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奴隷の才能 (side カノン)

ペリオンさんに続き、唐突な新キャラ視点でお送りしますーm(_ _)m


職安(笑)


と思ってた皆様の期待を裏切らない展開の裏側のお話になります(^^)


 

 要領の善し悪しというものは、どうやって学べば良かったのだろう?


 別に、教えられた事が出来ない訳じゃない。

 手順を間違えての失敗も二度はしない。

 一度だけは許して欲しいけど、これだけはダメだと言われた事でやらかした事は無い。

 堅実に手堅く真面目にこなす事は出来た。


 でも、それだけ。


 どうにも、何かを想像して創造する力が、致命的に欠如している。

 結果として


「おめぇさんにゃ、才能がねえんだなぁ」


 こうなる。

 幼い頃に見たキラキラとした芸術的な“作品”に魅入られて、この世界に入った。


 自分もこんなモノを創ってみたい!


 そう思っていて、そうなりたくて、飛び込んだ世界は、下積みはともかく、そこから先がとても重要なのだ。


 誰でも出来る。

 時間の長短はあっても、教えられた事を教えられるままにする。

 一人前になれる人間というのは、出来るのが普通で、当然で、そこが最低限の条件。

 輝けるヤツというのは、そこから一歩どころか、飛ぶように跳ねる事が出来るヤツの事を指す。


 それが才能だ。


 ソレがない自分の様なものは、そこに立てない。

 もしも、何かの間違いで立てたとしても、瞬きする間に抜いていかれる。


 それが、それこそが、才能だ。


 教えられた事を教えられたままにしか出来ないのでは、先に立つものがいて、惜しみなくその発露を享受出来る環境でなければ、着いていくことすら出来ない。


 だから、前に進む先達に着いていくことも出来ず、かといって後ろに戻るには前に進みすぎた自分には、立ち往生するしか出来なくて、差し出された手を握る道だけが残された。


 悪魔の手だと気づいた時には、すっかり前と同じ様に前にも後ろにも行けずにそこに立つしか居場所が無かった。


「つまり……キミがコレを作っていたんだよね? 間違いなく」

「わ()しが、作ってい()のは、料理のひ()つで、そう、聞いて、います」

「コレが……料理? これは“麻薬”だよね?」

()がう! わ()しが作って()のは、創作料理のひ()つ、です」


 わ()しの前に座った厳つい顔をした官憲のおじさんは、わ()しの言葉に長い溜息をつくと、ガシガシと頭をかいて、そして、酷くシラケた表情で、椅子にその重い身体を預けながら、語る。わ()しの絶望を。


「あのね……えーと、カノッツァ・モネスさん? ここ、エランシア王国に限らず、ですけどね、麻薬なんてものは、作ってたらそれだけで重罪なんですわ。知らなかった、とかは、まぁ、通らんのですよ」

「そ、そんな……」

「それに、料理だなんだと言っちゃいますがね、そんなのご自分で違うって分かりゃしませんかね? それともあなたは、ご自分のされてた事が料理といって通ると思いますかね?」

「………………」


 思わない。

 変だと思っても、それを判断出来るだけの材料がわ()しには無かったから。


 これが、誰にもまだ見つかっていない新しい料理の作り方なのだと言われてしまえば“麻薬を作った事なんて無い”から、そういうものだとしか判断出来なかった。

 度し難いまでの愚鈍。


「悪いがね、あなたのその口調も麻薬のせいではない、と、こちらには言い切れないんです。分かりますかね? あなたが麻薬をヤってんじゃねえかと、そう思ってるって事なんですわ」

