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海神の導 (side エニュハ)

奴隷娘三人目となりましたエニュハです

お待たせしました(^^)

 

 今日はとても凄いことがありました。


 わたしたちが、屋敷のご主人様、ユウト様に買われてから、毎日忙しそうにされていたのですが、そのご主人様が、今日はお休みされたのです。


 護衛をされている方々は夜中もお仕事されているみたいで、かわりばんこにお休みされていましたが、それ以外では、初めてです。


 そして、なんと、ご主人様は屋敷にいる全員に贈り物を手ずからお買いになられて、渡して下さいました。

 わたしにもです。


 一緒の部屋で生活している、カノンさんと、コーリーさんからは、何度も「奴隷はこういうものじゃない。これが普通だと思ったらだめだ」と、言われていましたが、ほんとにご主人様は、凄いです。


 わたしは、陸での生活は分からない事がたくさんあるので、何度も失敗してしまいます。

 その度に、ごめんなさいと言うのですが、一度も怒られたことがありません。

 商館で勉強していた時でも何度も怒られたのに。


 ご主人様から渡されたものが何なのか、よく見てなかったので、キッチンに駆け込んでカノンさんにも見てもらいました。


「カチューシャ、だね。良かったね、エニュハ」


 カノンさんは、そういってわたしの頭を撫でてくれました。

 その後、ご主人様がキッチンまで来られて、二人してビックリしましたが、わざわざカノンさんにも渡しに来られたのでした。

 商館にいた頃のカノンさんは、あまり感情を見せない人だったけど、ここに来てからはよく笑ってくれるようになったし、今も少し泣きそうになってる。

 今のカノンさんの方がもっと好き。


 カノンさんに渡されたものが何なのか、とても気になりましたが、わたしはカチューシャをそっと頭に乗せて、これでいいのかと思いました。

 なんか、ちょっと小さくてグラグラします。


「そうやって使うんじゃないよ、貸してごらん」


 少し長くなっていた髪の毛を持ち上げながら差し込むように付けてくれて、そうしたら、グラグラしなくて、目の前が明るくなった気がしました。


「うん、可愛いよ、エニュハ」

「ほんと、ですか?」

「ほんとだよ、いつもよりも可愛いよ」


 ご主人様からの贈り物なのも、カノンさんに褒めて貰えたのもどっちも嬉しいです。

 後でこれを見せてまたお礼言わないとです。


「わたしのも同じかな……」

「早く開けましょう」

「ん、ちょっと待ってね」


 カノンさんは、なぜかわたしに見えないように開きましたが、目を開いて、バッと閉じました。


「どーしたの、ですか?」

「……はは、わ()し、もう、死んでもいいや……」

「ふぇっ!?」


 なんでそうなるの!?


 と、思ったわたしに見せてくれたのは、白い帽子……?


「コック帽って言うの。料理長くらいしか使っちゃダメなのに……ご主人様は、奴隷の、女の、わたしが、これを被ってもいいって、そう思ってくださってるんだ……」

「すごい、の?」

「凄いよ! 外でわたしが被ってたら、絶対に笑われる。ご主人様も馬鹿にされる。だから、ちゃんとこれに負けないようにしないとね」


 さっきは我慢していた涙がぽろぽろこぼれ落ちたけど、凄く綺麗だって思った。

 泣いてるのに、笑顔だったから。


 その日のご飯はいつもよりももっとステキだった。


 メイド様たちは、ご主人様からイヤリングを頂いたみたいで、凄い華やかだったし、大人の人たちはなんかお酒も飲んで楽しそうだった。


 今日は、テリア様がお休みされた分、わたしもお仕事増えたけど、凄い良い日になったと思います。


 コーリーさんは、昼間に庭の事を色々されてて、カノンさんは当然、料理をされてるので、不出来なわたしは、お片付けをしています。

 なので、いつもお風呂は最後です。

 いつもお風呂に入れるのはとても嬉しいです。贅沢です。


 そうして、一日が終わるのですが、今夜は部屋に入ったらなんかいい匂いがしました。

 ベッドに腰掛けたコーリーさんが、手入れをしているしっぽでした。

 なんでも、コーリーさんはご主人様から、手入れをする為の道具を頂いたそうです。


「エニュハは、この香りは気になりませんか?」

「とてもいい匂い、です」

「なら良かったでありんす」


 とってもご機嫌です。

 ランプのほのかな灯りの中でもいつもよりツヤツヤしてるのが分かります。


「本当に、香油があるだけで、全然違うね」

「ご主人様に感謝でありんすねぇ」

「ほんとにツヤツヤ、です。触ってもいい?」

「少しだけなら良いですよ。少しだけですからね、せっかく付けた香りが無くなってしまいますから」

「はーい」


 ふわ……

 いつも綺麗にしてるけど、それよりももっと凄いです。

 香油? 使っただけでこんな、こんな、ふわふわのさらさらになるんですね。

 お、ぉぉ……凄い。


「も、もう終わりでありんす!」

「えぇ〜? もうちょっとだけ!」

「ダメです!」

「むぅ……」

「ほら、エニュハもわがまま言わない。獣人にとって、とっても大事なの。前にも言ったけど、家族以外が触ったら普通は怒られるんだから、もうやめてあげて」

「はぁーい」


 カノンさんにも言われたら止めないといけないです。


 仕方なく自分のベッドに潜り込んで、寝る準備が出来た事を知らせれば、二段ベッドの上にいるカノンさんも、灯りを消していいと言い、夜目の効くコーリーさんが灯りを消して、今日もおやすみなさい。

