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どうして (side メノ)

若干のホラー注意

 


 どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして!?


 一体、何がいけなかったのか。


 ユウト様に余計な心配を掛けたくなかった。

 ユウト様の重荷になりたくなかった。

 ユウト様の憐れみが欲しくなかった。

 ユウト様のお傍に何のしがらみもなく立ちたかった。


 だから全てを、捨てて、棄てて、他に何も無い、何でも無い、ただのわたくしを、掴み取ったのに、選び取ったのに。


 わたくしが得られなかった愛を、ユウト様が得られなかった愛を、わたくしがいつか種を孕み、芽を育て、大輪の花を咲かせるように、水を、養分を、光を、種に注ぐように、芽に染み込ませるように、大輪の花に浴びせるように。


 選定して、剪定して、余計な枝を打ち払い切り落とし手折るのは、必要なことなのに。


 どうして、悲しそうな顔をされたのか?

 残すべき枝はユウト様で、咲かせるべき花はユウト様で、実らせるべき果実はユウト様であるべきなのに。


「メノ……」

「どうして、ねえ? リュリュ、わたくしは間違っている?」


「メノ……」

「どうして、ねえ? テリア、わたくしは間違っていた?」


 どうして?

 どうして!?


 ど う し て ! ! !



 パシン!



「あ……」


 ひりつくほほに呆けたように俯けた顔を上げれば、そこには厳しい目をしたリュリュとテリアがいた。


 わたくしをひっぱたいた手を痛そうにぷらぷらと振るリュリュに微かな怒りを感じる。


 でもそれもわたくしの愚かさを責める為だと思えば何も言えなかった。


 わたくしの前に膝をついたテリアも冷たい眼差しをしている。


「メノ、私、言ったよね? こんなやり方するのは良くないって」

「……えぇ」

「あの時は、もう止められないから、私もメノのやり方に付き合ったよ? でも、結果はコレ。ユウト様を泣かせたのはメノだよ」

「………………」

「まぁね、なんだかんだと私も協力したし、リュリュだって止めなかったからさ。私もリュリュも同罪だね」

「運命共同体」

「それは、でも、わたくしが……」


 同罪であるわけない。

 独断専行して、わたくしの強行に付き合わざるを得なかっただけの二人と。


「テリアとリュリュは、関係のない事です。わたくしの愚かさが招いた事で、二人はそれに巻き込まれただけではないですか」

「じゃあそれで」

「だよねー、とんだとばっちりだよね」

「……はい?」

「ん? メノ、自分が悪いんだよね?」

「え、えぇ、確かにそう言いましたけど」

「ならそれで」

「良かったね、リュリュ」

「これで罰則はメノだけ」

「ユウト様のお世話はメノだけお休みね」

「そ、そこはこうもっとわたくしを慰めてくれるところじゃないのですか!?」

「そんなこと言ってもさー、ねえ?」

「どうせ、ユウト様はお優しいからメノを許す」

「そしたら、メノとべったりになるじゃん」

「悪いことしたのにご褒美があるのはおかしい」

「だからね、その分も含めて考えないと釣り合い取れないよね?」


 こ、この二人は……っ!


「向こう一週間くらいは私達の分も働くべき」

「ちょ……っ」

「せっかくさ、私たちも悪かったかなーとか思わなくもなかったのに、差し出した手を跳ね除けられたら仕方ないよね」

「仕方ない」

「そこは、その、でも、結局協力したじゃないですか」

「渋々ね」

「渋々」

「運命共同体、でしょう!?」

「それはそう」

「だけど、優先順位ってあるよね」

「ユウト様、自分、その他」

「あ、うん。分かりやすいけど、せめて関係者の人くらいは分けようか」

「じゃあ、ユウト様、自分、関係者、テリアとメノ、有象無象」

「わたくしたち、運命共同体なのに、間に他の方が混じるんですか?」

「出来れば蹴落としたい」


 清々しい程に自分大事ですね!?


