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ユウトの思い

遅れて申し訳ありませんー

ちょっとスマホが私の手元から脱走してたので色々間に合いませんでしたm(_ _)m

(私はスマホ投稿なのです)


そんなこんなで誤字脱字のチェック漏れあったらごめんなさい

 

「ところで、勇者殿」

「うん、何?」


 イシュカさんがやたら畏まった感じでじっと見つめて大きなカバンを取り出しながら声を掛けてきた。


 そのカバンはどっから出てきたの。


「お嬢様の髪を整えて欲しいのですが」

「え? なんで??」


 言われて改めてアイリスさんを見てみても、クセのないストレートな金髪ロングが艶やかに靡いていて整えるも何も、そのままで綺麗だとしか思えなかった。


「そこのメノやリュリュの髪を飾ったのは勇者殿なのでしょう?」

「はい、そーですけど」

「私も侍女としてはまだ未熟ですので、是非その技を見てみたく存じます」


 そう言いながらパカリと開いたカバンにはぎっしりと化粧に使う道具があって、それをずいと寄越された。


「ユウトさんがお嫌でなければあたくしからもお願いしますわ」

「うーん……いいけど……」

「何か御不満がおありでしょうか?」

「そうじゃなくて、アイリスさんの髪は綺麗なストレートだし、クセついちゃうかも」

「構いません。何とかしますので」

「アイリスさんはいーの?」

「はい」


 にこりと笑ってどうぞと言うアイリスさんの許可を貰って髪の毛を触らせてもらうとサラッサラでツヤッツヤな金髪がするりと手からこぼれる。

 とゆーか、コシが強くて下手にいじるとハネて大変な事になりそうだね。


「うーん……そのままでいーと思うんだけど」

「そんな事仰らず、お嬢様の頑固な髪を躾て下さい」

「じゃあ、イシュカさんのもやらせてくれるならいーよ」

「私、ですか?」

「うん、イシュカさんの黒髪はやってみたかったし、それならやってみる」

「ではそれで」

「……あの、あたくしの方がついでになってませんか?」


 なんか面白くなさそうにアイリスさんがブーたれてるけど、だって、アイリスさんの髪の毛真っ直ぐ過ぎてやりにくそうなんだもん。

 その点、イシュカさんの方は、ポニテにしてる黒髪はやらかそうでいじりがいがありそう。


「ユウト様、お茶会までさほどお時間に余裕もありませんので、適当にで構いませんから」

「メノ? 適当、とは何ですか、適当とは」

「あはは、やるならちゃんとやるよー」


 まぁ、お願いされて嫌な気もしないし、やってみますか。


 ちょっと失礼して髪をくるくる指に絡めてみても放したらするするーっと元に戻るこの金髪さんは確かに頑固者だね。

 まぁ、それでボサボサなんじゃなくて綺麗なんだけど、なんていじりにくい……。

 仕方ないので、編み込むのはやめて後ろ髪を二つに分けて首元で一旦紐で留める。片っぽのその先をねじってから輪っかにして、もう片っぽもねじってからその輪っかに通す。赤のリボンでさっと輪っかを崩れない様に留めてから毛先を押し込んでくるんと抜けば、不格好な感じの編み込みもどきになる。

