フタワ・ユウト
前話の概略
アーディン家に一時戻ったメノは、執事長ヘイリーに案内され、主人にあった。
ユウトをたらし込むよう催促されつつ母の遺品の種を持ち出す。
そして、マティラというかけがえのない友人の形見を残す事で時間を稼ごうとするが、ヘイリーからマティラ生存を聞かされた。
思いもよらない事に呆然とするが、やむなくユウトの待つ屋敷に戻った。
よーやくユウトの名前をちゃんと出せましたw
年末年始に向けて少し投稿ペースが不安定になるかもですが、ご了承くださーい
なるべく2、3日で上げていきますm(_ _)m
あれ、絶対にワザとだと思うんだよね!
テリアさんたら、あんなにんまりした笑顔で、僕の事からかって楽しんでたんだ。
でも、これがなかったら、今後、僕はトイレに行くたびに誰かに頼むか、客室か、みんな用のとこに行かないと行けなかったんだから、ありがたいことなんだけど、なんだけど!
左腕に巻かれた腕輪というか、バングルというか、これは、僕の意識に反応してくれる魔道具の一つだそうだけど。
僕の魔力波長に調整されてるとかなんとか。
探検で見つけたワープ扉以外のどこでも、僕がトイレに行きたいって思って扉を開けたらトイレにワープさせてくれるんだって、屋敷内限定で。
僕専用のトイレは地下だそうだ。
で、戻る時は入ったところから出られる。
こんな凄いのがあるならお風呂も一人で入れたんじゃないかと思ったけど、お湯の温度の調節とか、細かいところを出来る様に調整するのは難しいとかなんとか……魔法技術の凄さがちんぷんかんぷんだよ。
テリアさんも、目を逸らしながら、そーゆーもんなんですって言ってたし。
「オラ、きぃ逸れてんぞ」
「はーい」
僕が屋敷内を探検してた時、護衛のみんなは、外の方を見回ってたみたいで、今はアデーロさんが門に立ってて、ペリオンさんが屋敷内を見てるみたい。
オッソさんは、メイドのみんなの荷物を馬車で運んでくれてる。
みんな一緒に行けばいいのに、片付けとかもあるからって、一人ずつにしてるって聞いたけど、効率悪すぎないかなぁ。
で、僕はというと、庭でボラさんに体術とかを教わってる。
剣の素振りとかしてみたかったんだけど、リリさんがダメって言うから、この、太極拳みたいな動きをすることになった。
「ユウトー、腰上がってんぞ、もちっと下げろ」
「えぇー、これ以上は、キツいんだけど」
「足腰鍛えてんだからキツくていーんだよ、いーからやれ」
「とゆーか、なんで僕の腰が上がってるってわかるのさ?」
そう、ボラさんはお手本の為にと、僕の前に背を向けて立ってるんだけど、僕が腰を上げると容赦なく下げろと言ってくる。
「気配ダダ漏れだからな、ユウトは」
「むぅー、それも魔法なの?」
「んなわけあるか。これは単なる技術の延長だっつの」
「それ、僕にも出来るようになる?」
「その内な。まぁ、ユウトは俺と違って魔法が得意そうだから、そっちで何とかするのも手だけどな」
「魔法の練習も、なんかリリさんがダメって」
アイリスさんがいないところで練習したらダメって言われても、そのアイリスさんは今日はお休みだし、他の人もなんかアイリスさんより魔法出来る人がいないからダメなんだって。
早く魔法使えるようになりたいなぁ。
「たく、あの氷姫は、ユウトが勇者だってわかってんのか?」
チラッと二人して屋敷の方に視線をやると、サンルームの前辺りで、リリさんがじっと立ってる。
僕とボラさんのストッパー役。
そういえば、サンルームのとこはマジックミラーみたいになってるんだよね。
外からは中がみえなくて、他の壁のとこと区別がつかない。
「ユウト、腰」
「はーい」
キツい姿勢だから、激しく動いてるわけじゃないのに、汗がじわりと出てくる。
