カオティックマインド (side ペリオン)
みんなお待ちかね(?)のペリオンさんのターン!
では、今日も宜しくお願いしますm(_ _)m
「……何、やってるんですか」
自然と声が低くなるのは許して欲しい。
あのユウト君が憚らずに泣いているという、それだけで充分過ぎると私は思う。
「ペ、ペリオン、どうしたら……」
アイリス様が酷く狼狽してらっしゃいますが、無視です。
相手が大貴族だとか、そんな事は頭からすっぽりと抜け落ちて、ただただ純然たる怒りしか湧いてこない。
今も、ごめんなさいと謝りながら涙を溢れさせる小さな身体を元凶から遠ざける事しか考えてなかった。
「アデーロさん、監視をお願いします」
「あー……キミは?」
「何を決まりきった事を」
「……そうだね。宜しく頼むよ」
懐から手布を取り出しながら、ユウト君の前に膝を付いて、ぽろぽろと零れる涙を優しく拭き取りながら声を掛けていく。
「大丈夫ですよー、ユウト君が謝ることなんてないですからねー」
「ひぐ、だっで、僕が、じっばい、じたがら……」
「アイリス様が、失敗したからと怒りましたか?」
「…………(ふるふる)」
「じゃあ、ユウト君は悪くありませんね」
「でも……」
「とりあえず、お姉さんと一緒にいましょうか。私は絶対の絶対にユウト君の味方ですよ。後でアイリス様達にメッ! って言っておきますから、私とご飯にしましょう」
泣き腫らした目で私を見るユウト君に意識して笑顔を向ければ、小さくコクリと頷いてくれたので、おいでって手を伸ばして、震えながら私に縋り付くユウト君を抱え上げて、チラッと馬鹿二人を見れば、青い顔をしていますが、誰のせいでこうなったと思っているのでしょうか。
「サイッテーですね」
ユウト君を少し苦しいくらいに抱きしめながら吐き捨てる様に言い放って私達の控え室に連れて行きます。
声が漏れ聞こえては気が休まらないでしょうから、伝声管のフタをべしっと閉めて置きましょうねー。
さて、まずは、何か暖かい飲み物を飲んで欲しいですけど、ここで離してしまうのはユウト君にとっては良くない事でしょう。
少しやりにくいですが、片手で抱えながら……お茶は、流石に面倒なので、もう贅沢にホットミルクにしてしまいましょうか。
ちょっと役得だなーと思いながら手早く二つ作って、ユウト君を抱えながら座って、ひと息。
細身で小柄とはいえ10歳の男の子です。
軽く身体強化しながらとはいえ、うら若い乙女には荷が重いんですよねー。
魔法の才能を運良く植え付けてくれた両親と神様に感謝感謝ですね。
暖かくなって少し落ち着いてきたユウト君がぽつりぽつりと話してくれた事に、相槌を打って、褒めて、全力で肯定してあげる。
そもそも、魔力感知にしろ、循環にしろ、昨日今日で出来ていることが凄いのだから、何も嘆くことはないというものなのに、なんでこんな状態になるのか。
「ユウト君は凄いですね。私はですねー、平民という事もありますけど、魔力感知するのに1ヶ月近くかかりましたよ。普通はもう少し早く出来るようになりますが、たったの一日で出来たなら、それはもうユウト君が凄いからなんですよ? だから、ちょっと失敗したくらい全然問題ないんです。あの人達の事だから、ユウト君には聖痕いくつもあるんだからこれぐらい出来て当然だー! みたいに思ってるのかもしれませんけど、私はユウト君を尊敬してますよ?」
「どう、して?」
「だって、ユウト君、不安だったよね? 急にこんなところに来て、勇者だー! なんて、私だったら怖くて泣いちゃいますもん。それなのに、ユウト君は、頑張ろうとしてくれてて、実際にもうこんなに魔力を使えています。とても凄くてとても立派で、あなたが勇者なんだって、どうだ、凄いでしょう、って、自慢したいくらいです」
「ふふ、それは言い過ぎだよ」
「でもね、それでもユウト君はまだ10歳なんだよ? 私達に応える為にばっかり頑張ってたら疲れちゃうよね?だから、今日はもうお勉強はおしまいにしましょう。ボラ様じゃないですけど、勝手に言わせておけー! ってヤツです。頑張れ頑張れって気楽に言ってくれちゃって、失礼なことですよー。ユウト君はこんなに凄いのに、無理ばっかさせて」
「ペリオンさんがそんなこと言うなんて思わなかったなぁ」
「いーんですよ、みんなが頑張れって言うなら私くらいサボっていいって言ってあげてもー」
「ボラさんと同じだね」
「え……?」
ボラ様、そんなこと言う人でしたっけ?
