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不屈 (side モク)

ちょっと久々な別視点です。

本筋も進みますよ。

 

「護衛、ですか?」


 正直なところ、その話を聞いた時に思った事は、何を馬鹿な、とただそれだけだった。

 勿論、話を持ってきたのは私達など吹けば飛ぶ様な存在にしかならない程にはイイご身分な方ではあったが、何故私らが選ばれたのかと言えば、全く見当がつかなかった。


 ケリッヂ・カロステン。


 第二王子付きの副官の男。

 こちとらしがない冒険者だ。

 そこそこ名は売れてはいるが、所詮はそこらの根無し草ではマシな方ってだけで、王子様から覚え目出度くって程ではなかった、はずなのだが。


「そうだ。少々事情があって君達冒険者の方が都合が良さそうだとなって、こちらに話を持ってこさせて貰ったのだ。仕事としては一日、殿下を含めた数人の護衛のていだ。特に危険はないはずだが、念の為の措置となる」


 少々事情があって、危険はないのに普段とは違う護衛、ね。


 横目に相棒を見れば、悩ましげな顔をしている。

 怪しい。

 この上なく怪しい依頼ではある。


 直属の配下が使えないのは何故か。


 ここが一番問題だ。

 私の嗅覚には掛からないが、理性は危険だと言っている。

 だから、断るべき案件ではあるのだが、相手が相手だ。

 安易に断れはしない。


「一つ、確認をさせて貰っても宜しいか?」

「今、話せることであれば」

「もしも危険があった場合に想定しうるものはどの程度であろうか」


 私達も一端の冒険者ではある。

 そこらのチンピラ程度に負けるつもりはないが、例えば第一王子に睨まれる様なことは御免こうむる。

 政争なんてものに巻き込まれたくはない。


「難しいな。まず危険な事にはならない筈だが、まかり間違って危険な事になった場合は、どうしようもないだろうな」


 なんだそれは。

 王族に危険な事が起きてどうしようもないなど、龍の逆鱗にでも触れるか、神罰でも下るか、碌でもない事しかないだろうに。


 重い息を吐いて椅子に深く身を預ける相棒はどうするつもりなのか。


 三年ほど前にちょっとした出来事があって、それから折に触れて依頼を頂く関係を築いて来た。

 堅苦しい事も増えたが、収入も増えた。

 割と良かったと言える。

 そのツケがここで来たって事だろうか。


 断って欲しい、と思うが、そうはならないだろう。


 程なく、結果に満足してケリッヂは帰っていったが、詳細は追って連絡する、との事で、何とも落ち着かないものだ。


 その夜は常になく激しいものだったから、まぁ、悪くはなかったというか、大変満足した。

 次の日、仕事だったら失敗していた事だろう。


 それから二日後、仕事の詳細が来たのだけど


「私らは役者じゃないと思うんだけど」

「言うな」


 噂でだけは聞いていたが、勇者の護衛も兼任かつ情報の伝達もお役目に含まれるし、何よりも、誰を何呼びするだとか、どういった係累なのかの設定台本。

 教会に行くだけだってんだから、危険などそりゃありはしないだろう。

 そう思えばこそ、この面倒極まりないモノを頭に叩き込んでおけば、普通の護衛任務などよりよほど安全で割のいい仕事になろうってもんだけど、子守りに私らを使って、そのせいで本来の護衛からは煙たそうにされて、となると、中々微妙なもんじゃないだろうか。


