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あの日全てを失った 第一章  作者: 涙山 原点
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大切な家族の為に生きたい、ただそれだけだった。ただこの暖かい家族の温もりを絶やしたくなかった

失業してから一週間、なかなか仕事が決まらなかった。書類選考で落ちてばかりだった。アルバイトも考えたが、すぐ仕事を見つけた方がいいのではと思い、就活に毎日集中した。

さらに一週間がたったある日、面接の連絡がきた。仕事は車の中古車買取だった。給料は前職とほとんど変わり無い。しかしネットで調べると非常に前職と同じ様な内容が多数書き込みがあった。また同じ様なと頭をよぎったが、何もせずにいるよりはと思い、面接に行く事になった。


面接の前日、面接が決まっただけなのに里美は内定が出たかの様に喜んでいた。里美が「私がお金出すならみんなで外でご飯食べてお祝いしよう」と言ってくれた。私達はその日はみんなでハンバーグを食べた。

明日は頑張ろう。とにかく頑張ろうと心に誓うのだった。


面接当日、もうすぐ7月で梅雨もそろそろ。

面接の内容はどうしてこの会社を選んだかというものが一番始めの質問だった。私はこれから結婚する事とお腹に子供がいる事と、すでに一人子供がいる事を説明し、安定した企業で働きたいと話した。それがどうやら面接官の中で、そういう理由の人こそ頑張る人なんだと意外にも、好印象な感じで終わった。そしてその日に即日内定になった。それをそのまま里美に電話で話した。喜んでくれて泣いていた。

私も人生の中でこんなにも内定が嬉しいと思う日はなかった。


私の初出勤日は内定の二日後だった。土曜日からだった。忙しい日にしたんだなって思った。私はとにかく仕事が出来る事に感謝した。神様ありがとうって。


次の日、里美に「急なんだけど、明日里美のお父さん、お母さんに会ってご挨拶したいんだけど。」と話した。里美は「本当に?嬉しい。パパにいつか言おうと思ってたんだけど。」と里美も気にしている様子だった。それもそのはずだった。出会ってから俺が自然と里美の家に住む様になり、この生活が始まっていた。里美のご両親は正直この状況を知らないだろうし、きちっと挨拶無しで結婚なんて、ましてやお腹に子供がいるなんて。でも何を言われても、里美を守る事は約束すると言い切る気持ちは固まっていた。何度だって頭を下げる覚悟は出来ていた。

すると里美から「もうお母さんには出会った頃からパパの話してあるし、お腹の子も知ってるよ。喜んでた。でもお父さんには言ってない。あの人変わってるから。」

私はびっくりした。里美は一人っ子でお母さんには何でも話してきたそうだ。お母さんは何でも前向きに考える人らしく、娘が幸せならそれでいいと思ってくれる人だった。お父さんはどちらかというと古き良き時代の父というか、厳しくあまり笑う事もないらしい。


里美の実家は車で30分程の所で、綺麗な住宅街の一画にある。ご両親は自営業でオリジナルの雑貨品を扱っている仕事をしているらしい。フランチャイズ契約で基本的には、本部の社員が納品など行った際に営業をかけるらしく、発注のやりとりやメールでの案内、チラシを送ったりするのが今の仕事らしい。売り上げの10パーセントが収入になるらしい。営業活動は以前していたらしいが里美のお父さんが車の事故で足が少し不自由になってからは出来なくなったらしい。


そんな話を里美から聞いているうちに、里美の家に着いた。緊張が高まってきた。インターホンを押した。お母さんの声で返事があった。

お母さんが出てきた。私は「初めまして。北沢優希と申します。」と挨拶をした。私が想像していたお母さんとは印象が違った。何というか、お母さんの印象はとても友好的なお母さんで、にこにこしていた。中に案内されると、広いリビングに通された。誰もいなく、犬が3匹いた。ダックスとコーギーとラブラドールだった。私は犬は大好きだが3匹同時が私に飛びついてきた。

