晴れ時々地雷 (side コーリー)
36話奴隷の才能での矛盾点の修正をかけました。
大筋には何も影響ありません。
また、別視点を分かりやすくするためにサブタイにその点の記載をしました。
とゆーことで、今回はコーリー視点です
よろしくお願いします(^^)
サクとシャベルを差し込んで土をすくい、雑草を根から引き抜くとそれを袋に入れる。
「やはりこれは良いもんでありんす」
園芸用品であるシャベルは、なくても困らないがあれば作業が楽になる。
引っ越してきたばかりというご主人様達のお屋敷は、手入れも最低限であったから、それは庭師も必要だろうと思ったものだ。
そうしてとりあえずは、と草むしりをしていたわちしにご主人様がシャベルを買って下さった。
「根っこから取らないとダメだし、爪とか割れたら痛いでしょ」
と仰って下さったが、わちしら獣人の爪が割れるかを心配なされるとは思いもしなかった。
「いくら狐人でも、そんなことで割れたり致しませんに」
クックッと笑みがこぼれる。
狐が穴掘りをする時になにを使うと思ってらっしゃるのか。
肉体的に劣るといっても、その程度で割れていたら生きていけないではないか。
それでも、道具があった方が楽だろうからとこんな奴隷にまでお心配りをして下さるご主人様は、本当に奇特なお方。
勇者様だそうだが、あんな幼いお方を祭り上げるお貴族様はどうかしている。
と思わなくもないが、ご主人様も嫌々しているわけでもないしいいのだろうか?
さて、と周りを見ればおおかた雑草も無くなって逆に少し寂しい感じの庭になったが、これから花や野菜を植えられると思えば気合いも入ろうものだ。
「コーリーさーん! もうすぐご飯ですよぅ」
「はーい」
声に振り向いて返事をすれば、おたまを振りながら笑顔のエニュハがいる。
おたまはそうやるものじゃないが、料理をするのが楽しいのか声掛けしてくる時はいつも何がしかを手にしている。
ご主人様は気にしていないと思うが、まさか奴隷が待たせる訳にも行くまいと足早に片付けを済ませて食堂に向かえば、わちしが最後らしかった。
とはいえ、奴隷の身で食堂で先に待つのもそれはそれで問題だから、痛し痒しではあるけれど。
「申し訳ありんせん。お待たせ致しました」
「いーよ、コーリーは多分今一番忙しいし」
そういって笑うご主人様に頭を下げて食卓につくと、思い思いの挨拶をして食事を摂る。
ご主人様は、いただきます。
人族の皆様は、日々の糧に感謝を。
わちしとエニュハは、豊かな恵みに感謝を。
どれも大した違いはなく食事に礼をする意味は同じ。
ボラ様がよくそれも忘れてがっつくのだけは何とかして欲しいところだが、あれでもお貴族様なので、目をつぶっている。
何せお貴族様の堅苦しい食事と違ってここは自由だ。
奴隷なのに自由過ぎて呆れるくらいに。
「あ、ご主人様、昨日申しました通りに大体終わりましたんで、そろそろ庭師らしく飾り付けに回りたいと思うておりんすが、よろしいでしょうか?」
ぁぁ、いつになったらこの敬語がまともに話せるようになるのか誰か教えて下さいませ。
つい出てきてしまう上にご主人様が「なんか狐人っぽいからいいと思う」などと訳の分からない事を仰るから誰も直してくれない。
いや
直してくれないくらいならいいのに「コーリーに似合ってて可愛いと思うよ」なんて仰るから、逆にメイド様達が聞きに来るという本末転倒な事にもなったが、ありんすありんすと何のいじめかと思ってたところに、ご主人様が微妙な顔をしてた事から自然と消えた。本当に良かった。
「そっか、じゃあ、どうしよう? 花が先にする? 野菜とかも育てたの食べてみたいから僕は野菜がいいんだけど」
もいだのをその場で食べたいよね。
と笑顔で話すご主人様にわちしも自然と笑顔になる。
「では、野菜にしましょう。花はいくつかは購入しますからそちらを植えていく感じで」
「果物とかも欲しいんだけど」
「果樹は時間がかかる」
「じゃあハーブとかならいいですよね?」
