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あの日全てを失った 第一章  作者: 涙山 原点
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やっと会えたね。産まれてきてくれてありがとう。

生活が始まって半月が過ぎた。私の荷物は必要最低で六畳の部屋を里美と梨花と私三人で使った。狭いけど、とても楽しかった。そして一カ月した頃、里美のお腹には赤ちゃんが宿っていた。それについては里美のお父さんもお母さんもうちの父も何よりも喜んだ。梨花もお姉ちゃんになると喜んでいた。


今回は無事に産まれてきてほしい。ただ、それだけだった。里美は流産してしまった赤ちゃんのエコー写真を写真立てに入れてお仏壇に飾っていた。里美は毎日手を合わせていたみたいで私も一緒に手を合わせる。里美は小さな声で「おかえり、今度こそ無事に会えますように」と言っていた。そして振り向いた時に泣いていた。私も一緒に涙した。家族の事で人生たくさん涙するとは思わなかった。でも涙の数だけ成長し、強くなっていると思った。


妊娠から半年以上過ぎてだいぶお腹が大きくなってきていた。出産予定は11月。里美と同じ月の誕生日だった。性別は女の子じゃないかという感じだった。産まれてくる前に必要な物を買わないとという事で、ベビーカー、ベビーベッド、布団、搾乳機、赤ちゃんの服、お風呂、色々あった。全てクレジットカードで買ってしまったが今はそれより赤ちゃんが優先になっていた。だがこの考えがダメだったんだ。私は何とか里美に不安は与えられないと思い、お金は大丈夫と言っていた。実際には里美の実家に食費と光熱費で5万入れていた。携帯代を二人分で2万、車のローンで5万、カード関係で支払いで9万、合計で21万。給料は22万だった為、本当にギリギリだった。しかも、里美は今後、子供達の学資保険も入れたいと考えてたい。車もガソリンや税金などを考えると私には首が回らなくなっていた。そんな事を同時で並行して考えている内に時間はどんどん進んでいった。嬉しい気持ちと、今になってお金をどうするかという焦りの気持ち。


いつものように定期健診を産婦人科で受けている時に、出産は当病院でいいか聞かれた。里美は初めから診てもらっているからここがいいと言った。

そこの病院は出産したお母さん達が退院後、ネットでのアンケートで、評判が高くここを選んだ。ただ一つ問題が生じた。出産前に予約金が必要だった。10万だった。健康保険組合からでるのだが、余った分は退院時に返金という形で今すぐ10万を用意しなければならなかった。里美はわかりましたと受付で言っていた。

その夜、私の言葉に里美が一気に変貌してしまうのだった。


その夜、里美が「パパ、予約金を来週の健診の時に払いたいんだけどいい?」と聞いてきた。私はすでにキャッシングの枠もいっぱいで、現に今ある現金も一万もなかった。どうしようと思った。色々と頭で考えたがもう正直に話そうと思った。

「里美、すまん、今まで色々必要な物があったからカードでちょっと買ってたりしてた。でも、それはちゃんと今後返すよ。それで、10万なんだけど、今ないから、ちょっと父に相談してもいいかな?」と言った。すると里美は「えっ?カード?それって借金みたいな感じ?」と聞かれた。私は「えっと…そうだね。正確にいうと…」と答えた。里美は「ちなみにいくらあるの?」

私は「170万くらい」と答えた。するとは里美は絶句し、「そんなの知らないよ。私今聞いたけど。どういう事?」

私も「ごめん、言えないままで。本当にごめん。」と言った。こんな風に話すとは思っていなかったせいか余計に言葉が出ない上、不信感を煽る状況になっていた。里美は泣きながら「私、こんな事なら結婚もしなかったし、子供も産もうなんて思わなかったし、パパと付き合わなかった。借金してる人だなんて思わなかったし。借金してたら付き合わなかった。子供産むのを楽しみにしてた私ってバカみたいじゃん」と涙をこぼしなが言った。それはそうだ。こんな奴、もし逆の立場だったら最悪だ。何の相談もなしに金使って、何のに借金して。ましてや隠していて。今更になって借金あるなんてありえないよな。最低だった。俺は本当に最悪最低な人間だ。里美は決して贅沢はせず控えめで、ちょっとした安いアイスとかでも喜んで、嬉しいありがとうと言ってくれる本当に優しい妻なのに俺は、更によく見せようと段々と借金に借金を重ねていた。里美は当然そんな事はこれっぽっちも望んでいなかった。