 迎えた当日、無邪気な子供の面してとんでもないのが来た。

 聞いてはいたが、これで無色だってんだからたまったもんじゃない。

 しかし、接してみれば、中身は気の回る良い子だったわけだが、クシァンテの聖堂に入った途端、膨れ上がったモノに背筋が凍った。


 すかさず外に出る用事を申し付けられたが、正直なところホッとした。

 あんなのが暴走したら何が起きるか分かったもんじゃない。

 もしもの話だ。

 あの坊やが無闇に悪さをするとは思ってないが、世の中絶対にないなんて事はないのだから。


 部屋の外には、近いから感じられるんだろう神官共が、恍惚とした表情で祈りを捧げてるが、正気かと思う。


「アレは、なんだ……」

「知るか。ゆ、味方だってんだから、拝んでおけばいいさ」


 アイツらみたいに。

 そう神官に目を向ければ、勘弁してくれと肩を竦めた。


 ネジュンの聖堂で放出が収まったのは本当に良かった。

 あのままだったら吐いていたかもしれない。

 フェゼットの聖域では、神酒が振る舞われていたので有難く頂戴したが、酒の力でも借りないと平静を保てないのだ。

 うむ、そういう事だ。致し方なし。


 混乱があって酒の席は早々になかった事になってしまったが、それはまぁいい。


「これは私らがやらないといけないのでしょうかね」

「でも、そのままにしとくのもなんか悪いですし」


 宴の後始末をする勇者か。

 あぁ、私はこんな子に何を怯えていたのかと肩の力が抜けた。

 それは、確かに今でも怖いは怖い。

 力の奔流が見えなくなったと言っても無くなった訳では無いのだから、いつ心変わりするかと思えば気を抜けたものでは無い。

 だがそれでも、この子はそんなことはしないだろうと思えれば気も楽になる。

 竜騎士だって、生身で竜に敵うわけもないだろうに使役出来るのだから、要は信頼出来る関係であるかどうかだ。


 程なく一先ずの片付けが終わったところで、次へ向かうことになった。


 そうしてハーレイの聖堂に入ったところで、坊やが首を傾げた。


「あれ? なんか、ダメみたいです」

「ふむ……聖痕がないからかな」


 巫山戯た話だ。ない聖痕の方が少ないってどういう事だ。

 そもそも簡単に神様に会って来ているみたいだが、普通は神様に会えないんだって事が分かっているのだろうか。


 殿下が司祭の代役を務めて、ごく普通に恩恵の有無を確かめれば当たり前に恩恵は授かれているのも何か納得いかない。

 これが神の寵愛を一身に受けるって事なのは分かるが、ハーレイ神の聖痕はなかった癖に、こうもポンポンと恩恵を宿していく姿を見ると嫉妬せずには居られない。

 とはいえ、これも一つの才能と割り切るしかない。

 無い物ねだりしてもいい事なんてない。

 私は私でやれる範囲でやるしかない。

 そう、思っていた。


「……え?」


 《驕ることなく弛まぬ歩みを 挫けることなく前を向かんとする心根を 【不屈】の精神をして折れることなかれ》


 私の中でカチリと何かが嵌る感覚が来たと、覚えのあるその感覚に思わず声が漏れた。


【不屈】は、逆境にあっても心折れる事の無い強靭な精神を保つ汎用性の高い恩恵だ。


 それが、私の中に宿ったのが分かる。

 私に、いや、私を含めた戦場に身を置くものにとっては垂涎の恩恵だ。

 ゼシンは持っているし、アデーロ様も持っている。

 上に行くには必須とも言える。


「若様、すみません。私も恩恵を授かれたので、寄進をさせて頂いても宜しいですか?」

「おや、珍しい。立ち会いで貰えるとは運が良かったね」

「そんなこともあるんですね。モクさん、おめでとう」

「有難うございます」

「僕は【不屈】って言うのを貰えたんですけど、モクさんは何を貰えたんですか?」


 キラキラした瞳で見上げてくる坊やに喉が詰まる。


「私も同じですよ。お揃いですね」


 意識して笑顔を出しながら軽く頭を撫でる。


 この子は10歳だろう!?


【不屈】は、泥を啜る様な思いをして、それでも前を向く恩恵なのだ。大の大人でも投げ出す様な状況にあってなお踏ん張る事で授かれる類のものだ。

 それを子供が授けられるという事は、


『そんな状況でも折れなかった』


 という事だ。


 例えばスラムの子供達は逞しく生きているが、大人顔負けの強かさを持っているあの子達も、【不屈】なんてそうそう持っていない。

 何故なら彼らはそれを普通の事としているから。


【不屈】は、理不尽に抗う意思が必要なのだ。


 そう思えば、私が恩恵を得た事は、ユウト・フタワ子爵というこの坊やにあてられて、と言うことになる可能性が高いが、さすがにこの事だけで得られたとも思えないから、元々恩恵を授かれる直前までは来ていたとする方が無難だろうか。

 そうでなければ不自然にすぎる。


 だが、それと分かって坊やを見れば、この一見幼気な少年に何があれば【不屈】を授かれる様な事になるのだろうか。


 それとも勇者というものは、そうでなければ務まらないのだろうか。


 思い悩みながら仕事をする事は悪手だが、どうしても大して意味の無い護衛であるから頭の隅にチラつく事が止められない。


「どうした」

「いや……坊やって、何者なんだろうってね」


 私が集中してないのをゼシンに見咎められたが、言っても詮無いことだ。

 私らは一介の冒険者で、護衛対象なだけだ。

 仕事に関係ないならば、個人的な事情になど介入する意味も価値もない。


「坊っちゃまはいい子だ。それだけで充分さ」

「分かってるさ」

「分かってねえだろう。坊っちゃまは若い。だが、芯は強いぞ。俺ら冒険者のとは違うだろうが、覚悟のある方だ。モケウ、お前が悩んでるのは坊っちゃまを半人前に見てるからだ」