里美が「犬嫌い?」と聞いてきた。私は「大好きだよ」と答えた。里美は「よかった。」と笑顔を見せた。里美のお母さんが「お父さん、里美達がみえましたよ。」すると二階から「ああ、わかった」と声が聞こえた。しばらくすると杖のつく音が聞こえ振り向くと、里美のお父さんがリビングに現れた。お父さんの印象は身長は大きくないが体つきがしっかりしている感じだった。いかにも頑固な父という表情だった。私は一気に緊張感が高くなった。私は里美の家に向かう途中で購入した手土産のカステラをご両親に渡した。するとお母さんが「おいしそうなカステラね。みんなで食べましょう」と言って笑顔でカステラを切り分け始めた。梨花はお父さんに「おじいちゃん抱っこして」と甘えていた。お父さんは左足が少し不自由の様だったがそれを感じさせないしっかりした方だった。


カステラがリビングのテーブルに置かれ、コーヒーが並ぶ。みんなが座る。里美のご両親が「いただきます」と声を揃えてカステラを口に運ぶ。二人とも「おいしい」と言ってくれた。それを聞いて私と里美と梨花は顔を合わせて笑った。


カステラを食べ終わり、私は里美との交際の事を話し始めた。

「この度は、ご両親にご挨拶もせず、里美さんとお付き合いをしておりました。大変失礼致しました。里美さんと梨花ちゃんと接していく時間の中で自然にひかれていきました。」と話しながら、二人がかげがえのない存在というのを私は話し続けた。そろそろ結婚とお腹の子供の話を始めようとした時だった。黙って聞いていたお父さんが口を開いた。

「優希くん、里美とは結婚を考えているのか?」と聞かれた。私は「はい!」と大きい声でお父さんの目をじっと見つめて答えた。お父さんは「話は昨日、二人が挨拶しに来ると女房から聞いた。それで二人の関係、お腹の子供の事も聞いた。俺は二人がお互い信じ合っているなら何も言うことはない。」と言った。私は一瞬戸惑った。私が予想していた様な状況ではなかった。私はご両親からお腹の子供について怒られると思っていたからだ。お父さんは「お前は何かあるか?」とお母さんに聞く。お母さんは「私は何もないわ。二人が幸せなってくれるなら。それに梨花もこんなに二人の事、喜んでるだから。家族も増えるんだからこんなにも嬉しい事はないわ」とお母さんも反対などない様子だった。お母さんが「里美は今まで付き合ってきた人は何人かいたんだと思うけど、一切話はしなかった。でも、優希くんの話は実は毎日の様にメールや電話で里美から聞いてたの。そんな事は今までなかったから、本当に好きな人ができたんだなって思って。」話してくれた。その横にいた里美は恥ずかしそうにこちらを見た。お母さんは「里美と梨花とお腹の子を宜しくお願いします。私達も出来る限り応援するから」と言ってくれた。私は「ありがとうございます。必ず幸せにします。」と約束をした。これで挨拶は終わったと思ったのだが、お父さんが最後口を開く。

「優希くん、一つ聞きたい。どうして里美を選んだんだ。里美は高校卒業して、大学入った。だが、当日付き合っていた高校の同級生の子を妊娠した。その後、里美は色々あって一人で子供を育てる覚悟をした。優希くんはまだ若いし、里美の状況とは違う。」とお父さんは言った。それは里美の父として、里美の事を中途半端に付き合い、また捨てられたりするのが嫌だったんだと思うし、一般的にシングルマザーの彼女と結婚するとなれば何故それを選ぶのか、もう一度聞きたかったんだと思う。

私は自分の気持ちを全て話した。

「私は小さい頃、母が出ていきました。父はずっと単身赴任でいなくて。姉も兄もいましたが歳が離れていたので、ほとんど家に帰ってこなく、私一人でずっと育ちました。ご飯も学校行事も家の事も一人で過ごしました。そのうち、人と付き合う事など考えてもいませんでしたが、里美さんと出会った瞬間、私の人生が変わったんです。それはシングルマザーだからとか全く関係ないです。梨花も私にとって大切な家族です。まだまだ未熟な点はたくさんあると思います。里美さんの今までの生き方を聞いた時、こんなにも強い人はいないと思い、更に想いが強くなりました。こんな私ですが、里美さんと梨花ちゃん、お腹の子の父として生きていきたいんです。絶対に、何があってももう家族という絆を失いたくありません。私なりに一生懸命家族を守りたいと思います。」と話した。