私の完全なる自己満足だった。


その後の事は里美からしばらく一人にしてと言われ、私は下のリビングにいた。

メールでもういいよと返事が来たので戻った。すでに里美は子供と横になって部屋の電気も暗くなっていた。

私は「里美?」呼んだが、里美は返事をしなかった。私はそのまま、車に乗り、父に連絡した。今回の件、今までの借金の経緯を話した。父は正直電話で私が一歩的に話をした為いまいち飲み込めていなかったが、何度か話していく内に大体は伝わった。父はため息をついた。俺もどうしていいかわからなくてため息をついた。父はとりあえず、10万はどうにかするとは言って電話を切った。


その日は里美の部屋にそっと戻り寝た。


次の日から里美は私に対して会話もなく、見る事をなくなった。朝ごはんもパンは焼いてくれるが、そっけなくおいてそのままだった。私はこんなにもここからいなくなりたいほど悲しい日はなかった。でも誰がどう見ても私が悪い。当然だ。まだ存在として見てくれているだけましだった。私は仕事に行く途中、里美に電話をした。電話には出てもらえない。何度かかけた。しかし出なかった。

仕事中もメールや電話をしたが出なかった。そして1通メールが帰ってきた。

今はあなたと話したくない。と。


名前すらもう呼ばなくなるんだと。私は30歳前で今更ながらお金でこんなにも人を不幸にしてしまう事、そして自分の中途半端な生き方が後でツケが回る事、未だ都合が悪いと逃げる事、いい歳で親に頼っている自分、出せば出すほどきりがなかった。一層私みたいな人間生まれてこなければ良かったと思った。せめて里美はもっと幸せ人と出会うべきだったと後悔してしまった。そして申し訳ない気持ちでいっぱいだった。その日は仕事に集中できないなか仕事をしていたせいかミスも多く、何もかもいっぱいいっぱいだった。


私は次の日、連休だった為、里美に俺と今いたくないだろうから、少し外にいるよと言って、父の元に行った。父に10万借りて、私はそのまま、消費者金融の窓口に行った。今あるいくつかのローンを一つにまとめようと思ったのだった。カードA社 ショッピング50万 キャッシング30万 B社ショッピング20万 C社 キャッシング20万 D社 キャッシング 10万 E社ショッピング40万 合計170万だった。正直、ここまでくると、里美にも父にも説明できない上、見放されてもおかしくない状況だった。毎月9万返済だったがこれを一万も少なくしたいと思ったのだった。だが多く借りて多少今の借金の返済額が減っても、より返済期間が延びれば、結局金利で借金が多くなるのは変わらなかったが、とにかく今の支払いをどうにか減らしたかった。もうすでにだめな方向に突き進んでいる事も分かっていたが時間がなかった。本来であれば、他の家族に相談したり、市役所などの無料の弁護士に相談や、借金問題に詳しい弁護士に相談をすれば良かったがこの時は全くそんな考える余裕すらなかった。結局、消費者金融で審査をした結果は借りれて20万だった。意味がないと分かっていたが、私は父にから借りた10万でもし出産以外でかかるようであればまずいと思い、20万を借りてしまった。結局借金を増やしに行ったようなものだ。

その日は複雑な気持ちで里美の実家に帰った。里美の状況がどうあれ無事に今は出産する為に環境もお金とどんな手を使っても準備しようと思った。何故なら里美には私のこの借金は関係ない所で作ったのだから。


二ヶ月ほど経った頃、もうすぐで出産準備が近づいていた。正直会話はほとんどしていない。周りは妊娠中は情緒不安定になるとはいうが今回の借金の件で余計に気持ちが落ちてしまったのだろう。私はずっと借金の事で里美は口を聞いてくれないと思っていたが、後々それは私の大きな勘違いだと気づくのだった。そして私自身本当に人の気持ちを知らないのだなと思い知らされるのだった。


予定出産日が3日前となった日。私は会社にも妻が出産するかもしれないという事で、極力休みをまとめてもらった。

家のリビングで座っていたら、久々に里美が私に話しかけてきた。「パパ、私借金の事許せなかったけど、もっと許せなかったのは、借金を隠してた事。それって嘘つくのと一緒だよ。パパはどんな時もまっすぐ気持ちを伝えてくれたけど、嘘をつかれたり、私が知らないからいいやとか、私は嫌なの。それに色々考えてお金使ってくれたんだよね。だから借金はいいから、もう嘘とか知らないからいいとかやめてね。」と泣きながら言った。私も泣きながら「うん、ごめん。これからは里美にちゃんと話す」と言った。そして久しぶりに手をつないでお腹の子にもうすぐだからねと声をかけた。


出産予定日当日。その日は私は落ち着かなかった。朝から家でうろうろ。里美のお母さんは落ち着きなさいと私に何度も声をかけていた。里美はずっと食卓に座って落ち着いていた。


どのぐらいたっただろうか。時計を見ると昼の11時だった。私は里美に陣痛はきたか聞いた。すると結構前からきてると答えた。私は「ええっ⁉︎」とびっくりした。すぐ車に乗って病院に向かった。里美は「パパ、そんなに急がなくて大丈夫だよ。それより安全運転でお願いします」と里美はまだ余裕そうだった。

