宝石箱とお散歩
一応先に。
法律とかを軽視する意図はありません。
当作の世界観の中で起きた事なので、子供への飲酒を勧めるものではありません。
お酒は二十歳になってから、です!
アイリスさんの馬車が来たよって教えて貰って、玄関のとこまでお迎えに行けば、いつも通りの馬車にいつもと違うアイリスさん。
濃い黄色のドレスに淡い緑色のカーディガン? ストール? を羽織った可愛い感じ。
それにレースとかフリルとかもいつものドレスより多くて、お茶会に出る時のアイリスさんはこんな感じなんだって思った。
「アイリスさん、いらっしゃい」
「ユウトさん、本日はお招きに預かりまして。お手をお貸し願っても?」
「うん、もちろん! えっと、こちらにお手をどうぞ?」
慣れない僕の差し出した手にくすくすと笑いながら、手を重ねて、ふわりと降りてきたアイリスさん。
「今日のアイリスさんは可愛いね。ドレスも華やかでお花みたいだよ」
「有難う御座います。今日はちょっと冒険してみたんですけれど、似合ってますか?」
「アイリスさんに似合わないドレスの方が少ないと思うなぁ。あ、えっと、なんか花畑にいるお嬢様って感じで可愛いと思います」
「ふふ、有難う」
女の人が着飾ってくれてたらちゃんと褒めるのも貴族の嗜み、だからね。
うん、みんなに聞けて良かったな。
「後、今日はお友達をお連れしたのだけれど、大丈夫ですわよね?」
「うん、アイリスさんのお友達なら大歓迎だよ」
「だそうですから、降りていらして」
「うー……あたしも、ちゃんとしたドレスとか着てきたかった」
「視察帰りなんだから仕方ないでしょう?」
「そうだけど……」
こうでもしないと今はピエレを呼べないんだから仕方ないけど、アイリスさんのドレス姿があるからなんか恥ずかしいのかな、やっぱり。
「ピエレは元が凄く可愛いんだから、大丈夫だよ」
「ほんとう?」
ドアからひょっこり顔だけを出したピエレに笑顔で手を差し出して、さあどうぞって声をかける。
「可愛くて綺麗な聖女様をお迎え出来て嬉しいよ」
「本当にそう思ってる?」
「びっくりするくらい可愛いお人形さんみたいだなって思ってるよ」
「お人形さんはちょっとイヤ」
「可愛いお嬢さん、僕の手を取ってくれませんか?」
「仕方ないわね、そんなに言われたら手を取らないのも失礼だものね」
ようやく降りてきてくれたピエレは、前と同じような白を基調にした高級そうだけど、装飾の少ない神官服みたいなものに身を包んでいた。
装飾は少ないけど、端々の色んなところに縫い付けられてる刺繍は細かく丁寧に針を通されていて、聖女に相応しい服装だと思った。
「ピエレは色白だし綺麗な銀髪してるんだから、変に色のある服装よりもこういう服が似合うと思うよ」
「あたしだってアイリスみたいな服とか着てみたいんだけど、ユウトがそういうなら、うん、いーわ」
「瞳の色に併せて紫とか、藍色とか、少し濃いめのドレスとかは似合いそうだけどね」
「あたしの服って白ばっかりだから、そういうのもいつか着てみたいな」
「その時は僕にも見せてね」
「当然よ」
そうやってピエレもなんとかエスコートした後に、もう一人、神官の男の人も降りてきた。
背が高くて、それでいてここの人達には珍しく凄く線の細い人。
薄茶の髪を短く整えて、優しげな顔つきをしていて、僕と目が合うと人懐っこい感じで笑ってくれた。
「お初にお目にかかります、勇者ユウト様。キーガーと申します。この度は、聖女様のお付きとして同行させて頂いております」
「キーガーさんですね、よろしくお願いします。あまり堅苦しいのは僕が慣れてませんので、礼儀がなってないところは目を瞑って頂けるとありがたいです」
「いつもは聖女様も窮屈な思いをされる事も多かろうと思いますので、むしろそちらの方が貴重な機会かもしれません。目くじらを立てる様な事は致しませんので、どうかお気になさらず。私個人にはむしろ無礼で構いません」
「えっと、ご厚情に感謝しま───」
「キーガー、長い! ユウトが困ってるでしょ!」
「すみません、聖女様」
パコンと杖で頭を叩かれて、頭を下げたキーガーさんだけど、どう考えても経験の足りてない僕が悪い気がするんだけど。
