8話 現在の結婚
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その日は休日だった。
白髪の母は朝から出掛け、僕は珍しく起こされず、正午までたっぷりと寝た。
朝飯は用意されていなかったが、台所に朝食の残り物があったため、それを食べた。
寂しい感じもするが、しかしこれぐらいで丁度いい。
僕は仕事をしていないのだから、これぐらいが丁度いい。
休日になると白髪の母と赤髪の母が出掛け、青髪の母が家にいる。
それが我が家の最近のスタイルだ。
父はいたりいなかったりだが、今日はいない。
だから、僕もまったりと家にいることにする。
「あ、ジーク。おはようございます」
なんて思っていると、青髪の母が食堂にやってきた。
ちょっと警戒。
青髪の母は直接的に働けと言ったり、睨んでくることはない。
僕が積極的に仕事を探すよう、仕向けてくるだけだ。
要するに、絡め手が多いのだ。
「実はジーク。あなたに見てもらいたいものがあります」
「なに?」
「ちょっとまっていてくださいね」
青髪の母はパタパタと自室に戻っていった。
さて、今日はどんな手を使ってくるのか。
しばらくして、青髪の母は何か四角い板を大量に抱えて戻ってきた。
もしかすると、今日は僕に仕事をさせるのではなく、何か手伝いをさせたいのかもしれない。
それなら大歓迎だ。
僕は無職だが、頼みごとは断らないからね。
「これを見てください」
母はそう言うと、板を僕の前へと並べ始めた。
板には布が張られており、布には絵が描かれていた。
女性の肖像画だ。
肖像画は全て、女性のものだった。
それも、年若い、二十歳前後ぐらいのものだ。
「これは?」
「それはラノア王国のタイレル家の次女マリーダですね。隣のはユニペイン家の三女モノレ」
「……こっちのは?」
「そっちはバシェラント公国の公王の五女イグリット。うちは魔道具の販売に力を入れ始めたザノバ商店とも懇意ですからね、バシェラントはうちとのつながりを持ちたいそうです。実はリリの方にも王子様との縁談がきてるんですよ」
縁談。
その単語を聞くまでもなく、並べられた女性の肖像画に予想はついていた。
今回の絡め手は、ちょっとばかり毛色が違うようだ。
「どうです? 皆美人でしょう?」
「まあ、美人だけど……」
「美人より、可愛い系がいいですか? なら、こっちですかね」
「あのさ、青ママ……」
「ほらこの子。ロッテ家のクリシュナ。この子は顔も可愛いですが、胸も大きいですよ。あ、胸と言えばこっちの子もいいですよ。ターシン家のロコ。背はわたしぐらいですが胸は大きくて、あなたの背丈なら見下ろせば、きっと谷間が……」
「ママ!」
母は僕の言葉で、動きを止めた。
「僕は、結婚するつもりはないよ」
「なぜ? 皆さんは高貴な出身ですから、仕事らしい仕事もしなくて済みますよ?」
「僕はそれで騙されるほど馬鹿じゃないよ。貴族になれば仕事は盛りだくさんだ。式典への出席は義務だし、いざという時には王のために戦うのも義務だ。グレイラット家の子供として結婚するなら、グレイラット家の繋がりのある家と交渉するのも、僕の仕事になる」
そして、僕はそうしたしがらみで自分の正義を曲げられるのが、嫌なのだ。
結婚すれば、結婚した相手の家のために働かなければならなくなる。
別に好きでもなんでもない、家のために。
グレイラット家のためならまだしも……。
「まあ……そうですね。ジークももう、立派な大人ですからね。ちょっと今の言い方は、子供扱いしすぎでした」
「……」
「でもジーク。立派な大人だからこそ、そろそろ相手を見つけるのもいいと思うんです。好きな子のために頑張ってみようって思えば、仕事とか仕事じゃないとか、そういうのは気にならなくなると思うんです」