んー……
オルトレート卿の前でぺってするボラ様。
お姫様だと全力でユウト君を騙す片棒を担ぐボラ様。
私のお願いを足蹴にして嗤うボラ様。
走る私を追い掛けてどつき回すボラ様。
片腕吹き飛んでるのに平然としてるボラ様。
そんなボラ様と私が……同じ!?
「ユウト君、冗談ですよね!?」
「え、何が?」
「ボラ様と私が同じとか、悪夢なんですけど!?」
「えぇ!?」
「知ってますか!? ボラ様は戦場で誰よりも蛮族だと自慢げにするようなお方ですよ!? そんな野蛮が服着てる様な方と私は同列なんですか!?」
「え、でも……ボラさん、結構優しいですよ……?」
「違いますからね! それは優しさじゃないですからね! ちょーっと珍しい玩具があったから遊んでみようかな、とか、そーゆー感じで、人としての優しさなんて、欠片もないですからね!」
「それは言い過ぎじゃ……」
なんてことでしょうか!
あの野獣が服を着て歩いてる様なボラ様に優しさとかいう存在しない心を感じてらっしゃるなんて!
どうやってまた騙したのでしょうか。
今度問い詰め……るのは、怖いので、注視しておくとして、あんな剥き出しの悪魔にすら優しさを見出すユウト君の純粋さを讃えれば良いのでしょうか?
いや、だめだめだめ!
いくら純真なユウト君が尊いとはいえ、これを見逃すなんてそんな馬鹿な事が許されるでしょうか!? 否っ!
マルベリーノ様の悲劇で誤解を解けずに殺されざるをえなかったハスタール様の事を忘れてはなりません!
あぁ、悲しみにくれるマルベリーノ様(役のバロテス・イサキ様は神ですね)の二の舞は許されません!
「いいですか? ユウト君、ボラ様というお人は、悪意が服を着て歩いている様なそんなお方です」
「あ……」
「ですから、優しさなどという人間的な感情は持ち合わせていないんです。騙されてはいけません。人が何かしらの不幸に見舞われた時に指さしてゲラゲラと笑うのが───」
「よう、なーに話してんだー?」
「───悪魔というもので、その、えぇ、なんと言いますか、ボラ様? 違うんですよ」
後ろから睨めつく様なじっとりとした声をかけられて私はキリキリと壊れた玩具の様に振り向いた。
そこには、ニヤリと嗤う悪魔、もとい、我らが戦神ボラ様が御降臨なさっておりましてー。
「何が違うって?」
「何が違うんでしょうねー、あは、あははー」
ダラダラと背中に冷たくて粘っこい汗が垂れてきますけど、私、生きて帰えれるでしょうか?
「ボラさんは優しいんだよって、そーゆー話してたの」
「ユウトくんー!!」
天使っ!!
後はこの天使の後光に縋って何とかやり過ごせば……っ!
い、いやいや、ユウト君いわく? 優しいんですし? そんな、大変な事にはならないよね? と言うか、ならないで欲しいなーって言うか、優しいんだったら許してくれるよね?
チラッ
ボラ様は、なんか不服そうなお顔でじっとりと私、じゃなくてユウト君の方を見ていて……あれー? なんかホントに私の悪魔発言が許されそうな空気感? 大丈夫? 私死なない?
「チッ、まぁいい。勇者様は連れてくぞ」
「え……っと? 何かありましたか?」
ユウト君の純真さにボラ様が負けた!?
あの!
血に飢えた躾のなってないケダモノが!?
あぁ、いえ、優しさに毒されてしまったんですね。
ユウト君は勇者様じゃなくて神様かな?
それはともかくとして、何か用事でも出来たのでしょうか?
元々お勉強はお昼までの予定でしたし、その後に今日は特段予定はなかったはずなので、ゆっくりさせてあげたいとメイド達から聞いていたのですが、どなたかが、それにかこつけて押しかけたんでしょうか?
