初めまして。異世界で
落ちてきたよ☆
ドッシーン!
「痛ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
空中からいきなり放り出された美優はその痛さに悶える。
「クッソ!あいつ、もう少し丁寧に送れよ!!」
「ねぇ…重いんだけど」
今美優が居るのは人の気配の全くしない夜の路地裏。
「…下」
「下…ってうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
緑の目と視線が合いました。
「…どいてくれる?」
「あ、はい!すみません!!」
美優が下敷きにしていたのは高校生くらいの青年だった。美優がどくと青年は立ち上がる。と、同時に青年の持っている物を美優の目が捉えた。
「けっ、拳銃!?」
「ちょ、声でかい」
「ってことは!あそこに倒れてるのはもしかしなくても死体!?」
「あのさ、こっちも仕事でやってるから。下手して警察沙汰とかはごめんなんだけど」
「捕まるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「聞いてないし」
叫びだす美優を放置しておくわけにもいかないが、あまり長居をしていては人が来る。青年は溜息を吐くと、未だに騒いでいる美優を肩に担いだ。
「は!え、はぁ!?」
戸惑う美優を無視して青年は走り出す。ちなみに死体はそのまま。
「あの…良いんですか?あれ。もろ丸見えですけど」
「回収がいるから」
青年はそれ以上は何も言わない。美優も、自分を担いでいるのは人殺しだというのに、いつの間にか落ち着いていた。
「悪い人では…ない気がする」
「なに?」
「いえ、なにも」
美優はそのまま大人しく担がれていることにした。
「で、お仕事してたらこの子が上から落ちてきた…と?」
「まあ、そういうことです」
美優が連れてこられたのは”華子豪”という中華料理店、女将さん(?)らしい女性に青年が状況を話している。
「またアルか」
奥から出てきたチャイナ服の女の子が、美優をみてポツリと呟く。
「また?」
「そうヨ。悠也はこの前も知らない女の子拾って来たネ」
美優は驚いて青年(悠也というらしい)を見る。
「…否定はしない」
「まさかそういう趣味が」
「それはない」
素早く否定されてしまい、美優はつまらないとばかりに口を尖らせる。
「取り敢えず、今日はもう遅いから、美優ちゃんは泊まっていきなさい」
「え、良いんですか?」
「もちろんよ」
女将さんは優しく微笑む。
「私は中岡華子、この子はアツギ」
「宜しくネ!」
「高野美優です、宜しくお願いします」
美優は頭を下げる。
「…」
突然悠也が扉の方へ歩き出した。帰るのかな?と美優は思ったのだが、どうやらそうではないらしい。悠也が扉の前に立つと同時に、静かに中に入って来る小さな人影が見えた。
「もう3時過ぎだぞ」
「悠也ー」
悠也の言葉を聞いていないのか、少女は悠也に駆け寄る。
「あらあら。葵ちゃん、悠也君が帰ってくるの待ちきれなかったのね」
「え、危なくないですか!?こんな夜中に」
「あの子は悠也の家に住んでるアル。悠也の家はこの店の上ヨ」
眠気マックスであろう葵を悠也が抱き上げる。
「すいません、お先に失礼します」
「ええ、おやすみなさい」
「おやすみヨ」
「おやすみなさい」
ふと、悠也の腕の中にいる葵が美優の姿を捉える。美優が葵に小さく手を振ると、葵も微かに頷いた。
「さて、私達も寝ましょうか!」
「美優!一緒に布団敷くヨ!」
「ラジャりました!」
華子達が気を使って美優は一人、個室で寝ていた。慣れない布団なのに何故かとても安心する。
「貴様、いつまでここにいいるつもりだ?」
「うわぁぁぁぁぁ!って萌神様!?」
「相変わらずうっせぇなー」
萌神様は女性の姿で胡坐をかいていた。
「なんでここにいんの!?」
「そんなの、貴様がここにいるからに決まってんだろ」
「は?いや、そーじゃなくて!!」
「つまりな?貴様はわしに”萌え”を食わせるかわりに、わしは貴様の言うことを大体は聞いてやる義務がある」
「…契約的な?」
「そうとも言う」
神様ってより悪魔じゃねーか!!というツッコミは内に秘め、美優はいったん冷静になる。
「で、さっきの、いつまでここにいるんだ?っていうのは?」
「そのままの意味だが?」
「いやいや、だって他に行く所ないし」
「貴様の家ならちゃんと用意してあんぞ」
「それを先に言えよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
内に秘めるには、それはあまりにも大き過ぎました。
ここから物語が始まった…!!