表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/104

キズナプライスレス (side テリア)

テリアさん視点です。

 

 私ことテリアは元孤児だ。

 拾ってくれたモディーナ家には感謝はしている。

 ご当主様は孤児を拾っては教育を施し、私達が生きていける様に計らって下さるし、そのおかげで死ななくて済んだ。


 その感謝もご当主様のご趣味を知るまでだったけど。


 いやまぁ、それでも感謝する子も多いし、私も有難いと思っていない訳ではない。

 よくよく考えれば気付かない方もどうかしてる。


 女の子しか拾っていないんだから、何が目的なのかなんて分かろうものだ。


 ただ私にはそこまでの感謝まではなく、そういった“ご恩返し”も出来なかったから、それ以外で頑張っただけの話。

 周りのみんなは不思議そうにしていた。


 “ご恩返し”するわけでもしたいわけでもなく、巣立ちもしない私という存在は、さぞや奇異に映った事だろう。


 だから、勇者様の召喚でお世話する者を求められた時に立候補したのだ。


 ご当主様のご趣味に合う子は教育が足りず、教育が行き届いていて残ってる子は離れたがらない。

 先輩方からはキツく“ご恩返し”の代替なのだからと、しっかり励むように言い含められたが、私としてはもうソレは終わっても良いだろうと考えていた。


 だから、勇者であるユウト様が怖さを押し殺して私みたいな女に恐る恐る接するのを見て、薄汚いものから守ってあげたいと思ったのだ。

 腕を掴まれて、ベッドに引きずり込まれた時はマセガキめ、と思いもしたが、違った。

 かすかに震えるユウト様は、温もりが欲しかったんだ。

 縋り付いて寝ているユウト様が愛おしく思えた。


 そこにやってきたメノはノックをしても反応が無いことを訝しみながら入ってきたが、私と目が合うと苦笑を浮かべた。


「わたくし、出直した方が宜しいですか?」

「大丈夫だよ、見ての通りちょっと身動き取れなくてさ」

「……まぁ、随分と」

「こんな顔させてる子に離せとは言えないでしょ?」


 寂しさや苦しさを感じさせる寝姿というのは、見ているだけでも胸が締め付けられるものがある。ましてや私は人に敏感だ。


「少し、和らげておきましょうか」

「お願い。ちょっとね、これは見てられない」

「分かりました。わたくしは感応させてしまいますので、少し負担をかけてしまいますが、お許しを」

「いーよ、聞いたことあるから。やって」


 メノの鎮静化の魔法で穏やかな表情になったユウト様。

 そこでユウト様の記憶が流れ込む。


 この子は昔の私と同じなのかと思ったが、それも違った。

 孤児にだって、いや、孤児だからこそ仲間みたいなものはいる。

 そうしなければ生きる事もままならないのだから。

 ユウト様にはそれすらも無かった。


「無理はせずに一度寝てしまって下さいね」

「そう、させて貰うわ、慣れてないからキツいわ」


 それから、ユウト様を送り出してから三人で探り探り話をして、協力体制を取ることまでは何とか擦り合わせが済んだところで、ユウト様がこちらに帰ってこられるのが分かったので、残りは夜にと相成った。


 あぁ、あんなにも頼りなくて悪意に塗れながらも真っ直ぐにあろうとする事は、なんて眩しいのだろうか。

 ユウト様は紛れもなく勇者たる資格をお持ちだと、私達は確かめあった。

 でも、女らしさをおっぱいで判断するのはどうかと思う。

 孤児だった頃に栄養回らなかったんだよ、仕方ないじゃんか。

 屋敷に居た時はご当主様のご趣味の関係で“育たない事”を妬まれたりもしたけど、どっちもヤダねー。


 次の日は三人とも寝不足でちょっとキツかったけど、リュリュからユウト様の事を聞く度にもうひと踏ん張りしようと思えてくるんだから現金なものだね。


 針をちくちく動かしながら周りに目をやれば、服飾部の子達が一所懸命に同じ様に針を動かしてるのも目に入る。


「テリアさーん、ここ、袖幅はこれくらいで大丈夫です?」

「んんん……大丈夫かな? うん、でも、ユウト様は成長期だからもう少しだけ余裕持たせといて」

「わかりました。それにしても、勇者様は線が細くていらっしゃいますね」

「食が細くってねー。まぁ、動いて食べてしてればその内嫌でも食べる様になるよ」


「そうね、もうちょっと筋肉ないとね」「あぁでも、牛にはなって欲しくないなぁ」「勇者様はアレでいいと思います」「あのまま成長されたらカビになるわよ」「何事も程々よね」


