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あえて使わないという事

ちょっと短いです。

 

 ハーレイ、オードの二つの神様は会ってくれなかった。

 まぁ、普通に考えて神様にみんな会えたりするのも有難みとか、ないしいいんだけど、どっちの神様も、恩恵がふわーって来た時に筋肉が足りないって怒られた気がする。


 もっとお肉食べてムキムキになったら会えるのかな?


 少し前にゼシンさんとモクさんとで内緒話してたかと思ったら、モクさんが最初の時みたいにお話してくれて、ゼシンさんが仲直りさせてくれたのかと思ったらちょっと嬉しいな。


 そうしてやってきたデムテア様の原っぱ。

 みんななんで原っぱスタートなのかは分からないけど、今僕の目の前には、巨大なジェンガがある。


 どこまで積み上がってるのかと顔を上に上にと上げていったら、頭が柔らかいのに受け止められて、アレ? と思ったらひょこりと綺麗な金の瞳が覗き込んできた。


「アフェル?」

「ボクはラフェルだよー」

「あれ? 順番なんじゃなかったっけ?」

「うん。ハーレイとオードの次だからボクで合ってるよ」

「でも、僕、その二人には会ってないけど」

「それはボクのせいじゃないからね。しーらない」


 そういうと脇の下から両腕を通して僕を持ち上げてラフェルがジェンガに向かって歩き出した。


「わっ! 歩けるから! 降ろしてっ!」

「ダメだよー。ボクが抱っこしたいの」


 暴れたらラフェルを蹴っちゃいそうだし、渋々そのまま巨大ジェンガの前に揺られながら行けば、一本の太さが1メートルくらいありそうなジェンガは一段に十本積まれてて、おもむろに、ラフェルが蹴りつけて、スコンと抜けた。

 抜けた棒はミサイルみたいにそのまま真っ直ぐ飛んでいった。


「ドアくらい作れってゆーの」

「あの、バランス、取らないと崩れちゃうよ?」

「へーきへーき。壊れたらデムテアの作り方が雑なんだから」


 そういうと端から更に一本、爪先でスコンと蹴りぬき、横になってるのも回し蹴りで抜いた。


 あぁぁぁ……そんなバランス悪くして、傾いたらもう直せないよ。


 あ、でも一段十本なら、大丈夫なのかな。


 というか、こんなみっちり積み上げてたら中にスペースなんてない気がするんだけど。

 四角くなってるところの角が無くなったらそこからラフェルが入り込んだ。

 どこにお部屋のスペースが。


「やァ、まってたョ」


 中に居たのは白衣みたいなのを羽織ったクマのすごいお兄さん。

 何故かアルコールランプとフラスコで青いお茶? お茶でいいのかな、を沸かしていて、椅子に座ったラフェルの上に座らされた僕にカップを渡してくれた。


 後、なんか、錠剤みたいなのがコロコロ入ったお皿。


 飲みたまえよ、と勧められたけど青いお茶にちょっと手が止まったけど、デムテア様は気にした風もなく一すすりしてうんうんと頷いた。

 なんかラフェルは止めてくれてたけど、折角出してくれたものだし、とカップを持ち上げた。


「うン。うまいネ」

「……いただきま」

「薬効成分がよく出てるョ」


 僕はカチャリとカップを置いた。


 薬効成分って何。


「おヤ、口に合わないかナ」

「そういう問題じゃないでしょ、マッド野郎。ユウトは手をつけたらダメだからね」

「ははは! それがいいョ。うン、その方が懸命だネ。知らないものを安易に口にするものじゃないョ」

「そういうものを客に出すんじゃないの」

「馬鹿だナ、ラフェルは。対処の仕方で為人が分かるなんてこんなラクな性格診断もないだろウ?」

「そーゆーのいいから恩恵!」

「せっかちだネ」


 やれやれと、かぶりを振ったデムテア様が僕に握手を求めてきたから握手をすれば、【既知情報閲覧】という難しい感じの恩恵を貰った。


「それはネ、すでに知っている事をちゃんと頭の中で整理出来る恩恵だネ」

「知ってる事、ですか?」

「そゥ、知らない事は分からないョ。学ぶ事の大切さや、好奇心は進化にとても必要なものだからネ。ただ、人というものは物事をそれはそれは、良く忘れるからネェ。つまりは備忘録みたいなものサ」

「ありがとうございます。とても助かります」


 それは、覚えないといけないことが今とてもたくさんある僕にはとても助かる恩恵だよ。


「後二つ、【神気交信】と【秘密の箱】をあげよウ。こっちは人に教えたらダメだョ」

「教えたら、ダメなんですか?」


 そんなものを貰ってもどうすればいいか分かんないんだけど。


「【神気交信】は、神であるワタシ達とやり取りをする為の恩恵だネェ。便利ではあるけど、こんなものを持ってると知られたら煩いハエが寄ってきちゃうからネェ。だから、【秘密の箱】もセットであげよウ。これは隠したい事を隠す為の恩恵だから、この二つを隠すようにネ。他にも人に知られたくない事が出来たらしまうといいョ」


 知られたくない事……。


「……それは、恩恵だけなんですか?」

「いヤ、何でもいいョ。ユウトくんが知られたくない過去でもいいョ。でも、あまりオススメはしない。その使い方は頭の中にとても負担になる。何せ記憶というものは単独では存在しないからね。どれも他の何かと繋がってるから、下手に蓋をすると、辻褄が合わなくなる。それに自分では思い出せなくなるからね。まァ、使うのはユウトくんだから、ワタシの忠告を聞くも聞かぬも自由にしていいョ! ははハ!」