後、そんなジャラジャラした杖で叩かれたら凄く痛そう。
「ピエレ、大丈夫だから。仮にも聖女様なんだからそんなすぐ人を叩いたりしたらダメだよ」
「え……ちがっ」
「こんな頭の重そうな杖で叩かれたらピエレだって痛くて泣いちゃうでしょ? 自分がされたら嫌な事はしたらダメ。それこそ聖女様じゃなくても」
「いえ、勇者ユウト様、これは自分の不徳の致すところ。聖女様にお叱り頂けるのも目をかけて頂けているのだと思えばこそ、遠慮なく、容赦なく、指導を賜るのも、えぇ、至福の一助となりましょう」
「ピエレはいつもこんな事をしてるの?」
「してる、けど、違うんだったらぁ!」
もー! って地団駄踏んでるけど、体術とか剣術とかのそういう訓練とかじゃないんだから、あんまり人を叩いたりしないで欲しいなぁ。
キーガーさんもなんか納得してるみたいだから、そんなに強くは言えないけど。
「勇者殿、私は今日はお嬢様に着いていられませんので、お茶会の間は、よろしくお願いいたしますね」
「あれ? そうなの?」
「はい、夕刻までにはお迎えに上がりますから、それまでお嬢様方と楽しんで下さいませ」
「そっか。じゃあ、お土産は帰る時にアイリスさんに持ってって貰うから、後で食べてね」
「有難う御座います。後ほど頂戴しますね。では、失礼します」
馬車の中から会釈して去っていったイシュカさんを見送って、ようやく屋敷に入ると、そのままエントランスのとこを突っ切って、庭の方に面してるサンルーフになってるところに案内をした。
天気が悪かったら他のとこにしないといけなかったから、晴れてて良かった。
せっかくゼリーが綺麗なのに、明るくないところだったら魅力も半減しちゃうもんね。
「わぁ、ユウトのお家はこんな場所もあるのね! 素敵……」
「花とかあったらもう少し見てても楽しんで貰えたんだけど、いつもはここで体術とかの訓練もしてるから」
「そんな事ないよ。神殿にいると、どうしても陽の光は少なくなるから、ここは明るくていいわ。ガラス張りのお部屋とかも、温室以外ではあまりないし、気持ちのいい場所ね」
笑顔でキョロキョロと視線を巡らせるピエレを見て、そういえば神殿は地下の方がメインなんだったなと思った。
今日は視察とかで外に出てたみたいだけど、肌の抜けるような白さを見れば、あまり日に当たらない生活をしているんだと分かる。
尤も、不健康そうには見えないから、ずっと日の当たらない場所にいるわけではないんだろうけど、どんなに広く空間を取られていても、どんなに地下まで光を通していても、やっぱり閉塞感はあったんだろうなと思う。
テリアとリリに椅子を引かれて四人でテーブルを囲んだら、早速とばかりにおしゃべりが始まった。
「ユウト、そういえばアイスは今日はあるの?」
「うん。置いといたら溶けちゃうからね、今用意してくれてるから、ちょっと待っててね」
「ピエレったら、ずっとズルいズルいって駄々をこねるのよ」
「だってあたしはユウトに会いに来れないのに、アイリスばっかりユウトと一緒に美味しいものを食べてるだなんてズルいに決まってるじゃない」
「ピエレのところにも、保冷箱とかはあるんだよね? もし気に入ったら少し持って帰る?」
「キーガー、聞いてたわね? ちゃんとアイスを置ける場所を取っておいてね?」
「もう確保してありますから大丈夫ですよ」
「後で特別にご褒美をあげるわ!」
「ありがたき幸せにございます」
そんなやりとりをしてる中に、失礼しますと、小さく声を上げてエニュハが、続いてカノンがワゴンを押しながら入ってきた。
エニュハのワゴンには、冷やされた底が浅めのスープ皿みたいなやつに盛り付けられたアイス。
カノンのワゴンには、小さい寸胴みたいな円柱型の入れ物に、冷やしたお水と、ゼリーを詰めた瓶を入れたもの。
がそれぞれ乗せられている。
焼き菓子みたいなのは、みんなが来た時にテーブルに並べられてたけど、こっちはそのままにしておけないからね。
「失礼、します」
ぺこりと頭を下げたエニュハが、それぞれの前にお皿を並べてくれている。
というのも、やっぱりカノンは説明するとなると緊張してしまうとの事で、作ってくれた料理人といえばカノンなんだけど、一緒に作業をしてくれてたエニュハが前に立つ感じになった。
