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剣>弓>魔法>剣

スローテンポェ

 

 ぼくは、なんで───


 おとーさん、ぼくががんばったらほめてくれる?


 おかーさん、ぼくがいいこにしてればうれしい?




「───ぁ」


 なんか、喉が痛い……


「! ユウト様……お加減は、如何ですか? 起きれますか?」


 おかげんって何だっけ?

 とゆーか、なんか眩しい。


「のどが、がらがらする……」

「お水、飲めますか? ちょっと失礼しますねー」


 えっと……ペリオンさんが、背中をよいしょって持ってくれて、コップを口に当ててくれる。

 あ、冷たくて美味しいなぁ。


「ユウト殿、僕が誰か分かりますか?」


 ようやくなんかフラフラしてたのがスッキリしてきて、声に目を向ければ、そこにはアデーロさん。

 なんか、凄く心配そうな感じ。


「アデーロさん?」

「ちゃんとフルネームで言えますか?」

「え……覚えてないよ」

「む、じゃあ、さっきまで何してたか分かりますか?」

「えっと、走ってた。体力作りで」


 あれ? なんだろ?

 なんで、そんな事聞かれてるんだろう?


「……やはり、少し意識が混濁してますね」


 悩ましい感じで唸ってるけど、頭は割とスッキリしてるから大丈夫だと思う。


「ペリオンさん? 僕、大丈夫だよ?」

「何言ってるんですか! 大丈夫じゃありません!」

「えぇ……? 少しダルいけど、それ以外へーきだよ」


 支えてくれてるペリオンさんを見上げて大丈夫アピールしたのに目を釣りあげて怒ってる。

 あ───


「そういえば、さっきの大丈夫だった?」

「! さっきのって何ですか?」

「……え? ボラさんと追いかけっこしてて、僕、ペリオンさんの応援したくて、魔法使えばって、それで、何か使えたような気がするんだけど……」

「はい、お使いになられてましたよ! 良かった、記憶は保持されてるみたいですね」


 あれ、そういえば、魔法使って、どうなったんだろ?


 そう思って、初めて周りを見てみると、なんか穴がある。

 穴というか、くぼみというか、クレーター? みたいな。

 もしかして、これ、僕がやったの?

 だって、あの時、僕はボラさんに向けて───


「! ボラさんは!?」

「大丈夫ですよー。あの人は色々おかしいですから怪我もしてません」

「……はぁー良かった……」

「何してらしたか全部思い出したみたいですね」

「思い出したも何も忘れてないよー」

「でも、さっきアデーロさんのフルネーム答えられませんでしたよね?」

「そもそも覚えてないもん」

「あれ!? じゃあ私もですか?」

「うん、ごめんね?」


 一気に5人も自己紹介されてフルネーム暗記とか無理だから。

 あ、いや、ボラさんはなんか聞いてない様な気さえする。


「ボラ! こっちだ!」

「分かってるっつの!」


 ともあれ、大丈夫だねと、ペリオンさんと苦笑いしてると、アデーロさんが手を挙げてボラさんを呼んでた。

 言われてみればいなかったね、ボラさん。

 どこ行ってたんだろ?

 と思ってアデーロさんの視線の先を見れば、ボラさんが白いワンピース着た女の人を抱えて走ってきてた。

 女の人が女の人をお姫様抱っこしてる図なんだけど、何も違和感がないのはいいのか悪いのか。


「ユウト、起きたか!」

「うん、大丈夫ー!」

「んなわけねぇだろが、シュラー頼む」

「分かったから下ろして」


 シュラーさんと呼ばれた女の人を見て、何が起こるか分かった。

 白いワンピースみたいなのは、多分、看護士さんの服だ。


「勇者様、少しお時間下さいね」

「はい」

「うん、血色は少し悪いけど、パッと見は大丈夫そうね。まぁ、魔力酔いだと思うんだけど、みんなを安心させる為だと思って我慢してちょうだいね」

「分かりました、お願いします」


 膝をついてにっこり笑いながら話してくれるシュラーさんに僕も苦笑をしながら返事をする。


「はーい、じゃあ、まずは自分の名前と歳を言ってくれる?」

「ユウト・フタワ、10歳です」

「さっき何してたかは分かるかな?」

「魔法使おうとして、そしたら寝てたみたいです」

「起きた時は気持ち悪くなかった?」

「喉が痛かったのと少しダルいだけです」

「喉は今も痛い? ダルいのは?」

「お水飲んだら平気になってダルいのは今も少し」

「うんうん、じゃあちょっと立ってみようか」

「はい……っと」

「おっと、大丈夫? 頭、ふらふらしてないかな?」

「頭というか、足がガクガクする」

「足が?? うーん、何か心当たりあるかな?」

「さっきまで走ってたから疲れてる、とか?」

「あーはいはい、じゃあ、頭の方は重いなーとか、そーゆーのはない感じかな?」

「はい、大丈夫です」

「よし! じゃあ軽い魔力酔いと少し疲労が残ってる……と、それだけだね、勇者様は素直ないい子だね、ちゃんとおなか空いてるならご飯食べておいで。食欲無くてもジュースかなんかは飲むこと! はい、以上!」