 針を動かす女達は口も動かす。

 ちなみに、牛とは第一王子のアグレシオ、カビとは第二王子のコルモの事だと聞いた時は笑ったものだ。

 名前を出せば不敬になるが、牛を悪く言っても不敬にはならないのだとしたり顔で言う彼女らは強かだ。


 服の回収や補充、掛布や絨毯に至るまでおよそ針仕事で出向かない場所はほぼない。その為、噂話の速度は城の中で一番早い。

 他で働く女達の娯楽はそういった噂話なのだから、ここに溶け込むのが一番だし、それでモディーナ家に貢献していた。


 まぁ、それも罪悪感がなかったわけでもないので、今は気楽に話に混ざる事が出来ると思うと面倒な針仕事も楽しいものだ。




 ユウト様のお着替えをメノに全て見せる、と言う札をチラつかせて今夜のお風呂当番を勝ち取った私は、今まさにユウト様を連れて風呂場にいるわけだけど、からかい混じりにちょっとおねだりしてみたら真剣に考えて下さってて、可愛い顔を引き締めてとても男の子の顔になってた。

 だからだろうか、きっと昨日だったら気にせず裸になれたのに恥ずかしくてつい言ってしまった。


 くるっと後ろを向いたユウト様にほっとしたのと残念なのと半々で、その事に驚いた。

 いやいや、10の子供だぞ? 私。


 まぁそんな事を思いつつタオルはしっかり巻く、しっかりね。

 湯気で仄かに暖かい風呂場の洗い場で、椅子に座りながら、絶対に後ろは見ません! とばかりに前を向くユウト様はやっぱり可愛らしいですね。


「ユウト様ー、シャワー出しますねー」

「うん」


 魔石をちょいちょいと操作してお湯を出して、ユウト様の身体に掛けながら、手早く石鹸を手に取る。


「じゃあ先に背中流しますからね」

「うん」


 ほんとは髪を先に洗った方がいいんだけど、ただでさえ多かった聖痕がよもや更に増えたと聞いては気になって仕方ないので、先に背中だけ洗わせてもらう。


 そして湯船のお湯で流せば、聖痕が浮いてくるわけだ。


 首元から少し下に下がって左にクシァンテ、右にロロ。


 その下に左から、アフォス、ホロゥ、レメト。


 少し間を空けて、ホロゥとレメトの間くらいの場所にデムテアが新たに増えていた。


 と言うかこれは……どう見たって霊図じゃんか!

 リュリュのおバカ! 何が不自然な間だよー!


 昨日の時点で分かってたら……

 教会と直接接触なんかさせなかったのに……っ!

 何考えてんの!

