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第六話

 一瞬、思考を放棄しかけるがなんとか持ち直すことに成功した。とにかく本来の目的を思い出した俺はゴリアンナにその旨を告げる。


「それでは診察を始めたいのですがよろしいですか?」

「はい、脱いだほうがいいでしょうか?」


 ゴリアンナの発言に部屋の入り口で待機しているオーガ達がピクリと反応する。あまりにわかりやすい反応だったので少し笑ってしまうが気持ちはわかる、相手が世紀末覇者の風格を持つ容貌でなければ。オーガ種族の貞操観念がどうなっているかわからないが一応配慮して入り口のオーガ達には外で待機してもらうようお願いしてから質問に答える。


「いえ、脱ぐ必要はありませんよ」


 そもそもゴリアンナの逞し過ぎる上半身は胸の部分にさらしのような布を巻いただけの格好なので脱ぐ必要がない。下半身は布団に隠れているのでどうなってるのかわからない、特に知りたくもないです。


「まず具体的にどういった症状なのかお聞かせ願いたいのですが」


 見た感じとても健康そうに見える、どう贔屓目に見ても病人には見えない。だが族長があそこまで心配していたのだから何かしら異常はあるのだろう、二の腕は俺の太ももより太いが。


「実は・・・数日程前からでしょうか、右肩のあたりに常時痛みが続いてるのです。お父様には部族の神官の方に回復魔法を依頼していただいたのですが一向に収まる気配はありません」


 ゴリアンナの表情が曇り苦しそうだ、今尚痛みは続いてる。先ほどの気丈な態度や茶目っ気のある笑顔は痛みを我慢していたのか。健気な娘だ、首の太さが顔と同じくらいあるけど。


「右腕を動かすことはできますか?」

「すみません・・・・」


 動かせない、か。ちらりとゴリアンナの患部を見る、外傷はない。これとよく似た症状を俺はひとつだけ知っている。もしかして・・・意識を自分の右腕と肩に向け、骨の結合部分を強くイメージする。


「痛みのある部分を診させていただきます、かなり痛いかもしれませんが我慢してください」


 そっとゴリアンナの右腕から肩にかけて触れる、その際痛みが走ったのか顔を強張らせた。額に青筋が浮いてるのがすごく怖い、思わず手を離したくなる気持ちをぐっと抑え関節部分の骨の位置を探る。〔身体制御〕による肉体の構造把握はあくまで己の身体のみ、他者の肉体の構造は読み取れない。だが同じ人型である人とオーガなら骨格部分にほとんど差異はないはず、故に直接触れることによって微妙なずれがないか自分の物と比較して検証するのだ。結論として、やはり骨がずれて接合しているのが確認できた。間違いなくこれは―――


「―――脱臼、ですね」

「わかったのですか!?」


 痛みを我慢していたせいだろう、汗に濡れた顔で声をあげ驚くゴリアンナ。原因不明だった自分の身体の不調がどこの馬の骨ともわからない人間に看破されたのだから当然か。そこまで珍しい症例じゃないんだけどな、この世界の医療レベルってどうなってんだろう。


「それで・・・その、脱臼というものは治るのでしょうか?」


 不安げに尋ねてくる、原因がわかれば次に期待するのは治療が可能かどうかだろう。当然の行為だと思う、だがこれに関しては俺も自信を持って応えることはできない。

 そもそも脱臼というものは骨同士の関節部が正しい位置を失い、その結果に靭帯や軟骨が損傷し痛みを伴うのだが長時間の放置はかなり危ないと聞く。ゴリアンナの場合は数日放置されてたような状態でうろ覚えの知識しかない素人の俺がどうこうできる問題ではない。


「難しいですね。治療の方法は記憶してますが専門の知識ではありませんし、知っているというだけでやったことがないんですよ」

「・・・・・そうですか」


 ゴリアンナはそう呟き、押し黙った。その姿に同情はするが医療に関して何の力もない俺が手を出していい理由にはならないのだ。だが―――彼女が望めば別である。


「それでも構わないですか?」

「え!?」


 俺が言葉を続けるとゴリアンナは驚いたように顔を上げる。そりゃそうだ、遠まわしに治療を放棄するような発言をしていたのだから。

 そう、俺自身はゴリアンナの不調の原因がわかっただけでも十分成果はあった。族長は「治療の手がかりでもいいから見つけてくれ」と言って俺を送り出した、だが人というものは目の前に問題の解決方法があればそれを試したくなるものである。報告をすれば今度は「治してくれ」と言うだろう、しかしそこで失敗すればどうなるか。俺の言葉を信じてくれた族長を疑うのは少し心が痛むが逆上して俺を殺す、とまではいかないにしろ心証は確実に悪くなる。それでは困るのだ。

 

 そこで俺は一計を案じる。失敗する可能性を仄めかし、理解させた上でゴリアンナに頼まれ仕方なく治療した――という結果があれば仮に失敗しても族長は強くでることはできないだろう。失敗したとしても命に別状があるわけでもなし、うまく治療ができれば御の字、良い事尽くめである。


「それでも治療を望みますか?」

「・・・・はい、お願いします」


 再度、確認をする俺にゴリアンナは少し躊躇したあとにはっきりと了承した。よし、言質はとったぞ。さっそく始めるとしよう。こんなことスキルによる補佐がなければ絶対できないだろうな、と苦笑しながら〔身体制御〕でトレースした正常な状態の関節の位置を脳裏に浮かべゴリアンナの右側へと移動し腕を取る。


「肩の力をできるだけ抜いてください」


 ずれた関節を戻す際に相当な痛みを感じる事になるがあえて警告しない、変に力まれると失敗する確率が跳ね上がる為だ。どうせやるならちゃんと直してやりたい、うまくやれる自信はさっぱりないけど。


「ふんっ!」

「・・・・・・・ッッッ!!」


 ゴグンッ、と骨が繋がる感触と同時にゴリアンナの声にならない悲鳴が上がる。手ごたえはあったのでこれで正しい位置に戻せたはず、あとは関節周りの損傷の治療だけどこれは手持ちのポーションを飲ませておこう。というかあと俺にできることはこれくらいしかない、右腕を動かさないよう注意してから俺の手で直接ゴリアンナに飲ませる。


「これで処置は完了しました。・・・大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます・・・」


 疲弊しきった顔で礼を述べる、正しい処置だったのかわからない治療行為に礼を言われるのは正直申し訳ない気持ちしか湧かないができることはしたのだし受け取っておこう。

 そういえばポーションを飲ませたがあれは即効性のあるものなのか?試したことがないからわからない、そもそもあれは飲むものでよかったんだろうか?傷口に掛けるタイプか?どちらでもよかった気もするが既に手元にないので確認できない。やばい、どうしよう・・・・とりあえず時間を稼いで様子を見ることにする。


「そういえばどうしてこのような事になったのか理由をお尋ねしても?」

「え?あぁ、まだ話していませんでしたよね。」


 よし!これで時間が稼げる。内心ガッツポーズを取りながらも表情は真面目に取り繕う。こうして俺の思惑に気づかぬままゴリアンナはとつとつと語り始めた―――。


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