リリさんから視線を外して、前に立つボラさんの動きを真似る。
えっと、脇を締めて、右の拳を引く。
それから、身体を捻るように前に突き出して、引く。
後ろに置いてある右足を今度は前に出して、左でも同じようにやる。
また左足が前に出たら、今度は左腕を顔の前に上げて、左足を引く。
右足も同じ様に。
という感じの動きを繰り返していく。
んだけど、腰を落としながらやるから、すぐに脚がガクガクしてきて、もうこれ以上はムリ! ってなると、ボラさんからヤメって声がかかる。
「あー、もう! 足キツいー」
「マジ、軟弱ってもんじゃねえな」
「そんなこと言われてもこんな事やった事ないんだもん」
「まぁ、慣らすしかねえけどな」
「ユウト様、これ」
「ありがとー」
すかさず寄ってきたリリさんが渡してくれるタオルで汗を拭ってひと息入れても、立ってるのがキツい。
「ボラ様、ユウト様はそろそろ限界」
僕を後ろから抱き抱えながらボラさんに言ってくれるのはいいんだけど、座るなって言われてるから、これはセーフかアウトかだと、アウトよりな気がするんだよね。
「んなこと言ってたらなんも出来ねえだろが」
「まず、食事量増えないとダメ」
「あー……それはなぁ……」
こっちに来てからは僕としてはよく食べてる感じなんだけど、全然足りないみたいで、よく感想を聞いてくるメノさんとかは、何とか僕の食べる量を増やそうとしてくれてる。
「肉だな」
「肉」
「食べてるよ?」
二人揃って溜め息。
普段は、なんか仲悪そうなのに、なんでこういう時だけシンクロするのかなぁ。
心外でーす。
「ブタの様に食って太れよ?」
「限界に挑戦」
「リリさんは、無理はしちゃダメ派じゃなかったっけ」
「イける」
いけないってば。
ともあれ、リリさんが離してくれないから、チラッとボラさんを見ると肩を竦めてくれたから、今日はおしまいでいいのかな。
「そういえば、ボラさんは、ここにいていーの?」
「あ? 何か悪ぃか?」
「そうじゃなくて、ボラさんの荷物は? お家に取りに行かなくていーのなぁって」
「馬車に乗っけた分で足りるからな」
「ボラ様は家に帰りたくないだけ」
「うっせ」
あれかな、反抗期的な。
まぁ、あんまり言うことじゃないかな。
「みなさーん! ご飯ですよー!」
もうそんな時間?
ペリオンさんの声に一人で鍛錬続けようとしてたボラさんはあっさりと屋敷の方に歩いていった。
ほんと、何と言うか、野生児?
「で、リリさん? 離してくれないと歩きにくいんだけど」
「私にお任せ?」
「うー」
さっと脇の下に腕を通されたと思ったらそのまま持ち上げられて運ばれた。
ねこぶらーんみたいな。
疲れたし、楽チンでいいんだけど、このままリリさんに抱えられてご飯になる予感しかしないっ!
で
予感通りだったのは、いいよ。
僕専用っぽい椅子が何の役にも立ってなかっただけだし。
「それでですね、つまり、ウチの、と言いますか、ユウト様のところの者だと分かるように制服を拵ねばなりません」
だそうです。
前にペリオンさんが、イシュカさんを見て、その服からアイリスさんのとこだって分かったみたいに、貴族の家の人は、見たらどこの人なのかが分かるようになってる。
貴族の家の数なんて何十とあるし、繋がりがある家は似た様な服にしたりもするから、覚えるのも一苦労らしいけどね。
それで、今のみんなの服は、お城で働く人用なわけで、メイド服も騎士服も、それにちゃんとした行事に出る時の礼服も甲冑も作らないとダメみたい。
礼服は、騎士服と同じでもいいけど装飾増やしたりはしないといけなくて、甲冑の方は家紋みたいなものも入れておいた方がいい。
会社のロゴみたいな?
