとうございます」
「【活性化 夜間】は、夜に眠れなくなるわけじゃないから安心して。ゆうくんはまだ子供だから夜にはちゃんと寝てね」
「はい。夜になったら凄くなるんですか? これ」
「夜でも活動しやすくなる恩恵。忙しい人に大好評。でも、無理して欲しいわけじゃない。何かあった時にちょっと無理しても辛くないくらいに思っておいて」
そういったホロゥ様が身動ぎして離れたそうにしてたので、手を緩めたら、するっと抜けて、僕の前に立った。
今まで薄暗くてよく見えなかったけど【暗視】のおかげでよく見える。
重ね着してるけど、ひらっとした可愛い服は少し透けてて見た目は女の子だけど、オトナの女の人な感じがする。
えっちな感じはしないけど。
「さ、もう行きますよ」
そういうサフェルに引っ張られてバイバイと手を振るホロゥ様に見送られて元の場所に戻った。
「ふむ。三つか。基準はよく分からないが、よく貰うものだな」
「それよりも、ユウト、【活性化 夜間】は、まだ早いから使わないようにね」
「あ、うん。ホロゥ様も夜はちゃんと寝なさいって言ってたから大丈夫だよ」
「あー……うん。そうだね。夜は寝ないとね」
なんだか歯切れが悪いけど。
何故かみんな使うなって言う。
僕、そんなに夜更かしするように見えてたのかな。
ちゃんと寝てるんだけどなぁ。
「まぁ……夜間で良かったと言うべきかな」
「そうですね。まだ夜間なら」
「ホロゥ様は何をお考えになられてるのか」
「男はすぐこれだもの……」
「んん、適用範囲は広いから汎用性の高い恩恵だよね」
「そうですね。夜間ですから」
なんかみんなが内緒話してるけど、後二つだからさっさと行こうよ。
そうしてやってきたロロ様の原っぱ。
アフェルがラフェルと交代して僕のお迎えに来てくれたのはいいんだ。アフェルは、三回あったはずのが一回だけになっちゃうしね。
僕には区別つかないけど。
「待ってたよー! さ、こっちおいでー」
ピエレと同じ長い銀髪に、アメジストみたいな綺麗な瞳、それにピエレと姉妹みたいに似通った顔をしたロロ様が、笑顔で僕を呼んでる。
うん、これもいいよね。
テカテカした黒いセクシーな感じの、ピッタリ身体にフィットした格好なのも、この際どうでもいいよ。
「フーッ、フーッ、フーッ」
四つん這いになった桃色ショートヘアの女の人に腰掛けてるのは何でかな!?
女の人は、目隠しされて、口にピンポン玉みたいなの嵌められてて、呻くようにしながら、ロロ様の椅子になってた。
「気にするな! 少年! 罰である故!」
それに加えて、ロロ様の背後に立ったムキムキマッチョな二人。
多分、ハーレイ様とオード様。
僕に声掛けしつつ、一々ポージング決める左のブーメランパンツの人が多分、オード様。
綺麗に禿げ上がった頭に、怖いくらい全開スマイルで、今も意味もなくフンッとポーズを変えた。
きっと僕には分からない何か理由があってポーズを変えたんだと信じたい。
「小遣いで満足すれは良いものを、ロロに借金までして更に金を求める愚か者には必要な事である。だから気にする必要は無い」
「フムーッ! フムムゥッ!!」
「黙れっ! 卑しい豚めっ!」
金髪のイカついお兄さんが一喝すると、四つん這いの女の人が項垂れた。
カオス過ぎる。
誰か助けて!!
呆然と立ちすくむ僕とアフェルだったけど、いつまで経っても寄ってこない僕にアレ? と首を傾げたロロ様がこっちに歩いてきた。
「もう! どうしたのー?」
ニコニコ笑顔でこっちに来るロロ様に僕は思わずアフェルの後ろに隠れた。
あぁ、なんてダメなんだ僕は!
あんまり怖いからって女の子を盾にするなんて!