「こちらが、現在、当家で、作られている、アイスの、新作に、なります」
「新作……?」
首を傾げたピエレに首肯しながら、エニュハが説明をしてくれる。
「はい。ご主人様の、お作りに、なられたい、アイスには、まだ、至ってません、ので。なので、今、作れる中で、一番の、アイスに、なります」
いつも品評会みたいに味を見てる僕と、よく食べてるアイリスさんは、ただそれを聞く。
初めてのピエレとキーガーさんの間に立って、お皿に盛られたアイスの説明を続けてくれる。
「こちらに、三つ、あります、アイスは、真ん中の、ものが、何も、混ぜられていない、アイスだけの、もの、です。
右に、あります、赤いものが、数種の、ベリーを、合わせた、ジャムを、練りこんだ、もので、甘酸っぱい、味と、アイスの、優しい、甘さが、合ってると思います。
左の、ものが、焼いた、ナッツを、混ぜた、ものに、なります。アイスの、甘さの、中に、ナッツの、香ばしさとが、より、引き立つかと、思います。
お好きな、もの、からで、良いですが、出来れば、最初は、真ん中の、何も、混ぜていない、アイスから、お楽しみ下さい、ませ」
普段はあまりしゃべる方じゃないエニュハだけど、頑張って説明してくれた後に、ほうとひと息ついてから、一歩下がって頭を下げた。
「へぇー! この左右のが新しいアイスなの?」
「右のベリー入りのは、アイリスさんも食べた事もあったよね?」
「えぇ、アイスだけのものより酸味があって、口の中でとろけるのが美味しかったわ」
「じゃあ、新作はナッツ入の方だけ、でいいの?」
「一応、そうなんだけど、ベリーの混ぜる量を変えたから、また前のと違うと思うよ。だから、ピエレとキーガーさんは、これの感想を教えてね。後で、前のも持ってきてもらうから、そっちはその後でね」
「まだあるのね! 楽しみだわ」
「分かりました」
「アイリスさんも、前のとどっちが好きか教えてね」
「ふふ、分かったわ」
そうして、初めてのアイスに目を丸くしてオカワリをするピエレや、新しいアイスに目を輝かせるアイリスさん、何やら真剣にナッツ入りのアイスをつつくキーガーさん、と三者三様な感じで、アイスを囲んで盛り上がった。
ひとしきりアイスを堪能して、空になったお皿が下げられる。
そこで、まったりと反芻しながらお茶を啜っていると、アイリスさんから、もう待てませんとばかりに声がかかった。
「それで、あちらのもう一つのワゴンにはなにがあるのかしら」
アイスに夢中で全然気づいていなかったピエレの瞳がキラキラと輝く。
「アイスじゃないのもあるの?」
背の高いキーガーさんからは、立たなくても少し見えたみたい。
「ワインか、ジュースか、そんな所でしょうか?」
「ワインは、あたしは飲めるけど……ユウトは大丈夫?」
「飲めないよ? というか、ピエレは飲めるの!?」
「あたし、聖女だもの」
聖女だとなんで13歳でワインが飲めるのかは分からないけど、昔のヨーロッパの人みたく、水の代わりにワイン、みたいな感じなのかな。
と、そんな疑問にハテナと思ってたら、キーガーさんが教えてくれた。
「ピエレ様は聖女ですから、教会に奉納されたものを受け取られるのも仕事になるのです。ですから、奉納されたものには一度口をつけて、感謝を伝えねばなりませんので、ワインなども嗜まれるのですよ」
「へぇー。じゃあ、普通の子供は飲まないのかな」
「いえ、強い身体を作るにはお酒も必要ですから、酔わない程度に飲むことは奨励されていますね。もちろん、酒精が強過ぎれば身体に悪いので、子供にはジュースと感じられるくらいには薄めてますが」
「じゃあ、僕が気づいてなかっただけで、今までも飲んでたのかな?」
「おそらく、生のワインでなければ多少は」
控えてるテリアとリリの方に顔を向けたら二人揃ってこくりと頷いてたから、僕が知らない内に飲んではいたらしい。
全然気づかなかった。
「ユウトさんは大丈夫みたいですけど、夜に寝れない子供を寝かしつけるのにも使ったりするんですよ」
「あぁ……お酒飲むと……寝れるもんね」
お母さんとか、そんな感じだったもん。
「……でも、その瓶の中はワインでも、ジュースでもないよ」
「「「??」」」
じゃあ何が?