「ハーブ欲しいです、料理にいくらでも使えます」
「ハーブってなーに?」
「ハーブというのはですね……」
勇者、貴族、奴隷、エルフ、獣人と、人種も立場もごちゃまぜもいいところで、みなが同じ食事をしているこの場は、笑顔に溢れている。
時々、奴隷であることを忘れてしまいそうなくらいに。
食事が終わると、アイリス様がお帰りになられて、ご主人様は挨拶回りに出られた。
挨拶回りは、午前だったり今日の様に午後にだったり、お昼ご飯を外で食べて来られたりもするけど、朝は必ず手の空く人は全員揃って食べている。
手の空かない人は護衛している方々くらいなので、毎日ほぼ全員で食べていることになる。
夜はマナーを学ぶ為にちゃんとした形で食事になったりするからそうもいかない時もあるけど、そっちの方が普通。
わちし達は、その時はキッチンで食べたり、屋敷にあるバーで食べたりとまちまちだ。
リビングでもいいのだけど、調度品が明らかに高級なので落ち着かないから使わない。
何かこぼしでもしたらと思うと胃が痛くなる。
さて、と庭に出てきて、何を育てようと考える。
手っ取り早く収穫するには二週大根辺りだろうか。
後はそのまま食べたいと言うご主人様の要望の為にいくつか育てないといけない。
幸い種などはいくらか揃えてもらったので、それをいくつかと、後、馬鈴薯は種芋をさっさと埋めよう。
「コーリー、わたしも手伝っていい?」
「あら、片付けは良いんですか?」
「刃物は終わってから、後はエニュハにお願いしてきて」
「じゃあ先にハーブを選別致しましょう」
「わかって」
来た当初によく見られた緊張も随分とナリを潜めた、と思ったが、その緊張でピンと来た。
「……聞いたんですね」
「(こくり)」
「どうでしたか?」
「杞憂でして」
良かったと、二人で息を吐く。
奴隷として、そういう教育を受けてはいるのだ。
ただ、元々そういった“用途”で買われた訳でもないのに、お声かけされるのは少し違うし、わちし達二人はまぁ、いい。
ご主人様はお優しいし、呼ばれれば、少なくともわちしは行く。
でも、エニュハはさすがに早いので、杞憂で良かった。
屋敷内にあまりいないのでカノンに頼んだが、早速聞いてくれるとは、思ったよりも積極的だ。
「むしろ、邪推ては、思いもしませんでしてが」
「……は?」
聞けば、夜伽なんてものは元々ないのだとか“不満そうな”テリア様から聞いたそう。
まだ魔法を上手く使えないご主人様のお風呂のサポートをされてるだけなのだとか。
つまり、夜な夜なかわりばんこにご主人様のお部屋に着替えを持って向かっていたのは、お風呂の為で、毎日ヤルとは見かけによらず精力旺盛なんだな、とかいうのは、邪推も邪推。
メイド様方がツヤツヤしていた以外に特にソレを匂わせる挙動がなかったのは、慣れでもなんでもなく、単純に何もないから。
「それならなんでそんな緊張してるんですか」
て癖が出るくらいに緊張する事はないと思ったのだが、何をそんなに怯えて……怯えて?
「わてしてちも参加するのか、て……」
「それは、ご愁傷さまで御座います」
「コーリーのせいなのに……」
「わちしは聞く時間がありんせん」
比較的話しやすいテリア様から聞いてこれか。
メイド長のメノ様は、何かと忙しくされているし、リュリュ様は言葉足らずだし、テリア様から聞くのが一番かと思っていた。
話しやすさで言えばペリオン様も同じだが、ここ一週間ほどで一度もお呼ばれされてなかった彼女に聞くのは流石に憚られた。
「それで、カノンは、どう返事をなさったんです?」
「どどど、どうって!」
おや、緊張が過ぎると逆に普通になるのかしらん?
「いえ、メイド様方の手を煩わせるまでもありんせん。とか、言い様はあったかと思いまして」
「わてしみていなデブ見ても御主人様も困ります」
デブ……
デブって何だったか。
いや、太ってる人の事だと言うのは分かる。分かるが……
カノンは何を言っているのだろうか?