「ありがとうございました」

「いーよー、これが私のお仕事だから! 何かあったらまたよろしく。ま、何も無いのが一番いいけど、無理はしちゃだめだからね」


 そういって立ち上がったシュラーさんは膝についた汚れを軽く払って、ボラさんに向き直る。


「だから大丈夫って言ったでしょうに」

「いやまて、そんな簡単でいーのかよ」

「外傷は無し、受け答えにも問題は無し、疲労感も原因は明確、魔力酔いも特に兆候は見られず、それで私に後何を見ろと言うの?」

「メディカルセンスは使わねえのかよ」

「必要ないわよ」

「んな事言って、後で何か起きたらどーすんだ」

「そんな過保護にして勇者様を甘やかしても良い事ないでしょうに……医者の私が大丈夫だと判断しましたー。不満なら他を当たりなさい」

「チッ、わーったよ」

「はい、それじゃ私を運んで」

「はぁ?」

「私を無理矢理連れ出したのは貴女なんだから責任もって元の場所まで送りなさい、ほら!」


 ばっと手を挙げたシュラーさんは苦々しい表情になったボラさんにまたお姫様抱っこされて戻っていった。

 恥ずかしくはないのかな。


「シュラー女史は噂に違わぬ女傑だね」

「あれ? アデーロさんのくせに手を出してないんですか?」

「いやいや、ペリオンちゃん? 僕の事なんだと思ってるのさ」

「女癖の悪い下半身野郎、但しイケメン。ってところでしょうか?」

「酷いなぁ。僕は無理矢理なんてしたことないんだけどね」


 オーマイガーみたいな感じで顔に手を当てて大袈裟に嘆いて見せてるけど、まぁなんか大丈夫ぽい。

 いつもの事なんだろうね。


「ところで、アデーロさんはなんでここにいるの?」

「ユウト殿? 今日の僕は護衛ですからね、ペリオンちゃんと二人で」

「そういえばそんな事聞いたね」

「えぇ、そうなんですよ。時にユウト殿はおなかは空いてますか? ご飯は食べられるでしょうか?」

「あ、うん、大丈夫」


 じゃあ行きましょうか、と言うアデーロさんと食堂に向かって歩いていく。

 ペリオンさんは騎士服に着替えてから合流するみたいで一旦お別れ。

 というか、僕も着替えたい。

 汗でベトベトするし、汚れてるし、このまま食堂に行くのはダメだと思う。


「アデーロさん、僕も着替えたいんだけど」

「確かにこのままって訳にも行きませんが、大丈夫ですよ。───クリンナップ……と、どうですか?」

「おぉー!! すごいねっ! 綺麗になった!」


 アデーロさんがむんって力を入れて魔法を使うと途端にスッキリした。

 僕も魔力分かるようになったし早く魔法覚えたいな。


 食堂は、ご飯時だからか結構な人がいて、思い思いに集まっておしゃべりしながらも食事を楽しんでる。

 まぁ、それでもスペースはかなりあるんだけど。


「ユウト殿は食堂で普通に食事取られるのは初めてですよね?」

「うん! なんか楽しいね、給食みたい」

「はは、そうですか。では、何が食べたいとかはありますか?」

「えっと……お肉?」

「肉はどれにも付いてきますからね。まぁ物は試しです、肉メインのものにしましょうか」


 朝からお肉とか、ちょっと重いかもだけど、身体を動かしたからおなかぺこぺこだし、食べるぞー! と思ってたんだけど、アデーロさんの前の方にいる人が頼んだのを見てすぐさま後悔した。


「肉をくれ! 肉!」

「はーい、今日はどうします?」

「今日はこの後鍛錬に出るからな、少し軽めにせねば折角の飯を台無しにしてしまうかもしれんので、大盛りは無しだ」

「わっかりましたー」


 大盛りじゃないって言ってたのに、なんであんなにお肉があるんだろうね?

 分厚いステーキみたいなのがどでんと置かれたお皿をもの悲しそうな感じで受け取ったその人は隣に置いてあるバスケットから、食パン一袋くらいのサイズのパンを二つ取って、更に迷いながらむぅと唸ってたけど、諦めてその場を離れた。


