建前としては偶然
早く落ち着きますよーに!
皆様もご自愛くださいっ
騎士の人達からあれやこれやと教えて貰って二日、少し剣の使い方を学んでオッソにようやく一撃当てることが出来て喜んでいたら、ダスランさんが天を仰いで嘆いていた。
「だからなんでお前はそう前に前に進むんだ」
「仕方ねえだろ。必要な事だ」
ブーブーとむくれて、そっぽ向いて全然反省してなさそうな感じで突っぱねるボラ。
なんか、僕には剣はまだ早いとダスランさんは考えてたらしくて、とりあえず体術の訓練だけって話になってたみたい。
刃物だもんね。
まぁ僕が使ってるのは木剣だから当たると痛い感じだけど。
その木剣も、なんかスポンジみたいなの巻いてあるし、こうチャンバラごっこ的な感じはあるけども。
もちろん、それだけじゃなくて体術の方も最初からずっとやってるけど、ダスランさん的にはもっとちゃんと訓練してからって思ってたみたいでボラと口喧嘩してる。
「主様、あちらはほおっておいて構いませんから一度屋敷に戻りましょう」
「うん」
ペリシーに促されて屋敷に足を向けるけど、いーのかな。
まぁ、僕がいても何か出来るって訳でもないし、教育方針の違いみたいな話だし、まぁいっか。
「ベンドさん! 私達も休憩! 休憩しましょう!」
「んー、まぁ、仕方ねえか……」
ペリオンとベンドもこの状況から脱出するみたい。
まぁ、上司二人の喧嘩に巻き込まれるのとか、ヤダもんね。
屋敷に戻ってみんなで溜息をついた。
「お嬢も自由だからなぁ……」
「なんか、お城から帰られてからピリピリしてる気がします」
「いや、気のせいじゃねえと思うぜー」
「ベンド・バローズ、気になるなら聞いてみれば良いと思うがどうか」
「いや、あれは聞ける雰囲気じゃないでしょ」
「でも、前までの遠慮みたいなのは無くなってて僕は嬉しいけど」
「ユウト君はいいですよね。保護剣ですから。私なんかベンドさんはなんか凄いやりにくくされてチクチクつつかれますし、ペリシーには滅多打ちにされますし散々ですよー」
「ペリオンは、素直すぎます。実戦ともなれば生き残ったものが勝者ですから、少し汚いやり方も覚えねばなりません」
「あれ? ペリシーさんはなんでもうペリオンちゃん呼び捨てなのよ」
「二日も気兼ねなく過ごせば女同士は仲良くなるものだ」
「うわー、十年近い俺との仲は深まらねえのにひっでぇ」
ここ二日で見慣れた感じのやりとりに思わずクスッと笑いがこぼれる。
そこにひょっこりと顔を出したのはカノン。
「ご主人様、飲めるアイスの試作、如何でしょうか?」
「あ、出来たんだ? じゃあせっかくだし貰おっかな」
「はい、すぐにお持てします」
「飲めるアイスはまだ完成じゃないんですか?」
まぁ、シェイクだけど、さすがに作ったこともないから、色々と試して貰ってたんだけど、バニラがないとどうしてもなんか違和感があって、カノンにはそれを見抜かれちゃって何とかしますと試行錯誤して貰ってる。
元々創意工夫するのは苦手だから悪戦苦闘って感じだけど、エニュハがあまり考え方が決まってないから、アイデア出しをエニュハ、それの実現がカノン、みたいな分担で頑張って貰ってる。
「ご主人様ー! 試作品五番目、ですよ! どうぞ、です」
「エニュハ、ありがとー」
「……どう、ですか?」
「んー……これはこれで美味しい、かな?」
「やっぱり、バニラ、とか、いうのが、違います、か?」
「うん。味を言葉にすると甘いミルクみたいな感じなんだけど、やっぱりバニラはバニラ味とも言えるからねぇ」
「若旦那は、これで不満なんだもんなぁ……俺には何が不満なんだかサッパリだ、ですよ。エニュハちゃん、美味しかったよ」
「ありがとう、ございます。ベンド様」
みんなも美味しかったと口を揃えて言ってくれるけど、バニラを知ってる僕はどうしてもこう、コレジャナイって感じがしちゃうんだよね。
メノからもまだ時間はあるから、って色々と実験してもらってるけど、どこかで区切らないとダメかなぁ。
バニラビーンズ、ないのかな。
他にもなんか考えておかないとダメだなぁ。
まぁ、アイスだけでみんなのお金を稼ぐってのがそもそも間違いかもね。デザートだし。
それに、そこらへんは屋敷にいるみんなでいくらか頑張れるけど、教会に行ってお祈りしてスキル貰ったら、ようやく冒険者……の見習いになれる感じ。