「それは……そうかもしれないけど」
「でしょう? まあ、今すぐとは言いませんから、その中で「おっ、可愛いじゃん」と思ったら、会ってみるだけでもしてみてください」
「……考えとくよ」
と、そこで食堂にあくびをしながらリリが入ってきた。
彼女も今日は休日で、昼まで寝ていたらしい。
彼女は僕と青髪の母と、そしてズラリと並べられた肖像画を見ると、ウッと声を出した。
「リリ、おはようございます」
青髪の母は彼女を見て、前座は終わりだとばかりに笑みを浮かべた。
「もちろん、あなたの分もありますよ」
「い、いらないです」
「あ、こら、せめて顔ぐらい見なさい。皆、あなたが仕事を続けてもいいと言ってくれている、理解のある方ばかりなんですから」
リリは逃げ出し、青髪の母はそれを追いかけ、食堂から出ていった。
リリには、かなり前から縁談の話が持ち上がっていた。
彼女はザノバ商店に務める才媛だ。
その仕事っぷりは、各所から認められている。
でも、親としても心配することが多いのだろう。
リリは放っておくと、いつの間にか奴隷商人に捕まっていそうな印象を受ける。
仕事のみならず、頼りになる相手に嫁がせたいと思うのが、親心なのだろう。
その気持ちはよくわかる。
「わたしより、ララ姉さんの縁談が先でしょう?」
「あの子はそのうち自分で見つけます、わたしにはわかるんです」
「それ絶対うそですー!」
二階からそんな声が聞こえた。
ちなみに、ララには縁談は来ない。
僕がアスラ王立学校にかよっている頃には、ララにもかなりの数の縁談が来ていたそうだ。
でも、結婚に結びつくことはなかった。
イタズラと昼寝をこよなく愛する下の姉と結婚できるような豪傑は、いなかったのだ。
そんな経緯もあってか、青髪の母も諦めているのかもしれない。
「それにしても、よく集めたもんだなぁ……」
肖像画に描かれているのは、見事に綺麗な子ばかりだ。
縁談用の絵であるため、幾分か美化されているのだろうけど、でも僕が気にいりそうな子を集めてきたのだろう。
説明されたもの以外は、名前も家柄もわからない。
けど、きっと誰もが良い所のお嬢さんなんだろうな。
結婚すれば、毎日ダラけて生活できる程の。
そりゃ、貴族の娘婿になれば仕事も出てくるだろうけど、それを拒否できるぐらいには。
もちろん、僕が無職でいるのは、ただサボりたいからというわけではない。正義の味方の仮の姿だからだ。
せっかく集めてくれた青髪の母には申し訳ないけど、断らせてもらおう。
そう思いつつ、並べられた肖像画を片付けていく。
「あ」
と、そこで一枚、見覚えのある顔を見つけた。
金髪の、ふわふわとした顔を持つ、人形のような少女だ。
サリエル・アネモイ・アスラ。
アスラ王立学校に通っていた頃の、同級生だ。
顔立ちは美人だが、やや恥ずかしそうなはにかんだ笑顔のお陰で、可愛いという表現が良く似合う。
この肖像画を描いた時、彼女が絵師の前でどんな顔で座っていたのか、ありありと目に浮かんだ。
さすがアスラ王国の王族の肖像画を描くだけあって、絵師の腕もいいのだろうけど……。
この中では、やはり彼女が一番に見えた。
「……」
僕は彼女の肖像画を、他の肖像画とまとめて、積み重ねておいた。
□
正午。
今日も町中をウロウロする。
天気は晴天。この地域にしては珍しいことに、雲ひとつ無い青空が広がっている。
少し暑いぐらいだ。洗濯物もよく乾くだろう。
川を見ると、陽光が反射し、キラキラと輝いている。
町中を流れるだけあって、それほど綺麗な川ではないが、魚の姿も見える。
こういう日は、釣りでもするのもいいだろう。
青髪の母は釣りが好きだ。
僕が小さい頃、こういう天気になると、兄弟姉妹たちを連れて川の上流に連れて行ってくれた。
