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類は友を呼ぶんだワン♪(意味深) (side ピエレ)

お上からお叱りは受けない……はずっ!(まてこら)


今日も宜しくですよっ!

みんなのピエレだわん!

 

 サラサラと筆を滑らせて聖典の写本を作る。

 日課となって久しいので、まぁ、面倒くさいとは思えど、可もなく不可もなく、楽しくもなく詰まらなくもなく。

 これが、聖女印の聖典になり、それが巡り巡ってあたしのところに目に見えないものとして帰ってくる。


 まぁ、目に見える形でこんにちわってこともあったりなかったりするけれど。


 どこもかしこも、いつかは腐るという一点においては変わらないのだと、まだ成人もしてないあたしは思うわけ。


 とはいえ、神様の意識に入りやすい場所だからして、これでもあたしたちは腐りにくいのだと薄々はわかってる。


 それにしても


「ユウト、可愛かったなぁ」


 そう、それに尽きる。

 勇者として召喚された時は、あたしはあまりの神気に気絶するかと思うくらい気持ちよかった。

 そ、れ、に、逢ってみたら、それはもう、可愛い事言ってくれちゃってさぁ。

 あんなところで頭ぐりぐりしてさー、あたし死んじゃうかと思ったよ。

 ユウトがしたいならあたしに否やはないけど、するなら誰にも邪魔されないとこでたっぷりして欲しいし。


 あ、ちょっと我慢出来ないかも。


 これが終わったらしよう。絶対に。

 と、思いつつも、字が崩れない様に丁寧にーっとね。


「あやや?」


 慣れた写本作業で、間違いなんてそうそう起きないのに、手が勝手に動いたみたいにスルッと文字を書き出した。

 って、こらー!

 後少しだったのに書き直しか!

 もう気分乗らないからもう明日にしよっかなぁ。

 そうだ、そうしよう!

 これは書き損じじゃないのです、神様のお告げ?

 今日はもういいんだって仰ってるんだ、そうだ。

 と、紙を丸めようとしたら、目に飛び込んできた。


『───愛し迷い仔 (めしい)て惑う 嘆きの奈落』


 これは、託宣だ。


 間違えたと、思って引いていた手を紙に戻せば、また、勝手に手が動く。


『願う 希う 早く 疾く 檻の獣の腹が鳴る 皿は並んだ 料理は今少し 盛られる前に 食い散らせ』


 綴られる文字に眉が吊り上がる。

 ユウトが食べられる!?

 その前にあたしが食べればいいの!?

 よーし、分かった!


 ん……ユウトは、どこかな?


 護符を撫でれば、ユウトがお城にいるのが分かる。

 ゆっくり移動してるっぽいのは、まだ大丈夫って事だよね。

 でも、急かされてるんだから猶予はない。

 椅子からおりて、すぐに行かないとと、衣装部屋に歩きながら、今のうちに馬車の手配を頼んでおかないと。


「キーガー!」

「はい、何なりと」


 ()()()()()()()()()あたしに返事を返す。


「馬車の用意、お城に行くよ! 先触れは待たない。速いのにして」

「かしこまりました。お召し物の用意は?」

「要らないし、要るとしてもキーガーには頼まないから」

「何故です!?」

「男だからに決まってるでしょ! この変態!」

「自意識過剰なのでは?」


 不思議そうに首を傾げるキーガーに詰め寄って、途中聖典を掴みあげて躊躇なく股間に叩き込む。

 何故か分かりたくもないけど、叩きやすい様に腰を前に突き出してた気がする。


「おぅふぐぅっ!! ありがとうございますっっ!!」

「いいから、さっさと用意して、時間ないの。もしも手遅れになったら、あたしの前に顔を出すのを許さないし、苦痛とは無縁の至れり尽くせりの贅沢な生活をさせるわ」

「今すぐ用意します!」


 駆け出した変態を見送って、あたしは衣装に向き合う。


 とは言っても、あたしは聖女で、それに見合った服しかない。

 まぁ、装飾は多いけど、あたしもふりふりの服とか着てみたいなぁ。

 どれもこれも白ーいぞろっとした服ばっかり!