するとお父さんは「わかった。里美、元気な子を産んでくれ。」と一言声を掛け、ご両親の挨拶が終わった。


その日は里美の実家でご飯をみんなで食べた。ご飯中はお母さんはにこにこしており、お父さんは無表情だがちょっとした冗談を言う。それを僕達三人は声を揃えて笑っていた。


それから一か月経ち、私は毎日仕事に行っていた。仕事は辛かった。辛いのはわかっていた。元々、覚悟をしていたつもりだった。だが、休み無しで社員教育もなく車の買取業務をしていた。朝は就業前の2時間前に出社し、業務の準備、終わりはあるのかないのかわからなかった。夜12時以上仕事していた。体力なのか気持ちなのか、多分どっちも辛かった。就業規則は朝9時からで終わりは19時となっていて、休みは毎週週休二日、昇給も賞与も有りとなっていたが、先輩社員からは休みは契約取れないと休めない上、別室で詰められるらしい。賞与もない様なもので、昇給も気持ち程度との事。家族手当も一年働かないとつかないらしい。私は結婚していなかったので、貰えないのはわかっていた。それを聞いて更にやる気が少し無くなっていた。その先輩社員は二年勤めているが常に上から詰められていた。給料も残業手当が25万の半分程のついており、本給は低かった。それに買取と販売の二つの部署が繋がっており、販売社員は花形で態度も悪い。挨拶しても無視し、喫煙所で販売社員がいる前でタバコ吸って、販売社員の話に合わせて笑っていると「てめー、何笑ってんだ。ふざけんなよ」と本気でキレられ、太ももあたりを蹴られる。しまいには、歩いてきた時に邪魔だと突き飛ばされる。そういう人間が多く、上司にはヘコヘコしている。私はなるべく気にしない様に、気にしない様にと仕事をしていた。月に二回、役員が店に見回りでくるのだが、その前日は大掃除がある。店の中、展示している車、外の雑草全て至る所を清掃する。閉店してからの作業だが終わるのが夜中3時になる。そしてまた普通に7時頃出社する。

買取についても、同じ様な会社がたくさんあるので時間との勝負で、インターネットからの問い合わせですぐにアポが取れるかが鍵だった。アポを取れると上司に買取査定の出張を許可をもらい現場に向かう。もちろん、上司からは「お前、買い取れるまで帰ってくるなよ」と言われる。現場では大体、お客様と値段もしくは、今日は考えたいという返答でなかなか買取成約までに時間がかかる。買い取れれば、上司から「とりあえずお疲れ」と言われる。買い取らなければ「てめーは何しに言ってんだ。そんな客さっさと安い値段で買い取れや」と電話越しで怒鳴られる。そんな事を繰り返していたある日、二年ほど勤めていた社員の先輩と同行する様になった。その先輩はここ最近夢のマイホームを買った。そして家族四人で生活しているらしい。妻、男の子、女の子がおり、写真も見せてもらった。私は「お子さん、可愛いですね。僕も早く家とか欲しいなー」と話が盛り上がっていた。

その日の買取は予定していた時刻よりも先方が遅れた為、夕方17時からの予定が19時になった。そして買取査定を行った。私は基本相場の確認だけで後は先輩が全てやっていた。20時にはある程度査定が終わり本部に連絡して買取金額を算出する。しかし、向こうは納得しておらず、手放す期間まであと一週間ぐらいあるので、他も査定してもらいたいと言っていた。当然の流れだった。その後なんども先輩はお客様を説得して、その度本部に値段交渉していた。気づけば21時半過ぎだった。その内、営業所の上司からも連絡が入る。おそらく何やっているか聞かれている様子だった。そんな忙しいやりとりの中で気づけば12時前になっていた。お客様ももう疲れている様子だが、それでも帰ろともしない。お互いにすごいなって思っていたが、じっと立っているだけだったので、私はもう足が限界にきていた。結局お客様が折れ、売ることになった。契約書にサインをして終わった。すでに夜の12時20分だった。買い取った車を今日引き取っていいか聞いたが、明日も使う用事があるので使い終わったら連絡するという形で終わった。私達は急いで会社に戻ると整備長がいて皆帰っていた。整備長は何か独り言をずっと言いながら険しい表情だった。私達はすぐに帰る支度をして帰った。


家に着くと毎日遅い私を里美がキッチンの下で待ちくたびれた様子で寝ていた。それを見て小さな声でごめんと言った。里美は私が帰ってきたのに気づいて慌ててご飯の支度をする。私は「ママゆっくり寝て。後はご飯温めて食べるから。いつもご飯作って待っててくれてありがとう」と言った。里美は首を横に振り、「大丈夫」と言った。この時は全然気づかなかったが、妊娠中は体のホルモンバランスが崩れたりで体調の変化が激しかった。でも私には当時そんな知識は無かった。私の知らない所で里美は無理をしていた。