騎士とか国に所属してる人達は、基本的に冒険者の仕事を取ったらダメ! とかで冒険者の仕事は出来ない決まりみたいだから、そこまで行ったら、なんというか、世間的にもちゃんと大人扱いだそうだ。
この世界は子供でも仕事しないと生きていけない人達がたくさんいるから、子供でも仕事をしてる事が多い。
だから僕でも冒険者にはなれる。
それで、冒険者になれば、僕でもお金を稼いだり出来る。
法律とか、他にも色んなルールがあって、今護衛してくれてるみんなは街中までだから、冒険者のお仕事をする時は他の誰かと一緒に行くか、一人で行くかになっちゃう。
そこらへんは誰かに手伝って貰えるのかな。
そんな事を考えてたらメノに呼ばれたから執務室に行って話を聞く。
「ユウト様、オルトレート卿の書状で教会へ行かれる日取りは決まりましたから、その前に聖女様とお茶会の予定を入れて差し上げて下さい」
「……なんで? いや、嫌とかじゃないけど」
メノからそんな事言われたけど、ピエレだって王子様が案内なら無理に着いてきたりしないと思うけど。
なんで、と思ったら、酷く真剣な表情でメノがキッパリと言った。
「女心は複雑なんです」
「あ、うん……そうだね?」
「それで、ユウト様がそのままお誘いするのは少々問題がありますので、アイリス様に仲介をお願いしたいと思いますが宜しいでしょうか?」
「ピエレとお茶会するのにアイリスさんに頼むの?」
アイリスさんに頼むのは問題ないのかな、と思ったけど、多分、僕には分からない教会のなんかとか、貴族のなんかとか、大人のめんどくさいところが関係してるんだろうね。
「アイリス様はユウト様の魔法の先生でいらっしゃいますから、日頃の感謝をお伝えする形を取りまして、内々にアイリス様から聖女様を伴って下さる様に取り計らって頂きまして、偶然お時間のあった聖女様と少し歓談されるのに丁度良いから……と、ユウト様のお茶会にお邪魔される、という流れになる予定となっておりますが、大丈夫でしょうか?」
ほらぁ! メノはゆっくり話してくれてるけど聞いてるだけでもめんどくさい感じになってるし。
「えぇと、うん、それでいいよ? でも、それなら僕が、アイリスさんのとこに行く方がめんどくさくないと思うんだけど。偶然感はそっちのが良くない?」
「アイリス様のご実家にお呼ばれとなりますと、方々からやっかみが出ますし、他にも偶然居合わせる方が出ますから」
「そうだね……僕とピエレが偶然でもお茶会出来るなら、偶然で来た人もお茶会に出れないわけないもんね」
偶然の使い方を間違えてると思う。
「まぁそのようなわけでして、建前としては偶然なので贈り物を先に用意するのは間違ってるのですが、本音としては聖女様をお呼びする事になります。なので、贈り物を用意しないのもダメですが、どこかのお店で買ってしまえば、必ず話が漏れますので、買いには行けません」
「…………えぇ……?」
も、もう、どっちが建前で、どっちが本音なのか、分かんなくなってくる。
「なので、アイスの他に何か、贈り物として恥ずかしくない感じのお菓子をお願いしたいのですが、何かありますでしょうか?」
贈り物として恥ずかしくない感じのお菓子って何だろう?
「ちなみに、どんなのだと、いい感じの贈り物になるの?」
「そうですね……贈答用だとすると、お菓子ではなく高級な果物などが喜ばれますが、それはアイリス様もピエレ様もよくお贈りされていると思います。なので、少し保存のきくお菓子などがあれば、と思ったのですが、何か思いつきませんでしょうか?」
えぇっと……ここに来てから出して貰ったお菓子は、クッキーみたいなのが多かった、よね。
果物が入ってたのもドライフルーツみたいなのが普通だし、そぅだとすると、新鮮な果物ってそれだけでやっぱり高級って事になるのかな。
ゼリー、作れるかな。
商会長やってるプジョリさんに海藻が欲しいってお願いしたからなんか色々届いてるし、確か寒天っぽい白いのもあった気がするし。
ゼラチンはコラーゲンだったはずだから、お肌にもいいと思うけど、コラーゲンの取り方とか分かんないし。
フルーツ寒天ゼリーとか、見た目もいいし、喜んで貰えるかな。
あ、でも、贈り物、だと容器どうしよう?