「ちょっとな、教会の方から呼び出しがかかった」
「教会、ですか? ……大丈夫でしょうか?」
「? 教会ってピエ……聖女様から何かあったの?」
「……あぁ、そんな感じだ」
えっと、教会からの呼び出しってだけだと、確かそのまま受けたらダメなんですよね?
でも、聖女様とは仲良しになったのですから、それなら大丈夫なんでしょうか。
「えっと、じゃあご飯食べてからお伺いする感じで調整すればいいですかね?」
「いや、飯は向こうで用意するみたいだからこのまますぐに向かう」
「それはまた急なお誘いですね……」
「だから俺が今から連れていく。今日は他に予定もないし、お前はもう休め」
「え? いや、今日の護衛役は私とアデーロさんですから、引き継ぎますよー」
頭打ったわけじゃないんですけど、治療で頭も綺麗になったんでしょうか?
ユウト君が優しいって言うのもなんかちょっとわかると言うか、いや、後でユウト君のいないところで何か仕返しされるんじゃ。
「ペリオンさん、僕、ミルク飲んだからまだおなか空いてないし、すぐにって言うなら行くよ?」
「それは……うぅん……」
アイリス様達と顔を合わせるのが気まずいってところでしょうか?
本当に何してくれてるんでしょうか?
まぁ説教するにしても、ユウト君の前でやるのはダメですから、場所は考えないといけない所でしたが。
ユウト君と目線を合わせて、じっと見つめるけど、もうそこまで悲観してる雰囲気もないですし、大丈夫でしょうか。
「もう、平気ですか?」
「うん。ペリオンさん、ありがと」
「分かりました」
大丈夫だよって、もう1回だけ抱きしめて、ほっぺた同士で触れ合ってにこっと笑ってあげれば、ユウト君も大丈夫そう。
「では、アデーロさんに伝えて、私もすぐに追いかけます」
「だから、大丈夫だっての。中、大変だろ? そっちを何とかしておけ」
「ですけど、護衛は二人ですし……」
「オッソもこっちに向かってるから心配するな」
「オッソさんも来てるんですか!」
「おう、すぐにこっちに合流するから、お前はそっちを抑えてくれ」
「そういう事なら……分かりました」
「よし、じゃあ行くぞ」
そういって、ユウト君を連れて行ったボラ様をいってらっしゃいと見送って、あの二人に説教してやらねば、と気合いを入れて、部屋を出ようと思ったけど、その前にホットミルクを飲まないと!
贅沢ぅー!
「はふー……全く……アイリス様もイシュカ様も、ユウト君の前でケンカなんて、思慮にかけます」
ユウト君から聞いた限りでは、お二人もユウト君を責めてた感じはないですし、何でそこまで険悪な事になったのかと思いますが、それでも、ユウト君を泣かしてしまうなんて言語道断な事です。
先程は、私も熱くなってしまいましたけど、私なんかよりもお二人の方が大人ですし、顔を青ざめさせてましたし、すぐに謝罪してくれる事でしょう。
と、いうか、今更ですけど、アイリス様にあんな態度とって、問題にならないかの方が心配と言いますか、いやでも、悪いのはアイリス様達ですし、そこらへんの道理が分からない人達でもないですから、大丈夫……大丈夫ですよね。
「よ、よし、ここでもたもたしてると足が動かなくなっちゃうから、行くぞー、ユウト君の為にもっ!」
パシンとほっぺたを叩いて気合いいれて。
気持ちを引き締めて三人の待つところに向かった私は唖然とした。
「この! あんたのせいで、ユウトさんが泣いてしまわれたんだからね!」
「キャンキャン喚くクソガキが泣かせたんだろう? 私のせいにするな!」
「キミたち、いい加減にしないか! 僕の言うことを聞きたまえ!」
なんなの、これは……
三人が三人とも、お互いを罵り会う異常な事態に足が止まる。
なんでこんな状況になるのだろう?
私の知る限り、アデーロさんまで含めて、衝動的に言葉を発したりはしない思慮深い人達のはずだ。
あんな状態で、宥めに入ったアデーロさんまでが目を剥いて怒りを露にするなんて、有り得ないでしょう!
