第一話 Beginning of the Death Game
これは僕が前に書いていたフリースキル・ファンタジーのキャラを使って書いた物です。
今度こそ頑張ります!
気付いた時には、黒一色の空間が広がっていた。
だがそれは、俺がまだ目を閉じているだけで、臭いは鼻を刺すし、空気を振動させて発生した音は鼓膜を振動させている。
何故だろうか。そんな事は決して有り得ない筈なのに、こうして意識が戻るまでは酸素すら無い場所で生きていたような気がする。少なくとも、四歳からの十三年くらいは。
自分に関する記憶があるかどうか確かめるべく、俺は思考をフル回転させた。
俺は――、俺の名前は斉藤基。記憶のほとんどの部分が曖昧とは言え、十七年分の記憶を保有しているということは、恐らく高校二年生だろう。まあ留年したり、そもそも高校生ではなかったりという可能性も0ではないが。
自宅は東京都の小さな住宅街にあった筈。何区だかは、思い出せない。
その家で俺は父と母、そして妹と共に暮らしていた。
友達や彼女はいない。友達に関しては覚えていないだけかも知れないが、彼女がいた記憶は確実にない。
自分に関するデータが出てきたことには安心したが、重要な記憶はまだ思い出せていなかった。
そう。俺は自分の意識が途切れる前、どこで何をしていたかということだ。
しかも今の俺は、自分の部屋や家や住んでいた街がどうだったかのすら、あやふやな状態だ。目を開けたとき、俺の部屋だったとしても、すぐには分からないだろう。
少なくとも変な所ではないことを祈りながら、俺は瞼を開き始めた。
――赤い、空?
映ったのは、白い月が浮かぶ赤い空だ。
どう考えても、東京の空の色ではない。
もう少しよく確かめる為に、俺は立ちくらみに耐えながら立ち上がった。
そこにはやはり、俺の知っている東京の街は無く――ゲームとかでよくあるファンタジーの世界が広がっていた。
俺の後方には何があるか振り返ってみたが、そこには空と同じ赤一色の空間が広がっている。
ここにあるのは、この狭いファンタジー世界だけでそれ以外には何も無かった。
しかもこの大地、よく考えてみれば、浮いている。
ここは、俺が今いる世界は地球なのだろうか?
いや、そもそもここは宇宙の中に存在する惑星なのだろうか?
もしかしたら異世界かも知れない。
まあどちらにしろ、ここが地球でないなら俺が帰れる可能性は――。
いや諦めたらダメだ。何か脱出手段がある筈だ。
それがあれば、俺は自分の故郷に帰ることが出来る筈だ。
俺は着ていたワイシャツの汚れを払い、黒いネクタイを締め直した。
「それにしても、ここ俺以外に生物は存在しないのか?」
まあいたとしても、意思疎通が不可能ならば意味などないが。
スラックスのポケットに何かないか探ってみたが、一枚の紙切れ以外には何も入っていない。ケータイや財布も。
俺はポケットから紙切れを取り出して、読んでみる。
『この世界が知りたければ、この世界の中心である広場に来い。他の参加者も集合している』
《他の》? 《参加者》?
参加者という言葉が引っかかるが、それが変なことでないことを祈り、俺はスラックスのポケットに手紙を入れて世界の中心に駆け出した。
そこには九人の人間がいた。
幸い彼らの話していた言語は日本語だったので、彼らとなら意思疎通が可能だと判断した。
だが俺が声を掛ける前に、一つの出来事が起き始める。
広場の真ん中にある大きな噴水の上に、半透明の窓のような物が出現した。
しばらくすると、その窓に《Sound Only》という文字が映し出される。
文字の意味通り、あまり時間は経たずに合成音声がどこからともなく聞こえてきた。
『ようこそ、私の世界へ。
私はこのデスゲームのゲームマスター。この世界の支配者だ』
――デスゲーム? ゲームマスター? 私の世界?
俺には彼が何を言っているのか分からなかった。俺が理解しきる前に、そのまま次の合成音声が流れる。
『キミ達がいるのは、私の作った仮想世界。つまり現実のキミ達の体は、私の所にある。
私がキミ達に要求することは一つ。キミ達十人の中に存在する――《裏切り者》を探し出して殺してもらう。
逆に《裏切り者》には、自分以外の全員を殺してもらう。
ただし、キミ達自身の中に《裏切り者》はいない。
私はこの世界にキミ達をログインさせる際、殺人鬼のAIの人格を、誰か一人のもう一つの人格として植え付けた。
つまりAIの人格を植え付けられた人物を探し出して殺さなくてはならない。
そして忘れてはならないことが一つある。
その世界で死ねば、キミ達の現実世界の体に毒液が注射されて本当に死ぬ。
では、最後に私からのプレゼントを残して、チュートリアルを終了する。
頑張り給え』
プツン、という音と共にウィンドウが消滅した。
何もない空間からスマホ型の端末がそれぞれのプレイヤーの所に落下し、俺もそれを受け取る。
黒幕からの放送が終わってから、皆が皆を疑い始めていた。もしかしたら、自分自身まで。
俺も昔、デスゲームものの小説は何度か読んだことがある。
こういう小説の主人公は、プレイヤーを殺してゲームを終わらせるよりも、全員で帰る道を探すかも知れない。だが小説やゲームの中ですら無いこの状況で、俺に残された手段は一つだった。
――そう。ここにいる全員を殺すという手段だ。
◇◇◇
『斉藤基 年齢 十七歳 身長 一八五センチ 体重 七〇キロ Ability 無し』