 って、それはあとで問い詰めよう。今はユウト様だ。


「あ、ユウト様ー?」

「うん」

「次は頭を行きますよー」

「うん」


 頭をわしゃわしゃして洗ってるとどうにもユウト様の頭がふらつく。そんなに力入れてないんだけどな。

 と思ったけど、もうおねむなだけか。


「後ちょっとだから頑張って下さいね」

「うん」


 そういえばさっきからうんうんとしか言ってない。

 頑張ったもんね。

 仕方ない。

 タオルを取って魔法で手早く洗っちゃおう。

 私の髪は今日は後で拭くだけにしようと思ったけどこうなったらどうせ濡れるし、解いちゃうか。


「ユウト様ー、後ろ見たらダメですからね」

「うん」

「……まぁでも見たいなら見てもいいですよ?」

「うん」


 あー、ダメだこれ。

 止める人がいないと暴走しそうだね。気を付けないと。

 ユウト様も、眠いからって無防備過ぎますよー。


 お酒で酔わせて女をお持ち帰りする男はこんな気持ちなのかな。


 この場でやらかしたらアデーロ以下。

 そう、あのアデーロ以下だぞ、私。

 よーし、タオル巻き直した、大丈夫。


「ユウト様、湯船に浸かりますよ」

「うん」

「溺れたら危ないですから、抱っこしますね」

「うん」


 湯船の中で、膝の上にユウト様を乗っけて、溺れない様に、そう溺れない様にしっかりと抱き抱えてるだけだから。


 命を守るための行動ですから、何もやましいところはないですから。


 えぇ、寝ぼけてるユウト様の着替えをしている時に計らずも全身触れてしまいましたが、不可抗力ですから。


 大丈夫、ユウト様はまだ子供でした。


 何とか寝室までユウト様をお運び申し上げましたら、私のお世話は何事もなく終わったのです、何事もなく。


「テリア、ユウト様もう寝たの?」

「えぇ、随分とお疲れのようでしたので、おほほ」

「テリア?」

「なんで御座いましょう?」

「何があった」

「……何もありませんでしたよ?」


 じっとりとした視線から目を逸らして、その先に悪魔の微笑みを私は見た。


「詳しくは後でお願いしますね、テリア」

「私の添い寝が無くなった事も再考が必要」

「いや、それは勝手にすればいーんじゃないかなっ」

「そんなことしたらユウト様は嫌がるかもしれない」

「ふぐぅっ!」


「「…………ふぅん?」」


「お風呂、すぐに上がりますからね」

「待ってて」


 程なく宣言通りに手早くお風呂を終えた二人に、両脇をガッチリ抑えられて控えに連行された私だけど、大丈夫、私には切り札があるから追及から逃れられるはずっ。


「さて、何から聞けばいいでしょうか?」

「ユウト様に何をした」


「だから何もしてないよ。それよりも私はリュリュに聞きたい事があるんだけど?」


「何?」

「ユウト様の秘痕! あれ、どう見たって霊図じゃん! なんで昨日の内に言っておいてくれなかったの?」

「霊、図?」

「まさか、知らなかったって言うの?」

「知ら、ない……問題?」


 まさか知らなかった、ホントに?

 メノをチラリと見れば、彼女も厳しい顔をしていた。


「リュリュは魔法はどなたに教わったのですか?」

「小さい頃に母から、後は実地で覚えた」


 不安そうにしているのはどう見てもホントに知らなそうだ。

 仕方ない。

 仕方なくないけど、起きてしまった事はもうひっくり返せないんだから、これからの事を決めておかないと。


「メノ、もう終わった事だから後のことを詰めよう」

「……仕方ありませんね、知らない物を責めても意味がありませんから。リュリュは明日、書庫で霊図についての文献を読みに行ってください」

「ごめん」

「いや、私もごめんね? 協力していこうって言ってたのに、真っ先に出し抜こうとしてるのかと疑っちゃった」


「簡単に言っておきますと、霊図とは神々の系統図です。それそのものに力が宿りますので、神官であれば気づいてしまわれるでしょう。ユウト様の秘痕が強いものだと」


「っ……つまり、教会に目を付けられた?」

「そうなるね」

「聖女様とのお茶会が避けられずとも、教会に赴かない事で、露見を極力抑えられたかもしれませんが……」

「もう多分抑え込めないね」

「どうしたら……」


 ようやく事の重大さが分かってきたリュリュが血の気の失せた顔で聞いてくるけど、正直、何も出来ない。


「聖女様と友誼は結ばれたようですから、そこからの働きかけに期待するしかありません」

「後はユウト様の秘痕の力を信じるとかね」


「まぁ、そうは言っても、遅かれ早かれなところもあるから、今回は下手を打った、次はやらかさない、それでどう?」


「そうですね、でも何もお仕置きがないのは、宜しくありませんから、ユウト様のお世話を手控える事を提案しますわ」

「添い寝はしばらくお預けだね」

「そん、な……」


 がっくりと項垂れるリュリュだけど、知らなかったとはいえこれはちょっと見過ごせないから諦めて貰おう。


「では改めて、今後この様な事がないように気を引き締めて参りましょう」


 そういって、差し出された手にリュリュがガッチリと手を重ねて次は失敗しないと、力強く、誓いを立てる様に宣言した。

 私もそこに重ねて、頑張ろうね、と二人に笑顔を向けた。


 大丈夫、私達はユウト様をみんなで護るんだ。


「ところで」


 その重ねた手の上にメノが手をそっと重ねて──


「お風呂では何もありませんでしたか?」


 悪魔が降臨した。


「テリア、それはダメ」

「これはお仕置きもやむなしですわね」


 信頼関係を再確認した瞬間に過去視使われたら防ぎようがないじゃんかっ!

 バレるに決まってるし!

 バレなかったら私は二人を信頼出来ないと心の底から思ってる事になるし!


 どんな悪女なんだって話になるじゃんかー!


「いやでも、ユウト様おねむだったから不可抗力だよね?」

「テリアが発情してなければ不可抗力だった」

「犬や猫でもあるまいに、はしたないですよ」

「そうは言うけど! 二人が同じ状況になったら絶対に同じ感じになるよねっ!?」


「「それはそれ、これはこれ」」


 明日はメノのやりたい放題が決まった。

 お仕置きはともかくそれでユウト様に不便な思いをさせるのは本末転倒だから。

 一日だけね。


検閲コードさんはお仕事を頑張ってました!


ユウト視点とちょっとズレがあるのはユウトがおねむだったからです。

メノさんはきっと正しかった(3話ルビ部分)けど、べつにメノさんも暴走しないとは限らないのです(爆)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