「あ、ペリオン!」
混沌とした場に竦み、棒立ちになっていた私に気づいたアイリス様が、こちらに駆け寄ると、私を握り潰さんとばかりに掴みかかり許しを乞う。
「ペリオン! 先程のは違うのですよ! 私は悪くありませんのに、イシュカが、暴言をはくものですから! ユウトさんに謝らせて下さいませ!」
憤怒の表情から一転、泣き崩れる様に私に訴える。
その、情緒不安定としか言い様のない様子にゾッとする。
「この行き遅れの言うことに耳を貸してはいけませんよ! 口汚く罵ってきたのはこれですから! 私から勇者殿にお詫びを申させて下さい!」
アイリス様を引き倒して私に懇願するイシュカ様。
「このアバズレ共の事を聞く必要なんてないですからね! 僕の言うことも聞きやしない!」
憎らしげに苛立たしげに吐き捨てるアデーロさん。
どうしてこんなことになったの!?
おかしい! おかしい!! おかしい!!!
どう考えても、有り得ないような事になってる!
何か、何か、こんなことになった原因がある、と考えた方がいいのに、五月蝿くギャンギャンと自分勝手な主張を喚き続ける馬鹿どものせいで思考がまとまらない。
落ち着いて考えるには邪魔なコイツらを黙らせるにはどうしたらいいだろうか?
アイリス如きは殴って黙らせればいいとしても、骨董品とはいえ近衛だったイシュカにはそれでは止められないし、優男だけど男であるアデーロなんかは私みたいなか弱い乙女が殴ったところで、平然としているだろう。
二人も、私の思い通りにならないんじゃ、殴るのはダメだろう。
もういっそ切り捨てればいいだろうか?
苛々が止まらない。
また、私を無視してお互いを罵倒しあってる今なら、苦もなく殺ってしまえるんじゃないだろうか。
一歩、剣に手を掛けながら踏み出した私の肩を誰かが掴んだ。
煩わしい!
睨みつけるように振り返った先にオッソがいた。
無口で、根暗な、図体だけ立派な男。
「飲め」
そんな男が、何かの薬らしきものを手に迫ってきたけど、私は騙されない。
これが毒でない保証がどこにあるというのか。
「飲め」
そう思っていたのに、無理矢理口に突っ込まれて、流し込まれた。
抵抗しても、普段ののっそりした態度のどこにこんな器用さがあったのかと思うほど、容易く押さえつけられて、吐き出そうとした口と鼻まで塞がれて、強引に嚥下させられた。
死ぬ前に殺してやる!
と、怒り狂っていた私の思考が急速に冷える。
「ぁ……オッソ、さん……」
声が掠れて震える。
今、私が何を考えてたのかと、思考の異常さに悪寒が止まらない。
常になく厳しい表情をしたオッソさんが、私をチラリと見てから、視線を部屋の隅に滑らせる。
震える身体を押さえつけて、カチカチとなりそうな歯を食いしばって、その視線を追うと、部屋の隅に何か、鈍い輝きを放つ小さなモノが置いてあるのが見える。
「壊せ」
「……オッソさんは……何を……」
滲む涙を堪えながらそう問えば、いつの間にか、あれ程騒がしかった三人が、能面の様な無表情で、こちらをじっと見ている。
「ひっ……!」
あれ程に狂っていた三人が何故、急に私達を静かに見ているかなんて、言われなくたって分かる。
私達がナニをしようとしているか、それによってナニが起こるのか、狂わせたナニかは当然知っていると言う事で、それならそれをしようとしている私達をどうするかなんて、火を見るよりも明らか……!
「いけ!」
ドンと背中を押されて、転びそうになりながら、言う事を効かない足を引きずって、もつれるように前に、早く、速く、と駆ける最中に背後から、剣戟の音が響く。
あんな狂った人達をそう長く押し留める事なんて出来るわけない!
後ちょっとの距離を飛びかかるように身体を投げ出して、その禍々しいモノを掴むと、力いっぱい床に叩きつけた。
「こ、の……! オッソさん!!」
そうして、砕け散るのを見とどける事無く振り返れば、あの一瞬で傷だらけにされていたオッソさんの前で、狂気に染まった顔で攻め立てていたアデーロさんとイシュカ様の二人が、驚愕の表情で引き、剣を投げ捨て、今にも魔法を打たんとしていたアイリス様は、慌てて魔法を解除した。
終わった……?
そう思ったら、腰が抜けてぺたんと座り込んだ。
後少し、オッソさんが来るのが遅れていたらどうなっていた?