次の日びっくりする出来事があった。昨日夜の12時過ぎまで粘って買取をした方から買取をキャンセルすると朝連絡があった。先輩は必死に電話越しで考え直す様に話していたが、電話を切られた様だった。先輩社員はここ何ヶ月も成果が出ておらず、毎日買取の責任者に詰められていた。今日に限ってはその責任者は朝から機嫌が悪かった。キャンセルの件で先輩は別室に呼ばれていた。気づくと2時間は出てこない。私の正面に座っていたもう一人の先輩社員が、「来週子供の授業参観だから休み取りたいんだけど取れるかな。今日の様子だと言いづらい。」と言っていた。私も全然休みがないが産婦人科に行きたいのもあったので、こういった事情は休み取れないとおかしいと私は先輩に言った。その先輩も「そうだよね」と言って戻って来たら言おうと思った。別室に呼ばれた先輩が戻って来た。やはり相当言われたんだと思う。買取の責任者が席に戻る。その瞬間、正面の先輩が休みの件を責任者に相談しに行った。聞こえる声で責任者は「はぁ?契約もまともにとれん奴が、授業参観だと?俺だったらそんなもん、こんな状況だったら行けないけどな!」と言われていた。その先輩は顔を真っ赤にして怒りを抑えて席に戻る。その先輩は

小さな声で「はぁ?ありえねぇ、ありえねぇ。」と言っていた。


仕事が終わり、家に戻ると里美はグラタンを作っていた。里美が「おかえりなさい。いいタイミングかな。パパが帰ってくるかなーって思った時間グラタン作ろと思って。そしたらちょうど帰ってきたからよかった。」と言った。里美はいつも俺を一番に考えてくれている。本当に凄いと思っていた。今日の仕事で買取がキャンセルになって怒られた先輩の話と授業参観の休みを取れなかった先輩の話をした。里美はとてもびっくりしていると同時にショックを受けていた。里美は「私も家族の事まで他人には言われたくないな。」と言った。それを聞いた私はなぜかすごく深く感じた。里美は今まできっと色んな人に見下されていたんだろうなって。今も老人ホームで職員にそんな事を言われてるんだろうし、余計なんだと思った。

産婦人科の休みの件、会社に言えなかった。言えなかった事を里美には言えなかった。


次の日、仕事に行くと買取をキャンセルされた先輩社員は会社に来ていなかった。理由はわからなかったが、もう来ないとわかった。


私も結局産婦人科の休みが取れなかった。責任者から「行きたければいいけど、お前自分の状況よく考えておけよ」と言われた。結局行く事が出来ず、里美のお母さんにお願いした。里美も大丈夫と言ってくれた。

入社きて5ヶ月。季節は12月。私はもう仕事に限界を感じていた。もう毎日仕事で訳分からなくなりつつあった。最初の三カ月はなんとかだったが、急激に気持ちが沈み、毎日集中出来なくなっていた。里美もそれはそばで一番見ていたので心配していた。


私達は一月に入籍を予定していた。年末前に父に紹介する予定だった。父には里美の事は電話である程度話はしていた。父は反対はせず、逆によくご両親が納得してくれていた所にびっくりしている様だった。ただ二人の結婚にはとても喜んでいた。

今は結婚式は挙げられないけど、いずれはと考えていた。


12月中旬、私は団体研修で遂に限界が来てしまった。それはビジネスマナー研修と称した新人に駄目出しをする研修だった。各営業所から入社半年以内の社員を集め、一人ずつロープレと今現状の反省点を発表するものだった。

正直思い出したくもないほど、酷いものだった。何を発表してようが、ロープレをやろうが罵声の嵐。私はすでに気持ちが持てなくなっており、私は周りの責任者数人に囲まれ、今までにないほど詰められ続けた。気づけば研修は終わり、もう辞めたいとし気持ちが持てなくなっていた。またこんな風に自分の弱さで、周りに迷惑かけるのか。そんな風になるのは、そんな風に里美に迷惑かけるのはもう嫌だ。でも、仕事、仕事というか毎日生きた心地がしなくなっていた。どっちも答えが出ない。仕事を続けなければ、里美達を守れない。でも、今はもう仕事が出来そうにもない。訳がわからないまま家に帰った。

