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メイドさんとお昼寝

 

 ボケっとしながら、ふわっふわのベッドに腰掛けるように埋もれるように収まり、回転の遅い頭で考える。


 つまり、僕は何をすれば良いのか? と。


 ダスランさんの神業で危機一髪守られた何かにほっと一息ついて、豪華な部屋に連れていかれた。

 ダスランさんは「こんな部屋で済まないが……」とか言ってたけど、こんな豪華な部屋がこんなの扱いされるなら、本当の豪華な部屋は、いったいどれくらい豪華なんだろう。


 ともかく、そこで朝ごはんを貰った。

 綺麗なメイドさんが準備してくれたけど、お手伝いしようとしたら、なんかダメらしい。

 メイドさんは、滅相もございません! と言うし。

 ダスランさんも、メイドの仕事を取ってやるな。と言う。


 王様はふんぞり返るのもお仕事! みたいなものかと思ってとりあえず、そのままにしたけど、僕は王様じゃない。


 それよりも、なんでみんなに見られながら一人でご飯食べないといけないの!

 全然納得出来ない!

 メイドさんは、ウェイトレスさんだと思えば仕方ないけど、ダスランさんは一緒に食べてくれないと変だよ。

 それにこんなに食べられない。

 残したら料理を作ってくれた人に申し訳なさすぎる。

 そんなわけで強引に食べて貰ったけど、すっごい嬉しそうだった。


 さておき、それじゃ、落ち着いたところでオハナシ。

 と思ったら、ドレス着た大人の女の人が来て、僕をチラッと見るとダスランさんを呼びつけてごにょごにょと内緒話した。


 羽根の付いた扇子みたいなので口のとこを隠しながら話すのは、なんかのマナーなのかな。

 はしたないわ!

 みたいな。

 ダスランさんと話しながら僕の方をチラチラ見てくるんだけど、どんどん表情が険しくなってきてて怖い。

 ダスランさんもなんか偉い人相手にしてるみたいだし、誰なんだろう?

 ダスランさんが騎士だとしたら、王様? 女の人だから女王様になるのかな。


 しばらく話してるとその女王様がこっちに来た。


「貴方、剣を振った事はありますの?」

「えと、ないです」

「では、何か得意なものは?」

「家事くらいしか、出来ません。その、ごめんなさい」

「謝る必要はありません。つまり、貴方は戦いをした経験はないのですね?」

「ケンカ以外は、はい」

「ふー……分かりました。それと、歳はおいくつ?」

「10歳になりました」

「……貴方の国では、10歳はそのくらいの身体付きが普通ですの?」

「いえ……その、ウチは貧しかったので……」

「もういいですわ。ダスラン!」


 話していくうちに険しかった表情はより険しく、もう睨まれてるといっていいくらいになってたけど、呆れたみたいなため息をついてダスランさんを呼びつけて何か命令してからいなくなった。


 その女王様をしっかり頭を下げて見送ったダスランさんが苦笑いして戻ってきた。


「すまんな、ユウト」

「ダスランさんこそ……多分、僕のせい、だよね?」

「ユウトが悪いわけじゃねぇんだ」

「でも、何かの期待に答えられなかったんでしょ?」

「…………そうだ、な」


 大人の顔色をちゃんと見極められないと、困る事が多かったから、何となくわかる。

 多分、僕がここに居るのが、場違いなんだと。

 言われてないけど、今のこの状況は、別の世界に行って魔王倒せ!とか、そーゆーアレな気がする。

 それで僕みたいなのが来たら、そりゃガッカリするよね。

 まず子供だし、せめて中学生くらいなら、もっと期待されてたと思う。


 でも、僕だったから、そんなこと叶うわけないって。


 きっとそういう事なのだろう。


「……ダスランさん」

「なんだ」

「僕を元のところに帰せないの?」

「…………すまん」

「そか。じゃあ、僕はどうなるの?」


 難しい顔で口をへの字にして黙ってるけど、知ってる。

 使えない子は棄てられるんだよ。

 死にたくない。

 生きてていいんだって、言って欲しいけど。

 僕は子供だから、まだ何も出来ない。

 大人になったら頑張れる様に本とかも読んでたけど、今、ダスランさん達が欲しいのは、大人になったら、じゃなくて、今この時に何とか出来そうな人なんだ。


 子供の僕じゃダメなんだ。


 でも、そうだからって、分かりました。

 なんて言えないよ。


 どうすれば、いいんだろう?


