第七話 Death of girls
「はぁっ・・・・・・はぁっ! アサミさん! 魂魄さんと松田さんが・・・・・・」
先程まで走っていた沖川が、地面に膝を付きながら言う。
「えっ!?」
あの二人が、死んだのか。
久しぶりに端末を見てみると、二人は死亡表示されている。
魂魄の死因は、松田のアビリティ『グングニル』が胸部に刺さったことによるショック死。
松田の死因は、裏切り者による殺害。
裏切り者による死は、これで二回目。
――あれ?
「アサミさん、どうしたの?」
「うぅん、何でもないよ!」
琴柄に対して慌てて発言する。
まあでも、そんなことないよね。
「仕方ないね。アサミさん達が望む結果にはならなかったけど、そろそろ裏切り者が誰かを決めなきゃいけないね」
「そ、そうだね・・・・・・」
震える声で、渚が賛成した。
たがまだ、一人いない気がするが。
「あれ、でも遠山さんが来てないけど・・・・・・」
「遠山さんなら、まだ証拠となるものが無いか探すって言ってたよ」
「じゃあ。取りあえず議論を始めよう」
琴柄の宣言と同時に、議論が開始される。
「と言いたいんだけど、確実な証拠はまだ無いし。ボクが今から言う方法で決めたいと思うんだけど、皆は賛成してくれるかな?
全員、犯人だと思う人物を指指してみて?
そしたらその人は、その場で自害してもらうよ」
え?
「待って琴柄さん! それじゃあ《裏切り者》じゃない人まで死ぬことになるし、最悪の場合、全滅する可能性だってあるよ!
それに・・・・・・」
「《裏切り者》だって人間だから・・・・・・殺したくない?」
――!!
殺したくない。これ以上犠牲なんて・・・・・・。
「犠牲なんてこれ以上出したくないとか思ってるでしょ?」
「アサミさん・・・・・・・残念だけど、やっぱりこの中の誰かが犠牲にならない限り、このゲームは終わらないよ。
ボクの勝手だけど、こちらで《裏切り者》が誰か決めさせて貰ったよ」
琴柄はそう呟いてから拳銃をポケットから取り出す。
そして銃口を向けたのだ。
私に。
「えっ!?」
「北条朝美さん。《裏切り者》の正体はキミだよ」
え、何を言っているんだ。
私が、赤野君と松田さんを・・・・・・?
「ちょっと待って! 何でアサミさんなんだよ!?」
沖川は強く反論する。
「教えてあげるよ、沖川クン。なんでアサミさんが、犯人なのかを。
アサミさん。キミは確か、犠牲者を出さずにこのゲームを終わらせたいと言っていた。
つまりそういう発言で皆を説得することによって、裏切り者たる自分が殺されたり、快楽の為の対象九人が殺されたりすることを防いで、最終的に自分が正体を現した上で皆を殺そうとした、とは考えられないかな?」
え、でも。
「違うよ! だって言ってたじゃない!
裏切り者の正体は、ゲームマスターの手によって殺人鬼の人格を植え付けられた二重人格者で、記憶や性格は全く違うって」
「だったら、ゲームマスターの言っていた事が間違いで、二重人格者だなんて嘘だとしたら?」
だとしても違う。私は裏切り者なんかじゃない!
「琴柄さん! 君、さっきからおかしいよ!
あんなに強くて、皆の事を考えていてくれた君が!
犠牲者を出さないって、言ってくれた君が!
こんな短絡的に、結果を決めるなんて!
おかしいよ!」
いや、それも違うかも知れない。
私は、琴柄の本性を知らないから。
だから本当の琴柄は、こういう人間なのかも知れない。
「言っておくけどボクのアビリティがあれば、どんな事があろうと、キミの心臓に穴が開く。
生き残りたいなら、キミが裏切り者じゃないって納得出来る反論をしてみせてよ・・・・・・」
そうか。
もしかしたら。
「琴柄さん、もしかしたらキミじゃないかな?」
「え、ボクが?」
琴柄が動揺している。
「答えてよ。君はどうなの!?」
琴柄の口角が、急に上がった。
そして。
「バレちゃった、かな?」
え?
「うん。キミの勘はほぼ正解だよ。
正確には違うけどね」
どういうことだろうか?
口角は上がっているが、拳銃はまだ私に向けられている。
「ボクの正体。《裏切り者》ではないけど、ゲームマスターの手先ではあるんだ。
ボクはデスゲームが起こることを望んで、彼に協力した。
だからツイてなかったわけがない。むしろツイてたんだ。
望み通り、こんな面白いデスゲームに参加させてもらえるんだからさ。
《裏切り者》さんには、ボクは最後まで殺さないように頼んでいるから、ボクが生きているのもそういうことだよ。
誰なのかは、知らないけどさ」
これが、彼女の――琴柄凪という人間の本性。
「琴柄さん。やっぱり私達を騙していたの?」
「さっきから言ってるよね。そうだよ。
そして今、キミを殺して、希望の踏み台にしようとしてるんだよ?」
わけが分からない。
この人は、何がしたいの?
「さてアサミさん。これでお別れだよ」
「あ・・・・・・」
銃口から、弾丸が放たれた。
胸部を目指して。
だがその動きは、すごくゆっくりだった。
これなら避けられるかも知れないと思ったが、自分の体は動かない。
まるで意識だけが、加速したように。
だが私は横から、何者かに突き飛ばされた。
私の心臓から弾道を逸らすなど、彼女のアビリティ上無理な筈だ。
そして私を突き飛ばした人の胸に、弾丸は貫通した。
「あれ、おかしいな? なんでアサミさんじゃなくて、渚さんに当たっているのかな?」
「アサミさん・・・・・・貴女は生きるべきなんです」
吐血しながら、渚は呟く。
「渚さん・・・・・・」
「残念でしたね琴柄さん。私のアビリティは《奇跡》。貴女の《幸運》に対抗出来る、唯一のアビリティですよ」
「え、待ってよ・・・・・・」
渚も、残された力で拳銃を取り出す。
銃口を琴柄に向けた。
「貴女の幸運なら、拘束は無意味。だからここで死んでもらいますよ」
「仕方ないね。撃てばいいさ」
トリガーが引かれた。
琴柄の心臓を貫き、その瞬間彼女も吐血して倒れた。
渚も拳銃を握ったまま、その場に倒れ、目を閉じた。
「渚さん!」
私は渚の所に駆け寄って、揺すった。
「いいん、ですよ・・・・・・。臆病だった私が、皆の役に立てたんですから。
だから、アサミさん。残った、三人、で頑張、って、くだ、さ、い・・・・・・」
渚の唇は閉じられ、二度と動くことは無かった。
私はそこで、がっくりと膝を付く。
生き残った沖川も、恐怖で腰を抜かしていた。
――その頃。
俺は、生き残った。
琴柄によって場外に突き落とされ、もう復帰は不可能だと思っていた。
だが、何とか外壁にしがみつくことは出来た。
そして俺、斉藤基は剣を抜く。
もうほとんどのプレイヤーが命を落としたが、残り三人を殺す。
そして歩き出す。
一番邪魔な、北条朝美を殺す為に。
久しぶりです。松野心夜です。
いよいよ、メンバーも三人、いや四人にまで減りましたね。
ここで多分、裏切り者が分かりそうな気がします。
ですがまだ終わっていないので、最後までお楽しみ下さい。
そして、死んだと思われていた斉藤クンが生きてましたね。
次回は多分、アサミと斉藤が最後の戦いをすると思うので、期待していて下さい!