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奔流

 

 ぼんやりと歪んだ視界が、カメラのピントを合わせるみたいに戻ると、そこは神様に会う前の光景で、さっきまでいた原っぱと比べて暗いからなんか変な感じがする。


「───さて、では、不肖の身ではあるが、僕が取り仕切らせてもらおうかな」


 ばさりとフードを脱いで、肩が隠れるくらいの、丈の短いマントみたいなものをまとう殿下を、ぼんやりと見ながら、ぽつりと声を出した。


「あ、なんか終わりました」


 途端、ピタリと動きを止めた殿下達がそろりとこちらに向き直るのに苦笑しながらもう一度、恩恵を貰ったことを言えば、目を見開いて詰め寄られた。


「貰ったって、まだ何もしてないだろう? ……いや、でも、これは……ユウト君、少し見せてもらってもいいかな?」

「えっと、はい、大丈夫です?」


 何を見るんだろうと、とりあえず、軽く両手を広げて、どうぞとばかりに見上げれば、殿下が僕の額に指で触れて、目を閉じた。


「……あぁ、本当だ。五つの恩恵があるね。ちなみにどんなものかは分かってるかな?」

「はい。えっと……【空間把握】【収納棚】【座標転移陣(1)】【装備召喚】【無病息災】ですね」

「あぁ、それは……うん、ユウト君、コホン、子爵は愛されてるねぇ。収納系辺りは貰えるかな、とは思っていたけど、これ程とは……」


 これはまいったね、お手上げだ、という殿下の後ろで、薄ら寒いといった感じで僕を見る、ゼシンさん、モクさんに身体の奥が冷える。


「いやー、坊ちゃんは凄いですね!」


 そこにカラッとした声でアデーロが凄い凄い、と言いながら僕の肩を叩く。


「これが、我らの希望の導だと思うと頼もしい限りじゃないですか! ねえ?」

「あ、あぁ……あぁ、そうだな、そうだとも。何せ、坊っちゃまは我らの勇者様だからな」

「こーら、ゼシン? その名前は出さないって決めてたでしょう」

「いや、すまんすまん。ついな、興奮してしまったよ」


 少しぎこちなくだけど、大丈夫だと笑う二人、肩を強く掴むアデーロに、困ったもんだと苦笑いをする殿下。


 だから、僕も、困った様に笑う。


「さて、しかし、困ったね」


 そうして、何も問題ない事を確認した僕達に思案げな殿下が、悩む素振りを見せる。


「若様、地下を使わせて頂いた方がよろしいのではないですか?」

「そうだね……うん、そうさせて貰おうかな」


 地下って、神殿って事?


 なんだろうと、首を傾げていたら、殿下に指示をされて、ゼシンさん、モクさんの二人共が外に出ていった。

 そうして三人だけになったところで、殿下が頭を下げた。


「すまないね、ユウト君」

「何がですか」

「ふふ。ちょっとね、ユウト君の神気がさっきよりも漏れちゃってるからね、外を歩くと一般の信者にも気づかれそうだから、地下通路を使わせてもらおうと思ってね」


 さっきよりも注目されるのは嫌だろう?