 それを解けない様にしてから最初の紐を外してやれば、頑固者の髪が元に戻ろうと広がるから勝手にふんわりして、まとまる。


「こんなもんかな……? イシュカさん、解く時結び目残らない様に気をつけてね?」

「はい、承りました。しかし見事なものですね」

「おーすげぇ……オマエもう勇者じゃなくて髪結いになれよ」

「えー?」


 異世界に来てヘアスタイリストを薦められる勇者ってなんだろうね。


「ちょっと鏡下さいませ! あたくしも見たいです」

「あ、ごめんね」

「失礼しました」


 イシュカさんと二人で鏡を持って見せてあげるとアイリスさんはそれはもう喜んでくれた。

 なんでも、今までこの頑固な髪に負けて大したアレンジも出来なかったそうで、流しっぱなしだったみたい。


「じゃあ、次はイシュカさんね」

「私はやらなくても宜しいのですが」

「僕のいたところだと黒髪が普通だったから僕がやりたいの」

「畏まりました。では、宜しく御願い致します」


 メノさんはあんまり時間ないって言ってたけど、よくよく考えてちゃんとした時計ないし、大体これくらいの時間とか多分そーゆー事だから、全然へーきだし。

 カラフルな髪色ばっかり見てるとイシュカさんの黒髪がなんか懐かしいくらいだし。


 言い訳だけどね。


 侍女してるならあんまり邪魔にならない感じかな。でもポニテだったからいーのかな。まぁ好きに編み込めばいーよね。

 ポニテをバッサリ下ろして二つに分ける。ちょっと迷ってお団子を斜め後ろくらいに作ろうと白のリボンで根っこを結んでからさくさくと三つ編みを2本作って巻きを作ろうとして今更ながら気づく。

 ピン無いとコレはさすがに崩れるんじゃないかと。

 まぁ無いものは仕方ないし、紐で何とか一段ずつ抑えてリボンで大人しめに飾り付けたら完成だね。


「どう考えてもあたくしより手間暇かかってる様に見えるのですけど」

「イシュカさんの髪やり易いしね」

「主人よりも丁寧にして頂いた感想はどう? イシュカ」

「お嬢様には大変申し訳ないですが、正直に申しまして胸のすく思いで御座います」


 うん、僕も大変満足です。

 黒髪、落ち着くよね。


「では、アイリス様、そろそろわたくし達はお茶会に向かわせて頂きますので、失礼致します」


 そういって頭を軽く下げたメノさんが優雅にくるっと回転して髪を靡かせる。

 そうすると当然、リボンがチラチラと覗くわけで、あらあらとか言いながら直してたけど、絶対にわざとだよね。


 それを見たアイリスさんの目から光が消えたけど、イシュカさんが行ってらっしゃいませと言うからお茶会に向かった。

 なんかアイリスさんに悪かったかなと思ったけど、髪質は僕にはどうにも出来ないしなぁ。




 お茶会に向かいながら、メノさんから注意事項の確認をされた。

 まず、基本的にはお茶会は穏やかに進むものだけど、今回は王子達がいるから読めないと。

 主催のシャロハナ女王様の意向が優先されるから、シャロハナ様の顔色を伺うのが重要。

 勇者の地位は低くないのであまりに失礼な事を言われたら反論していい。

 但し、これもシャロハナ様の顔色を損ねない範囲で。


 と、何があってもシャロハナ様の機嫌は優先しなくちゃいけなくてなんだか変な感じ。


 それで純粋にあの人がちょっと怖い。

 何を言われるのかと思うとおなかが痛くなってくるけど、メノさん曰く、主催は、客を持て成すのがとても大切なので、お茶会においては、シャロハナ様の次に大事にされるのが客である僕らしいから心配しなくていいとの事。

 王子達は賑やかしなのだそう。

 シャロハナ様自身も聡明な方だとメノさんは言うから滅多な事は起きないと太鼓判だけど、頭のいい人でも意地悪な人はいるし、そういう人はやり口も怖いし、気をつけないと。


 お茶会の場所は女王様のバラ園で、護衛の二人はその外、メノさんは声が聞こえないくらいに離れた場所で待機で、僕一人が女王様達のいる場所まで女王様の侍女の人に案内された。