まず、私が剣を抜いて襲いかかって、それに気づいた二人も剣を抜くだろう。
そして、腕の劣る私が切り捨てられ、剣を抜いた事でタガが外れた二人が切り結び、アイリス様は、魔法が使えれば二人を殺して勝ち、判断を間違れば殺され、二人の一騎打ちでどちらかが死ぬ事になっただろう。
情けなくも動けなくなった私をおいて、傷だらけのオッソさんが三人に薬を配り、飲ませていく。
各々が、深い溜め息を零しながら、腰を落として気持ちの悪い汗に身動ぎをしている中で、回復の魔法薬で傷を癒しているオッソさんにお礼を言う。
「オッソさん、ありがとうございました」
「(ふるふる)」
「……あ!」
なんで私はこんな大事な事をすぐに思い出さなかったのか!
今、ボラ様だけがユウト君の護衛なのに!
「オッソさん!! 今、ユウト君の護衛がボラ様だけです! もう教会の方へ向かわれてますのでお早く!」
早く追い掛けて下さい、とそう言った私にオッソさんの眉間に皺がよる。
なんですか、その、初耳だ、と言わんばかりの表情は!?
お休みのオッソさんが、ここにいるのはなんで?
ボラ様が、呼び出しで、オッソさんを呼んだからって、それで、それで、それ以外に、何か理由が……?
ボラ様が呼んだ───?
なに、この、違和感……
そもそも、そもそも!
今朝、ボラ様は腕がふきとんで、それで治療に向かったんじゃなかった?
平然としていたけど、あの怪我で、看護官が行動を許すだろうか?
許すわけないでしょう!?
なら、なら、なら……!!
あのボラ様は誰だ!?
話しながら、そんなに焦ることなのかと、思ったクセに!
ボラ様の事を話題にしていて、動揺していたからだ!
今思えば、なんで、ここが大変な事になってると、言い切っていた!?
アデーロさんに宥めるのを任せて、それなのに、それで済むわけないと、そう確信していなければ無理じゃない!
「……ユウト君をボラ様に変装していた賊に渡してしまいましたっ!申し訳ありません!!」
まずい!
途中まではボラ様の姿を取るだろうけど、いつまでもそのままなわけが無い。
元の姿を見せたその時には“手遅れ”になったと確信した時だ。
歯噛みしても何も変わらない。
動かないといけないのに、抜けた腰はすぐに私を立たせてはくれない。
「どこだ?」
目の前に来たオッソさんは、怖いくらいに真剣な顔で、私の肩を掴む。
「教会からの誘いだと、言っていました。ユウト君の不審を買わない為にある程度までは城内礼拝堂に向かっていると思われます!」
「分かった。任せろ」
そう言って、大きな身体を翻らせて、走り出したオッソさんを私はただ眺めていた。
どうか、どうか、ご無事で───
とか、しくしく泣いてる場合じゃない!
私は女だけど、未熟だけど、今は護衛騎士だ。
何か出来ることはないの!?
「皆さんは、立てますか!?」
誰も、立てない。
それどころか、鍛えてるイシュカ様とアデーロさんは何とか身をたてようとしているけど、アイリス様が倒れたまま動かない。
「……お嬢様、失礼します」
イシュカ様が、アイリス様にのしかかって、腰元に手を入れ、手に取ったものを私に投げて来た。
それも、力が入らず、途中でコロリと転がったけど、それは、回復の魔法薬!
「使って下さい。この状況だと私達ではそれを飲んでもすぐには立てません」
「で、ですけど、コレはアイリス様の為のものでは……」
「お嬢様はまだ生きてます。影響が抜けさえすれば、起きて魔法で回復も出来るでしょうが、今はその時間も惜しい。違いますか?」
「僕の剣も持って行くといい。風精の加護付きだから、きっと役に立つと思うよ」
「……分かりました。有難く。アデーロさん、代わりになるかは分かりませんが、私の剣を」
「預かるよ。麗しい女性を守るのに剣がなくては格好がつかないからね」
「……とりあえず、お嬢様から少し離れて下さい」
「そこまで無節操じゃないつもりなんだけどね!」
器用に肩を竦めるアデーロさんに二人で少し笑って、飲み干した魔法薬の力で抜けた腰がしゃんとはまるのが分かる。
立てる。
なら、私のやることは一つだけ。
「ユウト君を迎えに行ってきます!」
暴落したアイリス様株(主観)には理由があったよってゆー
まぁ、そんなわけでして!
どーなっちゃうのか気になってしまいそうなのでー
なんと、明日も更新が控えておりますので(頑張りましたっ!)お待ちくださいませっ