「これ、は、生まれつき、きん()う、する()、出るので……」

「ですがねぇ、親御さんもいらっしゃらない、隣国から流れて来てるから知り合いもいない、ってんじゃあ、どうやってそれを証明出来るってえのか、教えてくれませんかね」


 つまり、八方塞がりって事だ。

 わ()しの悪意の無さを証明する手段がなく、誰も庇ってくれやしない。

 悪魔は全てを擦り付けてすでにどこかに消えた。


 どうすればいいのか分からなくなって、右往左往していたところに麻薬の製造の現行犯だ。


 あぁ、もう、逃げ道なんてないのだと、そう思ったらストンと力が抜けた。


「わ()しは、どうなるんでしょうか?」

「普通に考えたら……まぁ、死刑なんですがね」

「死刑……そう、ですよね、麻薬、ですもの」

「……ところが、あなたの主張自体には一切矛盾がないんですわ」

「? それは、どういう……」

「こういった後ろ暗い事してる連中ってのは、まぁ……何とか罪を軽くしようと、何かを隠し立てしたり、曖昧な事を言ったり、気づかなかったと惚けたり、ホントに色々とやってくれるんです。が、カノッツァさん、あなたには、それが一つもない」

「聞かれた事に答えただけですから」


 隠すも何も、料理していたと思っていたのだから、何も隠す意味が無いし、自分のしていた事の罪の重さも知らなかったのだから、黙り込む必要も感じなかっただけ。


「そうですな、あなたにとってはそれだけの事なのでしょう。ですが、あなたが嘘をついていないとすると、麻薬も知らずにいた事になる。勿論、だからといって罪が消えたりはしませんがね」


 それはそうだろう。

 知らなかったなら何をしても許されるのであれば、法は必要がなくなるのだから。


「ですが、そうすると、あなたは騙された側でもある事になる。それで死刑ではあまりに重い。重罪人にも、恩赦が出る事もあるのに、ね。なので、あなたには選択肢が与えられる」