「本日はいらしてくれて有難う、ユウト。無理を通してしまってごめんなさいね?」

「いえ、その、おまにぇき……おまねきに、あじゅか……あずかりまして、ありがとうございます」

「そんなに緊張しなくて宜しくてよ? 普段通りで構いません」


 今日もゴージャスな感じたっぷりの女王様に迎えられて、頭真っ白、噛み噛みになった僕に困った様にしながら席に案内される。

 失礼にならない様にしなくちゃいけないのに、最初から躓いてしまい更に混乱してしまう。

 席にいる王子や王女もさぞや呆れているかと思うと失敗したと、それだけが頭の中でぐるぐる回る。


「かような子供にはやはり勇者など荷が重いのではないか? 母上もそう思われるでしょう」

「礼儀のなっていない子供には土台無理な話だったのですよ」


 王子二人からの笑い混じりの声に身体が震える。

 負けない様にと歯を食いしばって顔を上げる。

 僕は勇者なんだ。でも子供なのも分かってる。

 それでも、僕を支えようとしてくれてる人もいるんだ。


 僕がバカにされるって事は、今、少し離れたところできっと心配してくれてるメノさんがバカにされるって事だ。


 僕の為に勉強を欠かさないリリさんとテリアさんが無意味だってバカにされるって事だ。


 護衛の4人が無価値だってバカにされるって事だ。


 僕と友達になってくれたピエレにも、僕の先生になってくれたアイリスさんにも、堂々としていろと叱咤してくれていたダスランさんにも、頑張りなってご飯を作ってくれてるマーサさんにも、服を作ってくれたお針子さん達にも、色んな人達の頑張りが、優しさが、気遣いが、バカにされるって事だ。


 そんなのダメに決まってるじゃないか。


「はー……失礼しました。慣れない場で緊張しました。見苦しい姿を見せてすみませんでした」

「いーのよ、ユウト。初めてだものね、兄様達は意地悪なんだからこちらにいらっしゃい? お姉さんが守ってあげるわ」


 そういって、にこにこ笑って手招きしてくれてるのは王女様。

 大丈夫、ここにも僕を支えてくれようとする人もいる。

 そう思ったら気が楽になった。

 チラリと女王様に目を向ければ、構わないと言うように一つ頷くと、侍女に指示して僕用の椅子を王女の近くにずらしてくれた。


 僕の右側すぐ近くに王女様、左に女王様、左の前に第一王子様、右の前に第二王子様という並び。

 侍女の人に椅子を引いてもらって席に着くと、王女様にお礼を言った。


「お気遣い、ありがとうございます」

「ふふ、緊張してたのだものね、いーのよ無理しなくて」

「フン、勇者ともあろうものが女に庇われぬと何も出来ぬとは情けない」

「アグレシオ兄様は誰にでも偉そうにしてるだけじゃない」

「大国であるエランシアの王子であるのだ。偉そうではなく偉いのだと何故わからん。まぁ女には分からぬ事であろうがな」

「母様も女だけど、そんな事言わないくせに」

「母上は女王だ。敬わずにどうする。小賢しい事ばかり覚えおってからに。お前のようなじゃじゃ馬では嫁の貰い手に同情するな」

「兄様のお嫁になる方よりは幸せになれるもの。女だ子供だと馬鹿にしてるばかりの殿方なんてお断りです」


 王女様はそういうとべーっとやって第一王子様に青筋浮かべさせたけど、女王様が扇子? をピシャリとやると二人とも口を噤んだ。


「客人の前で諍いなど、私の顔に泥を塗りたいのであればそう仰いなさい。みっともない」

「申し訳ありませんでした、お母様。ユウトも見苦しいところ見せてごめんなさいね」

「申し訳ございません、母上」

「アグレシオ」

「……チッ。すまぬな勇者、許されよ」

「……いえ、大丈夫です」


 王女様は瞳をうるっとさせて謝罪してくれたけど、第一王子様の方は不満たらたらな感じで、女王様も溜め息をついたけど、これ以上は面倒になるとでも思ったのか、僕に目で謝罪をすると、お茶を運ばせた。


「では改めて……今日の茶会に来てくださって有難う、ユウト。まだ不慣れなところでしょう、本日は礼儀はとやかく申しません。私の名において振る舞いの一切を許します。無理に畏まる必要もありませんので、普段通りにお話なさって宜しいわ」

「ありがとうございます、女王様」

「今日は気兼ねなく過ごしてもらおうと思っていたのだけど、私の息子が失礼しました。もう顔も名前も覚えてしまったかもしれませんが、この子はアグレシオ。隣がコルモ、貴方の傍にいるのがマナリス、そして私がシャロハナ。名前くらいは聞いていて?」