僕は兄と共に川で遊びまわることが多かったが、時に青髪の母と一緒に釣りをした。
母の膝に座り、釣り竿を握りながら、母が冒険者だった頃の話を聞いた。
母が単独で迷宮を踏破した時の話は、特にお気に入りだった。
懐かしい。
そういえば、上の姉はお淑やかだったが、意外にも釣りが好きだった。
僕らが大きくなり、母があまり川に連れて行ってくれなくなっても、一人で釣りにいっていた。
そういう日は、大抵魚料理が食卓に並んだものだ。
たまには、僕も釣りに行ってみようか。
上の姉は結婚する時に釣り道具を持っていかなかった。
だから多分、まだ倉庫に眠っているはずだ。
「うぅ……うぐっ……」
なんて考えていると、人のうめき声のような声が聞こえた。
いや、ような声ではない、これはうめき声だ。
人の苦しむ声。
正義の味方たる僕が、聞き間違えるはずがない。
キョロキョロと周囲を見渡す。
ムーンナイトの眼力は、昼間だろうと千里眼。
発見。
橋の脇、少し暗くなっている所で、男がうずくまっているのが見えた。
「どうしました?」
即座に駆け寄り、話しかける。
髭の無い中年の男。
一抱えもある樽にもたれかかれながら、腰のあたりを抑えている。
「おお、ジーク君か……」
どこかで会ったこと……あ、果物屋の親父だ。
髭を剃っているから、一瞬わからなかった。
「この先の教会に酒樽を運ぼうとしてたんだが、途中で腰をやっちまってな……いたた……悪いけど、ちょっと助けてくれないか」
「お安いご用ですとも」
僕はまず、男の腰に手を当てた。
魔力を送り込み、痛みを取り除いてやる。
治癒魔術はそれほど得意ではないが、これぐらいなら簡単だ。
「治癒魔術を使いました。どうです?」
「おおっ……痛みが消えた、助かるよ。これで……」
「おっと、ぎっくり腰は治癒魔術を掛けても、しばらくは安静にするといいそうです。酒樽は僕が運びましょう」
「そうかい? じゃあお願いするかな」
酒樽を持ち上げ、小脇に抱える。
結構な量だ。
一人で飲むにしては、多すぎるだろ。
「こんな量の酒、どうするんで?」
「よくぞ聞いてくれた。今日は娘の結婚式なんだ」
「へぇ、それはおめでとうございます」
「ありがとよ、ま、相手が酒屋の息子ってのが気に食わねえがな!」
なんて話をしていると、教会が見えてきた。
教会には人が集まっていた。
教会の前に馬車が停められ、中に荷物を運び入れているのだ。
「お、ボリス!」
近づいていくと、人混みの中から一人の男が出てきた。
髭面の男。
酒屋の店主だ。
彼は口元に笑みを浮かべながら、僕らに近づいてきた。
「なんだおい、宴会用の酒樽は俺が運ぶ、なんて張り切って出て行ったくせに、ジーク君に手伝ってもらってんのか?」
「仕方ねえだろ、途中で腰をやっちまったんだから」
「腰? ハハッ、お前、腰なんてやったのか!? あんなに張り切ってたのに!? マヌケだなおい!」
「うっせーな!」
笑う酒屋の親父に、面白くなさそうな果物屋の親父。
二人は幼馴染で、生まれた時からこの町に住み、一緒に育ったという。
いわゆる悪友同士という奴だ。
「ジーク君も祝いにきてくれたのかい?」
「いえ、通りがかっただけです」
「そうか。ありがとな、この役立たずの尻拭いをしてくれてよ。せっかくだし、うちの息子たちの晴れ舞台を見てってやってくれよな!」
酒屋の親父はガハハと笑って、僕の背中をバンバンと叩いた。
そして、果物屋の親父に向き直り、ニヤリと笑った。
「ま、でも。次からはウチの息子に頼るといいさ。次男坊だが、酒樽を運ぶのは得意だからな」
「そうさせてもらうさ。なにせ今日からは、うちの息子だからな」
果物屋の娘と酒場の息子か。