でも、自然と身体が動いちゃったんだよ。
僕がアフェルの腰にしがみついた事で、はっと目が覚めたみたいになったアフェルが、両腕を広げて通せんぼした。
「ユウトに変なもの見せないで!」
「あれ? こーゆーの、今流行ってるんじゃなかったっけー?」
「何処の悪習ですか! ユウトが穢れるから即刻やめてくださいませ!」
「おっかしいなー。まぁいーや。はい!」
パン、と手を合わせたロロ様によって、後ろにいた三人が消えた。
「ごめんねー? ちょっと刺激が強かったかなー?」
そういって申し訳なさそうにしてるロロ様の服装も、ピエレが着てるみたいな白っぽいローブみたいな感じになって、少しほっとした。
「何をお考えになったら先程の様な事になるのですか」
「私が見た限りだと日常的にやってたから、今は普通なのかなって思ってー。変だとは思ったんだけどねー」
「変だとお感じになられたなら即やめればいいのですよ」
「でもでもー。ニンゲンってすぐに流行り変わるじゃん。百年もしない内に価値観とかも変わるしー」
「先程のが普通だったら世も末です。変なものばっかり見て模範的なものを見ないからねじ曲がるんですよ」
「まぁ、いっかー。勇斗、ごめんねー。私なんか勘違いしちゃってたみたいー」
「……さっきみたいなのは、もうしないですか?」
「しないしないー。レメトに反省して欲しかっただけなんだけど、お仕置きのやり方分からなくて、ちょっとニンゲンのを参考にしたんだけど、そんな怖がられるとは思わなくってー」
あははーと笑うロロ様は、本当に困ったなぁって顔してて、さっきまでと違って、どうしたらいいのか分からないって感じで。
悪いことをして怒られるのを待ってるみたいに思えた。
「もういいですから、さっさと恩恵を下さい」
「えぇー? 私、勇斗が来るのずっと待ってたのにー」
「ロロ様が悪いんでしょう。あんな……あんな事して、ユウトが変態になったらどうしてくれるんですか」
「そこまでー!? 悪かったって言ってるじゃないー」
「ゴメンで済んだら犯罪なんて無くなるんですよ」
「アフェルのケチんぼー!」
「( ಠ言ಠ) なんですって?」
「ちょ、アフェル、顔、顔怖い! 勇斗に見せられない顔になってるよー」
どんな顔だろうって恐る恐る見上げたら、にっこりされた。
「ユウト、ロロ様の恩恵はまたにしましょうか」
「え、でも……次はいつになるか分かんないし……」
「ほーら! 勇斗も私の恩恵欲しいってー! ねー」
「チッ」
「ふふん、私は心が広いからねー。今の舌打ちは聞かなかった事にしてあげるよー」
さ、おいでーって両腕広げたロロ様にカモンカモンされて、近づいたらガバッと抱きしめられた。
「んーぅ、いーこいーこ。勇斗はなんかいい匂いするねー」
「えと、ありがとうございます?」
変な匂いじゃないならいい、のかな。
「うんうん、身体付きはちょっと華奢だけどー、筋肉ついてないわけじゃないみたいだねー」
「あの、ちょ……」
「うわー、髪サラッサラだねー! ほっぺもふにふにだし、お肌もきれーい! なんだー、勇斗は女子かー」
「だ、男子です。そじゃなくて、うひぁ」
「ぉぉ……腹筋割れてたりはしないけど、これもなかなかー。後は子供か大人かをチェッぐぇ!」
「黙りなさい、この淫獣が」
珍獣扱いな感じであっちこっちぺたぺたされてたと思ったら、アフェルがアイアンクローでロロ様の顔をガシリと掴みあげた。
さすがにちょっと恥ずかしい。
でも、相手は神様だし、一応。
怒らせちゃったら、ダメだと思うし、うん。
我慢はしてたんだけど、アフェルの腕をタップしてるロロ様はとても痛そう。
「いたたたぁ、痛いってー! はーなーしーてー!」
「反省しましたか?」
「したした、ちょーしたー!」
「次はないですからね?」
「あー、いたぁ……もう、アフェルは乱暴だなー」
「抵抗出来ないユウトに乱暴したのはロロ様でしょう」
「合意があれば乱暴にならないんだよー」
「いいから、さっさと恩恵寄越しなさい」
「はーい。わかりましたー」
不貞腐れた感じでアフェルに返事したロロ様が、僕にごめんねーと謝りながら恩恵をくれた。
「レメトに会えなかったから、その分もあげるねー」
【因果反転】【因果結実】【因果収束】統合【因果調律】
【観察眼】【考古学】
【古代語】【龍語】【妖精語】統合【古代種語マスタリー】
「私のは【因果調律】だけねー。レメトの三つはおまけー。後で怒られるのは私じゃないからー」
ロロ様が何か言ってるんだけど、よく、分かんない。
頭がぐるぐるして、気持ち悪い。
立ってる感覚もなくて、怖くて、ロロ様にしがみついた。
しがみつけた?
分かんない。
耳の奥で雑音が酷い。
「あれー? うわ、やっちゃったー!?」
「何してるんですか!?」
「─斗!──め──うし──」
「い────な─────!」
そっと
おでこを
ひんやりした手が
優しく撫でた
気がした
次回で恩恵行脚が終了(の予定)
その後、各恩恵のそれぞれリザルト入れて、ストーリーがちょろっと進みます(^^)
進む、はずですw