「はい、世話をしてくれてるみんなが教えてくれましたので。謁見の時にも少し顔を見ましたが、顔と名前は結び付けられませんでした。これからは間違えたりせずに済みそうです」

「宜しいわ」


 そう艶然と笑った女王様は、今までの硬質な感じではなくて慈しみみたいなものも感じられた。これが女王様としての顔なんだと思ったら、自然と少し緊張がほぐれた。


 まぁ、顔と名前は一致してたけど。メノさんの毒舌解説のおかげで。言えないけどね。


 そこからは比較的穏やかにお茶会は進んだ。

 王子様方の自慢話は多かったけど。


 このエランシア王国がどれほどの大国であるのか。

 王都は人口50万を抱えているとか、周辺諸国は魔王討伐の為に協力すべしとか、魔法分野において圧倒しているから召喚が可能だったとか、まぁ、お茶会がそれでいいのかとは思ったけど。


「ユウトは剣を持った事もないのですから、無茶な事はせずに皆を頼りなさい」

「勇者が聞いて呆れるが出来ぬものは出来ぬと早めに申せよ。周りの者が迷惑するのだからな」

「アグレシオ兄様、ユウトはまだ10の子供ですよ! やってみなければ分かりません。お父様の仰る様に少し時間を下さっても良いではないですか」

「フン、それで後に出来ぬと言われてどうする。今であればまだ替えもきこうものだがな」

「そもそも兄上、騎士達がもう少し頼りになれば良かったのではないですかねぇ? 常日頃、言っていたでは無いですか。魔法などに頼らずとも魔王など蹴散らしてくれると。それが出来てないから我々魔法を磨いて来た者たちに頭を下げられたのでは?」

「コルモ……頭を下げた覚えはないぞ? お前達軟弱者が怯えてかなわぬからやってみるがいいとなったに過ぎぬよ。結果、召喚されたのはかような子供ではないか」


 段々と雲行きが怪しくなってきたね。

 でも、こういう事は言われると散々注意されてきたし、僕だってそんな事は分かってる。

 だから、口答えは出来ないししない。

 何を言っても子供の戯言にしかならないんだ。


「これ、お前達、そのくらいにしておきなさい。ユウトに時間を与えるとは王の命ですよ」

「子供の背伸びに付き合わされる者たちはいい迷惑だ」

「そこについては兄上に同感ですね」

「兄様達、酷いですよ!」


 でも、僕を支えてくれてるみんなの事はバカにさせない。


「僕が何を言われるのは構わないです。何も出来てないですから。でも、みんなの事は謝罪して下さい」

「何を言うかと思えば、お前のような子供に時間を取られる我々こそ迷惑を被っているのが分からんのか?」

「迷惑? 僕を召喚によって身勝手に誘拐したのはそちらでしょう? それでも僕は周りのみんなに助けられたから頑張ろうと思ってます。貴方に言われていたら絶対にやろうなんて思っていないです。貴方に出来ない事をやってくれてるみんなをバカにするな!」

「言わせておけば……子供の戯言にしても一国の王子に対する侮辱甚だしいぞ!」

「僕の発言は女王様に許されてます! 人を攫っておいて悪いとも思ってない様な人が王子とか、国民が可哀想ですね! 貴方だって子供の頃は周りに迷惑かけたでしょうに、何も知らない僕がかける迷惑をみんなが嫌がってるなら、かけた迷惑に感謝も謝罪もしない貴方の迷惑はどれくらい嫌がられていたんでしょうね! 僕が勇者な事がそんなに嫌なら貴方がやればいい! 僕は勇者にさせてくれなんて言った覚えはない! 僕にはそれしかないから勇者なんだ! そんな僕を支えてくれてるみんなをバカにするな! みんなにあやまれ!」


 涙が止まらない。

 僕が子供だから、何も信用されてないのくらい分かってる。

 それでも、みんなは勇者だって言ってくれる。

 僕が怖がってるのを知って、無理な事はしないで大丈夫だって言ってくれる。守ろうとしてくれる。

 だから、僕もそれに応えたいって思ってるんだ。

 みんながいなかったら、僕は勇者になんてなれない。

 それなのにコイツはそんなみんなをバカにした!