――外れくじかよ。
アビリティの欄を見ながら、俺は脳裏で呟く。
このデスゲームでは、アビリティという異能力が使用出来るらしいが、どうやら俺は無しを引いてしまったようだった。
これで俺の生存率はかなり下がってしまった。
全員が端末を見終わり、俺達全員が端末と一緒に天空から広場に落下してきた箱から、武器などを取り出したが、それだけで誰も動かなかったが。
プレイヤーの一人が、俺達の眼前に駆け出してきた。
少女だ。身長は多分一六三センチだと思う。腕や足も細長く、胸を押し上げる膨らみもそれなりにあることから、スタイルは良さそうだ。顔は化粧がいらない程度の整った綺麗な顔立ち。瞳の色は青。髪は肩まで届く紫の短髪。肌は雪のように白く透明だ。
服装は紫のTシャツにスカート。Tシャツは胸の辺りに黄色のラインが入っている。
武装らしき物は、ゲームの格闘家が付けていそうな鉄の籠手。
名前は確か、端末に記載されていた。《北条朝美》。
「皆、私達が争ってたら黒幕の思うつぼよ! 周りの人間や自分が、《裏切り者》かも知れないということが心配なのは分かるけど、今はお互い協力しあわないと!」
その声も、水のように透明で美しい。
ただ話している内容は、俺にとって綺麗事以外の何事でも無かった。
「へー、面白いじゃん。俺はアンタの意見に賛成だな」
「赤野君・・・・・・!」
赤いブレザーに身を纏う少年・赤野十真がアサミの意見を肯定すると同時に、俺以外のほぼ全員がアサミに対して拍手を送った。
拍手を送られていたアサミも、これから皆で協力出来ることに安堵しているのか、微笑んでいた。それは表向きだけかも知れないのに。
「俺は反対だな」
俺が呟くと同時に、周りの拍手が止み、プレイヤーの注目は俺に集まった。
「何、斉藤君。折角アサミちゃんが皆の気持ちを一つにしようとしてるのによー」
「気持ちを一つにか・・・・・・。こういう時一番まずいのは、全員の表向きの反応だけを見て、心の中でどう思っているのかを全く考えないことだ」
赤野の発言に苦笑しながら、俺は言った。
「はぁ・・・・・・さすがに考えすぎじゃないのかなー。俺はアサミちゃんの意見は素晴らしいと思うけど――
「と、証明出来る奴はどこにいる? 分からないのか? お前が嘘をついている可能性だってあるんだよ」
赤野はそれ以上反論しなかった。
俺はそのまま、今度は全員――主にアサミに対して言い放つ。
「断言する。このデスゲーム、誰が何を言おうと死人は出る。だから殺し合うしか道は無い」
「ダメだよ斉藤君!」
アサミが必死な顔をしながら反論する。俺はそれに対して、ため息を吐いた。
決まりだ。最初に死ぬべきなのはこの女だ。
「どうやら、お前にだけは何を言っても分からないようだな。ならば、まずお前から死んでもらう」
先程ボックスから取り出し、腰に身につけた片手剣を勢いよく抜き取って、切っ先を彼女の顔に向けた。
「さ、斉藤君」
剣を下ろしてから、俺は一歩、一歩着実に、少女へと近づいた。
殺す為に。
そして残り五センチぐらいの所で、剣を握る。
切っ先を少女の心臓に向けるように構え、右手を思い切り引き絞った。
そこから俺は少女の懐まで、光のように駆け抜ける。
だが剣が少女の肉体から鮮血が溢れる事は無く、代わりに金属同士が衝突する音が響いた。
剣を止めたのは、赤野が持つ剣の刀身だ。
「やめろって。綺麗事かも知れないけど、アサミちゃんはアンタも助かるかも知れない可能性を探してくれてるんだよ」
「黙れ。何の根拠も無い発言を信用する程俺はバカじゃない」
俺は赤野の剣を押し返そうと、両手で力を込めた。
赤野も両手で力を込める。
だが俺は、そのまま鍔迫り合いで勝つ気など無かった。
俺は剣を構えたまま、後方にステップする。
そのままバランスを崩した赤野に向かって、俺は切っ先を向けた。
そのまま刺し殺してしまおうと。
俺はそのまま剣を持つ右腕を、頭頂部目掛けて前に突き出す。
だが赤野の頭頂部に当たる前に、事が起きた。
一瞬だが世界の色彩が反転し、何故か数十分は意識が無かったかのような妙な感覚が俺を襲う。
そして赤野の頭頂部に剣が刺さる前に、俺は突き出した右腕を急停止する。
俺がバックステップしてから、赤野は胸を押さえながら地面に俯せに倒れた。
「死んだ、の?」
優しげな顔をした金髪の少年が喘ぎながら言う。
ほぼ全員が赤野の体を見て何らかの反応を示す中、俺は冷静に言い放つ。
「これで分かっただろ。俺が手を下さずとも、《裏切り者》と呼ばれる奴は何らかの手段で、プレイヤーを殺してしまうんだ。
だから北条朝美。お前が本当にこのデスゲームを終わらせたいのであれば、お前の中の妄想を捨て去るんだな。それが出来ないならば、すぐにでも命を絶つべきだ」
紫の髪の美少女は、俺を見ながら驚いた顔をした。
だがこの少女が抱く幻想はもうどちらにしろ叶わない。俺のせいではなく、俺を含めた誰かのもう一つの人格たる《裏切り者》によって、たった今一つの命が消えたのだから。
だが俺は知らなかった。俺が今やろうとしていることも、後に全くの無意味と突きつけられてしまうことになると。
久しぶりです。松野心夜です。
浅井三姉妹のバカな日常などを書かせてもらってます。
えー、本当ならばこれは来年の一月に出す予定だったのですが、気が変わって今回出させてもらうことにしました。
次回は来月に出す予定です。