でも私は里美が無理する性格なのは知っていたから心配だった。運転中に何度も里美に大丈夫か?と聞いていた。


もうすぐ会えるんだね。お腹の赤ちゃん。頑張れ、我が子。


病院についてすぐに分娩室の待合室に案内され私と里美は待った。まだ里美は笑っていたが、徐々に緊張し始めた。

1時間ほど経った。すでに里美は苦しそうになっていた。里美は呼び出しボタンで先生を呼んだ。先生がそろそろ分娩室に行きましょうと声をかける。私ももうすぐなんだと思うと、心臓がきゅーっとなっていた。そうして里美は分娩室に行った。里美は必死、新しい命の為に頑張っていた。私はとにかく、とにかく母子ともに無事に出産してくれる事を祈り続けた。

分娩室の前で祈り続けたていると、お父さんとお母さんと梨花がきた。みんなで祈り続けた。そして1時間ほど経ったあたりで赤ちゃんの声が聞こえた。私もお父さん、お母さん、梨花も顔をあげた。すると分娩室から先生が出てきた。「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。お母さんもよく頑張りました。」と先生が言った。私はほっとした。本当によかった。本当に、よかった。先生が「お父さんだけですが、赤ちゃん抱っこしてみますか?」と言われた。私は「はい!」と言って分娩室に入った。入った奥の分娩台に里美がいた。私はすぐに里美に「頑張ったね。よく頑張ったね。」声をかけた。その横には小さくあくびをしている我が子がいた。本当に小さく、でも一生懸命目を開けてこっちを見ていた。「初めまして。パパだよ。よく頑張ったね」と声をかけた。

赤ちゃんを抱っこした時、小さすぎて抱っこが怖かったが、赤ちゃんは小さい手で必死に私の服を掴んだ。それを見て、この子の為にも頑張らなきゃって思った。


その後、里美と赤ちゃんは別室に移動した。その日に里美は赤ちゃんの母乳をあげてオムツを交換をしてた。私はあれだけ出産という大仕事をした里美がすぐに赤ちゃんに母乳やオムツをやるなんて、母は凄いと思った。

しばらく赤ちゃんがいる部屋の外からビデオや写真を撮り、お父さんとお母さんと梨花と帰った。私は父に産まれた写真を今日見せたいと実家に行った。実家に向かっている途中で、里美からメールがあった。

今日はありがとう。パパがいてくれてとても安心したよ。さっき赤ちゃん笑ったよ。笑ったように見えただけかな。今日はゆっくり休んでね。お仕事休んでまで出産に立ち会ってくれてありがとう。

あと、車の後部座席のポケットに手紙があるから、後で読んでみてね。


と書いてあった。

私は途中コンビニに車を止めて後部座席のポケットを見た。手紙が入っていた。私は中身を見た。


パパへ

これを読んでいる頃、無事に赤ちゃんが産まれてくれた後だと思います。正直、毎日、赤ちゃんを産むことに不安で仕方なかった。本当にパパは喜んでくれるのかなって。妊娠中、色んな事でパパに冷たくしてしまったり、パパの借金の事で、今赤ちゃんを産んでもこの子は幸せなんだろうか?パパは本当は嫌なんじゃないかって、毎日考えてしまった。でも毎日パパがお腹にパパだよって、元気に産まれてきてねって言ってくれて、本当に産む決心と勇気を持てました。私ね、前に流産した時に、もう赤ちゃんを妊娠するのが怖くなっていたの。でもこの子を妊娠した時、天国の赤ちゃんの分まで生きて欲しいって思ったの。だからね、名前も実は決めてたの。名前は結生(ゆい)。結んだ生命で結生。

もし嫌だったら言ってね。私、これから新しい家族とみんなで笑っていつまでもいたい。だから、これからもこんな私だけど、よろしくお願いします。

里美より


私は涙が止まらなかった。里美はいつもどんな時も言葉だけじゃなくて、こうやって手紙で気持ちを伝えてくれる。そんな里美が大好きだ。どんな時にどんな風に書いていたんだろう。里美からの手紙を何度も読み返し想像した。


私は里美にメールを返した。

手紙ありがとう。里美こそ、結生と一緒にゆっくり休んでね。愛してるよ。


結生か。いい名前だな。

北沢 結生 11月 23日生まれ 体重2987g

14時18分 出産


その日は実家に行って父、今日産まれた孫の写真と動画を見せた。父は柄にもなく、笑い続けて喜んでいた。

私は父に「親父、いつもありがとうな。今回の件も。俺、ちゃんと家族守れるように頑張る」と伝えた。父は「頼むぞ。」と一言だけ返した。

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