 頑張らせて下さいって言えば、頑張らせてくれるのかな?


「僕、要らないよね?」

「…………わからん」


 分からないってなんだろう?

 子供がいて何とかなる問題なのかな。

 そんなわけない。あるはずないよね。


「ダスランさん達が、助けてほしいから、えと、魔法? とかで何とかしたんだよね?」

「そうだ」

「そしたら、僕が来ちゃった」

「その通りだ」

「でも、僕みたいな子供じゃダメだよね」

「そうなのだが、そこが分からん」

「なんで?」


 細かい事はダスランさんも理解してないみたいだけど、魔法にも凄く細かいルールがあるそう。

 喚び出すにも、誰でもいいわけじゃないから、色々と条件を付けて、それに合った人を喚べる様にするんだとか。

 かけっこで勝って欲しいのに、足の悪い人が来てもダメ。みたいなものだと思う。

 そういった色んな条件を全部満たした人じゃないと召喚されないはずだから、僕が来ちゃった以上『僕がそれを出来る人』だと言うことになる。


「だからな、ユウトには何かあるのだろうさ」

「うーん……?」

「何かないのか?」

「って、言われても……僕、何かある様に見える?」

「見えんな、少なくとも肉体的には。だが、例えば、一族に伝わる魔法などはないのか?」

「僕達の世界に魔法はないよ。ゲームとか漫画にしか」

「そうか……」


 二人してうんうん言ってたけど、子供と身体を動かすほうが好きな大人が何か考えても何か分かる訳もなく、それはまた後で何とかしてみようという事になり、どうせここで生活する事にはなるのだからと、色々な場所に連れていかれて……。


 お昼寝しなさい。


 と、何故か言われて今、ふかふかのベッドに押し込められてる。


 なんでこうなった。


「僕、そんな子供じゃないんだけどなぁ……」


 お昼寝タイムがあるのは幼稚園くらいまでだろう。

 小学校にお昼寝タイムがあるわけない。

 まさか、いくらなんでも5歳とかに見られてるわけもないだろうし、それがこの世界の普通なんだろうか。


 そんな事より、これからどうすればいいのか、ちゃんと考えないといけないと思う。

 ちゃんと聞いてないのは変わらないけど、僕には出来そうにない事を出来るようにならなくちゃいけないんだ。

 いや、それもちょっと違うかな。

 出来るはずなんだ。

 ただ、出来るはずだけど、そうは見えないから、出来ることを信じて貰えないとダメなんだ。

 きっと残念に思ってる大人達に。


 それはとても難しい事だろう。

 子供には何か出来ると言えるものがない。

 オリンピック選手がかけっこのコツを言うのと、子供がかけっこのコツを言うのと、どっちが信じて貰える。

 オリンピック選手の言うことに決まってる。

 子供の言うことを真に受けてくれるわけない。


 それなら、どうすればいいのだろう。


 結局、そこに戻ってきてしまう。

 何も出来ず、何かを出来る訳でもなく、期待外れで、痩せっぽちな子供でしかない僕には、何があるだろう。

 嫌な、とても嫌な妄想ばかりが浮かぶ。

 ダスランさんは、ここで生活する事になるって言っていたけど、それが許されるのはいつまで?

 明日? 明後日? 一ヶ月後? 一年?

 ダメになったとして、その時はどうなる?

 この部屋から出されるだけ? どこかに監禁? それとも殺される?


 日本にいた時は、未来が明るいか暗いか、その程度でしか悩まなかったのに、ここでは何も縋るものがない。

 自分の立ち位置ですらあやふやで、怖くて怖くて堪らない。


 助けて欲しいのは僕だ。


 コンコン


「! は、はい!」


 ノックなんかにびっくりしてる場合じゃない。

 そうは思っても心臓はドキドキしてるけど、待たせるわけにもいかない。

 少しでも、悪いイメージを持たれにくくしないとダメなんだ。

 そう思ってベッドから出ようとしたけど、ふわっふわで動きにくい。

 もたつきながらもベッドから降りたけど、手遅れだったみたい。


「失礼しまーす」


 そんな声と共にカチャリとドアが開いた。

 間に合わなかった、とは思うが、ノックからドア開けるまでの時間からして元から間に合わなかっただろうし、セーフ?