「そんなことは……」

「お前、坊っちゃまが、親の助けもなく殿下を頼ってこんなことしてるのが、周りの助けがないとは思わんが、普通のことだと思うのか? フタワ子爵家もそうだ。俺は今まで聞いたことがない。特大のワケアリだ。それが普通の子供なわけねえだろう。俺も足りてなかったが、お前も認識を改めろ」

「……分かった」


 そうだ。

 私ら冒険者の中で勇者の噂は眉唾物だった。


 そんな奴がいるっていうならさっさと出てこいと囃し立てた。


 それが急に本物の勇者だと王族に紹介されるわ、勇者は子供だわで、立ち位置が不安定になって、半ば無意識に分かりやすい解釈に嵌め込もうとしていた。

 勇者と言っても子供なのだ。と。


 そして、勇者という並び立つものも実態もないものを、安易に子供だと考えて分けてしまうから、子供らしくない事に戸惑いを隠せなかった。子供が、こんな力を持って恐ろしいと。


 唯一無二である勇者が、人の理解の内にしかいないのならそれは勇者足り得ないというのに。


「……あぁ、分かった」

「仲良くしとけよ」

「それは違うだろう」

「俺は【収納棚】を貰えるかもしれん。今度クシァンテ様にお会い出来たら掛け合ってくださるそうだぞ」

「は!? なんだそれは! 私は何も聞いてないぞ!」


 いつの間にそんな事に、と思ったら地下にいた時しかないだろう。

 確かに傍に居たくなくて他との折衝役に私がなったが、それにしたって、何だってそんな事に……それなら私だって欲しいに決まってるだろう。


 収納系の恩恵があるのとないのとでは、荷物の持ち運びに多大な影響があるのだから。


 ゼシンの【へそくり】は、スリに警戒する必要が無くなる程度の意味しかないが、それでも助かってはいた。

 それが、仲良くなったら【収納棚】をくれる様に話してくれるだと。


「ぐぬぬぬ……だが、それでは下心丸出しではないか」

「だから普通に仲良くしろって」

「今更そう簡単に出来るか!」

「ガボダとヒーヴィーの時の事をまた繰り返すのか?」

「っ!」


 目の前がカッと赤く染まった。


 だが、そうだ。

 そうだ。

 ああいった後悔はしたくないって、そう思っていた。


「ほれ、不屈の精神で行ってこい」

「嫌味か、収納貰える癖に……」

「確約なんかないぞ。それなのにお前はアッサリお零れに預かりやがって。殿下もアデーロもお願いする約束すら貰えてないってのに」

「そう、なのか?」


 何か不思議な気がして首を傾げる。

 どう考えても、今日会ったばかりのゼシンよりも、普段から一緒にいるアデーロ様や、お世話になっている殿下にこそ話をするものだと思うが。


「そんなもんをエサにしないと釣れない俺と違って、お二人はそんな事しなくても嫌われたりしねえって分かってんだよ。お前、金をせびる奴に金持ち紹介するか? しねえだろ。でも、坊っちゃまは、金に困ってるやつに金持ちを紹介してくれようとしてるんだ。そうなれば滅多なことは出来ねえだろうよ」


 だから、普通に仲良くなれと。


 はは、これは【不屈】をやるから仲良くしてくれと、ハーレイ神にでも言われてるって事か。

 情けない。あぁ、情けない事だな。


 オードの聖堂で【身体強化】を授かる坊やに私は一歩踏み出した。


 ここまでお膳立てされて逃げ出したままにするほど腐っちゃいない。



モケウさん=モクさん

です。

リュリュリエリ=リュリュ=リリ

と同じ感じで。

リがゲシュタルト崩壊しそうw


無色とか言うのは、信仰が決まってない人の事になります。

そんなに珍しいことでもないです。


後、ギクシャクしちゃったのはここで回収出来てるはず!


ちょっと恩恵巡りが長いので、ここらへんの区切りの良さそうなところから章わけを後でするかもです。


折り返したから後半分くらい……って長いね!?

後3話くらいは許して下さいw

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