 もっと、こう……スケスケの黒いお色気たっぷりの服とかないかなぁ。


 仕方なくいつものと同じような服に袖を通して部屋を出る。

 あたし付きの神官がそろりと寄ってくるのが面倒くさい。


「聖女様、先程司祭が慌てておりましたが、何か急なご予定でしょうか?」

「えぇ、申し訳ありません。託宣が下りまして、今すぐ王城へ向かわねばなりません」

「おぉ、では、すぐに遣いを走らせます故、お待ちを」

「必要ありません。火急の要件ですので、すぐに発たねばなりませんから」


 今すぐって言ってるのに!

 遣いをやって折り返してなんてやってたら間に合わない。

 はしたなくない程度に早く足を動かして裏手の門に立つ。


 馬車の用意がまだだけど、あたしが走るより、馬車を待ってる方が早い。

 だから、意識を頭の中に集中して、ユウトの居場所を追跡する。

 お城の構造を思い出して、ユウトの移動してる向きを重ねてどこに向かってるのかを先に割り出しておかないと手が足りなくなるかもしれない。


 馬車に乗ってからだとあたしも動いてるから分かりにくくなる。

 だから、今が落ち着いて予測を立てられる最後の時間だ。

 そう思って幾ばくもなく馬車が滑り込んでくる。


「聖女様、お待たせしました」

「ありがとう」

「キーガー司祭! なんですか、この馬車は!? 聖女様にこのような馬車に乗れと言うのですか!」


 装飾だらけのゴテゴテした馬車で向かってる場合じゃないんだからこれでいい。


「今すぐいつもの馬車の用意をしなさい!」


 なのに、五月蝿く格式とか何とか意味の無いことを並べ立てる馬鹿に構う必要なんてどこにもない。


「マイロ司祭、どきなさい。あたしは火急だと言いました」

「しかし!」

「聖女様は一刻を争うと仰られた。神のご意志に背くか?」

「せめて、伴をお待ちに……」

「必要ありません。キーガー司祭、すぐに出してちょうだい」


 制止する声を振り切って馬車を走らせ、ため息をつく。

 覗き窓を開けてキーガーに愚痴をこぼす。


「はぁ、全く、困ったものよね、聖女様聖女様って」

「まぁ、仕方ないですよ」

「あなたが馬車も操れる優秀な司祭で良かったわ」

「そうでしょう? 貴女に罵られて(さげす)まれて(ないがし)ろにされると私、神に触れた気になるのです」

「ねえ……ほんとにその変態なところは治せないの?」

「有難う御座います。次の生までにはなんとか」

「じゃあなるべく早く逝ってね」

「でも、今は私がいて良かったでしょう?」

「この優秀さがなかったら引き立ててないわ」

「その為に色々磨いてきましたから」

「キーガー椅子とか、あたし本当に止めたいんだけど」

「申し訳ありません」

「謝るくらいなら止めて?」

「申し訳ありません」


 もうやだこの変態。


 そんな事を言いながら走らせた馬車が、ようやく城門に近づく。

 普段のものと違う馬車だからか、止めようとするもの達にさしものキーガーも速度を落とすが、何をしているの。


「突破して」

「よろしいので?」


 馬車の扉を開いて、不安定な状態だけど顔を出して、あたしが、聖女がいることを示す。


「すみません! 通して下さい!」

「聖女様!?」


 慌てて道を空ける門番の驚いた顔に、すれ違い様軽く頭を下げて、先を急ぐ。

 そして、行けるところまで行った馬車から飛び降りて、後ろから追いかけてくるキーガーや、あたしの暴走を止める為の兵士たちを置き去りにひた走る。


 教会に監禁……もとい、大切に保護されてたあたしには体力がない。

 すぐに息が上がるけど、しかし、ここで止まるわけにもいかないのだ。


 何せ、ユウトの貞操がかかってる!!


「で、聖女様はどちらに?」

「……はっ……はっ……あ……っち……!」


 あたしの全力疾走の横でなんか歩いてるみたいに併走してるキーガーは、変態なだけじゃなく、走るのも速いのか。


「いえ、聖女様が遅いだけですよ? 本当に走ってるんですか?」

「……はっ……ん! んー!!」


 そこまで言うならあたしを運べと!