正直、貯金は私は無かった。その分、里美は貯金をする様にしていた。私の給料で何とかやっていた。ただ、私は仕事を始めて4ヶ月あたりから私は家にお土産と言って毎日色んなおやつやアイスやら大量に買う様になっていた。多分ストレス発散になりつつあったんだと思う。買って発散して、それを後で美味しかったと里美と梨花が言ってくれるのが唯一救いになっていた。だから毎日買い続ける様になっていた。当然、お金なんて持っていなかった為、持っているクレジットカードを使いまくっていた。支払いはリボにして一定の金額だった為毎月何とかやりくりしていた。気づくとクレジットカード3枚ある内、3枚とも満額まで使っていた。毎月の支払いが9万になっており、借金は120万までのぼっていた。恐ろしかった。一体何に使ったたんだろう。ネットで服や靴、時計、ゲーム機、自分の釣り具、酒、おやつ、家電あらゆる物を簡単に買えてしまうクレジットカードで決済していた。


こんな状況で仕事を辞めたら…。

里美は貯金といってもそんなにあるわけではないだろう、こんな事は言えないし、迷惑かけたくない。ましてや、出産する費用も産まれてくる赤ちゃんの必要な物もあるので、その為に貯金をしていたはずだ。


家に帰って里美に仕事の悩みを話した。話している内に少し涙が少し流れてしまった。それを里美が見て「もういいよ、パパ無理しないで。パパの合う仕事またコツコツ探していこうよ。貯金も少しあるし、私もまだ仕事できるから頑張るから。焦らないでパパ」と話してくれた。私はその言葉に甘えるかの様に、仕事を無断欠勤し、行かなくなった。12月、クリスマス前だった。


里美はいつもの様に早く起きて自分のご飯と梨花のご飯を用意して、洗濯物をして干して、梨花の保育園の準備、里美のご飯の時間と慌ただしかった。私が知らない所で朝だけでもこれだけ動いていたなんてと思った。ましてや私が毎日遅く帰って来て一緒に寝てた事を考えると言葉が出なかった。里美は私のお昼ご飯まで作って用意してくれており、里美はスーパーで値引きしてあったパンと梨花が残したパンをラップに包みお昼ご飯として持っていっていた。そんな忙しい中でも、里美はにこにこしながら私に「パパ、行ってくるね」と言ってくれた。私はとっさに家を出て里美と梨花を車に乗せて、保育園まで行き、里美を職場まで送った。里美は「嬉しいな。朝からパパといれて。」その言葉に私は無職だという立場で複雑だった。こんな事しか出来なくてって思った。私はしばらく里美の職場のコンビニの駐車場で久々にたわいもない会話をしてそのあと里美を送った。また迎えに来ると伝えて見送った。


そんな日々が続いた。

今日も里美と梨花を送って行った。

そうだ、今日はクリスマスだ。里美達が帰ってくる前にクリスマスツリーを買ってきて、せめてケーキだけでもと考えた。昼間にホームセンターに行き3000円のクリスマスツリーを購入した。ケーキはスーパーの横に併設してあるケーキ屋さんでホールのケーキを買った。2800円だった。全てクレジットカードで買ってしまった。今だけ、今日だけと思い使ってしまった。


その夜みんなでクリスマスパーティーを3人でやった。クリスマスパーティー何て何十年ぶりだろうか。まさかこんな風にクリスマスを過ごせるとは思わなかった。嬉しかった。楽しくてずっとこのまま時間が止まったままだったらいいのにって思った。


その夜はあっという間にすぎた。その夜、梨花を寝かせた後、里美から「明後日、実家でもクリスマスパーティーやるっていうから一緒に行かない?嫌なら無理しなくていいから。ただ、内のお父さんとお母さんがやりたいみたいで」と言われた。私は「う、うん」と返事をした。里美は「気にしないでパパ。うまく断るから」と言った。私は「そうじゃない。嫌とかじゃなくて、今仕事辞めたばかりでどんな顔で行けばいいか。」里美は「今回の仕事の事は、まだ言ってないよ。だからそこは言わなくてもいいんじゃないかな。」と言ってくれた。私はそれなら行く事にした。

私はすでに里美に対して、お金も仕事も色んな意味で裏切ってしまっている事から目を背けていた。

もっと早く修正するべきだったのに。あの時後悔しても遅かった。

でもその時はこの後起きる事を予想もしていなかった。

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