 と言われれば頷くしかない。


 さっきよりも、がどっちにかかってるかは分からないけど。


 程なく戻ってきたゼシンさんが許可が下りた事を殿下に告げると、モクさんを待つことなく別室からハシゴで地下に降りる。


「さて、ユウト君。歩きながら話そうか。ちょっとバタついて悪いね」

「いえ、僕のせいですから」

「何言ってるの。ユウト君が悪いわけないだろう。むしろ人選を間違えたと僕が謝罪しなければならないところだよ」


 そういってゼシンさんをジロリと睨みつける殿下。

 でも、ゼシンさんやモクさんに怯えられる様な事になったのは、僕のこの恩恵のせいだ。

 おじいちゃんから貰ったものだけど、貰ったのは僕だから。


「ユウト、醜い嫉妬ですから、気に病むことはないですよ」

「アデーロ殿、嫉妬とは聞き捨てなりませんな」

「ハッ! そう言いたいなら子供に気を遣わせるなよゼシン。それだけでお前の格が割れるぞ。殿下にももう少し配慮頂きたいと苦言を申し上げなければなりませんね」

「いや、本当に申し訳ない。配慮の方向を見誤ったのは僕の落ち度だ」


 そう思ってたのに、いつもは飄々としてるアデーロが冷たい真剣な顔で殿下とゼシンさんに抗議していた。


「ユウト、こうなる事は予想出来たことなんですよ」

「そうなの?」

「そう。だから、ユウト君に過度に反応しない様に信仰から遠いのを選んだんだけどね。裏目に出たね」

「申し訳ありません。もう大丈夫です」

「そんなわけないでしょ。このまま連れてくのも、交代するのもどっちにしたってユウト君が気にするから、現状維持するけど、二度目はないよ?」

「ハッ!」


 大人なみんなは、知らないところで色々と僕の為にって考えてくれてるんだね。

 今のやり取りだって、きっと、僕が凹まないように、開けっぴろげにしてくれたって事だろうし、うん。

 大丈夫。


 これくらいの面倒はあって当然だから、問題にならないよって伝えてくれたのがちゃんと分かった。


「みんなありがとうね」

「いや〜、今は滅多にできない王族方に文句を言える場面ですから、この貴重な機会に殿下に怒ってもいいんですよ?」

「そうだねー。ユウト君に怒られるのは仕方ないかなぁ。でも、アデーロ、君はもう少し控えてくれると有難いなぁ」


 はははって、二人とも目が笑ってないフリをしてる。

 だから、このフリは、きっとゼシンさんの為のフリだ。


「ユウト殿、先程は大変不快な思いをさせて申し訳なかった。私に挽回の機会を与えて欲しい」

「……えっと、さっきのは僕もちょっと、怖かったです。でも、ゼシンさんも怖かったんだって分かったから、僕もごめんなさい」


 そうして、握手した。

 上辺だけじゃない、ちゃんとした仲直り。


「どう思います? 殿下」

「ゼシンが硬いから、硬っ苦しい感じ?」

「ですよね」


 って思ってたのに、二人が聞こえるようにヒソヒソと嫌味なこと言ってて、ついにゼシンさんが切れた。


「あー! もう、分かりました! 分かったよクソが! ユウト!」

「は、はいっ!」

「そんなぽんぽんと使い勝手のいい恩恵ばっかり貰いやがって、羨ましい! 狡いぞ! 何が【収納棚】だ! 俺なんか【へそくり】だぞ! 小銭しか入らんわっ!」

「ご、ごめんなさい?」

「えぇい、謝るな! こういうのは、自慢するもんだ! もっと堂々としろ! 俺にちゃんと悔しがらせてくれ!」

「えぇ!? ……じ、じゃあ……今度おじいちゃんに会ったら、僕がゼシンさんにもあげてって言うから、僕のこと邪険にしたらダメなんだからねっ! 悔しくっても僕と仲良くしないとダメだからねっ!」

「狡猾なっ! そんなこと言われたって……言われたって……?