「メノ、なんか透明で水漏れしない容器とかあるかな?」
「それはガラスでは駄目なのでしょうか?」
「ガラスかぁ……なんか凄いお高い感じになりそうだけど、貴族の贈り物だと、お高そうな方がいいのかな……」
「そうですね、箔が付くと思われますので、そちらの方が宜しいかと思います」
「じゃあガラスのにするとして……フタはどうしよう……」
「ガラス瓶では駄目なのですか?」
「ゼリーが、飲み物じゃないから、コップみたいなのにフタをしたいなって」
「コップですか……それだと、コルクで栓をする、と言うのも難儀ですね、後で取り外す事も考えますと」
瓶で作れればいいんだけどなぁ。
出すときぐちゃぐちゃになっちゃうし。
うーん、と二人で首を傾げながら考えたけど、どうにも容れ物が問題になりそう。
あ
もう最初から、ぐちゃぐちゃなのがゼリーって事にしちゃえばいいんじゃないかな。
クラッシュゼリーだっけ。
なんかそんなのがあった気がするし、キラキラしたゼリーがボウルに入ってるのをスプーンで食べれば、なんかキレイでいいんじゃないかな、ダメかな。
「メノ」
「はい、何でしょうか? 良い案が浮かびましたか?」
「えっと、例えば、ね? 小さな宝石みたいなのがいっぱいボウルに入ってるのを見たら、キレイだなって思う?」
「えぇ、勿論です。ゼリーとはそういったお菓子なのですか?」
「うん。そっか、じゃあ、瓶でいいや。瓶の口が少しおっきいのくらいなら大丈夫だよね?」
「はい、その程度であれば問題ないかと思われます」
冷蔵庫は、貴族の家とかでないって事はないと思うし、ピエレのとこにもあるだろうから、保存するのはそれで大丈夫だよね。
宝石みたいっていうなら、色んな色があった方が見た目もキレイになるし、ジュースで色付けして、何回かに分けて固めたりしたら、華やかになるんじゃないかな。
なんかオシャレなカクテルみたいな感じでグラデーションになる様にするとか。
アイリスさんはお酒も飲むしワイン混ぜたりしてもいいかも。
ワインゼリーとかもあったはずだし、多分出来る、と思う。
「うん、うん……じゃあ、ジュースをいくつか使って宝石みたいなゼリーを作ってみよっか」
あの海藻の中に寒天があれば!
と、言うことで、キッチンから食料庫に行く。
その前に
「あ、カノン。ちょっと頼んでいいかな?」
「はい。あ、まて何かあてらしいてべ物ですか!?」
「う、うん、そうだから、ちょっと落ち着いて?」
ふんすと鼻息荒く詰め寄ってきたカノンをどーどーと落ち着かせながら、果物の買い出しを頼む。
「……えー、果汁が多めで、酸味の少ないもの……と、香りがきつくないもの……ですね、分かりました。種類はこちらで見繕えば大丈夫でしょうか?」
「うん。オレンジは見た目も鮮やかだから欲しいな。ワインはウチにもあるよね?」
「はい、あります。赤も白もどちらもありますけど、両方使われますか?」
「うん、そのつもり」
「エニュハ、ご主人様に、赤はナラン・デア、白はピスールテ・レア辺りをお見せして、メイド長に確認して頂いて」
「わかり、ました!」
やっぱり料理に関係あるとキビキビするんだよね。
うん、いつか、克服出来るといいね。
駆け出す様に飛び出していったカノンを見送って、エニュハにはメノを連れてワインの方を見てもらい、僕は海藻のところにいった。
「寒天はあるかなーと」
なんか昆布っぽいのとか、ワカメっぽいのとかあるけど、寒天は白いはず。
白い海藻、白い海藻、と思いながらゴソゴソやってると、やっぱりあった。
あった、けど、寒天かどうかはちょっと分かんないね。
一回やってみないとダメだね。
お茶会は三日後の予定だからそれまでにゼリーを作らないと。
と言うか、ゼリー作れるなら、アイスじゃなくていいんじゃないかな。
こっちの方が、多分楽だし……。
でも、コルモ殿下にアイスの事頼んだから、今からやっぱり止めますっていうのはダメかな。
顔に泥を塗る、みたいな。
この前、試食して貰った時は、なんか、まぁまぁだね、くらいのリアクションだったし、ゼリーの方が良かったりするのかな。
まだお試しだから、今度はゼリーを食べてもらおうかな。
それで、アイスより良さそうだったらゼリーに変えてもいいか聞けば、大丈夫……だよね。
そもそもコルモ殿下、男の人なんだから、甘々なのより少しさっぱりしてるくらいの方が良かったんじゃない?
それも後で考えなきゃだね、まずは、この白いのがちゃんと寒天なのか、からだ。
あれ、もし、これが寒天じゃなかったら、どーしよ。
…………いや、これは、寒天、寒天だから。
白い海藻とか、他に知らないし。
ちょっと別視点が交互になってますが、次回はアイリス視点になります。
何も触れられていないペリシーさんの容姿はそこで。