「……アデーロさん、僕、あんなに食べられないんだけど」

「あぁ、アレは僕も厳しいですね。さっきの彼は獣人系なのでよく食べるんですよ」


 なんだ、ビックリした。

 じゃあ、大丈夫かな。それに多そうだったら少なくして下さいって言えばいいよね。


「ティカちゃん、おはよう」

「あ、アデーロ様! おはようございまーす」

「僕と勇者様の二人分、肉メインでお願い出来るかな」


 アデーロさんが声をかけたらパッと花が咲くみたいな笑顔になったティカさんは、僕にもにこっと笑いかけながらご飯を用意してくれる。


「どのくらいにされますかー?」

「僕は普通で、勇者様の分は少なくして欲しいんだけど大丈夫かな?」

「はーい! おまかせくださいっ」


 なんかキラキラした感じでアデーロさんを見てるティカさんを見て、僕は初めてアデーロさんがモテてるところを見た。

 なんか今までのアデーロさんへのみんなの態度見てたら、そうでもないのかと思ってたけど、やっぱりモテるんだよね。


「おー……」

「なんですか?」

「いや、アデーロさんがモテてるとこ初めて見たなって」

「そういえばそうですね」


 苦笑をこぼしながらお皿を受け取ったアデーロさんは、僕の分も一緒に持ちながらティカさんにありがとうと声を掛けてから横手に目線を移して、はたと立ち止まった。


「……ところで、ユウト殿は、パンはお一つ食べられますか?」

「絶対無理」


 いやだって、僕の頭くらいの大きさのパンとか、食べられるわけないし。


「とはいえ、食べないという訳にもいきませんしね……」

「アデーロさんと半分こじゃダメなの?」

「それでも良いですが……折角ですし、競売にかけましょうか」

「競売……?」

「あぁ、もちろんお金は取りませんよ?」

「いや、そうじゃなくて───」


「勇者ユウト殿とー! パンを分け合いながら食事を取りたい者はいないですかー!」


 アデーロさん、何言ってるの!?

 急に後ろを振り返ってそんな事を叫んだアデーロさんは、僕の方にパッチーンってウィンクして任せろ! みたいなイイ笑顔してくれちゃってるけど、何してくれてるのこの人はっ!?


 ザワッ


 あ、あれ……

 なんか、背後から、すっごい熱気が……


 恐る恐る後ろを振り返ったら、みんなの視線がどう見ても僕に集中して───


「はい! 私食べたいです!」「ユウト様とお食事っ」「アーンしてもいいんですか!」「あたしも!」「俺でもいいのか?」「なんでわたしもうご飯食べちゃったの!?」「おかわりでもいーんですか!?」「「ホモは黙れ」」「お膝抱っこはしてもいーんですかー!」「それね」「……(しくしくしく)」「これでアイリス様と同じっ」「むしろ勝った」


 ひぃぃっ!?

 とゆーかこれどーするの!?


「はーい! 条件は、僕アデーロともう少ししたら合流するペリオンちゃんの護衛二人と同席してもいい人で……えーっと、僕は男でもいいんだけど……ホモ疑惑がかかるみたいだから、今回は女の子だけにしようか。方法はソアマーで勝ち抜きね、ズルはしたらだめだよ?」


 じゃあスタート!


 と、アデーロさんが言うやいなや、近くの人と、ソ・ア・マーのかけ声と共に手を振りあって勝敗が決まって行く。

 あ、これジャンケンだね。

 手の形はなんか違うけど。


 負けた人が崩れ落ちて、勝った人がガッツポーズをするというのが繰り返されて、次第に人が減っていき、最後に残ったのは、えーっと、一人はお針子さんかな? 衣装的に。もう一人は、たぶんお仕着せじゃなくて私服っぽいから、お仕事上がりの人かな? なんか見覚えがある様な気がする。


「服飾部のみんなの為にも負けません!」

「帰省前に良い土産話を頂くのは私です」


「「ソ・ア・マー!!」」


 お針子さんは、指一本立ててビシッと突きつけ

 私服の人は、手刀みたいな感じで振り下ろし


 私服の人が、そのまま手を突き上げて勝利宣言をした。


「ユウト様とアーンするのは私、です!!」


「みんな、ごめんね……」

「アンタだけいい思いするくらいなら負けて良かったんだ」

「酷いっ!?」

「むしろ、最後まで残ったから顔覚えられてそうな事すら許し難い抜け駆けだよね」

「ふふん、これが時の運だよ!」

「最後で負けたくせに」

「……ふ、ふーんだ、ユウト様に顔を覚えられた私の方がみんなより凄いし!」

「くはっ」


 死屍累々の中を楚々として歩いて来たその人は、スカートをちょこんとつまんで軽く会釈をするとくすりと笑った。


「ふふ、今日は宜しく御願い致します」

「えっと、ノノリさん?」

「あら、覚えておいででしたか、有難う御座います」

「僕が顔覚えてる人、まだそんなにいないし」

「それでも、よくお分かりになりましたね?」

「顔覚えるのはちょっと得意なんだ」

「そうなのですね。では、後もつかえておりますしご一緒させて頂いて宜しいでしょうか?」

「うん、お願い」


 では、と、パンを二つもって、アデーロさんに続いて席に向かった。

 僕もその後を追いかけようとして、くるっとみんなの方を見た。


「えっと、明日もまた来るから、今度は頑張ってね!」


 そう言ってからアデーロさんとノノリさんの後に続いた。

剣は弓よりも強くて

弓は魔法よりも強くて

魔法は剣よりも強い


剣は手刀みたいな感じで揃えた手を縦にする

弓が人差し指だけ立てて突きつける

魔法が手を広げて手のひらを向ける


とゆー感じの異世界ジャンケンでしたっ


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