 いや、まて、ユウト、お前、クシァンテ神に会ったのか?」

「うん。だから、ゼシンさんが僕と仲良くしてくれたら、頼んであげてもいーんだけどなぁ」

「頼む! いや、頼みます!」

「どーしよっかなー」


 あ、なんか、ちょっと楽しいかも。


 ちょっと悪い事してるのに、なんか、悪くない感じ、みたいな。

 いや、うん、神様をダシにしてなんか上から目線してるのは悪いことなんだけど、ね。


 そんなこんなをギャーギャー言ってる内に、お互いスッキリしたと言うか、うん。

 さっき出来てた溝みたいなのはすっかり無くなってた。


 おじいちゃんに頼む件は、確約なんて出来ないから、今度会えた時にお願いだけはしておくって事になった。


 それを耳ざとく聞いていた二人も、じゃあこっちも頼んで欲しいとか言ってたのは、ゼシンさんと二人で、却下しておいた。

 僕達をからかったのを許したらいけないと思う。


「あー、じゃあ、合図出すぞー」


 そうしてやる気のなくなった殿下がやけくそみたいにハシゴの上に合図を出して、上で話を通して待機していたモクさんに蓋を開けてもらってアフォスの聖堂に入った。




 それで、また同じ様に神様の世界に行く。


 案内役はアフェル。


「こちらへどうぞ」


 と促されてさくさくと原っぱを歩くと、急に視界が切り替わって、砂浜に足を踏み入れてた。


「アフォス様ー! ユウトを連れてきましたよ」

「おぉ! よく来たな!」


 そこにはでっかい見上げんばかりの亀が居て、その上から、トゥッ! と掛け声ひとつ、プールの飛び込み競技みたいにくるんくるん回りながら砂浜に跳んで来た。


 そのまま着地したら、凄く痛そう……と思ってたら、どこからともなくカサカサ寄ってきたカニが、泡をポコンと一つ出して、その上にアフォス様が両足揃えて落ちてきた。


 ドバン!!


 まぁ、一瞬で割れた泡に衝撃を吸収されてなさそうな感じで着地して、砂を巻き上げてたけど。


「ふむ……喝采の声が、聞こえぬ……」


 ばっさぁと海藻ヘアーをかきあげて斜め45度でキメ顔してるザ・海の男って感じの褐色肌の美丈夫が、こちらをチラチラと気にしてる。


「わ、わー! アフォス様かっこいー!」

(ユウトも、お願いします)

「わ、わー! アフォス様すごーい!」


 アフェルも僕も明らかな棒読みで、一応拍手なんかはしながら讃えてみる。


「そうであろう? そうであろう??」


 それでも、ゴキゲンな感じでうむうむと頷いてたアフォス様。

 激しい着地でも痺れた様子もなくこっちに一歩足を踏み出して、ふと止まり、カニにズカズカと詰め寄る。


「貴様も我を賛美せんかっ!」


 言うやいなや、カニのハサミをガッシと掴むとバキッとへし折って、それをぶら下げながら改めてこっちに来た。笑顔で。


 どーゆーことー!?


「せっかく来たんだ、カニをやろう」

「有難く頂戴します」


 さっと手を出したアフェルがカニのハサミを受け取った。

 カニはカサカサと亀の後ろに消えていった。

 カニさん……強く生きて!


「なんだ? カニが気になるのか?」


 そんな僕の視線に気づいたのか、アフォス様がそんな事を仰ってるけど、気になるって言ったらどうなるのかと思うと首をブンブン横に振るしか僕には出来なかった。


「そうか! じゃあ恩恵をやろう!」


 ニカッと笑ったアフォス様の差し出した手を握れば、恩恵を授かったのが分かった。

 あれ……でも、これ……。


「俺は、ゼリーが好きだ! 海藻使うところなんか特にいいと思うぞ! 励め!」


 そうして、ビシッと親指を立てたかと思うと海に向かって走っていった。


「えっと……終わり、でいいんですよね?」

「はい、お疲れ様でした」


 戻りましょう、というアフェルに先導されてまた原っぱに戻る。

 そのハサミは、どうするんだろう。

 あのショッキングなあれで、食べられるのかな。


「ちなみに、いいお出汁がとれますけど、お持ちになりますか?」

「うぅん……僕はいいや……というか、食べるんだ、それ」

「あのカニのハサミはまた生えますし、何も問題ありません」

「生えるの!?」

「生えます」


 そっか、生えるんだ……でも、やっぱり、なんか、ダメな気がする。


「では、また次で会いましょう」

「うん、またね」


 ひらひら手を振るアフェルに僕も手を振り返して、視界が滲んでいった。




「戻りましたー」


 きっとさっき入ったばっかりなんだろうけど、一応そう声をかけて、みんなに報告をする。


 みんなも二回目でもう分かってたのか、動揺することなく、受け入れると、確認作業だよね。


「今回は、一つだね」

「うん……」

「浮かない顔だけど、何か変な恩恵でも貰ったんですか?」

「うん……【海藻繁茂】だって」

「は?」


 アフォス様がゼリーが好きだって話して、ゼリーの材料に海藻を使う事を話したらすごく笑われた。


「いや、困りましたねー。ウチは海に面してないから、その恩恵にはしばらく預かれませんね」


 この先もこんなのあったらどうしよう……。



海もないのに海藻を育てる恩恵を貰うユウトw

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