 そんな風にベッドのところで固まった僕と、入ってきた赤毛のメイドさんは視線を合わせてきょとんとしていた。

 えっと、確かこの赤毛のメイドさんは、テリアさん。

 僕なんかのお世話をしてくれるらしい人で、他にも何人かメイドさんが来てくれるらしいけど、一番乗り? で立候補してくれたという元気印なお姉さん。


「ありゃ、ユウト様、どこかにお出かけですか?」

「え? いや、違うけど」

「ダスラン様からはお昼寝されてる、と聞きましたけど」


 首を傾げながら、ワゴンを引っ張りこんだテリアさんは、テーブルの近くにワゴンを置くとこっちに来てふふんと笑った。


「添い寝が要ります?」


 くねっと腰を捻りながらなんてことを言うの!?


「か、からかわないでよー」

「ごめんなさーい」

「もうっ!」


 ケラケラと笑いながら、頭を軽くポンポンして、それからおもむろに膝をつくとじっと僕を見てくる。

 テリアさんは、それはもちろん、大人なので僕よりは背が高いけど、そうすると僕よりは少し低くなる。


「な、なに?」

「大丈夫ですよ」


 何が? と思った時にはギュッと抱きしめられてた。

 あったかくて、やわらかくて、お日様みたいな匂いがした。


「テリア、さん……?」

「何も分からなくて、怖くていらっしゃるでしょう?」

「ぁ……」

「不安で、お昼寝なんて出来ませんよね」

「……っ」


 背中を撫でるようにゆっくり叩かれて、我慢なんて出来るわけない。

 声が外に漏れたら、偉い人に知られたら、そんな怖さが僕に大声を上げて泣かせてはくれなかったけど、しがみつく僕をそっとぎゅっと抱きしめて、テリアさんは頭を撫でてくれた。



 しばらく泣いて、落ち着いて来たらちょっと恥ずかしい。

 ぎゅっとしてくれてるテリアさんの背中をポンポン叩いて放して貰うと、テリアさんはにこっと笑ってハンカチで目元を拭いてくれた。


「ユウト様、泣いたらおなか空きません?」

「……ぅん」

「じゃあ、お茶にしましょう」


 そう、何事も無かった様にしてテーブルまで戻ると、椅子を引いて、おいでおいでと手招きしてくる。

 テリアさんがそうしてくれるなら、とすました顔で椅子に腰掛けると、おりゃー! と女性らしからぬ声を上げて椅子を押してくるので、二人してくすくす笑った。


「ユウト様ー、紅茶は何がお好きですか?」

「え、わかんないよ、テリアさんのオススメでいーよ?」

「私もよくわかりませんけどねー」


 そんな事、絶対ないのに。


「まぁどれでも紅茶は紅茶ですしねー」

「うん、そーだね」

「お茶の用意が終わるまで、コレ食べてて下さい。とりゃっ」

「うん、むぐっ!」


 適当に見えて、音もさせずに茶器を用意しながら、僕が気負わない様にしてくれる。

 それがとても嬉しい。

 けど、いきなり口に突っ込むのはどうかと思います。

 あ、美味しい。


「甘々にしといたんで、飲みやすいと思いますよー」

「ありがと。でも、これってテリアさんの好みだよね?」

「やだ、ユウト様、私の腕を疑うんですか?」

「見たことないしなぁ」

「じゃあ飲んでみなさい。そしてテリアお姉様ごめんなさい、と謝るがいいよ」

「……うん、美味しいよ、テリアさん」

「ありがとー! って、そーじゃないでしょ!?」


 そんな事をやりながら、少しするとあくびが出た。

 さっきまでは緊張してたけど、リラックスしたからか、急に瞼が重くなってきた。


「ユウト様、ベッドに行きましょう」

「……うん」


 テリアさんに手を引かれてベッドまで戻るともう、眠くて仕方ない。


「テリアさん、ありがとうね」

「何のこともないですよ」

「うん、それでも、ありがとう」

「はい、おやすみなさいませ」


 そう、頭を撫でて離れていく手が寂しくてぐいっと引っ張った。


「きゃっ、ユ、ユウト様?」

「やっぱり、添い寝して、寝るまでで、いーから……」

「もぅ、仕方ありませんね、寝るまで、ですよー」

「うん、ごめんね、おやすみ、なさい」

「はい、ゆっくり、おやすみくださいませ」


 さっきと同じ、ポンポンと背中を撫でるように叩かれて、何も考える間もなく、意識は夢の中に沈んだ───。

ユウト君ってばダイタンなんだからっ!

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