決着
勝敗はグレンとエレン以外に誰も予想がつかなかった形で決まった。
グアイヤ援軍の隊長が殺された後、グレンがエレンの素早い隊をうまく稼働させ、ギルシの大将を殺し、戦場にギルシ第一王子ルーカが出るよう仕向けた。
ギルシ王家が崇拝しているエリーネス民族、つまりエレンの姿を認めたとき、ルーカは停戦を求め、敗北の印として自身の身柄をエレンに預けた。
ギルシと同じように敗れないために、アステラ軍にはいつでも軍を仕切れる大将が8人もいる。各将は自身の部隊を持たず、定期的に戦場での立ち位置を替える。総大将のグレンは戦場に出ることなく、総司令できる場所から戦況を見守っている。
馬から降りてきたグレンはレナードと捕虜となったルーカに笑顔で迎えられた。
「戦場に出ないと言われている男にしては随分汚れたブーツではないか、総大将殿」とルーカが皮肉っぽい笑顔を見せながら、鋭い指摘をする。
ルーカ、レナード、グレン、そしてアステラ第一王子キーアンは学友であり、親友でもある。しかし個人と国の違いは十分に理解している。
グレンは自分のブーツを見ながら、「天幕用の絨毯を持ってくるように指示を出すのは忘れてね。おかげでブーツはこのありさまだ。」と笑顔で返す。
歩いているだけでブーツは変色するほどの汚れはつかないこと位この優秀な軍人たちはよくわかっている。そしてグレンの身の回りを世話している使用人は主人が正々堂々と嘘をつけらるように毎回違う理由で絨毯を忘れられるほど優秀だと親友たちも知っていた。
「しかし、お前は本当に今回汚い手を使ったな」とレナードに手錠を取ってもらいながら、ルーカがグレンに悪態をつく。
「敵の弱みにつけこむのは戦略中の戦略だろう。」と得意気にグレンは言う。
「どうやって彼女を味方に着けたんだ。こちらは国一つ買える位の金を積めたといのに、直接返事をもらうことすら叶わなかった。」
「戦場で直接会えて良かったじゃないか。」
「敗北と引き換えにね。」
「敗北は一番安くすむと知っているから、白旗をあげたんだろう。」とグレンはレナードの部下から準備してあった馬の手綱を受けとる。
「まぁな。」
「どれ位の損失だと計算している、ルーカ?」
「王家の首。」と今度ルーカがグレンから手綱を受けとった。
グレンはしばらく無言のままルーカを見つめた。「キーアンがお待ちかねだぞ。」
「それを聞いて、喜ぶべきか悲しむべきか悩ましいね。まぁ、彼女は君たちの味方をしている以上、全ての出来は運命だと思って、受け入れるさ。」
「運命任せか。」
「否、彼女任せだ。」とルーカが馬に乗る。
グレンが鼻で笑った。
「彼女と言えば、どこにいるかわかるか。」
ルーカは頭を左右にふる。
「俺をレナードの右腕に任せると、うちの野営地の方に向かった。」
グレンは舌打ちをした。
「グレン、一つだけお願いがあるんだが・・・」とルーカは声を落としながら、真面目な顔で言う。
「もうお前用の天幕にいる。」とグレンは小声で答えた。
「敵への気配りまで優秀な男だ。」とルーカが微笑んだ。
「ただの罪滅ぼしさ。」と馬の頭を軽く撫でてから、グレンが無言な指示を出すと、レナードの部下とルーカがアステラの野営地に出発した。
グレンがレナードに視線で問いかける。
「ギルシ野営地にはいません。」
「いない場所ではなく、居場所の報告が欲しいと言わないとわからないのか。」とグレンが不機嫌極まりない口調で言いながら、馬に乗った。「見張るようと言っただろう。」
「幻隊と呼ばれている部隊ですよ。」とレナードが困った表情を見せた。