って三人とも思ってるみたいだから、カノンに合図して、瓶を取り出して貰った。
「まぁ……」
「わ、綺麗」
「これは……凄いですね」
透明な瓶の中に、色とりどりの光が透けて煌めいてる。
その極彩色の輝きの中に小さな星みたいなものが浮かんでいる。
綺麗に出来て良かった。
何度も、ジュースで色と味を付けたゼリーを固めて作った、ゼリーの宝石箱。
傾けて固定したりして、タケノコみたいに折り重なる様に何度もゼリーを積み上げて作った。
星みたいに見えてるのは果物の身で、丸ごととか、房の一つまとめてとかだと、瓶の入口でつっかえちゃうから、ほぐして入れるしかなかったけど、綺麗に仕上がって良かった。
予想してた通りって言ったら、少し意地が悪いかもしれないけど、みんなにびっくりして貰えてよかった。
頑張ってくれたカノンも、エニュハも、テリアも、リリも、ここにいない他の人たちも含めて、みんなきっと思ってるよね。
どうだ! すごいでしょっ!?
って。
カノンを手招きして瓶を渡してもらう。
ひんやりと冷えた瓶を持って、光に透かすようにくるくると回せば、興味津々に瓶を見つめてくれていた。
「これが、ゼリーってお菓子だよ」
「これは、お菓子なのですか……?」
「え、飲み物じゃないの?」
「瓶の中から、取り出せるのでしょうか?」
テリア、リリ、エニュハの三人が、みんなの前に小さいけど底の深いガラスのボウルとスプーンを用意しているのを見ながら、カノンに手渡されたコルク抜きで、コルクを取ったら、それをカノンに返して、代わりに今度はマドラーを貰う。
「まさか……」
そのまさかだよって、マドラーを奥まで差し込んだら、なるべく瓶の内側をなぞるようにぐるんぐるんと掻き回す。
「あーっ!」
途端に綺麗な中身はぐちゃっとなっちゃうけど、まだまだゼリーの塊は結構な大きさのまま。
そのままマドラーでかき混ぜたいんだけど、そうすると、カンコンカンコンと結構な音が出ちゃって、さすがにお茶会でそんな煩いのは良くないみたいだから、代わりに皮製の布をまたカノンに貰う。
それで、瓶の口を塞いで、ギュッと掴むと、ブンブン上下に振って、ぐっちゃぐちゃにすれば、完成だね。
「ほぅ……」
さっきまではあんなに綺麗だったのに、なんてことするんだって顔をしているみんなに、笑顔でちょっと待ってねと伝えて、カノンにお願いして、みんなの前に用意したボウルの中に、注いでもらう。
そうすれば、ほら───
「わ! すっごいキラキラ!」
「確かに、綺麗ですね……最初はどうなることかと思いましたが」
「この様に砕けているのに、何とも美しい。見るに堪えない様なものになるかと期待していましたがこれは……」
「キーガーはちょーっと抑えようね」
「失礼しました」
「このツブツブは果実の身ですか?」
「うん。ゼリーのままだとそんなに味がしないから。でも、ゼリーの色は全部果物のジュースなんだよ。だから、あっさりしてるけど、ツブツブのおかげでちゃんと味も楽しめると思う」
「んぅー! 冷たくて美味しいっ!」
「見た目も華やかですわね。途中、少々驚かされましたけど」
「カップとかにそのままでも作れるんだけど、お土産にしてもらおうと思ったらそれだと運べないからね」
「あぁ、だからわざわざ……せっかく綺麗なままでもその場でしか食せないのは残念なものですからね」