 手を開いて、仕方なさそうなキーガーに掴まって抱えて貰う。

 変態だけど、仕方ない。

 今は時間が惜しいのだから、我慢。


「よっと、で、どちらに向かえば?」

「多分、庭園の方」

「分かりました……しかし、重いですね」

「失礼な事言わないで。あたしは平均よりも軽いわ。というか言うに事欠いて、女性を抱えて重いとか、死刑でいいの?」

「さすがに人を持って走った経験はありませんから許して下さいよ」

「後で踏んであげるわ」

「有難う御座います!」


 揺れるのはどうしようもないけど、チラリと後ろを見れば、あたし達を追いかけてくる兵士たちが、ずいぶんと近付いてきてる。


「ねえ、ちょっと……追いつかれそうなんだけど」

「そりゃ、こちらはお荷物抱えてますしね」

「わざわざあたしを抱えたんだからもっと頑張りなさい」

「これでも聖女様が走るよりはずっと速いですけどね!?」

「あたし、結果しか評価しないの」

「酷いですね。もっとお願いします」

「そーゆーのいーから、速くして」


 後ろから聖女様ーと呼びながらこちらを追いかけてる人達に捕まるまで後少し。

 早くもっと有能な乗り物に乗り換えないと……


 と、思ってたところに、上から巨漢が落ちてきた。

 騒ぎを聞きつけて来たの!?

 もう! 時間ないのに!


「ごめんなさい! お願いですから通して下さい!」

「………………」

「そうです。勇者様が危ないのです」

「………………」

「あたしが分かりますけど、こちらも限界で」

「………………」

「ええ、では、宜しく御願いします」


 オッソさんは、ユウトの護衛だそうで、今そちらでも探しているというなら好都合です。

 この駄馬から乗り換えるのにも最適と言えるでしょう。


「何してるのですか。早くあたしをオッソさんに渡して下さい」

「え!? ちょ、どういうやりとりが!?」

「何を聞いていたのですか……そーゆーのはいいですからあたしの替わりに後ろの足止め宜しく御願いします」


 ペシペシと叩いて急かすも、愚図に構っていられないとこちらに来てくれたオッソさんの肩に乗せられて、先程の鈍足が嘘のように駆けるオッソさんに掴まりながら、キーガーに後を任せます。


「あとは頼みますねー」


 なんか悲鳴が聞こえた気もしますが、キーガーにとっては悲鳴=歓喜ですからまぁ良いでしょう。


「………………」

「はい、おそらく庭園だと思われますので、先程あたし共の所為で降りてきて下さったのに申し訳ないですが、上へ御願いします」

「………………」

「そう言って頂けると有難いです」


 下に降りてきたと思ったらまた上に上がらなければならないという遠回りですが、闇雲に探し回るよりはと言ってくださるオッソさんに感謝ですね。


 巨体をしなやかに躍動させるオッソさんは、あたしを抱えているというのに、階段をするすると駆け上がりつつも、安定感をそのままにしてくれるので、もう一度意識をユウトに向ける。

 大丈夫、庭園で間違いない。


「妨害がないとは思えませんが、大丈夫でしょうか」

「………………」

「そうですね、いざとなればあたしは捨ておいて構いません」

「………………」

「はい。最優先は勇者様ですから」


 そうして庭園に向けて駆ける中、ユウトの意識が危うくなったのがわかる。

 もう幾ばくの余裕もない。


「オッソさん! と……聖女様!?」


 そう思っていたのに、後ろからかかった声にオッソさんの足が止まる。

 時間もないのに! と、思ったけど。


「………………」

「そうですか! それなら、着いてきてもらいましょう」

「え? 何がですか」

「勇者様の意識が途絶えました。猶予がありません。着いてきてください」

「ユウト君の!? わ、分かりました!」


 再び走り出したあたし達ですが……

 ユウト、君……?

 どういう事でしょうか?