 まぁでも、不意打ちで抜け駆けしようとしたわたくしに言えたことでは無いですね、焦って足を踏み外したのは、えぇ、わたくしですし。


 そう、わたくしたちは、誰よりもユウト様の一番が欲しい。

 勿論、正妻を望んでなどいないけど、だからこそ、メイドの中で一番になりたい。


 他の二人には負けたくない。


 ユウト様の為にと協力はしても、ユウト様との事では協力は出来ない。


 最初から分かってたことだったのに、あまりに自分を大事にし過ぎてそれで失敗した。


 コケたわたくしを見て、あぁはなるまいと気を引き締めている事でしょうね。

 テリアがデートの機会を逃した時のように。


 それに、何をどう言い繕おうと、ユウト様に家出までさせたのはわたくしの落ち度で、今までで最大級の失態なのだから。


「……分かりました。向こう一週間、わたくしは当番なし、二人の仕事も可能な限りお手伝い致します」


 わたくしがこれ以上ゴネないことに少し意外そうな顔をしておりますが


「今後、同じようなことが起きたら、罰則はより厳しく裁定されるという事で宜しいですね?」

「な、なんで厳しくするのかな」

「同じでいい」

「あら、わたくしは手探りで失敗したのに、見えてる穴にハマるならより厳重に軽重を判断致しませんと、不公平ですよね?」

「分かった」

「リュリュ!?」

「私も、前のめりすれば情状酌量」

「失敗する前提なのはどーかなー」

「私は二度同じ過ちはしない」

「……その自信はどこから来るのですか」

「不器用なくせに……」

「仕事上の失敗は別。ユウト様の事だけ」

「仕事も失敗しないで欲しいな!?」

「約束しかねる」


 とりあえず、わたくしはボラ様に謝罪に伺わないと。

 自分の尻拭いもせず、ただ喚き散らすだけの醜態など、恥晒し以外の何物でもないですから。


 心の中は未だ嵐のようですが、それでも、並び立つ二人に恥じないわたくしにならなければ。


 リュリュの優先順位は、あれは、照れ隠しですよね。


 ………………深く考えるのは止めましょう。


 そうして、ユウト様のいらっしゃらない一日がまた始まりましたが、これは、わたくしも次の機会があれば、同じようにしていいんですよね?


「あぁら、メノさん? まだ頼んだ仕事が終わらないんですかー? やることいっぱいなんですから、テキパキこなしてくれないと終わりませんわよー?」

「すぐに、やります!」


 い、いいですよ? えぇ。

 これは、わたくしに課せられた罰ですからね?


「メノ、拭き残しがまだそのまま。早く」

「か、かしこまりました」


 その拭き残しはリュリュのですけどね!?

 えぇえぇ、二人の仕事を手伝うのも罰の一環ですものね?


「あ、あの、あの……メイド長様、何か、お手伝いを……」


 恐る恐る手伝いを申し出るエニュハには悪いですが、ここでエニュハの手を借りれば、次もそれはアリだと認めることになってしまいますからね。


「ありがとう、エニュハ。でも、わたくし、全っ然大丈夫ですから、いつもの仕事をしていて大丈夫、ですよ?」

「ヒッ! は、はい!」

「メーノーさぁーん? 窓拭きがまだ残ってますわよー!」

「はい、ただいまー!」


 ふふふふふふふふふ。

 次の機会が、ほんっとうに、楽しみですわね?




「は……はぁ……はぁ……お、終わりましたよ! これでよろしいですか!?」

「おー! やれば出来るもんだよねー」

「なかなかやる」

「(ぷちっ♪)まぁ、お二人も、今日の事はよく覚えておきましょうね? わたくし、その時は頑張って仕事振りますから……カクゴナサイネ」

「きょ、今日はほら、ユウト様いなかったから、うん。ね、リュリュ!」

「そう。ユウト様の前ではすべきじゃない」

「うふふふふふ」

「えへへへへへ」

「はははははは」


 そんなナカヨシなわたくし達は、そろそろお帰りになるユウト様のお出迎えに玄関周りに集合しました。


 本日は、気晴らしにと観劇に行かれたそうで、お詳しいペリオン様と共に楽しまれたそうです。


 どうか、良い気分転換になられたら良いのですが。


「……ただいまー」

「「「おかえりなさいませ」」」

「わぁ!」


 わたくし達が揃って挨拶などあまりした事がありませんでしたからね。


 反省しておりますと、分かりやすくお伝えするにはこれが一番です。


 きっと、ユウト様は、家出した事を気に病まれているでしょうし、その事についてと謝罪しあうのは主従関係として宜しくありません。


 勿論、言うまでもなくわたくしたちを気にかけてくださるユウト様は素晴らしい心根をされていますが。


 深く下げた頭を上げればそこには、大空のような冴え冴えとした衣装に身を包んだユウト様がいらっしゃって、わたくしをじっと見ておられました。

 少し、顔色が悪いのは、やはりわたくしのことを気にされていたのでしょうか。


「………………」

「………………」


 ところで、そのユウト様を支えるように身を寄せるペリオン様とアイリス様はそろそろ離れた方が宜しいのでは無いでしょうか?