「貴様、覚悟は出来ているんだろうな……エランシアの王子に対する暴言が勇者であるから許されると思ったら大間違いだぞ」

「王子のくせに子供に言われてキレるとか、バカなんじゃないの? いーよね、王子って、バカでも身分があるから許されて」


 斬りたければ斬ればいい。

 僕は絶対に間違ってない。人をバカにする様な奴の方がバカなんだから。

 こんなだからお城の人達に筋肉バカとか言われるんだよ。


「アグレシオ、私の茶会でそれ以上は許しませんよ」

「母上! コイツはこの私を侮辱したのですぞ!」

「何を言っているの? お前が侮辱したからでしょう」

「ぐっ……! しかし、たとえそうだとしてもこの私を侮辱していい事にはなりませぬ!」

「そうですね、私が振る舞いの一切を許可していなければ私も考えなくてはならないところでしたが、不満があるなら先に申しておきなさい。後からあれは無しだなどと情けない事を言うでないわ。早く謝罪をなさい。お前の傲慢さがこの茶会で少しは矯正されるかと思いましたが、それも無いようで母として、女王として、至らぬばかりですね」

「〜〜〜っ! さ、先程の言葉は撤回する! それでいいな! では、私は気分が優れぬので先に失礼する!」


 そういって、乱暴に席を立つとズカズカと去っていったアグレシオを女王様は溜め息をついて見送った。

 何にも謝罪になってないと思ったけど、それでも撤回させた。

 それだけでも良かった。


 おろおろしていた王女様も僕の涙を必死に拭ってくれてるけど、全然止まらない。


「母上、僕は少し勇者と言うものを勘違いしていたのかもしれません。僕も頭を冷やさねばなりませんので、申し訳ないですが、これで失礼させて頂きます」

「分かりました。コルモ、貴方はあの様になってはなりませんからね」

「我が兄ながら情けないことです。ユウト殿、僕も君を下に見ていたと気付かされました。先程の話の中で僕の言葉にも蔑んだ発言があったと思います。兄上の分までは謝罪出来ませんが、申し訳なかった。許して欲しい」

「……ぐす……いえ、その言葉だけで、嬉しいです」

「有難う。では、母上、マナリス、不甲斐ない事だが、僕では役に立てないから後はよろしく頼む」


 そういって去っていったコルモ王子は、陰険メガネと言われる程の人じゃないなと思った。多分、人がどう思うかとかあまり気にしてこなかったんだ。だからイヤミに聞こえたりするんだね。


「王女様、ありがとう。もう、大丈夫です」

「全然そんな風には見えないわ、ほらぎゅーってすると落ち着くんだからいらっしゃい」


 そういってにこにこ笑顔で手を広げてくれてるけど、いくらなんでも王女様にぎゅーってされるとか、畏れ多い様な。

 いやさっきは、王子相手に真正面から噛み付いてたけど。


「何を遠慮してるの? ほら、姉上ーって飛び込んでおいで?」

「え!? あ、あねうえ!? なんでそうなるんですか」

「私、弟か妹が欲しかったの。だからユウトはもう私の弟になればいいと思うの。だったら私のことは姉上でしょう?」

「いえ、さすがに王女様に失礼かなと」

「え〜? じゃあせめて王女様は止めて欲しいなぁ」

「えっと、じゃあ、マナリス様、で……」

「仕方ないなぁ、それでいいから、さ! おいでおいでー」


 カモンカモーン、と手を広げるマナリス様だけど、ここ、女王様もいるからね?