 薄茶の髪を後ろで簡単にまとめた、なんかパッとしない女。

 いや、可愛い系のつい虐めたくなる小動物的な空気感が、何か庇護欲と嗜虐心をそそりますね。

 そう思ってみてみれば、単純にパッとしないというより、無個性の中で光るというか、何はともあれ構いたくなる様なよく分からない魅力がありますね。


「? ……何か?」

「いえ、何でもないです。ペリオン様は可愛らしいなとそれだけです」

「は!? いやいやいや、何仰ってるんですか!? 聖女様こそ、銀髪がとてもお綺麗ですし、お人形さんみたいに可愛いですし、美人で可愛いとか最強じゃないですか!」

「ふふ、有難うございます。でも、あたしはペリオン様がちょっと羨ましいです。勇者様のお近くにいられて」


 まぁ、それはそれで羨ましいですけど、問題はそこではなく。

 なんと言いますか、このペリオン様、ワンコ的な空気が雌犬になりたいあたしからすると喉から手が出るほど羨ましい!


 ユウトだって、こんなワンコから飼って! と言われたら、喜んで飼ってくれる事でしょう。

 しかし、あたしが、あぁなるのは、なんか無理な気しかしない。

 元々の性格が違うのだろう。

 そう考えたら、愕然とした。


 あたし、雌犬に不向きなんじゃ!?


 どうしよう?

 ペリオン様に聞いてみる?

 いや、でも、そーゆーのはなんか違うよね?

 あたしはユウトの雌犬になりたいだけで、ペリオン様みたいな雌犬になりたいわけではなくて、だったらやっぱりユウトに躾て貰えばいーかなぁ。


 ユウト、あたしを貴方好みの雌犬にして!


 なーんて! なーんてねっ! いやん!


「………………」

「あ、いえ、大丈夫ですよ。ペリオン様もいらっしゃれば問題ありません」

「………………」

「はい、申し訳ありません。今はこちらに集中します」

「……あの……」

「はい、すみません。ペリオン様のご迷惑にもなりませんので、どうか御容赦を」

「いえ、そうではなく……オッソさんとどうやって会話されてるのでしょう?」

「……どうやって? とは……」


 はて?

 何か問題があるでしょうか?

 ぶっきらぼうではありますが、意思疎通が拙いというほどではないとおもうのですが。


 そうこうしている内に庭園の近くまで来ました。

 何やら入口付近に騎士っぽい邪魔者がいますが、蹴散らすのに何の支障もありません。


「止まれ! ここから先は今立ち入り出来ぬ!」


 何を言ってるのやら。


「構いません。突破して下さい」

「………………」

「え、いいんですか!? 近衛ですよ!?」

「責任は、聖女であるあたしがとります」

「でも……」

「勇者様が危険なのです。問答している時間はありません」


 四人程度、このオッソさんとペリオン様なら難なく突破出来るでしょう。

 ですがまぁ、相手に動揺をさせるくらいの援護はしましょうか。


「聖女ピエレの名をもってそこを通しなさい! これは神命です!」

「聖女様!?」

「神命!?」

「し、しばし、お時間を! 確認を取らせて下さい!」

「時間がありません! そこを……どきなさい!」


 《 天上の勅命 》を乗せましたが、さすがは近衛といったところでしょうか。

 動揺しつつもこちらに抵抗の構えですが、先に覚悟を決めきったこちらに敵う訳もありません。


 何とか剣を構えたといったていの四人を鎧袖一触とばかりに、叩き伏せにかかります。


「うわー、何この剣! なんかぬるんぬるん動く! 気持ち悪いっ! けど、なんか強いっ!」

「抵抗せずに身を任せて下さい! その子の方が強いですから!」

「剣自体に弱いとか判断されるのは騎士として不本意極まりないんですけどもっ!?」


 ペリオン様の振るう剣が、ペリオン様の動きを補助してより適確な動作に修正させます。

 振り下ろされる剣をなんの抵抗もなく滑らせて躱し、そこから流れる様になんの淀みもなく剣を振りかぶり打ち下ろす。

 肩を強打するように打ち付けた剣を一瞬で握りを変えて身体を捻りこみながらぶん回し、横っ面を剣の腹で引っぱたく。


 吹き飛んだ近衛がもう一人を巻き込んで倒れ込むのを見て、ペリオン様が前に出る。


 あたしはといえば、オッソさんの邪魔にならない様に肩にしがみついてるだけですが、片手が塞がってるのを見てとった相手がいやらしく攻めを控えていると、無理に踏み込めません。


 あたしが邪魔で!