「言いたい事は分かったよ。分かったけど、僕そんなこと分かんないよ?」
「はい、そこはわたくし達も承知しております。ですから、わたくし達の方でいくつか候補を作りまして、そこからユウト様に選んで頂く形にしようかと思っておりますが、それで大丈夫でしょうか?」
「うん。なんか丸投げするみたいだけど、僕が考えたらこっちのしきたりとかに合わないかもしれないし」
それに、家紋とか、昔は紋章院とかあったりして、厳格なルールで作られてたみたいな話も向こうであったから、ここでもないとは思えないし、下手な家紋にしたらそこから浮いちゃうかもだしね。
「ま、俺はそういうのは文句言わねえから、決めてくれ。午後もオッソに馬車出させんだろ? 外にいるから頼んだ」
「あ、はい。今日は簡単に話の方向性を決めるだけですから、それでお願いします」
「じゃあ、私とリュリュは、どっちが先にしようか?」
「出来れば先がいい」
「そう?」
「荷物は、終わったんでしょ? 二人で行けばいいと思うんだけどダメなの?」
午後も一人ずつで行こうとしてるけど、この話があるなら僕はここにいるし、荷物取りに行くくらいで馬車をそう何度も往復させてたら馬も疲れちゃうよ。
「分かりました。その様に。じゃあ、リュリュさっさと行ってこよう」
「分かった。ユウト様、ありがとう」
ぺこりと頭を下げて三人が外に行くと、ここに残ったのは、メノさんと、アデーロさんと、ペリオンさんと僕。
「さて、じゃあ、僕は騎士服とか礼服への意見を言えばいいってことになるのかな?」
「そうなります。ペリオン様も、女性が着ても違和感のない形に修正をお願いしますね?」
「絶対に貴族のボラ様の方が適任なのに、なんでここに私が残ってるんでしょうねー。そんなこと、口が裂けてもボラ様の前で言えないからいーですけど」
はぁ、と溜め息をつくペリオンさんはほんとこう、頑張ってると思う。
「それで、ユウト様にお伺いしたいのですが、家名に何か謂れはございますか?」
「えっと、謂れ……?」
「例えば、王家であれば、建国にあたって前身となる腐敗した国を打倒して出来ましたので、盾に剣、そして現王家にも受け継がれております赤髪から、再生を象徴しましてフェニックスをあしらった形になっておりますし、ボラ様の家では代々武を尊んで来られたので、その勇猛さを獅子の顔で表していますね」
「うーん……えっと、紙とペンあるかな?」
「はい、こちらに」
前にアデーロさんにはお話したんだけどね、と軽く前置きしてから、ペンを片手に話をする。
僕のとこでは、文字にも意味があるって事を。
難しい漢字はわかんないけど、山とか川とか、その文字はそれそのものに意味が現れてる。
で、家名というか、苗字は、例えば、西村さんて人がいたら、その人は、その昔に、西の方に村を作ったからその苗字にしたとか、松村さんて人がいたら、その人は松という木を扱う職業に就いてた人が名乗ったとか、川村さんなら川の近くに村を作った人とか、そんな感じ。
「つまりね、そういうのが、いっぱいあって、それが普通なんだけど、僕のはちょっと珍しいの」
そう言ってから、僕の名前を書く。
『 回 勇斗 』
「この“回”という字がユウト様の家名のフタワと読むのですか?」
「うん。漢字が結構カクカクした感じの文字だから、ちょっと変だけど、輪っかが二つある様に見えるでしょ?」
「先程、ユウト殿が説明しておられた事の意味を全部投げ出した様な気さえしますね」
「ユウト君、まさか、見た目で読んだだけなの?」
「みたいだねー」
三人とも微妙な顔をしてるね。
まぁ、僕も初めて知った時は、モヤッとしたけどね。
「でもね、もちろん、この文字にも意味はあって、意味は今なら僕がここにいる事も、なんか運命なのかなーって思ったりもするんだよね」
「どういう事でしょうか?」
例えば、勇斗の勇は、勇者の勇と、僕の国では同じ文字。
勇人って書くユウトもあって、それなら勇ましい人って意味だから、勇者そのままなんだけど、斗って文字は、柄杓とか升とかの意味があるけど、星の事を指したりもする。
それで、回って文字には、繰り返すとか、戻すとか、当然回すって意味がある。
それに
“星の巡り”
と言う言い回しには、運命って意味合いがある。
「だからね? 僕の名前を今言った様な意味で、無理矢理にだけど読もうとするなら、“勇ましい星の巡り”って事になる……のかもしれないね?」
「そんな、意味が……」
「ユウト殿は、だから、御自分が勇者だと、言われるのですか?」
「ちがうよー。僕が勇者とか、意味わかんないなぁって、ずーっと思ってるよ」
パタパタ手を振って、目を瞠るアデーロさんに違うって言いながら、笑っちゃう。
そんな否定する僕をペリオンさんが不満げに見てる。
「本当に違うんですか? 私は今のお話を聞いて、ユウト君が勇者なんだって納得してたんですけど……」
「だって、僕、勇ましくないもん!」
えっへんと胸を張る。
身体は小さいし、戦うとか好きになれそうにないし。
そりゃ、背は伸びたり体付きもよくなるかもしれないけど、誰かを傷付けるって事に肯定的になれないと、思う。
理由があれば出来るようになるのかもしれない。
どうしようもなくて、それしか出来ない時もあるのかもしれない。
でも、勇者っていう、みんなの希望になる様な、そんな立派な、みんなの前に立つ様な人にはなれないよ。
「た、確かに、そういう面ではユウト君は違うと言えるかもしれませんけど、別にそういう形の勇者ってわけじゃないだけかもしれませんよ?」
なんで、ペリオンさんはこんなに必死なんだろ?