「せんたくし……」

「このまま、その罪を受け入れてもいい。ですが、生きたいのであれば、奴隷落ちという道を用意する事が出来る」

「料理……」

「ん……?」

「奴隷になっても、料理は出来るでしょうか?」


 ふむ、と、おじさんは腕を組んで、軽く考えた後に応えた。


「麻薬製造の罪は消えない。それでも真面目にしていれば、そんな奴をいつまでもただの奴隷にするかね? それが答えだ」

「なら、奴隷になり()い、です」


 あぁ、また出た。

 けれど、また料理が出来るかもしれない。

 あのキラキラした世界に身をおけるかもしれない。

 それだけで、力が湧いてきた。


「また、出たな、ソレ」

「すみません……」

「いや、構わんよ。料理が出来ることを願っておくよ」

「はい」

「今度は騙されたりしない良い雇われ先に行けるといいな」

「……はい」


 わたしの、罪は、金貨で100枚になった。

 普通に仕事をすれば、どんなに安月給でも、1ヶ月も働けば金貨何枚分かは貰えるし、切り詰めたり、他にも仕事をすれば金貨1枚とは言わず、もう少し貯蓄を増やせるだろう。


 だけど、わたしは奴隷だから、一日の仕事は基本的に一律で銀貨1枚、三ヶ月働いても金貨1枚にもならない。

 食費とかはかからない事になってるとはいえ、これでは、完済する頃には30年くらい経っている事になる。


 だから、わたし達、奴隷は、足りない分を誰かに肩代わりして貰って、その分を労働で返していく事になる。


 更生の見込みがない様な奴隷だと、命の危険がある様な場所に連れていかれる。


 犯罪を犯した奴隷というのは、そういうものだ。

 罪の重さを金額にしているから、払えずに死のうが誰も損はしない。


 それでも、やはり誰でも死にたくはないだろうから、ちゃんとしたい奴隷達は、必死で頑張る。

 例えば、算術を覚えると、金貨で2枚分、査定がつく。

 つまり、罪の精算が早くなる。

 読み書き、家事技能、夜伽や、剣術、魔法技術など、様々な事を覚えればそれだけ早くなる。


 覚えただけでは少ない査定もより難しい事が出来る様になればまたそれにも査定がつく。


 そうして、罪の精算が終わると、普通の奴隷になる。

 普通の奴隷になると、自分を買い戻す事が出来る様になる。


 だからわたしもそれをいくつもやって早く料理が出来るようになりたかったけど、なんでもかんでもやらせてはくれない。


 犯罪者には信用がないから、上の許可が出ないと勉強させて貰えない。

 真面目に、手堅く、堅実にコツコツとやるしかない。

 わたしの得意とするところだった。


 奴隷の適性があっても嬉しくはなかったけど。


 教えて貰えれば、ちゃんと出来る。


 それがこの場でとても役に立った。

 そして、その犯罪者らしからぬ態度は、しっかりと査定に反映される。

 模範的な態度だと、それもまた小さな恩赦という形で精算の速度を早めてくれる。


 金貨100枚はなんて遠いのだろうと思っていた当初よりも圧倒的な早さで、精算が済んだ。


 ところで、ここで頑張ったツケが来る。

 わたしの奴隷としての価値が高くなっていた。

 買い戻しが大変になっていたのだ。


 変などもり癖や、生来の要領の悪さを差し引いても結構な高値で、途中、やりすぎるなと忠告してくれたのを早く精算したいが為に勉強するのが楽しいと言い張ってきたのだから自業自得。


 とは言っても、価値が高いという事は、普通ならば買い手がつきやすい。

 わたしの様に何でもかんでも手を出していなければ。

 専門職になれるくらいに特化していれば、その技能が欲しい人に貰われていくだろう。

 わたしは満遍なくそれなりだった。


 要領が悪いので、深く突っ込むと査定の効率が悪くなるのだから仕方なかった。


 そうして近道をしていたと勘違いしていたわたしは、随分な遠回りに気づいた時には、馬鹿みたいに前にも後ろにも行けなくなっていた。

 何度も同じ失敗を繰り返さない事が密かな自慢だったのに、ここに来て都合3度目の人生立ち往生。


 要領の悪さはどこにでも出てきて足を引っ張ってくれる。


 料理がしたいと言っていたのに、楽器を弾けるようになってなんの役に立つのだろうか?


 どちらも本職には及ばないのに奴隷としての値段は高い。

 そうなれば、他の奴隷を買うのは当然だった。


「まーた、カノンは売れ残ったねぇ」

「申し訳、ありません」

「ま、アンタがここに居てくれるとこっちはそれで助かるからいいっちゃいいんだけどねぇ」


 それはそうだろう。

 奴隷の給金は恐ろしく安く設定されている。

 何でもそこそここなすわたしは使い勝手の良い奴隷だ。

 手が二つしかない事を嘆かれるくらいには何でもそこそこは出来る。


 カノンというのは、奴隷になった時にわたしに付けられた名前。

 前のわたしでは、わたしのせいで恨みを買った人から要らぬちょっかいを出されかねないから、別の名前になった。

 自分の名前なのに、カノッ()ァとか噛んだりもしていた事を思えば、カノンというのは、呼びやすくていい。


「料理人をお探しの貴人が来られた。我こそはと思う者はこちらに来なさい。条件にあった者を連れて行く」


 料理人……

 わたしは、大丈夫だろうか?

 また、売れ残るだろうか?

 でも、わたしは、料理人になりたいのだ。

 あの世界しか色付いて見えないのだ。


「また、カノンは料理人だって。クスクス、いつも落とされてる高嶺の花様はいつ買ってもらえるの?」

「いっそ花売りすればいいのにね」

「………………」


 悔しい、けど、これがわたしだから。


「あぁ、カノン、今日はお前にも目があるかもしれんな」

「え……?」

「少々毛色の違うお方だったからな、めげずに自分を売り込むといい」


 いつもは売り込みは控えろと言うリンドさんが、今日に限ってそういうのはなんでだろう?