彼らの子供は、まだ小さかったように思っていたが……。
それは、僕がまだ王立学校に行く前の話だったか。
あれからもう何年も経っている。いつしか成人して、結婚が決まったのだろう。
時が流れるのは早い。
「ま、ぎっくりをやったら一日は安静にするのがいい。お前は指くわえて見てな」
酒屋の親父は力こぶを作って見せた。
そして、馬車に積んであった、大量の果物が詰まった箱に手を掛けた。
「ひとまず、ここにある荷物は俺がやっとくから、お前は奥で軽いものをぐぅ……」
そして、持ち上げようとした所でうめき声を上げ、腰を抑えつつ、カエルのようにヘタりこんだ。
「おい、ゴドル。お前、もしかして」
「……」
「ハーッ! 腰をやったのか!? あんだけ俺を笑っておいて、お前も腰をやっちまったってのか!? ハハー!」
「て、てめ……くそ……お、俺ぁ、果物を運ぶのは……な、慣れてねえんだっ……」
僕は脂汗を流す酒屋の親父に近寄り、治癒魔術を掛けてやった。
「ジーク君、ありがとよ……こういう時に治癒魔術を使えるってのは、ほんと便利だよな」
酒屋の親父は四つん這いの姿勢で腰を抑えつつ、そう言った。
治癒魔術を掛けても、しばらくは安静にするのが良いとされている。
「ひー……ハハ、プクク……クックック……」
「てめぇ……笑ってっけど、この荷物、どうするつもりなんだよ。俺らが動けないとなると、式に間に合うか微妙だぞ」
「あ」
果物屋の親父は笑いを止めて、青い顔をした。
二人は気まずそうな顔を見合わせていたが、しばらくして僕の方を向いた。
「な、なあ、ジーク君。ちょっと手伝ってくれないか?」
「いいですとも」
僕は二つ返事で引き受けた。
こういう地道なお助けも、正義の味方の仕事だ。
□
その後、結婚式はつつがなく行われた。
新郎新婦は二人とも僕より若かった。
結婚式で並んで立ち、お互いをチラチラと見ては、初々しくも頬を赤く染めていた。
その光景だけで、二人が愛し合っているのがありありとわかり、僕の口にも自然と笑みが浮かんだ。
式が一通り終わった後は、披露宴が行われた。
ミリス教ではなく、このあたりの風習だ。
そこで人々は大いに飲み食いし、二人の門出を祝って騒ぐのだ。
何の不足もなく、どこまでも幸せな結婚式と宴。
そうなったのは、僕が親父たちの代わりに酒樽を持ってきたお陰だろう。
自分で言うのもなんだけどね。
ぎっくり腰の親父二人には大変感謝され、お礼に料理でも食べていってくれ、と言われたが断った。
正義の味方は、報酬をもらって行動するわけじゃないからだ。
やるべきことをやったら颯爽と去る。
それが正義の味方だ。
「さて、どうしようかな」
時刻は夕方。
行き先は曖昧、足取りも不安定だ。
「ララ姉の所かな……よし、そうしよう。飯を食わせてもらおう」
僕はそう決めると、魔法大学へと向かった。
もはや我が家のような校内に入り込み、階段を登ってララの研究所へと行く。
が、鍵がかかっていた。
彼女が鍵を掛けるのは珍しいことだ、出かける時しか、鍵を掛けない。
てことは、つまり出かけているのだろう。
珍しい。
「あ、先生。ララ姉知りません?」
近くを通りがかった先生に聞いてみた。
「研究室にいないのかい? だったらわかんないよ。わかるわけないだろ。この学校で彼女の行き先がわかるのなんて、ロキシー先生ぐらいだ」
「ですよねー」
ロキシーとは、青髪の母の名前である。
そして、その母は本日、おやすみだ。
つまり、どこに行ったのかは誰にもわからないってことだ。
神出鬼没なララの居所を把握できる者など、一人もいないのだ。
アテがはずれて、カラッポになった腹を抱えてどこにいくか。
まだ、情報収集に使っている酒場は開いていない。
今日も父は家にいないだろうから、一度家に戻り、台所で何かを失敬してくるのも手だろう。