「…………わかり、ました」

「ユウト……そんな事したらダメだよ? ユウトが壊れちゃう」

「うん、大丈夫」


 あれだよね、世の中そんなに甘くない。みたいな。


 恩恵って言ったって、人から見て悪人な人でも貰えたりするんだから、いい事ばかりじゃないよね。


 だから、大丈夫……。

 大丈夫だから、そんなに強くしなくてもいいよ、ラフェル。


 ぷりぷりと怒ったラフェルは、僕を抱えたまま外に出ると、巨大ジェンガに怒ったのをぶつけるみたいに蹴りつけて、スコンスコンと棒を抜いていった。


「ラフェル!? そんなにしたら倒れちゃうよ!?」

「倒れればいーし! むしろ、倒したらスッキリするから! くぬっ! くぬっ!」


 あ


 と思った時はすでにグラリと傾いて


 倒れる


 と思った時には既に跡形もなくジェンガは無くなってた。


 ……あれ?


「ラフェル、危ないだろウ?」

「ユウトに変な恩恵あげるからだし! いーっだ!」

「それで崩れたものにユウトくんが巻き込まれたらどうするのサ」

「そんなヘマしないし!」

「そういう問題じゃないんだけど、言っても分かってくれないんだろうネェ」


 またネ、と言ったデムテア様に手を振って聖堂に戻る。


「【既知情報閲覧】ね。これでは子爵が見聞きしたものしか意味がないわけだけど、記憶の片隅にでも残っていれば引き出せるって事だから、悪くないよね。悪くはない」

「僕は、凄いありがたいなと思ってるんですけど、何かダメでした?」


 何か腑に落ちないって顔で考え込む殿下にみんなで何がおかしいのかを話し合う。


「【既知情報閲覧】というのは初めて聞きましたね、私は」

「俺もだな。聞くに有用な物だと思うが」

「僕も初めて耳にしますが、似たようなものに【記憶保持】や【記憶固定】などがありますよね。どちらも記憶力を劇的に高めるものですが、何が違うのでしょうか」

「その二つは何が違うの?」

「【記憶保持】は徐々に薄れてはいきますが、早々忘れなくなるので、まずは問題無くなります。【記憶固定】になると忘れることがありません」


 どっちも記憶力が凄くなって、少しは忘れちゃうのと、絶対忘れないのとの違い、って事だよね。


「あれ? 違うよ。デムテア様は、人はよく忘れるから備忘録みたいなものだって言ってたけど、【既知情報閲覧】は忘れなくする恩恵だって言ってないよ。知ってることを整理する事が出来る恩恵だって言ってた」

「それは……何か違うのでしょうか?」

「俺には言葉遊び程度の違いにしか思えぬが」

「忘れない、と、整理出来る、の違いですか」

「あぁ、そうか……分かったよ。子爵、主観と客観の違いだと僕は思う」


 それから殿下が言った事は、結局、それで何が変わるのかよく分からなかった。


 僕が見聞きした事を忘れないのと、それを近くで見聞きした人が忘れないのと、その違いに何か意味があるのかな。


 見聞きした事はどっちも同じなら、何も変わらない気がする。


「上手い例えが出しづらいな。僕の言ってる事も多分そうじゃないかってところだから、正確なところは子爵が【既知情報閲覧】を使ってみないと分からないだろうね」

「なんか、劇を見てるみたいな感じです。話してる内容も劇の台本とかを読んでるみたいな?」

「そんな感じか……。うん。そうか。子爵、この恩恵にあまり頼ってはいけないよ。人はね、良いところよりも悪いところに目が向くんだ。だから、その恩恵を使い過ぎると、疑り深い人になってしまうかもしれない。前はこう言っていた、あの人にはこんな態度でこの人にはそんな態度で、とかね。よく見えすぎてしまうと思うから、あまり見ないようにね」


 真剣な顔で、僕の肩をガッシリ掴んで言われたことにコクリと頷く。


 デムテア様もあまり好きそうには思ってなかった気がする。

 でも、じゃあなんでこんな恩恵をくれたんだろう?

 使って欲しくないのに渡す。

 ってなんか、変だよね。

 それでもこれをくれたのは、何か意味があるのかな。


 レメトの聖堂に向かって歩きながら色々と考えたけどよく分からなかった。

 きっと、ずっと考えないといけない気がする。


 そしてやってきたレメトの聖堂内にある祭壇で、僕は凄くびっくりした。


「子爵は、レメトの聖痕はあったよね?」

「はい……。クシァンテ、アフォス、デムテア、ホロゥ、ロロ、レメトだったはずです」


 指折り数えながら確認したけど、この六柱で間違いない。


 聖痕があるのに何も貰えない、って事はないみたいなんだけど、原っぱに行くこともないし、不思議がりながらも、司祭としてのお祈りの言葉を貰っても反応がない。


「今まで全部で貰えたのが変だと思いますし」


 そう言えば、みんなもそれはそうだと頷きはするんだけど、納得がいかないとも顔に書いてあって、首をひねった。

 そんなに変なことなのかな。


 お留守かもだよね。


 いつでも神様がスタンバイしてるわけでもないだろうし。


「仕方ないね。とりあえず今度また来る事にして今はホロゥのところに行こうか」

「はい」


 なんだろう。

 恩恵を貰いに来てるんだから、貰えないのは残念なんだけど、貰えなくて少しだけ良かったって思ってる。


 こっそりと振り返って、レメトの聖堂を見れば、他と同じくこじんまりとした聖堂がポツリと建っていた。



ちょっと書き直ししまくってたら追いつかれてしまったので2日更新はここで止まるっぽいです。


残りはもちょっとお待ち下さいませ(^^)


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