 ちょっと遠慮させて貰って、女王様に頭を下げる。


「先程は、その、カッとなってしまってすみませんでした」

「よい。私こそ、アグレシオを同席させて済まないところです。アレの傲慢さがユウトの謙虚さに感化されるかと期待していたのですが、私の我儘でユウトを徒に傷付ける事になってしまいましたね。申し訳ありません」

「いえ、僕も、その……溜まってたの全部ぶつけてしまったので、言い過ぎたかもですし」

「いいえ、そんな事はありません。ユウトの思っている不満は当然の事です。それを不満の声が聞こえないからと蔑ろにしていた私達の落ち度ですね。何か、今からでも報いれる事はあるでしょうか?」


 そう言っている女王様は、今までの毅然とした態度から随分と物腰が柔らかくなっていた。


「あの……女王様は、僕が勇者で不満ではないのですか?」

「いいえ、そんな事は思っておりませんが……あぁ、初日の事ですね。あの時は他の目がありましたから、女王としての立場を崩せなかったのです。ダスランには配慮するように言っておきましたが、不便を掛けてはいませんか?」

「いえ、みんな良くしてくれてます。僕なんかには勿体ないくらいです」

「それは良かった。ですが、なんか、などといってはなりませんよ? 言葉には力があります。自身を卑下することは成長を妨げる事になります。それを忘れてはなりません」

「はい、気をつけます」


 宜しい、と頭を撫でてくれた女王様は、なんか、昔のお母さんみたいだった。


「ユウトー? なんで母様と仲良くなってるの? 私と仲良くなろうよー姉弟みたいに」

「マナリス、貴女はまずその崩れた口調を直しなさい」

「母様だって女王様じゃなくなってるのにーズルい!」

「ズルくありません。弟にするのは構いませんから王女としてしっかりなさい」

「え、やった! ちゃんとするよー! じゃなかった、しっかりします。姉として!」

「ちょ、なんでそうなるんですか!?」


 なんでしたり顔で変な許可出したのこの女王様は!

 慌てて止めに入ったけど、キリッとした女王様が僕に諭してくる。


「王はユウトをあまり贔屓に出来ません。それは私もです。ですが、今アグレシオと溝をそのままにすれば調子に乗ったアレが何をするか判断が難しくなりました。ですから、ユウトは後ろ盾が無ければなりません。それをこの子にお願いしたのですよ」

「それは、その、分かりましたけど、お姉ちゃんにならなくても、いいと……」

「えー? 姉上って呼んでくれたら、私とユウトが仲良しだってアピールになるから呼んでくれないとヤダ」

「どっちが本音ですか」

「ユウトみたいないい子に姉上って呼ばれたい!」

「では、私はお母様でいいですからね」

「呼びませんからね!?」


 女王様の方は冗談っぽいけど、マナリス様の方は、なんか本気っぽい。


「ほら、1回呼んだら恥ずかしくなくなるから」

「呼びません!」

「姉上ー!」

「マナリス様ってさっき納得したじゃないですか」

「やっぱヤダ! 姉上って呼んで!」

「お茶会ルールで僕には自由が許されてます!」

「じゃあ、お茶会終わり! いーでしょ? お母様」

「仕方ありませんね、お開きにしましょうか」

「まって、女王様待って下さい」

「私はお母様です」

「お母様、僕が帰るまでがお茶会だと思います」

「ふふ、それもそうですね、マナリス、諦めなさい」

「あぁ!? お母様だけズルい! ユウト〜!」

「それでは、今日はありがとうございました」

「姉上って呼んでくれるまで帰さないよ!」


 そういうマナリス様の手をさっと躱して、椅子から降りると捕まらない様にテーブルからちょっと離れて一礼。

 ドレスで身動き取りづらくてもたもたしてる間にメノさんのところに戻った。


「ユウト様、お帰りなさいませ」

「怖い姉上が追ってくる前に帰るよ」

「畏まりました」

「あ、今呼んだこと教えてあげてね! えーっと……」

「ノノリと申します。承りました」

「うん、ノノリさんお願いします」


 バラ園から出る前にもう一度振り返って、こっちに来ようとしているマナリス様に手を振って、テーブルでお茶を飲んでる女王様に軽く礼をして、それからさっさと帰った。


爆☆発


色々我慢してたものが出てきてしまいましたが、アグレシオのグッジョブはそこを引き出した事ですね

それ以外はオールアウトですけど!

あんの筋肉バカェ!!


と思って頂けたなら満足です。

後、シャロハナ様のキャラがちょっと面白くなってしまいましたw

もう少し大人なイメージを維持出来るつもりだったのですが……お母様ったら……

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