 しかし、猶予的な意味でもない時間は、ここの騒動を聞きつけた増援によって更に混迷を深めます。


「ペリオン様! 行ってください!」

「ですけど……」


 後少しなんだから、先に行って確保さえしてくれれば大丈夫!


「私、庭園迷路の抜け方が分かりません!」

「「「……………………」」」


 あー……


 そーゆー……ね?


 いや、うん、あたしも知らないけど、道は分かる。

 だから、そんな泣きそうな顔しないでいいですよ?


「………………」

「はい、あたしは勇者様の痕跡で追えます」

「………………」

「分かりました。ちょっと怖いですけど、御願いします」

「どうすればいいですか!?」


 残った近衛に対峙しながら問うてくるけど、向こうもこちらに駆けつけてくる人が来れば形勢逆転するからか、守りが堅い。


「ペリオン様! 受け止めて下さいー!」

「へ!?」


 なので、あたしはオッソさんに力任せに投げて貰ってペリオン様の所に行きます!


 慌てて剣を鞘に戻してあたしを受け止めて勢い余って一回転二回転、ようやく止まったあたし達ですが、早く行かねば間に合わなくなります。


「ペリオン様! 剣をオッソさんに!」

「は、はい!」


 あたしの代わりに投げ渡された剣を持って、守りを固めた二人を瞬く間に叩き伏せたオッソさんは、そのまま行けと言ってくれたので、先に進みます。


 もちろん、あたしはペリオン様に運んで貰ってますが!


 庭園迷路をあたしの指示であっちへこっちへ、走り回って、奥の奥へと辿り着けばそこには───


「あら? もう来てしまいましたの?」


 キョトンとした表情の泥棒猫……もとい、マナリス殿下と、ぐったりしながら、服を肌蹴られて、魅惑の身体を晒すユウトの痴態がそこに!


 それはあたしのものなのにーーっっ!!


 あ、違う。

 あたしがユウトのものだし?えへへ。

 いや、そーじゃなくて!


「マナリス殿下!? 何を為さってるんですか!?」


 そう、そういうことだよ!


「ナニって、ユウトと家族になろうと思って」


 そう言って、ユウトの胸元に指を這わせて艶やかに笑う王女は自分の行いに何の疑問も持っていないようですね。

 後、よくもあたしの前でそんな破廉恥な事が出来ますね!?


「その為に、周りを呪詛で冒し、勇者様を攫ったのですか?」

「違うわよ〜! 私はユウトを招待しただけだもの。他の人は私は知らないわ」

「……たとえそうだとして、ならば何故勇者様の意識がないのでしょうか」

「私もユウトも初めてなんだもの! 失敗してしまったら気まずいでしょう? だから、お姉ちゃんである私が導いてあげないといけないんだけど、練習だっていって他の男の方に頼むわけにもいかないじゃない? だから、こうして私だけでも練習しておかなくちゃって思ったの! これなら、私もユウトもお互いが初めてになるから、問題ないでしょ?」


 手を合わせてにこにこと無邪気に笑う王女は何も疑問に思ってないようですね。


「……マナリス殿下、お願いですからおやめ下さい」

「どーして? ユウトと家族になれるのよ? そうしたらきっと姉上って呼んでくれるわ! そう思うでしょ?」

「ペリオン様、この方に今何を言っても無駄です。勇者様を御願いします」

「……はい」


 あたしを下ろして、ユウトを保護しに向かうペリオン様に王女は何の危機感も抱いていないようです。

 まるで、誰もが自分を傷つけるわけないとおもっているかのようで吐き気がする。


「ペリオン? 貴女もユウトの家族になりたいの?」

「ユウト君をお返し下さい、殿下」

「ダメよー、まだ家族になっていないもの。少し待ってて? なるべく早く家族になるんだから」


 何を言っても無駄だと、ペリオン様にも分かったのだろう。

 家族になると気合いを入れている王女を引き剥がして、ユウトの服を直す。


 あぁ……勿体ないっ!!