確かにメイド様方は、お綺麗な方々だし、それと比べればまぁ太ってはいるだろう。
だが、デブだと言うならその腰のくびれは何なのかと。
胸も腰もそれだけエロ……色っぽくて、腰にもくびれがあれば女性の包容力として見るならば、お屋敷一番だと思う。
メノ様くらいだろう、対抗出来るのは。
わちしを見てみろ、胸はテリア様に勝ててはいるが、女性らしさのない細身の身体で、男の胃袋を掴む料理の腕も半端。
土いじりしていて肌も焼けているし、当然手も綺麗ではない。
ブラッシングを欠かさない毛並みくらいしか自慢は出来ないが、ご主人様は獣人でもなしに毛並み自慢も虚しいもの。
「……嫌味にも程がありんす」
「わたしは、コーリーみたいにスラッとしてないから。味見してて太るなって無理だと思うの」
「わちしんはガリって言うんです。スラッとしてるとかいうんはテリア様みたいなんを言うんですよ」
全く……自己評価が、こんなに低いのもあのクソのせいですかね。
虐められておりましたから。
「まぁ、あまり卑下するもんではありんせん。カノンがどう思っていても周りからは嫌味にしか聞こえんです」
「そうかなぁ……」
「何にしろ、とりあえず拒否した、という事で宜しいんです?」
「うん……でも、コーリーは御主人様なら良いかなって言っていたから、そう言っておいたよ?」
「……は?」
ちゃんと伝えておきました。
みたいなイイ笑顔で何を、何を言うんでしょうかこの子は。
わちしに、あの場に混ざりたい意思があるかの様に言ったのではないだろうか。
「……ちなみにテリア様からはどの様なお返事が?」
「分かったって」
「ワカッタ……」
分かったって言うのは、何だろう。
悪い予感しかしない。
わちしが色目使ったとか、言われるんだろうか。
試用期間は後一週間あるのだけど、取り消されたりしないだろうか。
「コーリー! ちょっと来てくれるー?」
「…………」
「テリア様が呼んでますよ?」
「……はい! ただいま参ります!」
カノン、わちしが切られたら道連れですからね……。
種芋を埋めるのだけ頼んで、断罪じゃないといい場に向かった。
「……失礼します」
リビングに入れば、テリア様にメノ様と、お屋敷にいるメイド様二人がお出迎えで、わちしの断罪感が増した。
「ごめんね、忙しいのに呼び立てて」
「いえ、大丈夫です」
座って、というのに合わせてふかふかのソファに腰を落ち着けると、隣にテリア様も座った。何故。
「今日で丁度一週間ですね」
「はい、そうですね」
「とりあえず、ここで働いてみて如何でしたか?」
なんと答えるのが正解なのでしょうか?
感謝しかないですが、嘘くさく聞こえてしまわないでしょうか?
夜伽に前向きな姿勢とかを鑑みて。
「大変感謝しておりんす」
「そんなに緊張しないで?」
そっと手を重ねられてテリア様がにこりとして下さってますが、裏はないと思ってよろしいのでしょうか?
「は、はい、えぇと、これは、状況の確認とみてよろしいんでしょうか?」
「うぅん、そういう訳じゃないの」
「違う、んですか……?」
違う場合、わちしの問題行動は、ご主人様の夜伽に対する発言しか残ってないと、思うのですが、カノンも道連れにする為にはなんと答えれば良いのか。
「あの、カノンから、わちしの事で、何か聞かれてるかと思いますが、おそらく、誤解がありんす」
「へぇ? どんな?」
「わたくしにも、詳しく」
ひぃっ!
なんでいつの間にかメノ様まで隣に居て、わちしの手を握っておられるのですか!?
「ご主人様の、その、夜伽をしたい……というような発言は、カノンの誤解によるもので、わちしは、その様な大それたことは考えておりません、ので、えぇ」
「それは、ユウト様はコーリーのお眼鏡に叶わないお子様だと言うことでしょうか?」
「……は? いぇ、いえ! ご主人様はお優しく素晴らしいお方だと思っております!」
「じゃあ、狐人的には、男性的な魅力はないって事かな?」
「そ……のような事は、ない、かと」
「では、夜伽について考えを巡らせたのに、ユウト様に呼ばれた時のことを考えもしなかったのですか?」
「それ、は……考えましたが……」
「じゃあ、呼ばれたら行ってた? 断ってた?」
矢継ぎ早に聞かれて何とか答えを返しているけど、これは、どっちに答えるのが正解なのでしょうか?