あるいは、今から教会に戻れば、あまりものの果物を口にすることは出来るだろう。
でも、それをするぐらいなら、最初から結婚式に参加しておけばいいのだ。
娘さんも息子さんも、僕だって知っている相手だし、祝うつもりはあったのだから、報酬にはならなかったろう。
いや、でも正義の味方として、それはどうかなぁ……。
「ぐすっ……えぐっ……」
ふと、泣き声が聞こえた。
僕は人々の泣いている声には敏感だ。
正義の味方だからな。
正義イヤーを立て、泣き声の主を探す。
すると、階段の下。
影になっている所に、その少女を見つけた。
少女……といっても、成人してすぐか、もうすぐ成人といった所だろう。
十五歳ぐらいだ。
多分、人族だろう。
「どうしたんだい?」
「えっ?」
声を掛けると、彼女は驚いた顔でこちらを向いた。
亜麻色の髪を持つ、綺麗な子だ。
「な、なんでもないです」
「ああ、ごめんごめん、僕は怪しい者じゃないよ。ジーク。ジークハルト・サラディン・グレイラットだ」
「グレイラット家の……!」
こういう時、グレイラット家の名前は役に立つ。
信頼のある名前だからな。
僕の名前は、その信頼を多少落としているかもしれないが、それでも揺るがないぐらいには頑丈な信頼だ。
「どうして泣いていたんだい?」
「えっと、その……」
「大丈夫、誰にも言わないよ。何かの力になれるかもしれないし、話すだけでも楽になるかもしれない」
嘘は言っていないつもりだ。
僕に解決出来る問題なら、力になる気満々だ。
何せ、僕は小さい頃から力持ちなのだから。貸せるぐらいの力は余っている。
少女は迷うような素振りを見せたが、ぽつぽつと語りだしてくれた。
「私……明日、結婚するんです」
「おお、それはおめでとう」
結婚。
どうにも、今日は結婚というキーワードによく関わる。
僕にあの見合いの一つを受けろという啓示なのだろうか。
「おめでたくなんか、無いです。相手は、三十歳も上なんです」
「……それはまた。随分な歳の差だ」
「私、結婚なんてしたくない。でも、相手が、どうしても私がほしいって、親が、しなきゃ、ダメだって、お金が無いからって、無理やり決めて……今晩、相手の家に、行くことになってて、それで……嫌で、ここで泣いてて……えっぐ、ぐす……うぇぇぇえん……」
少女は泣き出してしまったが、事情はなんとなくわかった。
親が子供の結婚を勝手に決めたのだ。
いわゆる政略結婚も含めて、子供の結婚相手を親が用意する家は多い。
結婚というものは、家同士の繋がりを意味する。
だから、家によっては家主が他の家と繋がるため、子供を他の家へと差し出すこともある。
昼間の果物屋と酒屋の子供の結婚だって、そういう経緯だったのかもしれない。
だが、昼間の二人と違って、そこに愛が無い場合もある。
金のため、あるいは立場のため。
結婚する当人が嫌がっているのに、親の都合で無理やり結婚させられるのだ。
この子は30も年上の、好色なスケベオヤジに嫁がされるらしい。
しかも、相手が一方的に欲しがって、親がそれを了承した、という経緯だ。
お金が無い、という情報を鑑みると、親には逆らえない理由があるのかもしれない。借金をしてしまっているとか……でも、結婚する当人は、たまったもんじゃないだろう。
うちの父は、子供の結婚を勝手に決めるのに反対だ。
話は持ってくるが、無理やりどうこうはしない。
だから僕もリリも、逃げ回れるが……。
そうでない家は、多いのだ。
「なるほどね」
幸せな結婚もあれば、不幸せな結婚もある。
それは仕方ない。
しかして、その不幸せな結婚が、金の力にものを言わせた結果だというのなら……。
見過ごすわけにはいかないだろう。
今日の正義は決まった。