「え〜、カノンがいいならアタシにも目があるって事でいいですよね?」

「いや、ミファナは今回は条件外だな」

「な、何でよ! どう見てもアタシの方が料理はちゃんと出来てるじゃないですか!」

「そうだな。だが、条件に合致しない」

「何よ! その条件って!」

「……お前に言う必要があるのか?」

「っ……ない、です……」

「分かったなら戻れ」


 ミファナは、わたしをものすごい睨んで来たけど、わたしのせいじゃない。

 まぁ、わたしは料理人探しに毎回名乗りを上げて、条件にあった時には審査されて毎回落とされている。

 その時の事をいつも娯楽にしている彼女にしてみれば、わたし如きに負けたみたいな気分なのだろうけど。


 わたしの他にも三人ほど出て来たけど、二人は戻されて、代わりにリンドさんが、名前を呼んで二人追加した。

 どちらもまだ料理人としては未熟な子達。


 あぁそうか、と分かれば、他にも当然気付くものが出る。


「リンドさん! やっぱりアタシも連れてってくれませんかぁ?」

「何故?」

「半端な子よりもアタシの方がいいって言わせてみせますから」

「ムリだと思うがな」

「そこの何でも出来る出来損ないよりは目がありますよ? 料理人としてなら」


 嘲笑を隠しもしないミファナの言う“何でも出来る出来損ない”は器用貧乏なわたしの蔑称。

 まさしくその通りなのがまた悔しい。

 せっかく居なかったミファナが来ると知って一人が手を下ろした。

 誰でも巻き込まれたくはないから仕方ないが、それを見て優越感に浸るミファナは、所詮は奴隷なのだと分からないのだろうか。

 そんなミファナを冷めた目で見下ろしたリンドさんが恐ろしい。

 ミファナには分からないのだろうか。

 あの、路傍の石を見るよりも冷めた視線が。


「……はぁ、そこまで言うなら覚悟があるんだろうな?」

「覚悟……ってなんですかぁ?」

「お前の様な自尊心を捨てられない奴隷など需要が限られる。ダメだった場合は、そこに行ってもらう。問答無用で。それでいいなら来い」

「……いいですよ……但し、そこの愚図が選ばれなかったら無しにして下さいね!」

「構わん」


 そういうと、待たされてたわたし達に、魔法の制約がかけられる。


 一つ、お客様にウソをつかない事

 一つ、お客様に暴力を振るわない事

 一つ、お客様に暴言を吐かない事

 一つ、お客様の言動に逆らわない事

 一つ、逃げ出さない事

 一つ、自傷しない事


 普段からかけられている奴隷の魔法六つに加えて


 一つ、リンド・ベラムの指示に従う事


 連れ出す人の指示に従う事が付け加えられる。

 ミファナには、それに加えて


 一つ、自身が見初められず、かつ、カノンが見初められた場合に、リンド・ベラムの指定する先に売られる事

 一つ、売り先に一切の文句を付けない事


 が掛けられた。


「なによ……これ、こんな事までしなくてもいいじゃない」

「覚悟したのはお前だろうが」

「わかったわよ!」


 ここまでされるとは思ってなかったのか、少し青ざめていたけど、わたしが見ていると気付くと、キッと睨みつけてからそっぽを向いた。


 きっと、今回落とされたりしたら、わたしはミファナに何かをされるのだろう。


 魔法の制約に奴隷を害してはならないとは無いのだから。


 何故、そこに制約がないのか?


 ミファナは、穴があるのだと、自慢げに言っていたが、そんな事はおそらくない。

 その穴は、奴隷商がわざと残したものだと考えた方がいい。


 どうにかして犯罪を隠そうとしたがる心理と同じ。


 そうやって、見極めているのではないだろうか。

 奴隷として従順であるか否か。

 抜け目のなさを発揮すれば、それは狡猾さに繋がる。


 狡猾な奴隷など、商品価値がつくわけが無い。

 あの子には、それが分からなかったという事だろう。


 リンドさんの目はそういう事だ。

 でも、あの子をどうにかするには、わたしが、売れないといけない。

 リンドさんには、わたしが売れると思えた?

 そんな方がいるのだろうか。




クリスマスの裏でなんでこんな重めの話持ってきたぁっ!!


と、思った皆様すみませんでした!!

後悔はしてないっ!


だって、年開ける前にざまぁが待ってるんです

大丈夫です

ミファナは残念でした(早い)がカノンが少し幸せになるのでプラスですよ


後、予告

全くストーリーに関係ない閑話を出来れば元旦にお届けします、多分

タイトルは


姫はじめ


になる予定ですので、よろしくお願いします

R18にはなりません(笑)

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