僕が勇者じゃなくても、ペリオンさんなら、気にしませんって言いそうなんだけど……
「僕は勇者になるよ。でも、みんなの思う勇者にはなれない」
「あぁ、そうですか、それなら、はい。ユウト君のやりたい様にしていれば大丈夫ですよ。むしろ、頑張りすぎないようにしますからね」
「でも、時間ないよ?」
「そんなの大人の都合ですから。私達が何とかしますよ。ね?」
「ええ、勿論です。わたくし達の我儘でユウト様にはすでに償いの効かない事を仕出かしているのですから、わたくし達はユウト様を権益の食い物になどさせません。アデーロさんは、ユウト様が女性ではなくともちゃんと守って頂けますか?」
「僕はこれでも騎士のつもりなんだけどなぁ。騎士がそうホイホイと職務を投げてるようじゃ務まらないよ。ユウト殿を守るのが今の僕のやるべき事。勇者かどうかは関係ないさ」
「色仕掛けに惑わされないで下さいね」
「その時は逆に僕に惑わせてみせるよ」
ふふふふ、とお互いに笑ってるけど、全っ然楽しそうじゃないね!?
「で、僕の家紋に、そーゆーのも盛り込むって事でいーの?」
「そうですねぇ。二つ重なった星をモチーフにする感じではどうでしょうか」
「そこまで行くなら何か勇ましさの象徴みたいな動物も入れて良いんじゃないですか」
「いや、勇ましさはないってさっき僕言ったよね」
「でも、ユウト殿は勇者ですし」
「まぁ、紋章官に相談致しましょう」
「あ、そーゆーのあるんだ」
「ありますよー。私も騎士になった時にお世話になりました」
「ペリオンさんの紋章ってどんなの?」
「え……な、内緒で!」
「ずるいー!」
「いやいや、ユウト殿、貴族ではない騎士の紋章など、番号付けているくらいのものが多いですから、先程の様にちゃんと謂れを持って作っていくものとは違います。そんなものですから簡素なもので恥ずかしいんですよ。許してあげてください」
「アデーロさんも?」
「はい、僕も。間は空けますが使い回されたりしますからね。個人が特定出来れば、最終的に問題ないので」
「うわぁ」
むかーしむかしは、それこそ代々の歴史と共に複雑化してたそうだけど、もう何が刻んであるかわかんないくらいみっしりとなったそうで、ここエランシアでは、わかり易さを重視しているみたいなんだけど、その弊害がこんなところに。
「後は服の方ですが、こちらはなるべく黒で揃えていくつもりなのですが、宜しいでしょうか?」
「黒……?」
「はい、ユウト様は見事な黒髪黒瞳ですから、それに因んでと思っております」
「なんか、黒だと、見た目、良くなくない?」
「光沢のある生地を使いますから上品さが出ますよ」
「そう、かな……?」
「はい。テリアが帰りに服飾店から人を連れてくるか、サンプルを持ってきますのでそこで見て頂ければ」
「あ、ユウト君、真っ黒な服ってわけじゃないからね? 縁どりとかの糸とか、刺繍は別の色になるから、大丈夫ですよー」
なんだ、そういう感じなんだ。
喪服みたいな真っ黒な感じを想像しちゃってたよ。
そりゃ、そうか。
世の中には変な苗字(失礼)な人もいるかとは思いますが、それには何かしら凄い意味がある
かもしれません。
下の名前もね!
学校の宿題で、自分の名前のネーミングについて聞いてくる!
というものがありましたが、みなさんはそーゆーの聞いた事ありますか?(^^)
ちなみに私は、頭文字だけを“行”で決められて後はそれに似合う名前をテキト……げふん!真剣に考えた結果だそうです。
小学生だった私はポカーンとしました。
こんな子に育って欲しい!
とかゆー気持ちで付けたんだって!
みたいな話が出てくるはずでした。
そーゆー人はおとーさん、おかーさんに感謝しようね!
とゆー微笑ましいかもしれない宿題が盛大な地雷と化した瞬間でした。
今はキラキラネームとかあるので、それはそれで地雷な気もしますがw