夜伽に呼ばれたら?
行く?
断る?
それは、行く。
ご主人様お優しいし、内心はどうでも断りはしないと思う。
けど、それは、メイド様方が、夜伽をしていたと思っていたからで、夜伽がないと聞いた現状で、夜伽に呼ばれたら行くと答えるのは、出し抜く可能性がある事を示唆してしまいかねないわけで、ならば、お断りします、と答えるのが正解な気がしますが、ご主人様に魅力がないのかと聞かれた事を考えると安易にそう言うのも心象がよろしくないのでは。
中間の答えがどこかにないものでしょうか?
あぁ、しかし、ここで半端な答えを返す事が、良いことでないのは分かる。
はいかいいえで聞かれて、どちらとも言えません。
わちしなら、信用しない。
「わちしは……その……」
どっちに答える。
「もういいですよ、コーリー」
「……え」
唐突に答えなくてもいいと言われた、これは。
わちしは、失敗したと見るしかないだろうか。
「怖がらせてごめんね?」
テリア様からは、何故か謝罪を受けたが、一体何がどうなって。
すっと立ち上がった二人が、改めて正面に座ると、酷く申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「コーリーには大変怖い思いをさせてしまいすみませんでした」
「今からちゃんと説明するから」
「は、はい」
聞けば、これはメノ様の異能によるテストなのだそうだ。
ご主人様に近づく不逞の輩ではないかと思ったそうで、先程の手を握った事で、それがわかるのだとか。
「ユウト様を狙う人は絶対にいるから、私達も慎重にならざるを得なくて、こんな強引な事をしちゃったの」
「ユウト様は知らない事ですから、苦言は出来ればわたくし達にお願いします」
「そういう事でしたら、良かったでありんす」
これで疑いは晴れたと言うことでしょうから、結果として良かったと言わざるを得ません。
奴隷として、変な疑いが持たれるようなことは避けなければなりませんから。
「ところで」
「はい」
「ユウト様に呼ばれたら行く、という事は、かなり好意的だと思って宜しいですか?」
「……は?」
「獣人は、割と性に積極的だもんね」
「ご、誤解でありんす」
「大丈夫ですよ、わたくしの目に狂いはありませんから」
「発情期だけは近寄らないでね?」
「はい、それはもう、ええ」
冷や汗がダラダラと垂れるのが分かる。
どれだけ正確に思考が読めるというのだろうか。
「あ、もしも実際に呼ばれたら行って良いですからね?」
「え?」
「こっちから誘ったりしなければいいよってこと。ユウト様のご意思は尊重するから」
「……わちしが言うことではありんせんが、それでよろしいんですか?」
「そうは言いましても、わたくし、テリアに先を越されるのは嫌ですし」
「私もメノが先だと嫌なの。もちろん、リュリュも」
「先を越されるくらいなら他の人が良いくらいです」
「は、はぁ……」
なんでそんなめんどくさい事に……
「ちなみに、アイリス様は結構いいかもですね」
「マナリス殿下はめんどくさいから阻止するけど」
「ペリオン様も、割と良いですけど、ご自身で誘われるかと言うと悩ましいところでしょうか」
「聖女様はメスブタになりたいとかユウト様の教育に悪いこと言ってるからダメだよね」
「そうですね、イシュカ様は、ちょっとよく分かりませんが、好意はあるかと思われます」
「後、何故かボラ様と凄く仲良しな気がするよね」
「あの、それはわちしが聞いても大丈夫なんでしょうか?」
殿下とか聖女様とか、明らかにわちしが聞いたらダメな感じのお方の事があったような……
「私達もたまには吐き出したいし」
「機密漏洩の禁止がありますから、禁止ですよ?」
にこりと笑ったお二人は悪魔かと思いました。
一気に一週間過ぎるとゆー唐突な暴挙(爆)
二週大根は、二十日大根です。
暦の数え方が違いますので一週間が違います。
詳細は次にー
ではまた次回更新でもよろしくお願いしますm(_ _)m