 確かにお加減の悪そうなユウト様を支えるのは当然の事ですが、少々、距離が、近いのでは。


「ペリオン! ドレス綺麗ですね!」

「うふふ、ありがとうございます♪」

「ペ、ペリオン?」

「アイリス様も、綺麗」

「リュリュ、ありがとう」

「さ、アイリス様、ユウト君のお見送りは終わりましたから、もうお帰りになられて結構ですよ?」

「あら、せっかく立ち寄ったのにお茶も頂けないのかしら?」

「め、メノ! お茶の用意お願い!」

「は、はい、かしこまりました」

「という事ですから、護衛は護衛らしくなさって? ペリオン」

「むむむ!」


 こ、これは、どういう状況ですか!?

 聞きたいですけど、お出迎えに上がった以上、メイドとしてすべきことをしなくては。


 その後、聞きたいこと、言いたいこと、はいくらでもありましたが、いつもよりも距離感の近いアイリス様と常になく距離感の近いペリオン様とに目を白黒させながらささやかなお茶の席を共にされ、その流れで晩御飯もご一緒され、名残惜しそうにアイリス様が帰られるまでそれは続きました。


「では、ユウトさん。本日はありがとうございました」

「こちらこそ。ありがとうね、アイリスさん」

「いいえ、あたくしは何も。それではおやすみなさい。ごきげんよう」

「うん。おやすみ」


 アイリス様が帰られる直前、ユウト様の耳元で何か囁かれていらっしゃいましたが、何を話されていたのでしょうか。


 気にはなりますが、それよりも、ようやく、ユウト様とお話をする時間が取れそうです。


「じゃあ、ペリオンは私とちょーっとどういう事なのか話そっか、ね?」

「て、てりあ? 顔が怖いですよ?」

「うんうん、だいじょーぶだいじょーぶ」

「私も手伝う」

「リュリュさん!?」


 去り際にパチリとウィンクしたテリアと、グッと拳を突き出したリュリュに心の中で感謝しつつ、ユウト様と向き合う。


「……あの───」

「メノ、着替え手伝ってくれる?」

「……はい。かしこまりました」


 プイと横を向きながら、それでもわたくしを傍に呼んでくださる事に嬉しさを感じます。

 普段は、着替えなど、ご自分でなされるのに。


 そのまま、何となく、雑談のような会話が続きます。


「こちらの服はどうされたのですか?」

「アイリスさんが、ナイショで用意してくれてたみたいで」

「それはまた用意のよろしいことで」

「僕だって最近成長してるから、渡し忘れちゃったらどうするのって話だよね」

「その時は、多少なら服も弄れますから」

「そっか」

「えぇ。それで、観劇は如何でしたか?」

「うぅん……」

「あまり、楽しめませんでしたか?」

「そんなことはないんだけど、ペリオンもアイリスさんも詳しいからね。何回か見ないとダメな気がしたなぁ」

「それでしたら娯楽小説もございますから用意致しましょうか?」

「そうなんだ。じゃあお願いしようかな」

「承りました」

「僕ね……」

「はい」

「謝らないから」

「……はい」

「だから、メノも謝らないでいいから」

「ですがっ」

「考えたんだよ、僕。どうすれば良かったんだろう? って。癇癪起こしたみたいに喚けばいいのか、泣けばいいのか、怒ればいいのか、考えても考えても分からなかったよ。だって僕はみんなが好きだし、僕の事も好きでいてくれるみんなが、僕の為にって考えて考えてしてくれた事だもん。だからね、その……」