「あら、それは悪いことではなくてよ? そのお店でしか提供出来ないとなったらみな集まるもの」
「それだとあたしが食べられないから、ちゃんとお持ち帰り出来るように作ったユウトは偉いわ」
「良かった。じゃあ、この“ゼリーの宝石箱”はピエレに奉納だね」
「貰えるのは嬉しいけど、奉納はイヤ」
「奉納ですと、他の方々にもお与えにならないといけませんからね」
「そーじゃなくて、ユウトからの贈り物がよそよそしいのは寂しいの」
「分かっておりますよ」
「冗談だからね? ちゃんとプレゼントだからね?」
「……この、ゼリーの名前は、ゼリーの宝石箱、というの?」
「あ、うん。宝石みたいに見えない? このゼリー」
「いいえ、とっても良い名前だと思うわ。あたくしも気に入ったもの。また今度、ピエレのいないところでご馳走してね」
「あー! また、ズルいっ!」
「ズルくありません、あたくしのお仕事はユウトさんの魔法の先生なんですから」
「じゃあ、教会に来た時の案内はあたしがするから! ね、ユウトもいいでしょう!?」
ぶーとむくれたピエレだったけど、魔法や恩恵なんかを使うには結局は教会に足を運ばないといけないのに気づいてパッと顔を輝かせた、けど。
「えーっと、それなんだけどね、ピエレに案内してもらっちゃうと、騒ぎになるからって、コルモ殿下にお願いしてあるんだよ」
「そんなぁ……キーガー、何とかして!」
「いや、さすがに無理ではないでしょうか? 信者をみな神殿の外にほおりだすというなら構いませんが、出来ませんよね?」
「……むー、そこまでしなくたっていいじゃない。ユウトと仲良しなのが、そんなにいけないことなの?」
むすーっとしちゃったピエレだけど、そりゃあ、嫌にもなるよね。
友達に会いに行くのに大人の事情とかで全然自由にならないんだから。
ここにはマスコミみたいな存在は少ないだろうし、情報もテレビやラジオ、携帯にパソコンとかでばーっと広がったりはしないけど、だからこそ、人から聞いた話が、世の中のことを知る為の情報源で、間違ってても直しにくい。
僕が勇者としてみんなにわかって貰えた後なら、それでも、好意的に見てもらえるかもしれないけど、今はどこのだれかも分からない子供に過ぎないから。
どうにかこうにか、みんなでピエレを宥めて、あれやこれやを話した結果、お散歩する事で、妥協する事になった。
僕の部屋でのお散歩。
それはお散歩なのかな?
ピエレを振り返って見れば、にこにこと笑顔で僕の後ろをついて歩いてる。
「本当にこれでいいの?」
「これがいいの」
「うん、それなら、分かったよ」
「えへへ」
視線を下げれば、僕の手には紐が握られてて。
分かってる事だけど、その紐はピエレの方に伸びてて。
ピエレに付けられた首輪にしっかりと繋がってる。
うん……。
なんで、こうなったんだろうね。
部屋に二人で入る時にキーガーさんに渡されたんだけど、なんでキーガーさんは首輪なんか持ってたんだろう。
ネームタグには“犬”って書かれてるけど、こういうのって僕が知らないだけで、実は普通の事だったりするのかな。
何はともあれ、これでピエレのご機嫌がいいなら、それでいいかな。
普通じゃないから、知らなくて大丈夫だよっ!
イケナイお散歩をしてしまいましたが、理解ってないので、大丈夫です。
大丈夫、です。
次回、イシュカさんの視点でのお話を差し込んで、よーやく教会へと足を運ぶ……予定です。
お待ちくださいー