 そんな状況でもまさか自分の行いを咎められているとは思わないのか素直に引き離されていた王女だけど、ペリオン様がユウトを抱えて私の方に歩くに至って初めて何かおかしいと思ったようで、ペリオン様の後をちょろちょろとついて回る。


「ね? ね? なんで、ユウトを連れていっちゃうの? ペリオンもピエレも私と一緒に家族になりましょう? 私は他の人と家族になんてなりたくないけど、ユウトは勇者だもんね! 女の子はいくら居てもいいからー」

「……はぁ……マナリス殿下、ユウト君が家族になりたいと仰られましたか?」

「言ってないけど、みんな私の事可愛いって言ってくれるし、ユウトだってきっと言ってくれるわ! なら私が好きって事でしょう? それなら私と家族になれるわよね!」


 どうだと胸を張る王女だけど、この人は20歳にもなってこんな思考回路で良いのだろうか。


「マナリス。貴女の独り善がりに勇者様を巻き込まないで」

「えー? 独り善がりじゃないもん」

「ならば、勇者様の意識を戻しても問題ありませんね」

「それはだめだよー!」

「はぁ……ペリオン様、マナリスを止めてからオッソさん達に終わった旨の報告を御願いします」

「……仕方ないですね」

「なーに? どういうこと?」


 ペリオン様に当て身をされて崩れ落ちた王女を示し合わせておいてけぼりにする。

 どうせ、ここは温度も保たれているし、何よりも反省して貰わないと困る。

 勝手に起きて勝手に帰ればいい。

 その間に、陛下なりにご報告申し上げれば取り成してもらえるだろう。


「お疲れ様です、ペリオン様」

「いえ、まさかマナリス殿下だとは思いませんでした。私はてっきり……」

「てっきり? アグレシオ殿下だと?」

「あー……まぁ、そんなところです」

「あの方はあの方でそこまで馬鹿じゃありませんので、やるなら誰にもバレないところでやりますよ」


 よいしょと声をあげて、ペリオン様がユウトを背負うと、外に向けて二人で歩き出した。

 羨ましいです……

 あたしじゃユウトを背負ったり出来ないから仕方ないけど。


 あー、寝顔も可愛いなぁ、ユウトは。


 とりあえず、これでユウトの貞操は守られたって事でよしとしましょうか。

 全く、王女には困ったものです。

 あたしだってそういうのをしても許されるならしたいですよ。

 でも、それじゃ、ユウトが悲しむでしょうから。


 ちゃんと大人になってから、ユウトに首輪でも付けてもらって、それでー、雌犬には気遣いなんて要らないでしょ? とか、言われながらメチャクチャにして貰えたら嬉しいなぁ。


 それともやっぱりユウトは優しいから、恋人みたいにしてくれちゃうかなぁ。

 でも、あたし聖女だしなぁ。

 あ、でもでも、ユウトに聖女なんか辞めてくれって言われちゃったら辞めちゃうなぁ。


「聖女様? どうされました? なんかにこにこされて」

「なんでもなーい。間に合ってよかったなって、思って」

「そうですか?」

「そーそー。後はユウトの寝顔可愛いなってそれだけ」

「そうですね。それにしても……ふふ」

「何?」

「聖女様は本当はユウト君を呼び捨てにされてるんですね」

「あ……な、内緒にしてね? あんまり仲が良すぎても今は色々良くないから」

「ええ、分かってますよ」

「ペリオン様も、他に人がいないところだけでいいから聖女様じゃなくて、ピエレって呼んでね? 仕方ないけど、あたしは聖女の前に一人の女だから」

「分かりました」


 そういって二人で笑いあって歩けば、すぐに外に着くでしょう。


 だから、それまでの短い時間を大切にしないといけないのだ。


 あたしは聖女だからね!



とゆーことでー


他、まだまだ謎な部分は残っておりますが、ユウトは大丈夫だったよっ!

ってところで、後はこの先に任せます(^^)


次回からまたユウト視点に戻って進行して行きます。


重度のマゾが二名にメンヘラヤンデレが一名という困った回が実現してしまいましたが……

これで変態は打ち止め……だと、いいですね?(意味深)

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