 また明日。




 夜中に唐突に目が覚めた。

 理由は分かってる。


 アフォス様のお導き。


 言葉にはなっていない、何となく、でも、間違えることなく意思だけでわたしに語りかけてくる。

 静かな部屋の中で、気付かれない様に布団を頭まで被って、もしも声が出ても大丈夫にする。


 わたしの集落は、わたしの聖痕を頼りにして、し過ぎて少しずつおかしくなっていった。

 今よりも少し子供だったわたしは、何が原因か、よくわからなくてただ怖かった。


 今思えば、異常ではあったけど、大事にはされていたのだと分かるけど、その時は、周りが、世界が、狂っていくみたいで、いつか、壊されてしまうのだと思い込んでいた。


 そこに、アフォス様から、お導きがあって、奴隷になった。

 わたしが奴隷になると決めた後は、凄い怖いことになった。

 アフォス様を邪神かのように口汚く言う周りの人たちが恐ろしかった。

 逃げ出すように離れて、奴隷になる事にホッとした。

 奴隷がなんなのかも大して知らなかった。


 アフォス様は、なんで、よりによって奴隷になんかさせたのだろうと、疑いもした。

 でも、そんな時は決まって、小さな夜を待ちなさいと、そう、多分、そう言っていた。


 そうしてあの日、今までは大人しか見たことなかったのに、ついにわたしよりも小さな夜のように黒い髪の子供な買い手が現れた。


 本当に来るのかと、アフォス様のお導きを信じきれなかったわたしはあまりにビックリして、見ていたから、注目されてしまった。

 そして、奴隷のままにご主人様に買われた。


 わたしは、奴隷のままです。

 でも、奴隷だから何なのだろう。

 今は、とても幸せです。

 毎日が早く過ぎます。


 もう、アフォス様に何を言われても、ここから離れたくありません。


 アフォス様も、きっと、そう、思ってくださってる。

 なのに


 アフォス様の機嫌が良くない。


 あんなにお優しいご主人様に対して、苛立ちを感じているのが分かる。

 分かってしまう。


 分かりたくない。


 早くしろと、せっつかれても、何をどうすればいいのか、分からない。


「どうすれば、いいの、です?」


 こぼれる声は震えを持って、掠れていた。

 わたしに対してお怒りなのではない。

 ご主人様に対しても、お怒りではない、と思う。

 思うのに、確かに苛立ちはご主人様に向かっている。


 アフォス様のお導きで、わたしがここにいるのに。

 アフォス様のお導きで、わたしは幸せなのに。


 それもこれも、ご主人様の優しさが満ちているからなのに。


 アフォス様の機嫌は、海よりも変わりやすい。

 そう聞いていて、しかし、わたしはソレを感じたことはなかった。


 初めて感じているアフォス様のザラつく意思が、じわじわとわたしを追い立てる。

 今までは本当に些細な意思だったと分かった。

 なのに、今夜は、とても分かりやすくわたしにその苛立ちがぶつけられた。


 何をどうすればこの苛立ちが収まるのだろう。


 こんなによくして頂いているご主人様に、奴隷のわたしが何かを言わなければならないのだろうか。

 言えない。

 何を言えばいいのかも分からないのに。


「どうか……どうか、お教え下さい……お導き下さい……お鎮まり下さい……アフォス様、貴方様のご意志をお伝え下さい、どうか……!」


 カチカチと鳴る噛み合わない歯の音を噛み殺して、祈りを捧げる。


 この苛立ちは、わたしには向けられていない。

 そうと分かっても、恐ろしい。


 計算違いだ。

 そう思ったのが分かった。

 待ちきれない。

 そう思ったのが分かった。

 いつになるのだ。

 そう思ったのが分かった。


 恋するように焦がれているのが分かった。


 でも、肝心の“何を求めているのか”が、よく分からない。

 わたしが一番都合が良さそうな巡りなのは分かった。


 分かる事が多いのに、手が届かない。

 一番大事な、重要なところに触れさせて貰えない。


 そうして、ご主人様に向けられていた苛立ちは、唐突に、急速に萎んでいく。


 諦観、落胆、失望、そんな気配。


 また、これだ。

 日々、微かに感じる焦燥は、いつも、最後は溶けるように無くなっていく。


 気のせいだと、思っていた。思いたかった。

 でも、もう間違えようもない。


 アフォス様は、ご主人様に苛立っている。


 でも、何をお伝えすれば、良いのだろう。


 どうすればいいのか?

 ただそれだけが頭の中で繰り返された。










唐突な不穏(笑)


なんでこうすぐ不幸な感じになるのか……

いや、幸せがそんな簡単に手に入るかー!

とゆー私の叫びなわけですが(笑)

大丈夫大丈夫……


多分

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