「ありがとう、ございます」

「……うん。僕もありがとう」


 あぁ


 ユウト様は、どうして、自戒が過ぎるのに、わたくしたちにお優しいのでしょうか。


「今日はメノと寝るから」

「……はい」


 普段は恥ずかしがっておられるのに、今日はぐいと手を引かれてベッドに向かいました。


 耳は真っ赤でしたけど。


 明かりを落とした寝室で、向かい合って寝ていますが、初めてでは無いでしょうか。

 ユウト様から、抱きしめて頂くのは。


「……ユウト様?」

「……今日、だけだから」


 不安、でしょうか。

 わたくしの浅慮が、そうさせたのだと、そう思うと申し訳なくなります。


「是非、テリアやリュリュにもして差し上げてください」

「……うん」

「ペリオン様も今度呼ばれますか?」

「え、いいよ。ペリオンは。ただでさえカノンとかには誤解させてたみたいだし、今もだけど、とっかえひっかえしてるみたいだし」

「いいではないですか。コーリーなどは、しっぽにくるまれながら寝たら気持ち良さそうですよ?」

「そういうのはしたくないよ。どんな言い方しても、むりやりになりそうだもん。それよりも、メノ、魔法お願い」

「……宜しいのですか?」

「……うん。ちゃんと確かめて」


 ユウト様との信頼感が損なわれていたとしたら、わたくしはいつもよりも深く潜る事が出来なくなるでしょう。


 ですが、大丈夫だと、そう証明して見せます。


「おやすみなさいませ」

「おやすみ……」












 どうして……!?


 ユウト様の記憶にいつものように触れて、そして、わたくしはあまりの光景に絶句しました。


 わたくしたちの世界ではお目にかかれない高層建築、溢れる人並み、そこに、黒い穴が点在していました。


 激しくなる動悸を抑えてユウト様の家に向かいます。


 街中の情景に大きな変化はありませんでした。


 いくつかの看板らしきものに焼け焦げたような黒い染みがあって、そこにポカリと虚無の穴が開いてはいましたが。


 急く気持ちをなんとか宥めて、時折、地面にもベッタリと広がる染みを踏まないように気をつけます。


 ここは記憶の場所。


 何も、わたくしには影響がないはずなのに、得体の知れない怖気に触れる気にすらなりません。


 この角を曲がれば───


「ヒッ!」


 そこには、黒い染みで、大部分が無くなったユウト様の家がありました。


 虫食いされ、ボロボロになった葉のように、見る影もない廃墟の方がまだマシだと言えるような、骨組みだけのようなソコ。


 その中で

 、

 かろうじて

 食卓と

 呼べる場

 所で、

 ユウト


 様と


 影のよう


 な

 人カゲ

 が


「ア」……っ


 ユトウ

 さ

 ま!


 そう


 聲

 お


 あげ

 ta


 dAmE… …




 人影がわたくしを見て醜悪な笑みを浮かべた。





 暗闇の中、わたくしは、己の悲鳴が漏れないように、口を手で塞ぐのが、精一杯だった。


 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ───


 早鐘のように鳴る心臓の音が耳の奥で酷く響く。


 ぬるりと、ねばつく汗に濡れた自分に、ゾッとした。


 乾いた口内に喘ぐように喉を鳴らし、それから恐る恐る眠るユウト様を見れば、穏やかな顔で寝ておられて。


 わたくしは、ユウト様を起こしてしまわないように、そっとベッドを抜け出したところで、ぺたりとへたりこんだ。


 アレハナニ!?


 違う。

 違う!!


 アレは絶対に、尋常なことでは無い!


 人の記憶には、欠落がある。

 人の記憶は、記録では無いのだから。


 だから、曖昧なところや、ぼやける場所もあれば、真っ白に抜け落ちていることもある。


 黒く塗りつぶされた様な記憶もないことはない。

 嫌な記憶を封印していることもある。


 でも、アレは違う。

 そういうものじゃない。


 何かに、誰かに、食い潰された。


 ソレは、意志を持ったナニカ。


 そうでなければ、最後、目が合うはずがない!


 あの黒い暗い昏い眼窩は、記憶の中なのにわたくしを認識していた。


 そしてあろう事か、わたくしを見て嗤った!


 何が起きているのかは分からない。


 けれども、引き起こされているのは、確実な記憶の消去だ。


 何か、何か原因があるはず!


 ユウト様が異世界から来られたから?

 ユウト様の歳に見合わない力の代償?


 分からない

 分からないっ

 分からないっっ!



 それでも、そのままには出来ない。


 吐き気を飲み込んで立ち上がる。


 それでも、どうして、が分からないとしても、どうしても、どうにかしなくては。


 それこそ


 どうしても───





さてさて、メノがヤンデレにならなくて良かったね!(そこじゃない)


とゆーところで、なんやかんやしつつも気づけば100話到達となりました。

ここまで読んでくださった皆様に感謝感謝です。


まぁ、エイプリルフールすぺしゃるとかもあるので、本編だけだと少しだけ足りませんが、まぁいいじゃないですか!


という事で、同時投稿された次の話は、お祝いすぺしゃるになりますので、宜しくお願いします。

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